資金調達時に重要なのは機能開発を戦略に基づき説明できるか:BEC黒瀬氏

株式会社BEC黒瀬瑛之氏

※本記事は2017年7月に公開された内容です。

先日、FLEXY関連イベントとして開催された、第2回Ex-CTO meetup。「ベンチャーの資金調達方法と使い道、CTOの果たすべき役割とは?」をテーマにCTO経験者同士のディスカッションが行われました。
今回は、ご登壇頂いた株式会社BECの黒瀬氏に、CTOとして単独インタビュー形式で話を伺いました。

インタビュイー/インタビュアー紹介

黒瀬 瑛之氏

黒瀬 瑛之様

株式会社BEC 取締役CTO / Co-Founder
1988年生まれ。東京工業大学情報工学部卒業後、株式会社サイバーエージェントでソーシャルゲームのエンジニアをやりながらプロデューサー業務を担当。「誰でも気軽に挑戦できる世の中にしたい」と思い、2014年1月に独立し、株式会社BECを共同創業。
会社運営を自動化する「Gozal」のプロダクト責任者として開発やデザインを担当しながら、エンジニアの採用活動を行う。

専門家:黒田 悠介氏

黒田 悠介様

サーキュレーションの登録 NOMAD
日本のキャリアの多様性を高めるために自分自身を実験台にしている文系フリーランス。ハットとメガネがトレードマーク。ベンチャー社員×2→起業→キャリアカウンセラー→フリーランスというキャリア。
主な生業はインサイトハッカー(プロインタビュアー)とディスカッションパートナー(壁打ち相手)で、新規事業の立ち上げを支援しています。 個人では「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営。

VC向けプレゼンに間に合わせたい機能を優先開発することも

黒田悠介氏(以下、黒田):先日はイベントにご登壇いただきありがとうございました!イベントでお聞きした内容をもっと深掘りしてお話を伺えたらと思います。

黒瀬瑛之氏(以下、黒瀬):はい!よろしくお願いします。

黒田:プレスリリースにもありましたが、ちょうど新機能をリリースしたタイミングですね。一旦肩の荷が下りた感じでしょうか。

黒瀬:開発としては区切りがついたのですが、ちょうど6月に入り新たなエンジニアの社員が2人入ったので、その対応に追われている感じですね。2人ともイケイケなのでかなりインパクトが大きいです。

黒田:BECさんは過去3回調達されていますよね。採用や開発に重点的に使っているイメージがあります。

黒瀬:そうですね。資金調達についてはそういった用途が多いです。資金調達に関連する戦略について初期段階からCTOとして議論に参加して、使いみちについて決めていましたね。僕の方で必要な工数や開発費を出して開発にあたり、CEOが事業計画書を作ってVC回りをするような分担をしていました。

黒田:戦略を決めるときにCTOが議論に参加することが重要なようですね。

黒瀬:圧倒的にスピーディーにプロダクトを作れますからね。CEOが対外的な活動をして不在にする時間が長いときにも、CTOが戦略を理解していれば開発メンバーへの情報共有が速くて正確になります。また「なぜこの機能を作るのか」ということをはっきり言えるので、スピードだけでなくプロダクトの質も高くなります。

黒田:調達の時期や額についてはCTOとしてどのような観点で考えていたのでしょう。

黒瀬:いつまでにどういった機能を作らなければならない、という目標が定まれば、そのために必要な工数やエンジニアの人数も分かってきます。そこから逆算して必要な調達額も分かってきますね。
BECの事業であるバックオフィスの自動化サービスに必要な機能を洗い出して、競合も意識しながらスピーディーに進めることを意識していました。もちろん、人数が増えれば増えるほどいいのかということでもなくて、情報共有したり風土を保ちながらやっていくのに適した人数を念頭に置いています。

黒田:1回めの調達はCAVさんからの出資で調達額も決まっていたと思うのですが、2回目の1億円の調達はどういった形で進めていったのでしょうか?

黒瀬:まずは、1年以内にここまで作り上げようとするとこれだけの工数と人数が必要だ、みたいな議論をCEOと重ねていった感じですね。 そうやって目標調達額を決めました。調達元としてはCAVさん自身とも話をしていましたが、CAVさんに紹介してもらったVCに会いに行ったり、アライアンスを組もうと持ちかけてきた金融系の企業も回っていました。

黒田:調達の相談をするときにはプロダクトを用意してプレゼンテーションしていたのでしょうか。

黒瀬:そうですね。プロダクトがないとチームでしか判断できないですよね。それだけだと厳しいので、プロダクトや実際のユーザーデータを持ってプレゼンテーションする必要があったわけです。僕自身も「やります」という言葉よりも「やりました」というアウトプットの方に説得力を感じますし。

黒田:プロダクトに説得力を持たせるために工夫したことってありますか?

黒瀬:大前提として、戦略に沿ったプロダクトを作ることは重要ですね。そのうえで、プレゼンテーションまでに間に合わせたい機能やデザインがあれば優先順位を入れ替えて対応するということはやっていました。

資金調達後に採用活用をはじめても遅い

黒田:2回目の調達から半年経ちますが、想定通りの使い方ができていますか?VCからの注文は多いのでしょうか。

黒瀬:そうですね。想定通りに使えていると思います。ただ、調達を見越して採用の動き出しをもっと早めにしておけばよかったかなとは思います。VCとの兼ね合いでいうとやりにくさは感じていないですね。CEOが上手くやってくれているのかもしれませんが(笑)必要な金額とその理由を説明できれば問題ない、という感覚です。

黒田:定例ミーティングを開いてコミュニケーションしている感じですかね。

黒瀬:週に1回、そういった説明のミーティングを開いています。何にお金を使えば目標を達成できるのか、ということをエンジニアからも要望を上げて伝えるようにしています。

黒田:良いですね。大半を開発費に回しているとのことですが、開発以外の部分ではどういったお金の使い方をしているのでしょうか。

黒瀬:例えばオフィス移転ですね。結構初期費用がかかるのでまだ検討中ですが。それによってエンジニアが働きやすくなったり、風土を作っていけるのならやりたいですね。短期的にはプロダクトを作りきることが重要なので、そのために使えたはずのお金をオフィス移転にどこまで使うのか、というのは戦略的に考えていきたいところではあります。今くらいの人数であれば、組織風土や文化もオフィス環境に頼らずに作っていける規模感だと思いますし。

CTOとして信頼をベースにしたエンジニア文化と組織づくり。社員の給与はどう決定されるか

黒田:ちなみに、エンジニアの文化についてはCEOと話し合って決めているのでしょうか。

黒瀬:CEOは元々公認会計士なんですけど、エンジニアへの理解があるんですよね。エンジニアの考えを尊重してくれるので、CTOとして提案すればだいたいのことはOKしてくれます。会社の方向性に合っていれば、エンジニア組織についてはほとんど一任してくれています。

黒田:CEOとの信頼関係が重要そうですね。

黒瀬:BECでは、社員の給料や勤務時間を自分自身で決めてもらっています。自分で給料を決める経営者と同じ目線で考えて欲しいですし、決まった時間に来るよりもパフォーマンスを発揮できる時間に仕事をして欲しいですから。組織そのものが信頼をベースとしているので、CEOと私の関係に限らず、互いの意見を尊重する風土があると思います。また、不満が溜まっていそうであればとことんまで話し合うようにして、人の問題から逃げないと決めています。

黒田:今後はどういった風土にしていきたい、という考えはありますか?

黒瀬:私自身も含めて社員には「人生を謳歌して欲しい」と思っています。やりたいことに挑戦できる人を増やすことが会社のビジョンでもあり、社員にも実現して欲しい働き方です。BECの事業であるGozalを成功させて、その体験を元に新たなチャレンジを続けて欲しいですね。だからこそ、ルールで縛らずに自分の意志で決断して動けるような組織にしたい。キャッシュフローも社員にオープンして、自分で給料を決めるようにしているのはそういった理由があります。

黒田:イベントでも「エンジニアの採用には困っていない」とおっしゃっていましたが、この風土にも関係ありそうですね。

黒瀬:風土ももちろんですが、会社として実現したいことをCTOがしっかりと語れることが重要なのだと思います。「人手が足りない」「こういう機能を作りたい」ではなくて「こういう会社にしたい」「こういう世の中にしたい」ということを話せると、採用できる可能性が高まると感じています。大量採用には向かないですが、少人数であれば意識すべきポイントだと思いますよ。

自分の言葉で戦略を語れる人をCTOにするべき。

黒田:黒瀬さんのお話を伺っていると、創業者としての目線が強いように感じました。もし、創業メンバー以外の人がCTOとしてジョインする場合に気をつけることがあるとしたら何でしょうか。

黒瀬:資金調達の場面に限りませんが、戦略について自分の言葉で語れるくらいまで理解し納得している必要があると思います。もし納得出来ないようであれば、ジョインしたタイミングに関わらず意見するべきです。

黒田:エンジニアチームのマネジメントにも影響がありそうですね。

黒瀬:エンジニアに対して「上から言われたから」という伝え方をするのが一番良くない。モチベーションも下がりますし、エンジニアが離れていくでしょう。CTOは創業者と同じ目線で話ができないといけませんね。

黒田:企業がCTOを採用しようと思ったときには、戦略について自ら確認してきたり自身の意見をぶつけてくるかどうかは重要なチェックポイントかもしれませんね。

黒瀬:そうですね。CTOは戦略や資金調達にも積極的に関わるべき存在だと思います。

黒田:なるほど。少し唐突ですが、そう言った意味では、VC側に元CTOなどのエンジニア経験者がいたら、もっとコミュニケーションや交渉が円滑になったりするんでしょうか。

黒瀬:「人工知能」とか言っちゃったときに、裏のロジックについて追及されたりして「人工知能じゃないじゃん」みたいな形でごまかしにくくなる部分はあるかも知れません。バリュエーションの精度は高くなるかも。資金調達を受ける側のメリットとしては壁打ち相手をしてくれたり、技術顧問として入ってくれたりしたらありがたい。調達先の選択肢として優先度があがるかもしれません。

黒田:エンジニア採用や技術の底上げ、組織づくりのサポートになる可能性もありますね。

黒瀬:エンジニアの風土をしっかり作って根付かせることができているところは実は多くないので、そういったアドバイスをもらえるならVCにエンジニア経験者がいるのはメリットが多そうです。

黒田:エンジニアVCが増えてくれば、キャリアとしてのの幅も広がっていきそうですね。
本日はありがとうございました!

まとめ

過去3回資金調達を経験されたBECのCTO黒瀬氏に、採用や開発に注力している理由や、資金調達に関連する戦略に初期段階から参加しどのように使い道を決めたのかを伺いました。「なぜこの機能を作るのか」を決めて必要な工数や人員を逆算する、資金調達の戦略を決めるときにCTOが議論に参加することが重要ですね。

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