コロナからの復活。半年で10人増やしたエンジニア組織とコロナ禍中の葛藤[CTO meetup]

コロナからの復活。半年で10人増やしたエンジニア組織とコロナ禍中の葛藤

日本に住む外国人向けに、さまざまなインフラサービスを構築している株式会社YOLO JAPAN。2019年には外国人就労施設とホテルをオープンさせたものの、突然のコロナ発生により事業はシュリンク。成長速度も失速してしまいました。
エンジニア2名の状態から、YOLO JAPANはどのような復活を遂げたのでしょうか。同社の取締役CTOである田端 孝至氏に、組織が抱えた葛藤と再起へのストーリーについて語っていただきました。

2月10日に開催したCTO meetup「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」

関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略

CTO meetup初の試みとして2023年2月10日に大阪なんばのイベントスペースFun Space Dinerを貸し切り、関西のCTO/技術責任者10名をお呼びしカンファレンス形式でオフラインイベント「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」を開催しました。
採用/育成/技術戦略をはじめとしたエンジニアリング組織戦略を軸に、各社での取り組みをお話しいただきました。

「コロナからの復活。半年で10人増やしたエンジニア組織とコロナ禍中の葛藤」をテーマに株式会社YOLO JAPAN CEO・CTOの田端 孝至氏にセッションいただいた内容をご紹介します。

自己紹介

田端 孝至氏 自己紹介

まず、自己紹介からさせていただきます。私は株式会社YOLO JAPANの取締役CTOの田端です。一般社団法人日本CTO協会に所属しておりまして、その中の「コミュニティワーキンググループ」で協会を盛り上げるためにいろいろと活動しています。

私は20歳のときに東京から大阪に移住し、未経験からWebエンジニアになりました。ECサイトや業務システム、社内コミュニケーションツールなどさまざまな開発に携わっていましたね。そんな中、2016年頃に新規プロダクト開発のオファーを受けて、株式会社YOLO JAPANに入社しています。翌年2017年に、取締役CTOに就任しました。

会社概要

会社概要

YOLO JAPANは、在留外国人向けDXプラットフォームを展開している企業です。ターゲットは在留外国人です。現在日本に住んでいる外国人は約290万人にものぼり、じきに300万人に届こうかというところまで伸びています。ただし、日本人が普通に受けているサービスを、外国人は、言葉の壁や外国人だからという理由で同様のサービスを受けることが難しい状態も浮き彫りになっています。
そこで当社は外国人に向けてより良いサービスを提供すべく、求人広告、不動産事業などを手掛けてきました。あとは問診票のサービスもありますね。例えば私も小学生の頃、お腹が痛いときは母親から「どこらへんがどう痛いの」と聞かれたものですが、問診でも同じようなことを答えますよね。「お腹がチクチク痛い」「盲腸なのかもしれない」……。そういう難しい言葉を、海外の方はなかなか日本語で伝えられません。私も海外に行ったら現地の言葉で伝えられないです。そういう症状を各言語で入力し、医師に問診票を見せると、日本語で伝えられるというサービスになっています。

主力サービスは、求人広告の「YOLO WORK」です。コロナ禍を経て今はサービスがかなり復活してきたため、月額制かつ無制限の求人掲載を展開し、福利厚生も充実する形で外国人採用を成功させています。 今回は、このYOLO WORKをワンストッププラットフォームに作り上げるまでのお話をさせていただければと思っています。

YOLO JAPANの今まで

そもそもYOLO JAPANがどのようにできたのかというと、2004年に英会話スクールとして創業しました。在留外国人ではなく、日本人向けに英会話スクールを提供していたんです。 このあたりはお話しすると長くなるので少し割愛しますが、英会話事業を13年展開する中で当社の代表が感じていたのは、日本にやってくる外国人の増加と、日本人口の減少です。さらに当時、代表は交通事故を起こして5日間昏睡状態に陥り、目が覚めないという経験をしました。代表には4人の娘がいるので、その事故をきっかけに娘たちのことを思い、「もっと何かを残したい」と一念発起。今のYOLO JAPANの構想を思いつき、事業をスタートしました。「まずはこういうホームページやシステムを作りたい」という形で、私にお声がけをいただいたのです。

そこから2016年にYOLO JAPANをローンチ。2年かけて当社は株式会社aimから株式会社YOLO JAPANに社名を変更し、2019年9月には大阪の新今宮に外国人就労インバウンド施設「YOLO BASE」という施設を建てました。自社オフィスとホテルも入った施設ですね。そして皆さんもご存知の通り、2020年にコロナが発生。インバウンド需要が激減し、宿泊者はゼロになりました。その結果、開業からわずか半年でホテルを閉めざるを得なくなりました。

それから当社はさまざまなプロダクトをローンチして、2022年に至ります。昨年時点で、エンジニア数は10名。全社の社員数は100名を突破しました。

これまでにローンチしてきたサービス

YOLO BASE & YOLO HOTEL MUSEUM

YOLO BASE

外国人就労インバウンド施設の「YOLO BASE」には、もしかしたら訪れたことがある方もいるかもしれません。新今宮から徒歩5分、新世界からは10分圏内の立地です。

YOLO HOTEL MUSEUM

また「YOLO HOTEL MUSEUM」は、全76室を総勢100名のアーティストに内装デザインしてもらった施設です。YOLO BASEにも一部アートはあるのですが、YOLO HOTEL MUSEUMの場合は全室違うアーティストの方々が手掛けています。
ホテルは大体白い壁にベッドですよね。そこで内装をデザインしてもらうことによって、「次は違う部屋に泊まりたい」と思っていただけたらと企画しました。代表が非常にアート好きだったので、有名・無名アーティストの方々を呼んで、自由に内装を描いてもらっています。

YOLOデリバリー

YOLOデリバリー

コロナになってからまず始めたのは、「YOLOデリバリー」です。外国人雇用を生み出すため、Uber Eatsとは異なる料金体系を設定。「店舗と同じ価格で提供する」をコンセプトに開発を行っています。 Uber Eatsと店舗では明らかに値段が違うのは皆さんご承知の通りだと思いますが、大体Uber Eats側が3割ほど料金をもらっているそうです。そこで当社では完全月額制を採用し、飲食店側は何度でも配達サービスを利用できるような仕組みにしました。その代わりに、できるだけ店舗と同じような価格で商品を提供してもらっています。

この構想は、緊急事態宣言が出た4月に出ました。当社は5月からやることがない状態だったので、ゴールデンウィークもメンバーに「ちょっと出てきてよ」と声をかけて、開発を推進。構想から20日ほどでサービスローンチにまでこぎつけました。
「ここでこのサービスをやらないと、自分たちの会社がやばいぞ」というメッセージは強く出していましたね。

YOLO HOME

YOLO HOME

その後にローンチしたのが、賃貸物件情報サービスの「YOLO HOME」です。これはコロナ禍以前から構想していたもので、ベトナムでオフショア開発を行いました。
通常、日本のサイトは日本語のみでしか閲覧できませんが、YOLO HOMEは日本語と英語、韓国語、中国語、ベトナム語、ポルトガル語で展開。さらに外国人の受け入れをしてくれる物件のみを掲載し、外国人が安心してお部屋探しができるようなサイトになっています。

ドライブインお化け屋敷

ドライブインお化け屋敷

開発とは関係ありませんが、「ドライブインお化け屋敷」なんてサービスもやりました。ご存知の方もいるかもしれません。
人が来ずホテルが使えなくなってしまったので、ホテルのロビーに軽自動車を3台入れ、暗幕を張りました。車にはお客様が乗り込みます。すると、ゾンビたちがわっと襲いかかってくるようなアトラクションです。

コロナで家からは出られないけど、外で遊びたい。そんなニーズに応えたアトラクションであると同時に、外国人の雇用も生み出しました。関西のキー局ほぼ全てから取材を依頼されて、露出もかなりできた事例です。

イングリッシュキャンプ

イングリッシュキャンプ

コロナ禍で、海外で勉強したい子供たちも困っていました。そこで海外に留学したい日本人向けに提供したのが、日本にいながら留学体験ができるプログラムです。当社は英会話事業をまだ続けていて、ネイティブの外国人教師を大勢抱えていたため、海外体験を日本で提供できるのではと思いつきました。
二泊三日のイングリッシュキャンプを開催し、「YOLO BASE内では日本語禁止」というルールのもと、外国語を学習してもらっていましたね。

コロナ禍で起きた、組織内の不安の伝染

コロナ禍で起きた、組織内の不安の伝染

エンジニアはわずか2名に

以上のように、コロナ禍にあって当社はさまざまなサービスを開発してきましたが、コロナによって売上は落ち赤字が続いていました。こういう不安は、やはり伝染するものです。
しかも当社はYOLO BASEという武器を最大限活かした事業展開をしていたので、最初の緊急事態宣言が明けてからフル出勤を選択しました。フルリモートにしたのは1ヶ月だけです。このとき、やはり抵抗感を覚えるメンバーがいて、当初は5名いたエンジニアが、2名にまで減ってしまいました。残ったのは、私と創業エンジニアだけです。
ここからどのように当社が復活してきたのか、お話ししたいと思います。

各種組織体制を新たに導入

まずは、書籍を参考にTHE MODEL型の組織体制の導入を行いました。THE MODEL型を意識して実践してくれるメンバーが面接にきたのがきっかけですね。マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスが連携して事業に取り組む形を実践しました。
また、ザ・ゴールの概念も取り入れて、ボトルネックの解消にも努めています。

エンジニア向けに働き方や給与体系も見直し

エンジニア向けには、やはりフル出勤は無理だと考え、リモートワークを採用しました。ただし、フルリモートではなくハイブリッド型です。
やはり人と話していると楽しくて、ちょっとしたことでも笑いながら気持ちよく仕事ができます。フルリモートでは、なかなかここまでのコミュニケーションは取れないだろうという判断でした。

エンジニアの給与体系も見直しています。これまでのYOLO JAPANは全員が同じ給与体系で採用をしていましたが、これでは組織が立ち行きませんでした。「コロナ禍でエンジニアの年収が100万円アップ」なんていう記事もあったほどでしたから、このギャップを解消する必要があったのです。結果として、「給与が低くて人を採用できない」というストレスから解放され、どんどん優秀な人材を採用できるようになりました。
並行して、新卒インターン採用もスタートしました。エンジニアは2名しかいませんでしたから、実際に採用をしたところで育てられるのかと問われ続けましたが、なんとかやってみようとチャレンジしたところ、非常に優秀なメンバーが2人も入ってきてくれました。今日のイベントにも参加してくれています。今は、2人の成長をわくわくしながら見守るのが私の生きがいになっています(笑)。

開発体験で最も重要なCTOの在り方

デベロッパーエクスペリエンス――開発体験の改善にも取り組みました。実は開発体験で一番大事なのは、CTOである私自身が一番悩んで、楽しむことです。
ここについては、よく外部の協力会社やパートナー、社員から「田端さん、めっちゃ面白いですね、楽しそうですね」と言われます。つまり、「この人と働きたい」と思ってもらえることが多いんです。実際に私と働きたいからという理由で、入社してくれる方もいました。
会社が大変だとしても、面接のときにどれだけ楽しさを伝えられるかが、一番大事なのだと感じています。技術の部分で楽しませるのもそうですし、「ここで働いたら仕事が苦じゃなくなりそう」と思ってもらえるように、日々取り組んでいます。

今後注力すべきエンジニアの育成

今後注力すべきエンジニアの育成

これからやっていかなければいけないのは、エンジニアの成長についてしっかり考えていくということです。経験別にエンジニアを分類すると、ジュニア・ミドル・シニアの3段階がありますが、成長の方向性としては、スペシャリストやマネジメント、はたまた私のCTOの座を取りに行くなど、さまざまな選択肢があります。
例えばジュニアの場合なら、まずはスペシャリストとマネジメント、どちらの方向に進むのかを決めることから始まるでしょう。まだ決めきれないとしても、「じゃあ決まるまで、次のアセットを考えていこう」と一緒に取り組むのが大事です。本人に未来像を描いてもらえるまで、諦めてはいけません。3年後でも5年後でもいいので、自分が将来的にどういう立場、ポジションでやっていきたいのか。ここについて会話を重ねる必要があると思っています。
1on1をしていると、中には「先月はスペシャリストを目指したかったけど、今はマネジメントをやりたくなりました」と言いだす子もいます。それでも全く構いません。そのとき私が考えるべきは、その子が目標を達成するために何が不足しているのかです。そこも一緒にディスカッションしながら、今月、今年、来年どうなっていくべきかを決めていきます。
向かうべき方向性によって私が相手にどうなってほしいのか、会社としてどんな人材が欲しいのかもしっかり伝えていくと、どんどんキャリア形成ができていくのではないかと考えています。

最後に

田端 孝至氏

簡単ではありましたが、以上のような形で私は半年間で10人採用してきました。会社が急成長している背景には、THE MODEL型の導入やボトルネックの解消が必須だったと感じています。
こういった取り組みを経営幹部レベルからしっかり推進してきたのも、大きかったですね。本日はご清聴ありがとうございました。

質疑応答

田端 孝至氏 質問者:非常に楽しそうな事業だと思いました。THE MODELは、エンジニア採用という観点でマーケティングなどに活用したのでしょうか?

THE MODELに関しては、開発領域はあまり関わりません。とはいえ、Webサービスを開発する上では、エンジニアがカスタマーサクセスやマーケティングをはじめとしたビジネス側と会話をしながら、どんな数値を狙っていくべきなのか、どんな改修が必要なのかを決めていく必要があります。その中で、例えば「今一番問題になっているのがシステムのリプレイスだ」と伝えて、採用にもつなげていますね。

質問者:新卒と中途採用に、あまり差はないのでしょうか?

差は大きいです。新卒を採用すると、自分たちで教えなければいけませんし、どこまで成長できるのか、そのためにどの程度手がかかるのかも未知数です。だからこそ新卒採用を行うのは葛藤もありました。中途ならソースを投げたら勝手に解析をしてくれたりしますが、新卒の場合はそれができません。何もかも、手取り足取り教えなければなりませんからね。 既存メンバーに対して「自分たちで新卒を育てるぞ」という意識を埋め込んでいければ、上手くいくかもしれません。

まとめ

YOLO JAPANの田端氏に、コロナによりシュリンクした事業をどうやって復活させたのかをお伺いしました。
THE MODEL型の組織体制の導入やザ・ゴールの概念を取り入れたボトルネックの解消は他社でも参考になりそうな事例だったと思います。

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