手芸屋50年 ハマヤのDX 〜DX人材の採用と教育について〜[CTO meetup]

手芸屋50年 ハマヤのDX 〜DX人材の採用と教育について〜

京都で創業し、50年目を迎える株式会社ハマヤ。絵に描いたようなアナログ業務が根付いていた企業は、たった数年でGoogleにも取り上げられるほどのデジタル企業へと生まれ変わりました。
2018年に若井氏がCTOとしてジョインして以来、ハマヤはどのような変遷をたどり、大きな成長を成し遂げたのでしょうか。実際に使用したツールやシステムをはじめとしたハマヤのDXノウハウについて、登壇者の若井 信一郎氏から惜しみなく教えていただきました。

2月10日に開催したCTO meetup「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」

関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略

CTO meetup初の試みとして2023年2月10日に大阪なんばのイベントスペースFun Space Dinerを貸し切り、関西のCTO/技術責任者10名をお呼びしカンファレンス形式でオフラインイベント「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」を開催しました。
採用/育成/技術戦略をはじめとしたエンジニアリング組織戦略を軸に、各社での取り組みをお話しいただきました。

「手芸屋50年 ハマヤのDX ~DX人材の採用と教育について~」をテーマにハマヤのCTO若井氏にセッションいただいた内容をご紹介します。

自己紹介(若井 信一郎氏)

若井 信一郎氏 自己紹介

本日は、DX改革とDX人材の採用、教育についてお話しさせていただきます。私は株式会社ハマヤの代表取締役CTOを務めております、若井です。CTO協会のコントリビューターとして活動させていただいているほか、RPACommunituyやSIGYOITにも所属しています。
登壇実績としてはGoogle Cloud Next、Frontend Conference、オープンソースカンファレンス、Word Camp、大阪府や香川県さんなど行政のイベント、GDG DevFest、NFT Meetupなどがあります。イベント実績はLINE Thingsのハッカソン最多受賞、経産省のMaaSイベント準優勝など。ハッカソンイベントの企画・主催もしております。

ハマヤは最近ですと、日経さんに「IT嫌いシニアを優しくDX」と題した記事の取材をしていただいたり、ヤフーニュースでは「グーグルも驚く 中高年社員を変えた手芸卸の優しいDX」と取り上げていただいたりして、大きな反響をいただいています。当社の事例は、Googleの本国にも採用・掲載されています。本国採用されているのは現在当社とANAさんのみで、全世界にメディア露出をしている状態です。

また、神戸大学MBAのリスキリング・DX化の研究にも協力をさせていただいていて、企業規模を問わずリスキリングやDX成功のための共通点を数値化していこうとしています。

DXについてストーリー形式で解説

若井 信一郎氏

デジタルとは程遠いアナログ会社

それではここから、ストーリー形式でお話しさせていただきます。まず私は、デジタルマーケティングの会社から、2018年9月に50年続く手芸屋に転職しました。
入社した直後から、デジタルとは程遠いアナログ会社であることに驚きました。伝票は5枚複写していますし、発注書は手書きで、基本的に管理は全て人の脳みそでやっていました。クライアントはメールかFAXを使っていて、注文は電話です。「FAXを使えたら良いほう」くらいの状況でしたね。
電話・電卓・伝票――私たちは「三種の神器」と呼んでいましたが、これらの利用を変革するために、DXを推進し始めたわけです。

ただ、私が入社したときは長年会社に勤めている60~70代の方が多く、なかなかDXが受け入れられないのが課題でした。DXにそもそも予算が出ない、システムが嫌い、スマホで操作したい、セキュリティは大丈夫なのか……。さまざまなご意見をいただきましたね。
「誰でも簡単に、無料で安全にクラウドでDXをする」という厳しい条件に合う方法を模索した結果、GoogleスプレッドシートとGoogle Apps Scriptを使ってみることに決定。これは、お作法さえわかれば、組み合わせだけでDXができるようなツールになっています。

システム開発で業務時間を大幅削減

いろいろと頑張って、これらのツールでいくつかのシステムを作りました。一つが、競合調査システムです。これはもともとパートさんが、他社の商品の価格情報を毎日Webサイトに見に行って作っていたものです。毎日やらないと競合優位性が出ないということで、大変な作業になっていました。そこで、毎回Webサイトの情報を自動で取得し、データベースに蓄積。最終的に価格変化まで見られるようなセットでシステムを作りました。データのマーケティング活用も含めて、年間で1200時間削減した例です。

ほかには、帳簿突き合わせシステムを作りました。帳簿も、もともと何百枚という大量の紙を印刷して、1枚1枚数字の突き合わせをしていたんです。人の目で行うためミスが発生しますし、目が疲れてキツい作業だったのですが、システムで効率化した結果、年間720時間の削減につながりました。

備品発注システムも開発しました。もともと備品発注は回覧板に用紙を挟んで、営業や経理などの各部署に回していたのですが、発注者に回覧板が戻ってくるのはなんと1週間後でした。これではスピードが遅いです。しかも手書きなので文字が汚くて読めず、また営業に聞きに行くという事態も発生していました。 これは無駄だということで、自動発注のシステムを作ったところ全般的に効果が出て、年間334時間の削減に至っています。

それぞれで開発できるよう教育を実施

システム開発と並行して、従業員が自ら開発できるように教育も実施しました。「ブラウザとは」「インターネットとは」という本当に基礎から始まり、ダブルクリックのやり方を実際に見せたりしながら、年齢層が高い方にも学んでもらいましたね。

その結果、彼らがプログラミングレベルの開発をこなせるようになり、100以上のアプリを開発。3年間のトータルで、5,760時間の削減に成功しました。

これには副次的な効果も多かったです。もともと当社は利益率が悪かったのですが、顧客や仕入先のデータを蓄積することによって、さまざまな判別ができるようになりました。どういう顧客と付き合い、どういう仕入れのどういう商品を取り扱っていくべきなのか、数字ベースの議論が可能になっています。
削減した時間でさらなる営業活動も実施し、利益率は9%から30%にまでアップしました。
空いた時間を活用して、事業部の創出も行っています。社内で推進してきたDXやIT化の手法を社外に伝えると、「うちでもやってほしい」と声がかかるようになったので、それをそのまま事業化したのです。ありがたいことに、お断りするぐらいのご依頼をいただいている状態になっています。この「手芸屋ITコンサル」が、1年間で利益シェア30%にまで到達しています。
パートさんの時間にも余裕ができたので、「amioto(アミオト)」という商品を企画して、ブランドを作り上げたりもしています。

DXの本質的な効果は、ただ単に時間を空けるだけではなく、空いた時間で価値の創出が可能なことです。売上利益やブランドの立ち上げも価値の一つですね。こういった取り組みが実現できたのは大きかったと思っています。
また、従業員にツールの使い方やプログラミングを教えていった効果として、社内のDX人材率は30%アップ。営業利益は20%アップ、新規事業売上は150%アップ、作業時間は75%ダウン、固定費は30%ダウンしています。

DXの4つの壁

DXの4つの壁

時間がない

なぜ我々のような手芸屋がDXを達成できたのかを一言で言うなら、経営者も含めたDXを推進するメンバーの「覚悟」があったからです。DX推進はとにかく大変なので、乗り越えていくためにはそれ相応の覚悟が必要なんです。
特にDXでは、4つの壁が出てきます。「時間がない」「予算がない」「効果が出ない」「社内からの不満」です。

まずは「時間がない」ですね。これはよく言われます。「そんなことをやっている時間はない」「協力している時間がない」「今の作業で手一杯」と言われて、施策を弾かれてしまいます。彼らに時間を作ってあげないと、DXは進まないのです。

そこでハマヤでは、時間を空けるために業務全体をチェックした上で個別にDXできそうな内容を洗い出し、リストにして優先順位を決めました。各事業部に行って作業内容を見て、今どういうことが必要なのか、どんな工数がかかるのか、バリューはあるか、インパクトが出るのか、売上は上げられるのか、固定費は下がるのか。さまざまな観点で項目をポイント化し、優先順位の高い取り組みから試していきました。

その結果、ここまでにご紹介したような形であまり工数をかけずに大きな効果が出たので、従業員の時間を空けることができました。施策が正しければ、時間を作れるのです。

予算がない

次に言われるのが、「予算がない」ですね。ちなみに、ハマヤがDXを推進し始めた当時の予算は0円でした。ITが受け入れられていなかったので、お金を使うことができなかったんです。そこで、無料で解決できる方法をピックアップしました。
私はもともとエンジニア出身ですから、フロントエンドではReactを使って、バックエンドはRailsで……といろいろ考えてはいましたが、そんなことをやっていると時間がかかります。だったらマクロか、Node-REDかとさまざまな観点を検討した結果行き着いたのが、Google App Scriptでした。どんなに予算がなくても、探せば自社に合ったツールが見つかるはずです。

効果が出ない

次が、「効果が出ない」です。DX推進はナマモノなので、効果が出そうな施策を選ばないと、スピードが遅いと飽きられる性質を持っています。一つの施策に半年以上もかかってしまったら、「DX推進ってどうなったの?」と思われてしまいますし、協力を仰いでも誰もついてきてくれません。半年以内、なんなら2ヶ月以内に推進するぐらいのスピード感が必要です。

当社が「効果が出るものを最小限の工数で作る」という意味で作成したのが、工数リストです。どの内容が早く出来上がるのかをリスト化し、それを基にすぐに作れるものを選んでいきました。

社内からの不満

最後が「社内からの不満」です。「システムが嫌い」「新しい作業が増える」「今までのやり方のほうが速い」というのは、よく言われる3セットですね。

このあたりについては、事務やパートの方々も含めてしっかり従業員と向き合って、DXによって効果が出ること、そして成功した場合の未来をしっかり伝えてください。「こういう取り組みをすれば、あなたたちの定型業務がなくなり、よりクリエイティブな仕事ができますよ、残業をしなくて良くなりますよ」といった形ですね。

それでも反対派は必ず存在します。そのときはDX推進効果を信じて、「これはもうやらないと仕方がないので」と押し切る覚悟が必要です。

DX人材の採用と教育

DX人材の採用と教育

DX人材に求められるスキル

ここまでの内容を簡単にまとめてみます。まずDXを始めるときは、優先度から決めましょう。その上で、予算に合ったツールを見つけます。従業員には成功した未来を見せていきます。そして、DXには覚悟も必要だというところです。
これらを踏まえた上で、DX人材の採用と教育についても少しお話しさせていただきます。

DX人材に必要なスキルチャートはIPAや国が出しているのですが、求められる素養がたくさんあります。例えばIT領域であれば最新のプログラミングやデータベース、ネットワーク、ハードウェアの知識が必要ですし、システム開発領域であればIT戦略やプロジェクトマネジメント、経営領域なら業務知識や事業戦略、ガバナンス、法務、財務・ファイナンススキルが求められます。ビジネス領域であれば、チームマネジメントやコミュニケーション、課題解決、ロジカルシンキング、交渉、プレゼンテーションスキルなどですね。業務設計領域に関しては、プロセス設計やヒアリング、チームビルディング、人材育成。事業開発領域においては、ビジネスモデルやリサーチ、巻き込み、ビジョン、デザイン。データ周りならサイト分析、SEO、広告、セキュリティ、SQLなど、知っておかなければならないことが膨大です。
これぐらい包括的な知識・スキルがないと、DXで本質的な課題を見つけて解決することができないと謳われています。

コミュニティで育てていく

でも、こんな人はまずいませんよね。見つけるのは相当難しいですし、見つけたとしてもそんなスーパーマンは会社のトップ層や経営層クラスなので、声を掛けられません。そこで、自分たちで育てる形にしました。

手法としては、コミュニティによる育成を選びました。コミュニティで育てていくと、DX人材が創出できるだけでなく、ノウハウを蓄積できるのがメリットです。自分たちが教育をする動画やテキストを溜めていくことによって、次に入ってきた人がDX人材へと成長していくスキームを作っていけます。

そのために当社では、Beginners DX Dojoという名前を付けて、DX人材の育成プログラムを作っています。リスキリングの観点も入っていますね。TwitterでIT経験3年未満の方を募り、40~50名が集まりました。私はDojoでイベントを開催。レポーティングしたものを順番に見てもらいながらスキルチャートを埋めていくことで、徐々にDX人材に近づいていく仕組みになっています。

内容的には「そもそもDXとは」という定義も教えますが、まずはさわりのIT知識が必要だと考えて、スプレッドシートを使ったIT全般の開発をしてもらえるようなものにしています。あとは社内政治なんかについても、どうやって政治をこなし、人を巻き込んでいくのかを細かく伝えています。営業スキルも必要なので、案件獲得について学びますし、要件定義からアプリ開発までを実践したりもします。経営者思考を取り入れて、視座を高める思考法なんかについても講義していますね。PL/BSをどう読むのか、DX推進でのブランディング、マーケティングはどうすればいいのか。ロジカルシンキングの手法も、本質を見つけられるようにするために教えています。
例えば「エクセルぐらいは使ったことがある」という人に対しては、SUM関数から教えて、こんな風に足し引きをして、ここではこんなボタンを押すんだよ、というところから教えます。そうでなければ付いてこられないので、本当に1から教えるような内容が、DX Dojoの中には組み込まれています。

もし、Dojoにご興味のある方がいれば、ぜひご連絡ください。実際に使っている動画をお見せしますし、どんな形で教育を進めていくのかもお伝えできます。一緒にコミュニティ作りのようなこともできると思います。

まとめ

絵に描いたようなアナログ業務が根付いていたハマヤが、若井氏がCTOとしてジョインして以来どのような変遷をたどり、大きな成長を成し遂げたのかを紹介いただきました。
コミュニティ育成を大切に考え、DX人材の育成プログラムも作っている同社。若井氏はイベント開催もされているので興味がある方はぜひお問い合わせください。

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