技術広報戦略~エンジニアにとって魅力的な会社にするには~[CTO meetup]
※本記事は2023年3月に公開された内容です。
エンジニア採用は、年々激化の一途を辿っています。優秀なエンジニアを採用するためには、自社の魅力――特にエンジニアが重視する技術面の強みを発信する、技術広報が欠かせません。
果たして各社はどのような技術広報戦略を採っているのか、3社から4名の技術責任者を招き、取り組み内容についてお伺いしました。エンジニア採用で意識していることから実際に効果が出た事例まで、自社に取り入れられるエッセンスが満載です。
目次
2月10日に開催したCTO meetup「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」
CTO meetup初の試みとして2023年2月10日に大阪なんばのイベントスペースFun Space Dinerを貸し切り、関西のCTO/技術責任者10名をお呼びしカンファレンス形式でオフラインイベント「関西CTO/技術責任者10名が語るDX時代のエンジニアリング組織戦略」を開催しました。
採用/育成/技術戦略をはじめとしたエンジニアリング組織戦略を軸に、各社での取り組みをお話しいただきました。
そのなかでメインコンテンツとして「技術広報戦略~エンジニアにとって魅力的な会社にするには~」をテーマにパネルディスカッションを行いました。
スピーカーのご紹介
若井 信一郎氏
moderator
株式会社ハマヤ
代表取締役 CTO
大坪 弘尚氏
speaker
株式会社はてな
CTO
馬場 彩子氏
speaker
シナジーマーケティング株式会社
最高技術責任者
渡部 陽太氏
speaker
株式会社ゆめみ
技術担当取締役
桑原 聖仁氏
speaker
株式会社ゆめみ
執行役員/テクニカルエバンジェリスト
エンジニア採用競争の重要な指標「テックブランディング」
出典:日本CTO協会、エンジニアが選ぶ開発者体験が良いイメージのある企業ランキング30を発表
若井:冒頭はインプットタイムということで、技術広報――テックブランディングについてお伝えさせていただきます。
CTO協会のテックブランディングワーキンググループでは「開発者体験ブランド力調査レポート」を作成しており、その中でいう「テックブランディング」は、エンジニアから見てその会社が「開発者体験が良さそう」「採用されたい」と思われているかどうかを示す、重要な指標になっています。
現在はDXの文脈からエンジニア組織内製化の話がよく出てくると思うのですが、圧倒的ナンバーワンの課題はIT人材の枯渇であり、採用です。いかに採用競争に勝ち残っていくかを考える上で大事な指標が、テックブランディングなのです。開発者が生産性高く働きやすい環境を作るのは大事ですが、それをどんどん社外に発信していかないと見つけてもらえません。今回は、そのあたりについてお話ししていきたいと思います。
ちなみに、レポートの中で挙がっている上位社名に対して回答者が抱いているイメージは、「エンジニアとして成長できそう」「著名なエンジニアが多そう」「技術的投資ができていそう」「技術レベルが高そう」「オープンで透明性の高い企業文化がありそう」などです。好感を持っているチャネルは、テックブログ(はてなブログやQiita)、テックイベント、エンジニアのTwitterがメインとなっていますね。
エンジニア採用で意識していること
候補者の採用体験を重視して、面談の雰囲気づくりを意識
若井:最初は、テックブランディングに関わる採用の質問をご用意しました。エンジニア採用で意識していることに加えて、今回は関西のイベントですので、関西と関東の違いなどももしあれば併せて教えてください。
桑原:前提として、当社には採用専門チームがありません。メンバー全員で分担して採用活動をしているため、個々の意見が入り混じっている点はご了承ください。
当社が一番重視しているのは、候補者の採用体験です。せっかく自社に興味を持って時間を使っていただいているのですから、何かしらお持ち帰りしていただけるような体験を用意するのが大事だと思っています。その方が別の場所で、「ゆめみってこういう会社だった」と発信してくれることも期待しています。1時間程度の面談でお互いを理解するのは難しいですし空気が硬くなりますから、雰囲気づくりも意識していますね。
その上で、質問の中で見るポイントは限定しています。一緒に仕事をするイメージができるか、何かあったときに背中を預けられるか、一緒に苦しいことも乗り越えていけるかといったところは大きいです。あとは、その人にどんな強みがあり、働く中でどんな力を発揮したいのか、それが当社の求める内容とマッチしているかどうかを見ています。
最後にウィークポイントですね。その人に苦手なところがあっても、うちのメンバーとコラボをすることで上手くいくイメージができるかを意識しています。
若井:雰囲気を良くしたとしても、面接者と採用者では関係性が難しい気がしますが、そのあたりいかがでしょうか。
桑原:うちは最初にアイスブレイクタイムとして、雑談から入るようにしています。人によってはチェックアウト時間になったら、忌憚なく文句でも何でも言ってもらっていますね。
自社の抱えている課題に関して嘘はつかず、正直に伝える
若井:馬場さんは何か工夫されていることはありますか?
馬場:エンジニア採用は本当に厳しいので前のめりにいろいろやりがちですが、一つ意識しているのは「嘘をつかないこと」ですね。どんな会社も良いところがたくさんある一方、課題も抱えています。そこに対して一緒に取り組んでいこうと思ってくれるエンジニアでなければやっていけないと思いますし、マイナスの部分でミスマッチが起きるとお互い不幸になります。ですから、「うちはこういう課題がありますよ」とものすごく正直に言っています。
若井:シナジーマーケティングさんとして、関西と関東の違いを感じる部分はありますか?
馬場:創業した2000年当時は、大阪のエンジニアが働ける事業会社は本当に少なかったです。「大阪でエンジニアができる」ということで昔は採用に対応できた部分が大きかったのですが、それも2010年代前半頃までの話ですね。
今はリモートワークできる企業が多くなりましたし、大阪だからこその優位性や、関西・関東の違いはほぼなくなっていると感じます。関西のエンジニアも、東京の面白い会社に携われる時代になりました。
サービスやインターネットが好きというカルチャーへの共感
若井:大坪さんが意識していることについてはいかがですか?
大坪:よく言われる要素ですが、カルチャーマッチです。うちは自分たちが作っているサービスが好きで、インターネットに対して良いことをしようという人たちが揃っているので、候補者の方にもそういう意識があるか見ていますね。エンジニアのバリューズでは「オープンである」と謳っているため、そこに共感してもらえるかもポイントです。
関西・関東の違いでいうと、関西の場合はUターンで戻ってくる方がはてなを検討してくれるケースはありました。ただ、これも過去形です。当社も今リモートに振り切っているので、関西・関東の違いはありません。むしろ、関西・関東以外の地域の方がジョインするケースが増えてきました。
若井:過去は地場での採用が強かったのですが、関西・関東関係なく、働く環境を整えて発信していかないといけないですね。
大坪:ロケーションを気にしない会社のほうが、好まれているところはあるかなと思います。
技術広報でうまくいった事例、効果が出た事例
20年以上前から新入社員を中心に技術サイトを構築
若井:働く環境を整えたら伝えていかないといけないという点で、技術広報の成功事例があれば教えてください。
馬場:うまくいったかどうかはわかりませんが、当社が実施している技術広報で一番大きいのは、技術サイトです。自分たちが習得した技術情報を、ブログ記事で発信しています。創業当初は「TECHSCORE(テックスコア)」というサイトを構築していて、デザインパターンやSQLなどの基礎的な技術について、新卒研修の一環で新卒の社員が記事をまとめて公開していました。もう20年前の情報ですが技術は今も使われているため、未だに新卒の研修時期になると、アクセスが上がります。
当初は技術広報というよりも「自分たちが学んだことを世界に知らせたい」という意識だけでサイト運用をしていたので、サイト名もシナジーマーケティングとは関係ありませんし、面接で初めて当社の記事だったと知った方も多かったです。
なかなか採用面での個別のアクセス数には結び付いていない点は、課題だと感じています。
外部に向けたエンジニアの個人的なアウトプットが効果を発揮
若井:はてなさんはまさしくブログサービスを提供していますが、はてなさん自身の技術広報ではどんな施策をされているのでしょうか?
大坪:技術広報の施策として捉えていませんでしたが、コンスタントに効果が出ているのははてなのエンジニアが書いてくれる個人的なブログですね。「これを読んで興味を持ちました」と言ってくれる方が多いです。
最近では、思いつきでPodcastをしてみたら意外と効果があって、「この話を聞いて来ました」という人がすぐに現れました。ただ、広報を意識しすぎると続けるのが難しそうなので、あまり気にしすぎないようにしつつ取り組んでいます。
若井:効果が出そうな取り組みは、繰り返し続けているんですか?
大坪:採用に結び付けようとはあまり考えていませんが、外に発信していくというのははてなの創業時からずっと続けてきた、エンジニアの大事なカルチャーの一つです。それを維持していこうとしているわけですね。それではてなに興味を持ってもらえたら嬉しいですし、強みにもなっていると思います。ただ、採用を目的としたKPIは意識していないです。
若井:採用と結び付けないのは、心理的安全性を持ってよりアウトプット量を増やしたい意図でしょうか?
大坪:内的なモチベーションで実施してほしいので、「目標を達成するために頑張ろう」と言い出すと、潮目が変わってしまうと考えているのが現状です。
connpassを活用した勉強会への参加が直接的に採用につながった
若井:ゆめみさんはいろいろな場所でナンバーワンを取っているイメージですが、その中で採用施策はどうされているのでしょうか?
渡部:ゆめみもテックブログをやろうとしていましたが、メンバーが定期的に記事を上げるのが難しかったようです。代わりに、本人のブランディングにもつながるようにQiitaなどを通したアウトプットを推奨しました。さらにそこへインセンティブを設定し、アウトプットする文化を定着させました。この取り組みの中からキャッチーで楽しめる記事を書いて認知拡大に大きく貢献してくれるメンバーが現れました。この点は戦略的というより、偶然上手くいった成功事例ですね。
connpassの勉強会も意外と一定の効果があります。参加した他社のエンジニアが、「ゆめみのエンジニアは技術力が高そうだ」「和気あいあいとして働きやすそうだ」といったイメージを持って採用に応募してくれたこともあります。勉強会は準備に骨が折れるのでコスパは悪いんですけどね。
次の取り組みとしては、コミュニティ形成を行って、勉強会のブランディングをしようと考えています。中途のエンジニアの方々は転職タイミングがバラバラなので、勉強会で緩くつながって、転職しようと思ったタイミングでゆめみを想起してもらえればなと。合同で勉強会をしたい会社さんがあったら、ぜひお声がけください。
技術広報を行うことによる社内外含めた副次的な効果
ノウハウを一定の形にまとめるプロセスが会社全体の資産に
若井:次は、技術広報を行うことによる社内外を含めた副次的な効果について、何かあれば教えてください。大坪さんからいかがですか?
大坪:副次的というよりは主になるのですが、エンジニアに「いろいろアウトプットしてよ」と言うことで、知識を一旦外に出せる形でまとめるプロセスができているのがいいですね。例えばよく使う処理をオープンソースとして切り出すのもアウトプットの一つだと思うのですが、ほかのチームでも使えるぐらい抽象化したりブログ記事に書いたりしておくことで、時々に「これは書いてあるから見ておいて」と示せるようになりました。外へのアウトプットが、会社全体の資産になっているんです。エンジニア個人の成長にもつながっていると感じます。
若井:アウトプットは評価基準に盛り込まれているのでしょうか?
大坪:質の良いアウトプットができているかは見ています。ただ、例えば「半年でこれだけ記事を書かなければいけない」という基準は設定していません。
広報活動が社内メンバーの会社理解や好感度アップに貢献
若井:ゆめみさんはいかがでしょうか?
桑原:ゆめみはクライアントワークの会社なので、プロダクトで知名度を測ることができないんですね。「ゆめみ」という名前で勝負をしていかなければなりません。
そういう意味で言うと、採用広報によって「経営はこういう仕事をしているんだな」とメンバーに少しでも理解してもらい、実際に好感を持つ人の数が一定増えたのが良かったです。これは期待していなかった効果です。
若井:経営の視座の観点を持つ人が増えているのでしょうか?
桑原:そこまではさすがに難しいところがありますが、毎週行っている経営メンバーや役員の会議に参加する人も出てきました。
Q&A
Slidoを使って会場参加者から投稿していただいた質問にも答えてもらいました。
技術ブログの鮮度を保つにはどうしたらいい?
質問者:技術ブログの鮮度を保たないと逆効果になります。開発チームのリソースで鮮度が保てない場合はどんなやり方がありますでしょうか?
若井:こちら、馬場さんに回答をお願いしてもよろしいでしょうか?
馬場:当社は今年から、エンジニアチームが毎週1記事ずつ技術ブログにアップすることにしました。コロナ禍の中で、自分たちの意志のようなものをストーリー立てて残していく必要があると考えたからです。当社のエンジニア人数なら、毎週1記事といっても、メンバー1人あたり年に1回まわってくるかこないかの頻度なので、「年に1回は、自分の仕事についてストーリー立てて記事をまとめよう」と決めました。そうすることで、「書く技術」も育ちます。
まだ実践は苦労していますが、やったほうがいいということ自体は納得してもらえたので、今年は多くの記事を公開できそうです。
若井:大坪さんはいかがですか?
大坪:技術ブログを運営するチームは有志で作っていて、特定の月に担当者に記事を書いてもらったり、インタビュー企画を立てたりしています。記事はそこまで頑張って書かなくてもメンバーの人となりが見えて面白いですし、大変すぎないレベルで工数を下げつつ、記事が出るようにはしていますね。
社内にテキスト文化があるので、少し抽象化すれば社外に出せる内容もあったりして、下地は整っています。
若井:技術系以外にもインタビューやまとめ記事なんかをさまざまな角度から量産していくと、読者から見られて楽しいしブログをアップデートしていけるという観点がありそうですね。
技術レベルの高いエンジニアを採用するには?
質問者:技術力が高く実績も豊富なエンジニアを採用できません。どのようにレベルの高い人の採用に取り組んでいますか?
若井:渡部さん、いかがですか?
渡部:先ほども少し述べましたが、レベルの高い中途の方はいつ採用のタイミングが来るかわからないので、緩くつながるコミュニティ形成にこれから取り組むところです。
それ以外だと、ゆめみの場合はテックリード相当のメンバーが一定数集まってきたんですよね。人数が増えると、雪だるま式にテックリードが次のテックリードを呼んでくれます。専門性の高い技術領域の方々は、勉強会の運営が好き、技術書の執筆に興味がある、Qiitaで記事を書くのが好きなど志向が異なるので、それぞれに合ったやり方で露出も増やしています。
こういう好循環サイクルが最近徐々に回り始めたところですが、やはり皆さんが知りたいのは最初の一人を採用するところですよね。
桑原:経験や実績が豊富なエンジニアに対しては、高い挑戦ができる環境を用意するのがまず一つあると思います。それが「本当にできるんだ」と思われるようにブランディングするのなら、本気でカンファレンスのスポンサーをする、登壇するなど、会社組織が技術に向き合っているのだと見せる姿勢が大事ですね。
認知されなければそもそも応募もしてもらえませんから、認知度アップも含めてカンファレンスが一番やりやすいと思います。
まとめ
3社4名の技術責任者をお呼びして各社でエンジニア採用をどのように行っているのか、技術広報としてどのように組織体制を整えて技術発信をしているのかをお伺いしました。
リアルな取り組みは参考になるものばかり。ぜひ自社で活用できそうなものがあれば実践してみてください。
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