Speee 是澤氏CTOインタビュー 〜日本一のエンジニア組織を創るために〜
※本記事は2016年4月に公開された内容です。
先日、FLEXY関連イベントとして開催された、第1回「Ex-CTO meetup」。
「CTO/Ex-CTOとは何なのか?どう関わればいいのか?」をテーマにCTO経験者同士のディスカッションが行われた。
今回は、当日深掘りし切れなかった内容について、ご登壇頂いた株式会社Speeeの是澤氏をお招きし、個別に話を伺った。
目次
欲しいのは、素直であり、謙虚であり、「したたか」である人
黒田 悠介氏(以下、黒田):
先日は「Ex-CTO meetup」にご登壇いただきありがとうございました!そこでお聞きできなかったことをもっと掘り下げてお伺いできればと思います。
是澤 太志氏(以下、是澤):
よろしくお願いします。僕はCTOではないですが、エンジニアの組織的なところと採用面での責任者としての役割を担っています。特に最近の仕事は採用が中心なので、その辺りの話をさせていただこうと思います。立ち位置としても、採用責任者としての立場が強くなってきていますから。
Speeeはこれから更にテクノロジーの力を高めるために、RubyやRailsの能力を高めていかなきゃいけないフェーズです。クックパッドさんのような日本一のRuby使いの会社になるにはどうしたらいいのか、という目的から逆算してやっています。どういったレベルのエンジニアがどのくらいの規模でいれば日本一といえるのか、ということを考えています。
黒田:
ゴールから逆算するイメージで採用を考えているということですね。採用目標人数などありますか?
是澤:
数ではなくて質ですね。技術力の高いエンジニアである必要があります。どんなエンジニアを採用するかというゴールを決めて、戦略を考えて、戦術に落としこんでいきます。試行錯誤しながら進むのも大事ですが、Speeeという組織の風土に合わせて計画的にやっています。
黒田:
技術力の高さ、というのはどういったポイントでチェックしているんですか?
是澤:
社内の誰よりも優れている分野があることが条件ですね。この人は誰よりもサーバーの扱いに秀でている、とか。そういったポイントが1点でもあればOKです。採用フローにおいては、私は一次面接を担当してフィルタリングしています。そこでは技術力は最低限のチェックに留めて、それ以外の部分を重点的にチェックしています。技術力のチェックは二次面接、三次面接で別の面接官や役員が行っています。
黒田:
具体的にどういったチェックポイントがありますか?
是澤:
人に指摘されたときに受け入れられることが大切ですね。自分の考えがあるのは前提として、素直であり、謙虚であり、そして”したたか”であることを重視しています。Speeeのカルチャーとして「素直・謙虚・率直」というのがあるんですが、僕の持論としてエンジニアの場合は「素直・謙虚・したたか」だと思っています。
黒田:
「したたか」というのは珍しいポイントですね。
是澤:
指摘を受け入れた上で、技術を盗み、いつか超えてやるという意志があるのが良いです。そういう人が今のIT業界を引っ張っていると思いますよ。
黒田:
なるほど。採用でチェックするポイントを分担しているから、精度が上がりそうですね。
面接は「広報」でもある。無駄な面接などない。
黒田:
採用と育成はセットだと思うのですが、育成についてはどういった関わり方でしょうか。
是澤:
自立的に成長して欲しいので、必要以上に「育成」という姿勢をとってはいません。困ったら周りに聞ける人はたくさんいるので。今のSpeeeは技術のアッパーレベルを引き上げないといけない。そういう状況では育成ばかりに時間を使えないですし。
黒田:
現状は採用の重要性が高いと。採用の方針は経営陣とコミュニケーションして決められているんですよね。
是澤:
はい、週に1回は定例MTGを開いていますし、何かあれば都度Slack等でコミュニケーション取っています。エンジニア全体の採用責任者の役員と、井原さんと、僕と、人事というチームで密にコミュニケーションをとって進めています。採用方針は2年位前に半年くらいかけて話しました。そこで、レベルの高いエンジニアをどんどん採用できる体制を作ろうということに決めました。
黒田:
私も以前、採用に関わる仕事をしていて感じたのですが、Speeeさんの採用ブランドが高まっていると感じます。エンジニアの採用でも実感することがあるのではないでしょうか。
是澤:
確かに名前は知ってもらえてきていますが、まだまだ「Speeeって何をしている会社なのか分からない」と言われることはあります。どんなビジョンを持って何をしているのか、というのを伝えていかないといけませんね。特に、エンジニアはどのようにサービス・プロダクトに携わるのかということをしっかり伝えていかなければと思っています。
黒田:
現状ではメディア等で発信されているのでしょうか?
是澤:
いえ、対面で話さないと伝わらない部分もあるので、私が一次面接で話をするときに、ホワイトボードなども使ってしっかりと「Speeeにおけるエンジニアのあり方」を伝えるようにしています。
黒田:
一次面接の段階から、かなり力を入れているんですね。
是澤:
採用するにしてもしないにしても、無意味な面接って無いと思うんですよ。採用しなかったとしても広報活動のような意味合いもある。その場で不合格である旨を伝えたあとに、候補者のキャリア相談に乗ることもありますよ。面接の場をきっかけにその人が前に進むことができれば、価値があるはずです。
黒田:
確かに、将来その人がエンジニアになったときに「是澤さんにもらったアドバイスのおかげで成長できた」と思う人がいたら、また受けに来てくれるかもしれないですね。
是澤:
それもありますが、私自身の意志は「IT業界をもっと面白くしたい」というものなんです。プログラミングをしているエンジニアがもっと自由に楽しくサービスを作れる世界になってほしい。Speeeで採用できればそれもいいですし、採用されなかったとしても業界全体としてプラスになるようなアドバイスができたらそれで良いと思っています。とはいえ、結果は出さないといけないので、試行錯誤は続けていきます。
黒田:
今後はどういった打ち手が有効だと考えていますか?
是澤:
そこに銀の弾丸はないと思っていて、採用チームとしてやれることを地道にやっていく。人事とエンジニアと広報が連携していることが必要です。そのうえで、技術的な情報を発信したり、オープンソースに貢献したりすることが重要だと思っています。
もっとSpeeeのことを知ってもらう活動も必要ですね。どういうビジョンでどんな人が何をしているのかを広報活動を通じて伝えていきたいと思います。私もさらなる成長をするためにイベントに登壇したり、いろいろな企業のCTOや経営者とランチや飲み会などでディスカッションさせていただいたり学びを得る活動をしています。結果として一緒にイベントを開催できたり、困ったことがあれば互いに助け合える関係を作れたりしているので、Speeeの広報活動の一旦を担っているのかもしれません。
黒田:
対外のパイプ役もされている。それも是澤さんの使命である採用というにつなげるための活動というわけですね。
様々な立場の視点に立つためにも、「本を読む」。
黒田:
採用は対外的な活動が多いと思うのですが、対社内についてはどういった立ち位置でいらっしゃるのでしょうか。例えばチームビルディングなどいかがでしょう。
是澤:
分業が必要だと思っていて、チームの課題については現場に一任しています。私の使命は採用なので、そこに注力することが重要だと思っています。エンジニアの相談事は開発部顧問である井原さんにメンバーとのコミュニケーションをとってもらっています。問題解決のレベルを上げるには、社内で最もレベルの高い人に合わせた議論が必要だと思うからです。
黒田:
現場のメンバーとの関係性はどういった感じなのでしょうか。
是澤:
僕は結構こちらから話しかけるタイプで、壁を感じない関係を作っているつもりです。もともと20代のころはエッジの効いたヤンチャなエンジニアで、話しかけにくい人間だったんですが、マネジメントに失敗したことなどもあり、ドラッカーなどの本を読んだりしてインプットして試行錯誤した時期もあったんですよ。今後は高田純次やリリー・フランキーのような「おじさん的振る舞い」ができる人でありたいと思っています(笑)
黒田:
本を読もうと思ったきっかけはあるのでしょうか。
是澤:
20代の頃にある職場で、経営者サイドと話が全く噛み合わない経験をしたんです。加えて、部下のマネジメントもうまくできなかった。プロダクトも作れていない。要するに何もできないという経験をしたんです。その後、転籍した会社で「本を読め」というアドバイスを受けたんです。経営やマネジメント、マーケティングといった基礎知識を本から吸収するようになると、ある変化が起きました。本から得た先人の智慧をパターンとして知っておくことで、予測をして危機を回避したり、次の打ち手を考えるようになったんです。
黒田:
ちなみに、そういった知識を入れた後でプログラミングに対する考え方も変わりましたか?
是澤:
かなり視野が広がったと思います。技術を使うのはあくまで人なので、どれだけ素晴らしい技術を使ってもユーザーの使い勝手や管理者の運用を考えてプログラミングしないといけない。そこには思いやりというかホスピタリティが必要だと感じましたね。
黒田:
技術を手段として捉えるようになった、ということですね。そういえばイベントでも「ホスピタリティ」の大切さを話していましたね。
是澤:
はい。エンジニアだからといって技術に傾向してしまってユーザや仕事仲間の事を思いやれなくなってくるとプロダクトにも歪が生まれてくると思うんです。例えばテクノロジー寄りの視点が強いエンジニアがいたら、もっとユーザーや管理者のことを考えてシステムを考えるようにアドバイスしたりすることも、CTOのような人材には必要だと思います。
黒田:
「バランスが取れない」という点で、他にどのような場面がありますか?
是澤:
例えば経営者の立場と現場のエンジニアの立場ですね。両者を俯瞰して、客観的な立場でものを言える人が必要なんだと思うんですよね。現場を守ることもあれば、一方でダメ出しすることもあります。
黒田:
どちらかに肩入れするわけでもなく、中立的な立場でいることを意識しているんですね。
是澤:
そうですね。重要なのは組織の成長や結果を出すことであって、僕の立場ではない。結果を出すために、客観的に言うべきことを言うだけです。Speeeという会社は規模感的にはミドルベンチャーですが、それを社会に認められている状況ではありません。だから、まだまだ勝負にいかないといけません。現場がヘンに満足感を持ってしまっていたら「いやいや、まだまだだぞ」という言い方をすることもあります。でも、逆に焦りすぎていたら「まずは足元のことをちゃんとやろう」という言い方をすることもあります。
大切なのは、同じ目的に向けて走っていること。
黒田:
エンジニアに対する接し方も、バランスが大事なんですね。
是澤:
はい、それが僕がSpeeeにいる理由のひとつですね。目的意識を持って全体を見たときに感じたことを、率直に伝えるのが役割だと思っています。覚悟は要りますが、もっと高みを見たいんです。実際、Speeeはその高みを見られる組織だと思うので。
黒田:
全体観を持つコツなどありますか?
是澤:
経験値かもしれませんね。色々な経営者と組んだり失敗も色々してきましたから。CTO的なポジションを5年位やったり、立ち上げをしてきた経験が活きていると思います。また、本を読んで学ぶことも大事だと思います。足りない知識は書籍で取り入れて、実践していくことで、様々な視点を持つことができるようになります。また、周りの人にも恵まれていて、フラットに接していることでフィードバックやヒントをくれたりします。
黒田:
普段から話しかけたりしてそういった関係性を作るのも大事ですね。
是澤:
そうですね。それ以上に、同じ目的に向かっている『仲間』であることも大事です。相談に乗る時も、組織のことを考えるよりは目の前にいる一人にしっかりと向き合って話をするようにしています。その人がここにいる目的が、組織のビジョンと合致しているのかどうか。違うなら辞めたほうが良い。でも一方で、組織に対してその人ができることも一緒に考えたりします。
黒田:
組織と個人の間でニュートラルに相談に乗ってくれている感じがしますね。少し話題が変わるのですが、是澤さんが今後実現したいこともお聞きしたいと思います。
是澤:
僕が最近考えているのが、もっと自由にモノが作れる環境をエンジニアに提供したいと思っています。「ガレージ構想」と呼んでいるのですが、平日の夜や土日を使って人が集まって作りたいものを作る。本来インターネットってもっとやりたいことをワクワクしながらモノづくりをする事ができる世界だと思うので、組織に所属しながらやりたいことをやる、というスタイルが広がればいいなと思っています。ガレージで学んだことは、所属している企業の仕事にも活かせると思います。
黒田:
面白いですね。仕事と遊びの中間のような感じがします。色々なバックグラウンドや能力がある人が集まれば、いろんなことができそうです。
是澤:
思いを同じくする人が集まったらパワフルですね。エンジニアだけではなく、プロダクトに対する客観性のある人が入ると良いと思います。
黒田:
そうですね、ユーザーの視点や市場の視点を持っている人が加わると、さらにシナジーが生まれそうです。
是澤:
そういったチーミングも重要ですが、どちらかというと「組織に所属しながら」というのがキモだと思います。社外の活動で得たものを会社としてのプロダクトや組織づくりにフィードバックすることでさらに技術を伸ばしたり、グロースする能力を身につけたり多様なスキルの習得に繋がると思います。またいつか起業をしたいと考えているエンジニアの場合だと、組織に所属しながらそのダイナミズムを感じておけば、いざ自分が組織を作るときにも役に立ちます。
サービスのグロースに時間がかかるとしても、組織からの給料があれば資金ショートを気にせずに運用することもできますね。時代の先を行き過ぎたサービスでも、時代が追いつくまで待つことができれば急成長する可能性もありますし。また、最近はIT企業が投資することも増えているので、ガレージで作ったプロダクトに投資してくれる可能性もありますよね。そういったこともキャリア形成の手段としても考えられると。
黒田:
確かに。そう考えるとかなりメリットが大きいですね。組織に所属しながら、個人的にやりたいこともやれる。是非実現させたいですね。
(おわり)
第1回「Ex-CTO meetup」登壇者
是澤 太志氏
株式会社Speeeエンジニアマネジメント責任者 兼 エンジニア採用責任者
1979年生まれ。
2000年からIT業界に飛び込み、20代の頃は主にリードエンジニアとして、30代からは組織やプロジェクトのマネジメントを中心に活動。
6回の転職と10社での多種多様な事業開発を経験。起業や個人事業主として活動していた時期もあり技術顧問や技術アドバイザーなどの経験も積む。
シーエー・モバイルにて研究開発部署の立ち上げやALBERTで技術責任者、フリマ系ベンチャーでCTOを経験し、現在はSpeeeでWebマーケティング事業部の開発責任者を務めたのち新卒・中途エンジニア採用を中心にエンジニアの組織系の責任者として携わりながら、スタートアップの技術支援、採用支援を行なったりもしている。
インタビュアー
専門家:黒田 悠介氏
サーキュレーションの登録NOMAD
日本のキャリアの多様性を高めるために自分自身を実験台にしている文系フリーランス。ハットとメガネがトレードマーク。
ベンチャー社員×2→起業→キャリアカウンセラー→フリーランスというキャリア。
主な生業はインサイトハッカー(プロインタビュアー)とディスカッションパートナー(壁打ち相手)で、新規事業の立ち上げを支援しています。
個人では「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営。
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