【CTOインタビュー】ITのロマンを語る。クラウドソーシング先駆け企業におけるCTOの在り方とは――ランサーズ・横井聡さん

2008年の創業以来、いち早くクラウドソーシング事業を展開してきたランサーズ株式会社。現在、同社の提供するクラウドソーシングサービス「Lancers」は依頼数210万件、依頼総額2,100億円を誇る日本最大級のサイトへと成長しています。業界を牽引してきたランサーズがグロースした理由、どのような組織改革を行ってきたのか、そして同社におけるCTOのあるべき姿について、CTOの横井さんにお伺いしました。

CTOインタビュー
ランサーズ株式会社 CTO
横井 聡 氏
1985年生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、WebデザイナーとしてWebサイトの開発に携わった後、SIerにて証券会社のシステムのバックエンドを担当。その後フロントエンドエンジニアに転向し、Adobe AIRを中心にアプリ開発を行う。前職ではWebサービス事業部長を務め、新規Webサービスの企画/開発/運用の全てに携わる。2015年6月よりランサーズ株式会社にジョインし同年8月よりCTO兼開発部長。企画部長等も歴任し、2018年4月より開発執行役員を務める。デザイン、クライアントサイド、サーバサイド、サービス全体に携わってきた経験から、自身も多くの時間を開発に使いつつ、「コードにビジョンをのせる」を合言葉に、拡大するランサーズのエンジニアチームを牽引する。

社員2名のベンチャー企業に、唯一無二のビジョンがあった

ランサーズに参画されるまでの横井さんのキャリアを簡単に教えていただけますか?

横井 聡 氏 (以下、横井):大学時代はビジネスを学ぶ傍ら、劇団のポスターを製作するなどデザインも齧っていました。「さらにエンジニアリングも学べば、ビジネスにおけるすべてを自分一人でできるようになるのではないか?」と考え、Webデザイナーとしてベンチャー企業で働きはじめたのがIT業界に携わったきっかけです。 次に勤めたのがシアトルコンサルティング株式会社。証券のオンライントレードシステム開発などに参画し、新卒の早期の段階からサーバーサイドのチームリーダーを務めさせてもらえました。さらにフロントエンド専門の会社へ転職して、アプリ制作にも注力しました。デザイン、サーバーサイド、フロントエンドまでひととおりこなした形ですね。 その後、Edtechの新規事業立ち上げの話を受けて再びシアトルコンサルティングにジョイン。事業も順調に進み、仕事を定時で終えたらエンジニアメンバーたちとビールで乾杯しながら勉強会をする…という楽しい日々を送っていました。とはいえ、もっとチャレンジできるのではないかと思い、全く別の分野にチャレンジするために転職活動を開始しました。そのときエージェントから紹介されたのがランサーズだったんです。

ITのさまざまな分野をこなしプロジェクト成功経験も豊富だった横井さんが、ランサーズを選んだ理由はなんだったのでしょうか?

横井:自分たちのビジョンを信じ続けているところです。僕自身はチャキチャキ系なので、事業を立ち上げて数年当たらなければ途中で事業転換を考えてしまうと思いますが、ランサーズはそうではありません。2008年の起業から2012年まで社員はたったの2名で、売上もなかなか上がらなかった。そんな事業がうまく立ちいかない時代も、当時から掲げていた「時間と場所にとらわれない新しい働き方を作る」というビジョンを絶対に正しいと信じて継続してきた会社です。そこが数あるクラウドソーシングを手がける企業と違う部分ですし、一番惹かれました。
また、ビジョンそのものが、僕自身が抱えていた課題感に関係しているのも大きなポイントです。僕たちエンジニアとかだと割とリモートワークが普及してきたりもしますが、世の中全般だと、本当にやりたいことがあるのに、自分が住んでいる地域にその仕事がない、などの理由でその働き方を選べない方はたくさんいます。でも、住んでいる場所によって何かが制限されてしまうのはやっぱりおかしいですよね。
ランサーズの「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というビジョンは、そんな課題解決につながる「ここでしかできない」社会的大義でもあったんです。

社会情勢とのマッチングが、グロースの転換期となった

起業時は苦労もあったランサーズが現在の立ち位置までグロースした背景には、どんなストーリーがあったのでしょうか?

横井:弊社は今年でちょうど10周年ですが、創業時の2008年はそもそもオンラインのみで働くことはもちろん、オンラインのみでマッチングすることすら先進的な時代。ですから当然クライアントもワーカーも集まらない状況でした。
変化が起きたのは2011~2012年頃。東日本大震災が発生して、終身雇用前提の働き方がある日突然なくなることがある、という経験を多くの方が体験しました。「だとしたら、もっといろいろな働き方があるのではないか」という社会的注目が集まってきたんです。そのタイミングで正社員も徐々に増え、徐々に事業を拡大。社会ではリモートワークなどの単語も登場し、弊社もメディアで取り上げられるようになることで認知度が一気に向上しました。これが大きな転換期ですね。クラウドソーシング業界も競合他社が増えて、弊社も含めてどんどんグロースしていきました。さらに、今からちょうど1年半前程に働き方改革という名目で副業・兼業が推進されるようにもなりました。事業が時勢にハマっているという状況はグロースの大きな要因であり、今後のアドバンテージですね。

ランサーズCTO横井氏

経営陣の中でエンジニアリングに主軸を置くCTOは、ロマンを語るべき

今後もグロースを目指す中で、横井さんはCTOとしてどんな役割を担っているのでしょうか?

横井:CTOは経営陣の中で最も技術面に関心事を置く人物である、という意味合いではありますが、現在の日本では5つの役割を持つと考えています。

<CTOに求められる5つの要素>

・技術力
・事業につなげる力
・組織づくり
・採用活動
・データ活用とガバナンス

この中でいうと、僕は技術力と事業につなげる力の2軸で取り組んでいます。自分自身の強みでもありますね。
さらに経営目線として大切にしているのは「ゴールの視座をどこに設定するか」ということです。CTOはどうしてもエンジニアのマインド、つまり現場寄りになってしまうということがありますが、それは経営目線ではありません。経営のゴールから逆引きしたときに、自分や組織のあり方が正しいかどうかをフラットにジャッジできるように努めています。

コスト管理面については、横井さんはCTOとしてどのような考えをお持ちですか?

横井:目の前の案件のPLとしてシステム開発費用やサーバーの運用費用などは握っていますが、費用管理するだけなら部長サイドの人材でもできることです。CTOとしては、どちらかというと中長期的な、どこで技術投資するのか、どこで技術負債を返済するのかという判断が必要です。
とはいえ、技術投資は答えのない領域です。そこに会社として資金を投じる判断をしてもらうには、社長を含めた経営陣に対して、自社が向かっていく方向性を踏まえてきちんと筋道立てたストーリーを語れるかどうか、さらに言えば「ロマンを語れるか」どうかが重要だと思っています。もちろん労働集約型のモデルでコストを10%落とすといった手堅い展開を提案することもできますが、IT業界は一発逆転の夢を作れる面白みを持っていますし、レバレッジが利く分野です。「何千万というユーザーが利用するサービスを生み出そう」といった爆発的な世界観を見せられるようにするのが、エンジニアリングに軸足を置くCTOとしての経営に対する携わり方、コスト管理の考え方かなと思います。
そういったロマンを経営陣に伝えるために1on1で話す機会を設けますし、クォーターに1回は経営合宿を行って、大きなトピックで話し合ったりもしますね。

ランサーズCTO横井さん

「足りない部分を補い合う」チームワーク重視の組織づくりへ転換

2015年にランサーズにジョインしてから開発フローの再定義も行ったそうですが、どのような状況だったのでしょうか?

横井:2012年の時点で弊社はエンジニアが2名。2015年に15名ほどに増えて、僕もジョインしました。そして現在30名。会社は総勢160名規模です。
人数が少ないうちはお互いが案件を依頼し合って自走していく時代なのですが、組織全体が100名を超えると、顔がわからない人が増えてきて、マーケィング部、営業部という括りが生まれます。すると、どうしても営業やマーケティング側からエンジニアへの「依頼」という形で案件が進むことになってしまいます。
トップダウンは案件のスピードが速いですし、作れと言われたものを作るだけですから非常にわかりやすい。しかし、ITプロジェクトが要件定義の段階ですべてを決定できるものではないということは、ここ20年で証明されています。開発はもっと複雑でアートに近いものなんです。さらに、今後はどう変化に柔軟に対応していくかが大企業もベンチャーにも求められる時代になっていくことを考えると、現場からいかにクリエイティブな発想やアイデアが生まれてくるかが非常に重要になります。
そこで、開発フローの再定義や案件のオーダー方式を変更するなどの取り組みを行いました。具体的には、案件を会社の方針として強化したいPush型のオーダーと、エンジニアの手が空いたときに自律的に案件を選んで取り組めるPull型のオーダーに分類するなどですね。

新しい制度やフローを作りながら30名のエンジニアを束ねていくために、どのようなアプローチを行ったか具体的にお教えいただけますか?

横井:就任当初は自分の背中を見せるようなスタンスで仕事を進めていました。開発プロセスの定義や採用活動などを幅広くこなすのと同時に、自分自身が一番難しいプロジェクトに取り組んで結果を出し、そこに続いてもらうようなマネジメントの仕方です。エンジニアが15~20名の時代はそのアプローチでも問題ありませんでしたが、個人主義的側面が強かっただけに、30名規模になってくると制度がなかなか整わなかったり、僕自身がエンジニア全員を見ることができなくなってくるなど、弊害が出てきました。そこで、その頃開発部長として参画してくれた中嶋と話し合って、チームを重視する形に変えていくことになりました。それまで多かった個人仕事をやめて、メンバーが関わり合って考えながら進められるような組織づくり、システムづくりを進めていったんです。
このようなアプローチを通してわかったのは、CTOとして求められる5つの要素をすべて自分でこなそうとすると無理が出るということです。個人プレーではなく、自分が足りない部分を補っていくチームや組織をいかにして作るか、という方が求められるのだなと感じました。僕自身は制度を設計したり細やかに運用することには全く向いていないので、そこは中嶋に補ってもらうことで拡張できたと思います。自分で言うのは恥ずかしい部分もありますが、CTOとしての視座も上がりましたね。

チーム重視の形に変更していくということは、エンジニアに対する具体的な行動指針も決めていらっしゃるんでしょうか?

横井:エンジニアのクレドのような形で、「Lancers Engineer motto」略してLettoというものがあります。元クックパッドの井原さんという方に技術顧問として参画してもらい、アドバイスを受けながら作ったもので、当時の開発部のメンバーにヒアリングした「自分たちのエッセンス」を基にしています。
実際に運用、浸透ができているかどうかは正直まだまだ難しい部分もありますが、こういった指針ができたこと自体が、組織として一つ上のステージに上がれたと思った瞬間でした。

<Letto: Lancers Engineer moTTO>

[もっと] 昨日よりも良くなる 技術は常に進化する。常に学ぼう 例えば同じコードを書くときでも、昨日より良くなる方法を模索したい
明日の自分は今日よりも[もっと] エレガントに課題を解決できる

[もっと] 七転び八起きする 人は失敗したときに学び反省し、大きく成長する。成功したときにも振返り学びよろこび大きく成長しよう。
失敗を恐れて成長しないよりも、失敗して成長するほうがいい。先を見てなりたい自分になるべき チャレンジをしていきたい

[もっと] 周りを良くする チームは1人よりも大きい。チームのコミュニケーションやモチベーションに貢献することで、大きな結果が出せる
自分のポジティブが周りを奮い立たせる 自分のネガティブがチームを負のスパイラルに引き込む

[もっと] 世界(そと)で通用する力をつける 会社だけ、日本だけで閉じた戦いではなくなる 世界と向き合い、自分の価値を高めることが必要
ランサーズの標準ではなく、世界の標準に。デファクトスタンダードに従い、デファクトスタンダードを作る

[もっと] ユーザの課題を解決する 何を作るか、どういうUIかよりも、誰の、どんな課題を解決するかが最重要
ユーザが言ったことにただ答えるではなく、本質的な課題をちゃんと理解し、機能開発をするのではなく、価値を届けたい
リリースして終わりではなく、課題が解決されないのであれば改善し続けよう

大きなビジョンに向かうため、スケール感の異なる幅広い人材が必要

今後、ランサーズはどのような組織の在り方を目指すべきだとお考えですか?

横井:ランサーズの事業は、テーマ設定が非常に大きいんです。クラウドソーシングをやりたい、というわけではない。現在のビジョンで言えば「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」が最終目標になりますが、そこに向かうにしてもアプローチは千差万別です。

例えばクラウドソーシングという限定的な事業一つを取っても、現在141のカテゴリがあります。翻訳を重点的にやろうと思えばいくらでもアイデアが出てくる。クラウドソーシングを超えて常駐領域をやろうとしても同じことです。あるいはクラウドソーシングのマッチングのための周辺領域から作らなければだめだ、と言い出すと資金や保険周りを手がけることになります。
わかりやすい単一の商品がある会社であれば、そこにハマるエンジニアを集めて同一性の高い組織を作るのが効率的ですが、弊社はどんな方向にでも行けるので、同質的で一定のスケール感を持つ人だけが揃うと、大きなビジョンへ向かえなくなる危険があります。いろいろな人がいた方がいい組織です。ですから常日頃からも、幅広い人材を受け入れるようにしていますね。


この記事を書いた人
flexy編集部
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