ベンチャーの資金調達方法と使い道、CTOの果たすべき役割とは?

※本記事は2016年6月に公開された内容です。

2016年5月12日、FLEXY関連イベントとして開催された、第2回Ex-CTO meetup。
資金調達において、CTOは何を考え、何をすべきか?について、事業フェーズの異なるベンチャー企業のCTOの方々に、エピソードを交えて赤裸々に語って頂きました。

登壇者

パネラー

石川 雄樹(いしかわ ゆうき)氏

アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役CTO

柴山 直樹(しばやま なおき)氏

株式会社プレイド取締役CTO

黒瀬 瑛之(くろせ えいじ)氏

株式会社BEC取締役CTO / Co-Founder

モデレータ

是澤 太志(これさわ ふとし)氏

株式会社Speeeエンジニアマネジメント責任者 兼 エンジニア採用責任者

当時めずらしいクラウドファンディング型の調達を実施。意外な苦労も? / A-SaaS 石川氏

是澤 太志氏(以下、是澤):まず最初に、どんな手段でお金を集めたか?という部分について、選んだ手段と理由などをお聞かせいただきたいと思っているんですが、石川さんからお願いしていいでしょうか?

石川 雄樹氏(以下、石川):我々の会社は、成り立ちがかなりトリッキーです。創業時にお客様でもある税理士から合計10億くらい集めて、基本的には製品開発と営業に使ってます。
今でいう、クラウドファンディングに近い感じですね。その後は基本的にはGREEさんみたいな純粋なベンチャーキャピタルと、Salesforceさん、オプトさんなど、事業会社の両方から投資していただき、BtoBのクラウド領域のシナジーをとりました。
2回目のときは、海外のFidelityさん、Arborさん、国内のmixiさんなどから集めています。
あとは、一番最初のときって、僕も含めて、CFOも誰もいない頃でした。2回目以降はCFOがいて、しっかりやったという感じですね。

是澤:1~3回目の調達っていうのは、それぞれどういった理由で集めたんですか?

石川:基本的には投資がものすごく先行する事業だということが最初から分かっていました。とにかく業務領域が広いので、開発に時間とお金がかかる。あと開発してプロダクトを改善しながら、営業体制のほうをしっかり作って、九州や広島にも営業支社があったりしたので、そういう体制を作って大きいソフトを作っていく形でやってましたね。

是澤:開発に対して使った感じですか?

石川:多くは開発に使ってます。ざっくり6割か7割くらいですね。

是澤:エンジニアの採用とかもガーっとやった感じですか?(笑)

石川:採用をガーっとやったのは、シリーズBの後ですね。

是澤:この間で石川さんの役割の変化っていうのはありましたか?

石川:そうですね。そういう意味では確かにものすごいガンガン変わっていて、最初は一人目のエンジニアとして入ったんですけど、領域の広さと、3年くらいで全部作らなくちゃいけないということで、自分で作るのを止めて、海外への外注にパッと切り替えました。当時円高とかもあったので。ロシア、インドなどを使って、最初のシリーズBの前まではガーっと横に広める開発ですね。会計だけでなく給与とか、減価償却とか、さらに法人税、所得税、消費税、相続税とか税目が沢山あって、2015年にはだいたいそれらが揃ったので、アウトソースをほぼ全部なくして、内製に切り替え、逆にエンジニアを採用してるという感じです。
僕の中の役割もどっちかというと最初エンジニアで入り、アウトソースのマネージャー、マネージメントの体制を作るということから、今まさに内製のエンジニアでエンジニア文化をちゃんと作って、しっかり自分たちのプロダクトを作っていくというところにむいて、採用を中心にやるCTO、みたいな感じに役割が変わってきていますね。

是澤:分かりました。ありがとうございます。柴山さんはいかがだったでしょうか?

柴山 直樹氏(以下、柴山):その前にちょっと質問したいんですけど、石川さんがクラウドファンディング的に800人から薄く調達して困ったことってあるんですか?

石川:具体的には株主総会開くのが死ぬほど大変です。

柴山:後の調達の時に懸念されたり、言われそうだなとちょっと思ったんですけど。

石川:まず株主が多いというだけで、お話もしてくれないことろ、かなりあります。もちろん今入ってるところは、そこはクリアしてる。あと生々しい話だと反社チェックとか、800人いるので大変です。

柴山:ハンコどうやって集めてるんですか(笑)

石川:更に生々しい話をすると、1回株主総会を開くとびっくりするほどお金がかかります。具体的には郵送のお金とか、印刷代とか含めてかかりますね。

柴山:ありがとうございます。

CTOは技術とプロダクトに関する経営メンバーであるべきをテーマにA-SaaS石川氏に個別にインタビューした内容を紹介しています。

Ex-CTO meetup

調達したお金はほぼ全て「人」に投資 / PLAID 柴山氏

是澤:なるほどー、勉強になります(笑)。では柴山さん、改めてお願いします。

柴山:僕は最初に代表が始めたときの自己資金と、自分の親族から集めた形で入れまして、そのあとにステルスで2,3社入れ、そこで効果を出して計画書を作り、1.5億円ほどFemtoさんから入れさせていただきました。その時は基本的に開発者2名とデザイン1名でやっていた形です。
そのあと半年ちょっと経って、正式なローンチをしまして、さらに半年くらい後に、今度FidelityさんとFemtoさんから5億円調達しました。このときには顧客数だいたい二桁だったくらいしか覚えてないんですけど、アイコンになるけっこう大きめの企業さんだけに絞って営業しまして、その中で50社ほど導入いただいて、それを使って5億円を調達した形ですね。

是澤:その中で、どういったところにお金を使っていたのか聞いてもいいですか?

柴山:最初の頃は単純に人件費に使いました。実はこのときも一番最初は代表が自分でコンサルみたいなことをして、けっこう大きめのお金をいただくという、よく分からないことをやってまして。それを使いながら自転車操業的にやっていたのが最初の頃で、1.5億入れたときも、これをほとんどオフィスと人件費に使ってると思います。
うちは解析系のサービスなので、それなりにインフラコストがかかるんですけど、人件費に比べたらまあ少ないと思いますね。最後の5億に関しては、オフィスを五反田に移転して、それなりに払ってるというのと、人件費とインフラコストをこの頃に少し大きめに使うことにして、新規の開発代わりにむちゃくちゃサーバーコストをかけたりしたんですけど、そのくらいですかね。

是澤:サーバーはオンプレですか?

柴山:いえ、クラウドですね。基本的にはオフィスと人件費にずっと使ってるって感じです。

是澤:なるほどですね。役割の変化っていうのはどういう形になっていきました?

柴山:最初はメイン開発者で、初期の増資のときは営業もサポートも、という感じでずっとやってましたね。マネージメントはうちはあまりやらないんで、メイン開発者という意味ではずっと変わらずに、いまだに僕のコミットが一番多いっていう感じでやってます。人数が増えてきたんで、チーム的なところ、特にCSみたいなところは僕らはちょっと厚めに10人くらい採ってるんで、そのマネージメントとか、あとセールス側のほうも結構戦略練っていくところで、プロダクトドリブンでやってるっていうところもあって、そのあたりに頭を使ってますね。

資金調達時に重要なのはVCへのプレゼンテーションをテーマにPLAID柴山氏に個別にインタビューした内容を紹介しています。

創業補助金制度を活用し、プロダクト開発後に資金調達 / BEC黒瀬氏

是澤:黒瀬さんの場合はどのように資金調達を行いましたか?目的も合わせて教えて下さい。

黒瀬:弊社は最初、国の創業補助金制度を使いました。というのも元々サイバーエージェントのビジネスコンテストで優勝した案だったので、藤田さんから出資するよとご提案を頂いていたんですけれども、当初はプロダクトもない状態で、なかなかバリュエーションの合意が取れなかったこともあり、とりあえずプロダクトを作るために補助金制度を利用したという形になります。当時の創業補助金制度は政策金融公庫から借り入れを行っていないと受けられない制度だったので、政策金融公庫から700万円を借り入れてスタートしました。
その後サービスをリリースしたタイミングでCAVさんに改めて評価していただき、1,000万円の資金調達をしました。リリースしたサービスの開発スピードをあげるために資金調達をした感じですね。そして一番最近の調達に関しては計4社から調達しまして、もともと企業が専門家の方にバックオフィス業務をネット上で依頼できるクラウドソーシングサービスだったんですが、そこからバックオフィス業務の自動化サービスに切り替えるというタイミングで、その開発費用を確保するために資金調達を行いました。という計3回です。9割開発に使ってますね。

是澤:9割開発に・・・なるほど。その中で自分の役割ってどういうふうに変わっていきましたか?

黒瀬:あまり変化はなくて、これまではずっと開発を中心にやってきました。採用活動を加速させたのでそういう業務が増えたっていうのはありますが、基本的には開発してきましたね、ずっと。

是澤:プラスアルファで増えたことってあります?やることとか。

黒瀬:採用業務の他だと、色々なところを紹介してもらってアライアンスを組ませていただいたりしているので、そういったところの調整だったりも自分でやってます。後は入れていただいたお金の使い方や今後の方針についての話し合いとかも増えました。

是澤:ありがとうございます。おふたりから質問したいことありますか?

柴山:コンテストに勝ったときの出資の条件は、どんな感じだったのかなと。それを頂かずっていうことですよね?

黒瀬:もともとコンテストに勝ったらこんなことがあるとか決まってたわけではないんですが、その後出資に関する打ち合わせを何度かさせていただいて、その時のバリュエーションがあんまり高くなかった感じです(笑)。当時他のベンチャーキャピタルさんもたしか今ほどバリュエーションをつけていなかったと思います。
何もない中でバリュエーションが出せないのは仕方ないし、出資していただける額もそれほど多くないので、だったらとりあえず自社で開発してから再度評価してもらおうという感じになりまして。

Ex-CTO meetup

柴山:ここで最初に700万円融資していただいたっていうのは、けっこう大きい?

黒瀬:大きいですね。使った分だけ返ってくる制度なんですよ、創業補助金が。人件費や広告にもバンバン使えるんで、金銭的に臆することなく色々挑戦することができました。
でも、創業補助金は使ったものの証明が結構面倒くさいんですよ。お金の使い道が正しかったことの証明とかしなくちゃいけないんですけど、役所のおじさんとかAWS知らない、みたいな。見積書とか持って来いって言われるんですけど、そんなのないよ、みたいな感じなんですよ。

是澤:当時の創業補助金制度について教えてもらってもいいですか?

黒瀬:まず政策金融公庫から700万円を融資していただいて、それから半年の間に使った額の3分の2が700万円を上限として戻ってくるという制度です。なので半年後に、使ったお金の説明を全部しなくちゃいけないんです。

是澤:なるほど。その時にカウンターパートどんな人だったんですか、おじさんて役所の人?

黒瀬:そうですね、役所の人です。

是澤:そこに対しての労力って、けっこうかかった?

黒瀬:相当かかったと思います。僕はこれ提出しろって言われたもの用意するだけだったんですけど、CEOが結構嫌がってましたね。「もうなんで分かってくれないんだ」っていう(笑)。僕らにとって当たり前のことでもいちいち説明しなくてはいけないので。

是澤:よく説得できましたね(笑)

黒瀬:そうですね。色々資料はとっておいたので、そういったところも見せつつ、あとは丁寧に説明して説得した感じでした。人件費とかに関しては出ることが分かってたので、そういうところで使いつつも、でも結局全然700万円は使ってないです。最終的に補助金はたぶん、400万円弱くらいしか使ってないですね。

是澤:次はまた補助金でやりたいですか?

黒瀬:資金がなくて、補助金が出そうな事業であれば、選択肢としては考えると思います。

資金調達時に重要なのは機能開発を戦略に基づき説明できるかをテーマにBEC黒瀬氏に個別にインタビューした内容を紹介しています。

幅広く調達先を検討し、ハンズオンで関わってくれる先を選択/A-SaaS 石川氏

是澤:「お金を集めた手段」と「どういう風にお金を使ったか?」について大体の概要はお三方からお話していただいたんですが、ここで資金調達したお金を使うポリシーや体制というところをお聞きしたいなと思います。石川さんからお願いしていいですか。

石川:実際そこまで深く関わってはいないんですけど、ただそういう面でいうと、最初は自分達のお客さんになる人に、業界を変えるぞって言って、同意して頂いた人から集めるっていう感じで。
あと一個おもしろいのが、エンジェル税制っていうのがあるんです。ベンチャー企業に出資した個人投資家、つまりエンジェルに国からお金が出るんです。正確には税金の還付が受けられるんですね。だから、僕らはこの制度の紹介とセットで投資を募ったようです。相手は税制のプロだから、説明が簡単だったんでしょうね。たとえば、最初に投資してくれた税理士の方々には、50万円入れてもらったら、エンジェル税制で20万円還付されます。あと、今会員になっておくと、利用料が優遇されるので、結局先生が使うお金は10万円ですよ、みたいな。そんなトークで崩していった、みたいですね。金額は正確ではありませんのでそこは雰囲気で。

是澤:なるほど、そこはもう実際トークをしにいって、と。

石川:そうですね、営業の人達や当時の社長はそういうトークでやっていって。
あと結果的にでもあるし最初からのポリシーでもあるかもしれないけど、調達元のリードのところは、親身になってハンズオンでガシガシ入ってくれるところに入れてもらっています。そこはやっぱり投資に至るところの相性であるとか、そういったものも含めて良いところに投資してもらってきてると思います。リードの人達は本当にびっくりするくらいハンズオンで入ってきてくれてるんで。当たり前かもしれませんけど、自分のことを我々と呼んでと言ってくれて、そういうところが非常にいいなと。そういうところを探して、マッチしていったみたいな気がしています。

是澤:それって最初分からないんですよね。話していくうちに、あ、この人達だ、みたいので分かってもらうんですか?特に最初からターゲットがあったわけではなく。

石川:そうですね。やっぱりそこはパイプラインは足元広めて、というような感じですね。

長距離を並走してくれる先から調達。ポリシーはやりながら固めていった。/PLAID 柴山氏

是澤:なるほど。柴山さん、どうでした?

柴山:ポリシーとしてはサイズ感のところと、どこから入れるか、というところだと思います。最初の調達をする前に、ちょっと長めに事業計画を引きまして、特に後半にスケールしやすい形で計画をひいていました。そうなってくるとけっこう後ろのところで評価してくれる、そこまで一緒につきあってくれるような人が欲しいなということで、なるべく後半の夢みたいなところに共感してもらえるところを探しましたね。
相手としては一番最初のFemtoさんが僕らを評価してくれたポイントが、より後半側にあったっていうのはけっこう大きかったです。一番最初にVCさんを探した時に、ワンクールっていって、1ヶ月で確か20社くらいダーっとVCに会う形で代表中心にやって、そうやってる間に次の月にだいたいこんなポリシーでいこうかみたいな形で話し合って、第2回はその設定したところで会わせていただいて、その話し合いの間にポリシーを決めていった形です。
サイズ感に関しては、3回分くらいは、だいたいこの位は必要だ、だいたいこの位のバリュエーションで、みたいな形でやっていましたが、その先のことになると本当に分からないので、なるべくそれまではエクイティを残しておこうということで、10~15%くらいのところに落ち着かせて、バリュエーションは開発費用が2年間くらい持つ程度、そんなような形で、やりとりさせてもらいましたね。
特に2回目のときにFidelityさんに決めたのは、またちょっと違うところもあって、長期のところで満期が少ないというところで、Fidelityさんとやらせてもらったというところもあるのと、あと次の調達のときにFidelityさんは元が大きいので、やっぱり次のときに出してもらいやすいというところで、決めたという感じです。

石川:Fidelityさんはうちも株主なので共通ですね。基本的に長期が特徴ですよね。

柴山:僕らは早めのエグジットがちょっと気持ち悪いなというのがありまして。FidelityさんやFemtoさんもそうなんですけど、そこは関係ないから、みたいなかんじで付き合ってくれています。

調達前にプロダクトをつくるポリシー。実績とアライアンスの観点で調達先を決定/BEC 黒瀬氏

是澤:黒瀬さんは、どうでした?

黒瀬:弊社のポリシーとしてはプロダクトを作ってから調達するっていうのを一貫してやっていて、一番初めの政策金融公庫は違いますが、株式の調達のときには基本的にプロダクトを作って、それを見せるというのをずっとやってます。一番初めの調達元に関して実はCAVさん以外にも選択肢はあったんですが、実績を重視させていただきCAVさんに決めさせていただきました。そのおかげもあってCAVさんから色々と紹介してもらって、2回目の調達先も決まっていったっていうこともあったので、結果的にとても良かったかなと思っています。他にはアライアンスを組みたいっていうこともあって、金融系を中心にまわらせていただいたという感じですね。

是澤:CAVさん入れる以外も考えてたってことですよね、今の話だと。

黒瀬:そうですね。

是澤:もしCAVさん入れなかったら、どうなってたの?(笑)

黒瀬:どうなってたんですかね。2社から同時に受けるみたいな話もあったんですけど。結果的にはCAVさん1社から入れて頂くという形になりました。

是澤:なるほど、いろいろな可能性を模索していった感じなんですね。結果としてはCAVさんがよかった、という感じですか?

黒瀬:良かったですね。

是澤:そのあとはSpeeeも入れさせてもらったんですけど、CAVさんの後に他からも入れようと思ったのって、理由は何だったんですか?

黒瀬:開発費を調達したいと思っていたのが一番にありました。資金調達自体が戦略実行のためのサブセットだと考えているので、市場や時間軸というところをふまえて、そもそも調達をするしない、どのくらいの額調達するかというのが決まってくると思います。うちの場合バックオフィスのクラウド化というところで、既存のニーズがあるところをクラウド化していこうとしていたので、なるべく早く良いものを作るための開発費としてこのくらいの額を調達しようっていうのを決めて、スタートした感じでしたね。

是澤:ありがとうございます。皆さん、開発のための資金調達ってところが大きい感じでしたね。今回お話をお聞きして、やはり会社の資金調達にはCTOがきちんと関わっていかないとダメな部分が大きいように思いました。ですね。そのために技術トップはファイナンスの勉強も少ししたほうがよいかもですね(笑)。
結構きわどい話もありましたが、具体的な話が聞けてよかったです。皆さんありがとうございました。

まとめ

資金調達において、CTOは何を考え、何をすべきか?をテーマに、事業フェーズの異なるベンチャー企業3社のCTOにエピソードを交えながらディスカッションいただきました。
これから資金調達を検討される企業のみなさまの参考になれば幸いです。

FLEXYとはABOUT FLEXY

『FLEXY』はエンジニア・デザイナー・CTO・技術顧問を中心に
週1~5日のさまざまな案件を紹介するサービスです