DXの鍵は開発組織改革。Synergy!のモダナイゼーションの3年を振り返る。[CTO meetup]

DXの鍵は開発組織改革。Synergy!のモダナイゼーションの3年を振り返る。

※本記事は2023年3月に公開された内容です。

2000年に創業したシナジーマーケティングが提供する、クラウド型CRM「Synergy!」は、2005年にローンチしたレガシーなシステムでした。 そこで2020年より、プロダクトのモダナイゼーションとリライトに取り組んだという同社。約3年にわたる試行錯誤はどのように進められたのか、「開発組織改革」をキーワードに、CTOである馬場 彩子氏にお話ししていただきました。

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2月10日に開催したCTO meetup「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」

関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略

CTO meetup初の試みとして2023年2月10日に大阪なんばのイベントスペースFun Space Dinerを貸し切り、関西のCTO/技術責任者10名をお呼びしカンファレンス形式でオフラインイベント「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」を開催しました。
採用/育成/技術戦略をはじめとしたエンジニアリング組織戦略を軸に、各社での取り組みをお話しいただきました。

「DXの鍵は開発組織改革。Synergy!のモダナイゼーションの3年を振り返る。」をテーマにシナジーマーケティングのCTO 馬場氏にセッションいただいた内容をご紹介します。

自己紹介と会社概要・プロダクト紹介

馬場 彩子氏 自己紹介

シナジーマーケティングのCTO馬場と申します。本日は「DXの鍵は開発組織改革。Synergy!のモダナイゼーションの3年を振り返る」と題しまして、お話ししたいと思います。
私は2001年に入社した、シナジーマーケティングで一番古いエンジニアです。2020年1月からCTOに就任して、丸3年が経過しました。

シナジーマーケティングは、大阪で2000年に創業したCRMの会社です。主力製品である「Synergy!」は、規模を問わずさまざまな企業様にご利用いただいているCRMのSaaSです。マーケティングデータを一元管理するデータベースを中心に、お客様の用途に合わせたさまざまなオプションが利用可能なコミュニケーションプラットフォームとなっています。

ただし、ローンチは2005年で、古いシステムでした。今日はこのSynergy!というレガシーなシステムをモダナイズすることによって実現した、組織の改革についてお話します。最初に当社で実施した組織改革についてご紹介した後、本日のテーマであるDX時代のエンジニアリング組織戦略についてもお伝えします。

Synergy!モダナイズプロジェクト

Synergy!モダナイズプロジェクト

モダナイズプロジェクトが立ち上げられた経緯

まずはSynergy!のモダナイズプロジェクトについてお話しします。私がCTOに就任する1年前の2019年は、Synergy!は変えるのが非常に難しいシステムになっていました。
要因は大きく2つです。一つは、複雑で巨大すぎて、誰も全容がわからなくなっていたこと。また、開発組織全体がどこか他人任せになっていたことです。エンジニアは自分たちの役割を「企画された機能や決まった仕様を実装する」と線引きをしてしまっていました。
結果的に、事業側の要望に対応できないままプロダクトの変化も起こせず、相対的なプロダクトの劣化が起きていました。

私たちの提供するサービスは、企業と顧客のコミュニケーションを継続的に実施するCRMサービスなので、長く運用していただいて初めてお客様に対して価値を発揮できます。そのため、サービスを市場や技術の変化に沿って発展させていく必要があります。
プロダクトを変化し続けられるような組織能力を獲得するために、Synergy!のモダナイズプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトの方向性

プロジェクトの立ち上げに伴い、もう少し詳しく組織能力を獲得する方法を考えました。まずは、プロダクトに関する「わからない」を解消し、「自分のプロダクトではない」という気持ちを克服する必要があります。

Synergy!をモダナイズして開発体験を向上し、エンジニア自身がプロダクトの何がどう動いているかわかるようになり、プロダクトを改善するためにどうしたらいいのか考える……。そういう開発組織になれば、Synergy!をどんどん変えていけるのではと検討しました。
そこで、デベロッパーエクスペリエンスの向上―エンジニアがシステムを気持ちよく開発・保守できるようにSynergy!をモダナイズしていこうと、エンジニアに働きかける形でプロジェクトが始まりました。

プロジェクトは2020年3月にスタートしました。ピーク時には30名ほどがプロジェクトに従事し、開始からおよそ3年、2023年1月に無事完了しています。

変えるために変えたこと

変えるために変えたこと

モダナイズプロジェクトを通してプロダクトを理解し、オーナーシップを持てるような施策を尽くしました。それに伴って、変えたことも数多くあります。 まずはシステムを変えて、システムがわかる状態に。さらにチームを変えて、プロダクトを自分のものだと感じられるようにしました。そしてプロダクトマネジメントを導入して、オーナーシップを醸成しています。

システム

まずはシステムですね。システムがわからない理由はいくつかありましたが、一つは本当に古いからです。ローンチした2005年当時はベストな技術を選んだとしても経年劣化は激しく、今のエンジニアが理解するのは難しい状態でした。
2つ目は複雑だということ。Synergy!は機能追加や強化をどんどん繰り返して増改築されたシステムで、プログラムが非常に入り組んでいました。
3つ目は「知らない」ということです。ドキュメントが不足していることもあり社歴の浅いメンバーの中にはSynergy!の機能やアーキテクチャを、よく把握できていない人もいました。

これらの課題を克服するために、完全にリライトをして小さく少しずつリリースをするアプローチを行いました。システム自体が古くて複雑なため、リファクタリングで問題は解決しないだろうとわかっていましたから、がっつりコードを書き換えたわけです。
自分たちでシステムを書き換えることで、今のSynergy!がどういう価値を提供しているのか、あるいはどういう技術を採用しているのか、新しいシステム構成がどうなっているのかをエンジニアが学習していきました。その上で、アプローチを変化させ続けるような対応をした結果、今の技術フレームワークを利用した機能改善をしやすいアーキテクチャ、システムを手に入れました。いわゆる技術的負債の返済です。

いきなりきれいなシステムを与えられたとしても、変更・改善をしやすいプロダクトにはなりません。リライトというプロジェクトを通してエンジニアがプロダクトの内部構成を学習し、システム理解度を向上させたことによって、自信を持って変更できるようになったのだと考えています。

チーム

2つ目に変えたのはチームです。当社は長らく、企画専門部隊が企画を、デザイナーがデザインを行い、仕様が決まった段階で初めてエンジニアが設計・実装を始めるウォーターフォールの開発を行っていました。
一気にプロダクトをローンチする視点では有効だったのですが、運用していくという点ではあまりフィットせず、起案からデプロイまでに長い時間がかかるようになっていました。分業制によって、エンジニアの中では「自分たちの役割は実装、運用をすることだ」という暗黙の了解もありました。
もちろんシステムを構築することもクリエイティブではあるのですが、細かな指定がないとエンジニアが動けませんし、プロダクトを愛する気持ち、プロダクトについて考える力がなかなか育まれません。

そこで、何を作るのかをプロダクトマネージャーとデザイナー、エンジニアの三位一体で決める形に変更しました。プロダクトを素早く変更し続けるためには、ビジネス、ユーザー体験、エンジニアリングの3要素が噛み合った状態で仮説を構築し、試して改善するサイクルを回す必要があると考えたからです。
また、このタイミングで、メンバーからスクラムイベントの実施を提案されました。プロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアたちがさまざまな知識と意志を表明し合い、ベストを模索する形へと変えていこうとしたわけです。

チームで仮説を構築し、議論を経て合意・決断をするプロセスを通し、チームで試行錯誤するマインドや、議論をして合意形成をするスキルが養われたと思います。何より、自分たちのプロダクトについて自分たちで決める体験の積み重ねによって、「これは自分たちのプロダクトだ」という気持ちが醸成されたと感じています。

プロダクトマネジメント

最後がプロダクトマネジメントの導入です。チームで培ったオーナーシップを、さらに高めていく施策を実施しました。
というのも、当社は複数のチームで各プロジェクトにあたり、それぞれで異なる進め方をしていました。そのため、複数のチームで同じような課題にぶつかって解決をしてもその知見が共有されず、同じ課題を繰り返し解いていました。職能ごとの認識も微妙に噛み合わず、足元の課題調整に膨大なエネルギーを費やしていました。これを解決するのが、プロダクトマネジメントだと考えたのです。

2020年にグループを発足し、プロダクトマネジメントを推進すると宣言。Synergy!のモダナイズプロジェクトと並行してプロダクトマネジメントのスキルを学んでいこうとしたのですが、システム・チームの課題に対処しながらプロダクトマネジメントを浸透させていくのは、なかなか難しかったです。

そこでぐっと進め方を切り替えて、2021年からモダナイズプロジェクトとは別に、プロダクトマネジメントのプロセスを整備するプロジェクトを立ち上げました。まずはプロダクトマネジメントの役割やデプロイのプロセスを可視化し、課題を言語化した上で、テーマごとにフレームを設計し、現場で試すといった形を繰り返しながら、Synergy!に合ったプロダクトマネジメントのフレームワークを構築していきました。

その結果、今いるチームのメンバーにフィットしたプロダクトマネジメントプロセスが型化され、チームの立ち上げが非常に速くなりました。
また、フレームによって考える基準ができ、チーム主導で自信を持って判断できるケースが増えましたね。さらに足元の課題の調整に追われることが少なくなり、プロダクトがどうすれば使いやすくなるのかといった意見交換をする会話も多く交わされるようになりました。チームメンバーの意識が変わったんです。

3つの「変化」を繋げる開発組織改革

3つの「変化」を繋げる開発組織改革

最後の総仕上げとして実施したのが、開発組織改革です。
プロダクトのことを理解し自分たちのプロダクトだと認識できる状態にして、Synergy!をどんどん変え続けられるようにする。そのために3つの変化を起こしましたが、これらは単独でなし得たわけではありません。お互いに影響し合いながら、組織のプロダクトを変える力、変化のケイパビリティを形成しています。 だからこそ、さらなる相乗効果を生むためには、3つの変化を統合する開発組織改革が必要なのではないかと思いました。
というのも、当社はプロジェクト推進にあたり、プロジェクトごとにチームを組成しては解散するという形式を採っていました。これはリソース効率面ではメリットがありますが、プロダクトを長く運用するためにはフィットしません。プロジェクトを通してせっかくサービスやユーザー、システム、アーキテクチャの知見を得ても、プロジェクトチームが解散するごとに断絶してしまっていたのです。
また、チームが解散しているので、プロダクトリリース後にお客様から要望があっても、お応えすることができませんでした。

そこで、組織を機能ごとに運用するプロダクトチームへと変革しました。プロダクトチームは、ライン組織の考え方に沿って開発を行っています。これによってチームの知識が蓄積されるようになりましたし、「プロダクトについて考えて実行する」サイクルが、チーム内で上手く回るようになりました。

開発組織改革によって「プロダクトを変化させ続ける力」が身に付いた事実は、定量的な数字にも表れています。プロダクトチームに変わってからリリース項目が多くなっていますし、機能追加に関しても要望対応の案件が増えました。

DX時代のエンジニアリング組織戦略

DX時代のエンジニアリング組織戦略

最後に、DX時代のエンジニア組織戦略についてお話ししたいと思います。これまではDX――デベロッパーエクスペリエンスについて語ってきましたが、一般的にDXといえばデジタルトランスフォーメーションですよね。
改めてDXとは何か考えると、例えば経済産業省の「DX推進ガイドライン」には、「業務そのものや企業文化、風土を変革すること」と記載されています。書籍『デジタルフォーメーション・ジャーニー』では、「変化に適応できる組織を目指し、内部の在り方の変革を目指すこと」と定義されています。つまり、「根底からの変化」こそが、DXの本質です。

当社がモダナイズを実施する以前は、エンジニアがプロダクトについてわからない、自分たちのプロダクトではないというムードがあり、プロダクトを変えるのが難しい状況でした。そこで私たちはSynergy!をモダナイズし、開発体験向上の実現を目指しました。そのためにシステム、チーム、プロダクトマネジメント、さらに開発組織を改革することによって、エンジニアが何がどう動いているのかを理解している状態を作り、プロダクトを改善するためにどうすれば良いのかを考えられるように変化させていきました。
これはまさしく、DXの定義である組織プロセスや企業文化、風土の変革にあたると考えています。

CTO協会で、「DX Criteria」という、企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドラインを監修しています。その中で、デジタルトランスフォーメーションとデベロッパーエクスペリエンス、この2つのDXは欠かすことのできない車の両輪だと謳っています。我々が開発体験の向上を目指しながらデジタルトランスフォーメーションにも目を向けられたのは、まさしくその通りだったのだと感じます。

最後に

シナジーマーケティング 馬場 彩子氏

当社はデベロッパーエクスペリエンスの向上を目指して、18年間運用してきたSynergy!のモダナイズを実施しました。試行錯誤の結果、チームのプロダクトへの理解とオーナーシップを醸成し、開発体験の向上を実現しています。
世の中には「こういう風に開発をしたい」という思いがいろいろとあると思います。しかし、既存の仕組みや組織でそれを実現するのは、一足飛びにはいきません。当社の場合、変革には想定より時間がかかりました。それでも組織の一つひとつの要素を紐解いて行動し、学習するしか変えていくことはできません。
今回は詳しい内容はお話しできませんでしたが、一つでも皆さんの参考になれば幸いです。

まとめ

シナジーマーケティングのCTO馬場氏に、同社が提供するクラウド型CRM「Synergy!」のモダナイゼーションとリライトへの取り組みについてお話しいただきましたがいかがでしたか?
デジタルトランスフォーメーションとデベロッパーエクスペリエンス2つのDXを双方ともに推進していくことが重要そうですね。

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