2040年へのビジョン。受託制作企業からの脱却。そしてSaaSプロダクト開発へ。ワントゥーテンの3年間の歩み。[CTO meetup]
※本記事は2023年2月に公開された内容です。
株式会社ワントゥーテンは、先端テクノロジーを活用し、新しい体験を創造している企業です。世界的な評価を受けてきた同社は、2020年から今後の20年を見据えた会社のアップデートを開始しています。
そこで、コロナ禍への対処も含めた現在までの3年間の歩みについて、取締役副社長CTOの長井氏に語っていただきました。昨年リリースされたばかりの新サービス「QURIOS(キュリオス)」についても触れていますので、ぜひご覧ください。
目次
2月10日に開催したCTO meetup「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」
CTO meetup初の試みとして2023年2月10日に大阪なんばのイベントスペースFun Space Dinerを貸し切り、関西のCTO/技術責任者10名をお呼びしカンファレンス形式でオフラインイベント「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」を開催しました。
採用/育成/技術戦略をはじめとしたエンジニアリング組織戦略を軸に、各社での取り組みをお話しいただきました。
「2040年へのビジョン。受託制作企業からの脱却。そしてSaaSプロダクト開発へ。ワントゥーテンの3年間の歩み」をテーマにワントゥーテンの取締役副社長 CTO 長井氏にセッションいただいた内容をご紹介します。
自己紹介(長井 健一氏)
ワントゥーテンの長井と申します。私はワントゥーテンに新卒で入社し、クリエイティブエンジニアとして大型広告のキャンペーンなどを手掛けたほか、ソフトバンクのロボットであるPepperの開発に携わりました。今はCTOとしてビジョンの策定と計画立案・遂行などを行っています。
ワントゥーテンは、1997年に創業し、2001年に法人化しました。京都に本社があり、東京に支社があります。当社は、体を使って体験できるようなクリエイティブを作るのが得意な会社です。かつてはWebコンテンツ制作が事業の中心でしたが、今では技術を拡張し、施設コンテンツ・体験型コンテンツの制作に力を入れています。
これまで、フィールドVRアクティビティ「ドラゴンクエストVR」、資生堂のインスタレーション、旧芝離宮恩賜庭園や二条城・名古屋城でのライトアップイベント「YAKAI by 1→10」、近年では、ドバイ万博日本館のデジタル施策の企画製作など、多数の開発をしてきました。現在は自社のSaaSプロダクトとして「QURIOS」プロジェクトを推進中です。
東京五輪に向けた事業展開
2020年東京オリンピック・パラリンピックを会社の成長機会と見ていた
ワントゥーテンではコロナ禍以前から、東京オリンピック・パラリンピックが会社の成長の機会になると見て、さまざまな取り組みを行っていました。特にパラリンピックはこれまで以上に注目されるだろうと見込まれていましたね。
しかしそんな前評判にもかかわらず、2017~18年当時は、ほとんどの人がパラスポーツに注目していなかったのです。自分ごと化できていませんでした。例えばパラスポーツに車いすで行う陸上競技があることすら、一般の人は知りませんでした。
我々は広告のフィールドで活動してきた経験から、「誰も知らないものでも、エンターテイメントを被せて体験をしてもらえば啓蒙になる」ということを知っていました。そこでワントゥーテンでも、実際にパラスポーツを体験できるプロダクトの制作を進めました。当時の取り組みの一部をご紹介します。
CYBER WHEEL (サイバーウィル)X
これは、車いすでレースができる体験型ゲームです。VRゴーグルを被って車いす型の筐体に座り車輪を回すと、VR空間を走り抜けられます。大体1~2分でコースを走り抜けるのですが、車いすでのレースを経験したことがない人は、車輪を思いきり回すだけで手がパンパンになるんですね。また、パラリンピック代表選手の走りをゴーストとして並走させることも可能です。一瞬で抜き去られるので、代表選手の速さ・凄さを体感できます。
このプロダクトは一般販売とレンタル販売をしており、時期によってはショッピングモールや観光名所に設置されています。
CYBER BOCCIA(サイバーボッチャ)
ボッチャというスポーツは、今でこそパラリンピックの正式種目としてご存じの方が多いと思います。しかし2017~18年ごろの知名度はさほどない印象でした。健常者も楽しめるスポーツにも関わらず、あまり知られていなかったのです。
我々は、例えば夜のナイトバーなど人の集まる場でボッチャの体験型ゲームを設置すれば、楽しんでもらえるのではないか、ボッチャ、ひいてはパラスポーツが広まっていくのではないか、という仮説を立てました。
結果的に制作したのがCYBER BOCCIAです。筐体の上にカメラがついていてボールの状況を把握し、誰でも一緒にゲームをプレイできる仕組みになっています。
なおCYBER BOCCIAも、一般販売とレンタル販売をしています。
CYBER WHEEL と CYBER BOCCIA は、2つあわせて、イベント設置・常設の回数は100回以上、体験人数はトータルで5万人を超えています。メディア露出も非常に多く、テレビでも何度も取り上げられるようになりました。
スポンサー企業のパビリオン出展
ほかにも、「パビリオンを作る」というお仕事の依頼を受けていました。東京オリンピック・パラリンピックではさまざまなスポンサー企業が参加していて、コロナ禍以前にはスポンサー企業のパビリオンを作る計画があったのです。
当時の私がパビリオンを作るためのリソース不足の悩みを抱えるほど、規模の大きな案件でした。
コロナ禍で予定が崩れ企業の成長が鈍化
このように2018年ごろから東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ワントゥーテンではさまざまな準備を進めていましたが、誰もが予想できなかった新型コロナウイルス感染症の出現によって、事態が変わってきます。
外出制限で需要が減少
まずパビリオン出展に関しては、結果的に一つも実現しませんでした。緊急事態宣言で外出が制限されたことと、世界的なパンデミックのためにインバウンドの需要が減ったことも理由です。オリンピックどころか外出すらできないので、我々が提供している体験型のプロダクトも需要が減りました。 まさに会社の成長が期待できるタイミングでこの動きが鈍化してしまったのは、大変な痛手となりました。
見えてきた組織の課題
しかし経営者の視点からすると、会社の成長が鈍化したときには、好調だったときには見えなかったものが見えてきます。会社によっては、組織構造、非効率な利益体質、管理体制の不備などの課題が顕在化してくるのではないでしょうか。
ワントゥーテンの場合、一番の問題はそれらではなく、「みんなの目指す未来が違っていた」ということでした。というのも以前、ワントゥーテンは子会社制を採っていたのですが、2020年のコロナ禍が起きる少し前に、子会社を含めて会社を統合したのです。統合時に掲げた会社のビジョンは、もともと4つの会社にあったビジョンから共通項を抜き出しただけの曖昧なものでした。その結果、統合前の会社がそれぞれ目指している方向性が微妙に変わってしまい、あちらの方向に動きたいのに動けない、というような事態になりました。
2040年の社会動向を想像する
そこで我々は課題解決に向けて、会社の理念・ビジョン・ミッションの再策定を行いました。
2020年はワントゥーテンが法人化をして20年という節目の年でもありました。20年突き進んできた、では次の20年はどこを目指していくのか。我々は何者なのか。こういう議論を役員陣の間で重ねた結果、出来上がったのが「新20年ビジョン」です。
見本はアポロ計画とイーロン・マスク!?
新20年ビジョンを社内に発表するにあたり、まずは従業員にアポロ計画の話をしました。アポロ計画とは、アメリカ航空宇宙局(NASA)による人類初の月への有人宇宙飛行計画です。1961年に当時のケネディ大統領が発表した計画なのですが、当初はNASAのメンバーからでさえ、「不可能なのでは?」という意見があったくらい、荒唐無稽に受け止められていました。
しかし結果的に、アポロ計画は1969年に達成されています。荒唐無稽で不可能かもしれないことでも、目標として掲げるのが大切、という好例です。
今で言うと、Twitter社のイーロン・マスク氏も同じですね。彼も「人類を救う」などとヒーローのような発言をしています。しかし実際にスペース Xやテスラ、ニューラリンクなど先進的な企業を興し、目標に向けて動いています。
バックキャスティングで伝える
従業員にとってみると、今苦境であるのに20年後のビジョンの話など「何を言っているんだろう?」と思うかもしれません。そこで理念やビジョン、ミッションを伝えるときには、「バックキャスティング」で話をしました。バックキャスティングとは、最初に目標を定め、それから目標を実現するためのシナリオを、未来から現在へとさかのぼって作っていくという手法です。
ワントゥーテンにおける「アポロ計画」として、20年後に世界はどうなっているか、次の20年間で我々は何を成し遂げるかを、従業員にバックキャスティングの手法で伝え続けました。
日本の人口が減少、パンデミックは今後も発生するかもしれない
ビジョンを作るにあたり、2040年はどのような社会になっているかも想定しました。
恐らく日本の人口は1.1億人を切り、生産年齢人口も減っていくでしょう。地方社会は衰退していくでしょうが、それを食い止められるのかどうかもわかりません。資本主義経済圏の限界がきて、ブロックチェーンを用いた別の経済圏が生まれるかもしれません。気候変動も、これからの暮らしや経済に影響していくでしょう。コロナ禍が終わっても、新型の感染症の世界的な流行は、今後もしかしたら数年周期で発生するかもしれません。
働き方については、ロボットやAIに単純な労働が置き換わっていくと予想されます。その後必要になってくるのが、知的労働です。こうなると、ワントゥーテンが得意としているクリエイティビティが求められてきます。
「退屈」の世紀がやってくる
もう一つ、単純な労働が減るので、余暇の時間が増えることになります。可処分時間――皆さんが自由に使える時間です。しかし働く必要がなくなれば他に何をするのか、恐らく多くの人が迷うのではないでしょうか。
そこで我々は、これまで体験を創ってきた経験から、「退屈がやってくるのではないか」と考えました。他にやることがなくてスマートフォンをポチポチ触っている、テレビをダラダラと見る。こういった行為が悪いわけではありませんが、それらは幸せとは言い難いかもしれません。「退屈」の世紀がやってくる、これは我々の根源的な考え方です。
2040年に向けた「新20年ビジョン」を策定
このように思考を重ね、言葉を整理した末に現在我々が掲げている理念は、「没頭を生みだす」です。没頭は、「退屈」の対義語です。退屈になるかもしれない時代に備え、我々は何かしらの没頭を提供し、その没頭によって人々は新たな気付きを得て、あらゆる興味と繋がって、世界をどこまでも広げていく。知性と感性で満たされる味わい深い人生を与えることが、我々にはできるのではないか。これを「没頭を生みだす」という言葉に込めています。
またビジョンとして「知性と感性に満たされる人生を、すべての人に」、ミッションとして「『新たな空間=XR』や『新たな存在=AI」で知的好奇心をかき立てる」を掲げました。
これからこの10年間でXR対応のスマートグラスが普及していき、常にAI的な存在と一緒にいる時代が来ると我々は見ています。そのAIは、家族のように自分たちを理解してくれるでしょう。AIはスマートホームやコネクテッドカーなどさまざまな場所に接続し、スマートアバターが自分の部屋にいるようなことも考えられます。AIを通じて、「退屈」が知性あふれる時間になるはずです。
この理念・ビジョン・ミッションは、結果としてAIエージェントの統合ソリューション「QURIOS」というプロダクトで実現化しています。現実生活と家族が交わる新しい空間において、人のみならずAIとのコミュニケーションを行って人々の知的好奇心をかき立てるようなSaaSプロダクトとするべく、引き続きこの事業に邁進しています。
振り返り
振り返ると、課題をもとにアポロ計画やバックキャスティング、2040年の社会動向、ニーズ、技術の進化など、さまざまな観点で理念・ビジョン・ミッションを考え、社内の意識を統一させることができたと考えています。
以上のような我々役員の考える理念やビジョン、ミッションは全従業員に向け、技術的なロードマップを交えて映像・画像を交えてビジュアル的に説明しました。なるべく従業員のイマジネーションを湧きやすくするためです。もちろん1回1時間程度の説明では伝わらないので、繰り返し説明を行いました。従業員参加型のワークショップも、我々役員で実施しています。
理念やビジョン、ミッションを浸透させるにあたり、作業を厳選して役員主体の案件として、従業員に参加してもらったりもしました。例えば、現在推進中のQURIOS関連のプロジェクトでも、正式な「QURIOS」というプロジェクト名を社内で公募しました。
役員と一緒に案件に取り組むと、従業員の意識がかなり変化します。最初は説明しても理解が難しかった従業員も、案件化して一緒に取り組むと理解が深まり、目の色が変わっていきました。
もちろん残念ながら、我々の新しい理念やビジョンに対して共感できず、退職を希望される方もいらっしゃいました。しかしお互い目指しているところが違う中で仕事を続けると、不幸になるだけです。本当に残念ですが、退職を希望される方には必要以上の引き留めはせずに、承諾しました。
あれから2年半以上が経ちました。今は役員と従業員も非常に団結して突き進んでいる実感が、私個人の中にもあります。あとはこのまま邁進し、きちんと結果を残すだけと考えております。
最後に:退屈を知的好奇心へ変える「QURIOS」事業
QURIOS事業について最後に少しだけご紹介します。第1弾サービス「QURIOS FIELD」は、現実空間から独立して存在するメタバースではなく、現実空間と仮想空間が交わり相互作用するプラットフォームです。
例えばある人が現実空間で歩く場合、タブレットの自己位置推定の機能を使って仮想空間とリアルタイムで位置をシンクロさせ、仮想空間でも同じように歩くことが可能です。
ほかにも現実世界の人と仮想空間の人がタブレットやゴーグルなどのデバイスを通してコミュニケーションを取る、「TORIMAKI」機能で仮想空間の人が現実世界にダイブする、といったこともできます。ユースケースとしては、家族の人が仮想空間を通して現実空間にいる人と話をする、というようなニーズを見据えています。
高齢者、遠方にいる方、障害を抱える方、ありとあらゆる境遇の人が分け隔てなく情報にアクセスできる世界を作りたいと思っています。「メタバース」という言葉は仮想空間をイメージしますが、実際の空間と接続・拡張することで、あらゆるデータや情報等一切のバリアーがなくなり、退屈の解決につながるのではないかと考えいます。
まとめ
ワントゥーテンの取締役副社長CTOの長井氏にコロナ禍への対処も含めた現在までの3年間の歩みについて語っていただきました。
現実空間と仮想空間が交わり相互作用する「QURIOS FIELD」はメタバースとはまた一味違ったワクワクが味わえそうです。
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