技術顧問ではなく社外CTOとして組織にコミット~イノベーター・ジャパン 山岡広幸氏インタビュー~
※本記事は2019年6月に公開された内容です。
社外CTOの採用を考えてはいるものの、他社はどのように受け入れているのか気になる。そんな企業は多いのではないでしょうか。
今回は、「社外CTO」という概念が普及する以前の2014年から、社外CTOに会社のCTO業務を任せていた、株式会社イノベーター・ジャパン創業者の渡辺順也さんと、社外CTOの山岡広幸さんに、社外CTOを迎え入れるまでの経緯や実際の業務まで、様々なお話を伺います。
エンジニア・デザイナーの自由な働き方について考えるメディア、FLEXYでは、社外CTOと技術顧問を以下のように定義しています。
- 技術顧問……技術顧問は、組織における技術指導者を指します。技術的負債の解消、マネージメント、採用やエンジニアの技術面の向上のための教育、研修、エンジニア人事制度策定など、「会社において技術に付随するアドバイザリーのさまざまな役割」を担います。
- 社外CTO……社外CTOとは、エンジニアが非常勤のCTOとして経営メンバーに参画する際の呼称。エンジニア・IT人材が不足する中、経営レイヤーまで担える人材は大変貴重です。複数社における社外CTOとして活躍する方々もいます。
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目次
世界中に多拠点展開を目指すビジネスデザインカンパニー
—イノベーター・ジャパンのミッションや事業内容について教えて下さい。
渡辺:
弊社は「人の力を最大限に引き出すことで豊かな社会を実現する」をミッションとして掲げる、アジア発のビジネスデザインカンパニーです。
創業当初から、ITやデザインの力を駆使してクライアントのビジネスを支援させていただいています。簡単に説明すると、企業のデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサル、SI、オペレーションを一気通貫で担っており、これらが弊社の注力事業です。
他にも自社サービスの開発を行っており、広告が表示されないファイル転送サービス「tenpu」、Webデザイナー向けのHTMLプレビューツール「chirami」、ビットコインで割り勘ができるサービス「warikan」を展開しています。現在は売上に占める自社サービスの割合が事業の1割程度ではありますが、今後は半分程度まで比率を引き上げる予定です。
1978年、千葉県・柏市出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現・日立ソリューションズ)に就職。その後株式会社サイバーエージェントを経て、2010年に株式会社イノベーター・ジャパンを設立。専門分野はビジネスデザイン、プロジェクトマネジメント、システムアーキテクト。2014年、事業構想修士課程修了。現在、社会情報大学院大学の准教授を務め、アートとビジネスの融合について研究中。
—現在、複数拠点で運営されているそうですね。
渡辺:
はい。現在は、東京、福岡、デンマーク、柏の葉、湘南の5拠点で運営しています。
東京オフィスは本社機能と同時に意思決定と開発を行うクライアントワークの拠点です。福岡オフィスは、今後拡大するアジアのマーケットを見据えて2014年に設立。当初はオペレーション拠点として考えていましたが、予想外にエンジニアが多く集まったため、今ではテックセンターとして機能しています。対して、デンマークはデザインセンターといった立ち位置。現在は現地のデザイナーと協業するためのコワーキングスペースとして置いています。
柏の葉と湘南は、郊外にいる子育て中のママが働けるスペースを作ろうということで立ち上げ、現在はオペレーションの拠点として稼働しています。
—なぜ複数の拠点を運営されているのでしょうか?
渡辺:
将来的には世界中に拠点を置くことを目指しており、そのための準備運動として国内に複数拠点を展開しています。海外に拠点を置く場合、時差や物理的な距離など、越えるべきハードルが多いため、まずは物理的に距離があるだけの国内で実験しています。
社外CTOは経営者の相談役であり、組織の母親役でもある
—イノベーター・ジャパンが社外CTOを迎え入れた経緯を教えて下さい。
渡辺:
創業5年目の頃、開発組織を拡大させるためにもCTOが必要だなと思い始めました。とはいえ社内にエンジニアは2人だけ。どちらか1人を登用する余裕はなく、外部から人を探すことにしました。
山岡:
その頃、私は自分の会社を立ち上げたばかりでした。これからどんな仕事をはじめようかと考えていたところ、突然、中高の同級生だった渡辺から「近しい業界にいるみたいだし久々に会おう」と連絡が来たんです。いま困っていることなどを相談され、であれば一緒にやろうと、その再会をきっかけに社外CTOへの参画を決めました。
—再会したのはいつぶりですか?
山岡:
高校生ぶりぐらいですね。中高は一緒だったんですが、同じグループではなかったんです。一緒のクラスという位で、仲良い友達同士ではないですね。
渡辺:
ベースの話題は共有できているけど、違うグループに属していたので、ある意味ちょうどいい距離感を保てているんじゃないでしょうか。逆に一番意見を言いやすい距離感なのかもしれません。
1978年、東京・小岩生まれ。早稲田大学第一文学部文学科文芸専修を卒業後(卒業制作は詩集)、なぜかSI業界に就職。その後Web業界に転身、ウノウ、Zynga Japan、デジタルガレージなどを経て2014年に合同会社テンマドを設立。Webサービスの企画・開発・運営、エンジニアの採用、企業文化を作っていくことなどに携わってきました。現在はいろいろな会社で社外CTOや技術顧問などのアドバイザーを務めつつ、自社プロダクトの開発を行っています。
—参画の決め手は何だったのでしょうか?
山岡:
元同級生だったことは決め手の1つです。同級生とは言え、お互いに名前を認識している程度でしたが、遠慮せずにコミュニケーションを取れる関係性は大きいですね。社外CTOとはいえ、全くの初対面であれば、多少なりとも遠慮、たとえば「技術的には正しくても経営的に正しくない判断」など、躊躇してしまう局面が出てくるはず。ですので、気軽に意見を交わせる関係性であることは良かったです。
この会社に在籍していた2人のエンジニアに向上心があったことも大きな決め手でした。この2人となら開発組織を大きくしていけるだろうし、自分が手伝うことで2人もエンジニアとして成長できるだろうと思い、是非参画したいなと思いました。
—社外CTOの参画は、渡辺さんにとって何か良いことはありましたか?
渡辺:
山岡には日々助けられていて、私にとっては経営者の相談役に近いものがあります。例えば会社を大きくする上で必要となる、バックオフィスや制度面の整備。他社でもCTO経験がある山岡にはそういった面でも色々とアドバイスをもらっています。彼自身が経験して得た「こういうのが良かった」という客観的な意見は経営者にはとてもありがたいですね。
また、組織にとってはCTOでありながら、母親役でもあります。なにか困ったとき、社員たちは私じゃなくて山岡に相談するんです。重要なことは山岡から上がってくる。今は現場を知るためのパイプ役でもあります。
山岡:
今はバックオフィスのチームがないので、雑多な相談や悩みも聞いたりするんです。世間一般のCTOっぽくはないかもしれませんね。
なぜ社外?外部の人間をCTOとして採用するメリットは「外部の視点」
—経営者の相談役までやっているということで、ボードメンバー・社内CTOとしてフルコミットしてもらう選択肢もあったのでは?
渡辺:
これに関しては完全に先入観です。彼のような優秀な人材はフルコミットしてくれないだろうなと。とはいえ、現在はもう1人いるボードメンバーと山岡を含めた3人で、毎週ボードミーティングを行っていたりと、役員に近い立ち位置で色々と発言してもらっています。
山岡:
ある意味「社外CTOだからできること」があると思っているんです。社外の人間だからこそ、社内事情を外に置いて話ができるし、外部的な視点を持って話ができる。実はメリットも大きいんじゃないかというのが正直な気持ちです。
—山岡さんはご自身の会社を立ち上げた上で、なぜ社外CTOという働き方を選んだのでしょうか?
山岡:
もちろん、自分でバリバリと受託開発でお金を稼ぐという方法もありました。でもそれはエンジニアとしてできて当たり前。頼まれて何かを作るのは、技術さえあれば誰でもできます。
じゃあ自分にしかできないことってなんだろう?そう思った時に、これまで自分が経験してきたあらゆることを社会に対して還元したいなと思ったんです。単純に何かを開発するより、自分が得たノウハウや経験をいろんな会社さんにお伝えしたい。それを踏まえた上で、一緒に手を動かすこともできたらな、と思っていたところに、ちょうど渡辺から連絡があったんです。
—社外CTOとして働くメリットを教えて下さい。
山岡:
ひとつは深く事業に関われることです。受託開発の場合は、納品して終わりというケースも多いもの。社外CTOのようなお仕事は、長期に渡って携われるためやりがいがあります。また、収入面でも安定感があります。
私は常にイノベーター・ジャパンにいるというわけではなく、それ以外にも同時並行で他社の業務も見ています。その会社の事例や知見がイノベーター・ジャパンで活かせたり、逆にイノベーター・ジャパンの事例が他社に活かせたりと、ノウハウを相互に展開できるのは外部だからできることではないでしょうか。
社外CTOのゴールは組織から自分がいなくなること
—現在は社外CTOとしてどのような業務を担当されていますか?
山岡:
現在はエンジニア組織がしっかりしてきたので、エンジニアに対する技術面の、テクニカルな指示は減りました。その分、イベント運営のサポートや開発プロセスへの助言、社内の情報共有や発信を促すなど、開発チームを支える仕事が増えましたね。
今、自分が一番大切にしているのは、社員の皆が楽しく働けることやキャリアアップしていけること。そういった面でまだ何かできることがあれば、引き続きやっていきたいです。
—社外CTOを迎え入れたことでどんな変化がありましたか?
渡辺:
ひとつ挙げるとしたら、会社らしくなった点でしょうか。当時は私が先頭に立って、全社員を引っ張っていく形でしたが、今は上手く役割分担ができています。それも山岡が、あえて手を動かさず、メンバーの成長を考えて、裏方的にサポートしてくれているお陰です。
山岡:
もちろん自分がやった方が明らかに早いこともありますが、やはりそれだと現場が成長しません。あえて手は出さず、方向性だけ伝えて見守っています。イノベーター・ジャパンには力のあるメンバーが揃っているので、安心して任せられますよ。
—社外CTOに求められることは何でしょうか?
山岡:
最初は技術面での課題解決が求められます。私も今でこそサポート側に回りましたが、参画した当時はエンジニアと一緒に開発を行っていました。ただしこれはあくまで最初に求められることであり、最終的なゴールは組織から自分がいなくなることです。そのためにも、技術的な問題を現場のメンバーだけで解決できるようにする必要があるし、解決できるチーム作りをするためにエンジニアを採用する必要があります。
技術顧問と社外CTO、どちらのロールをやるのか自分で決める
—山岡さんの中で、社外CTOと技術顧問はどういった違いがあるのでしょうか?
山岡:
自分の中では明確に役割を分けています。技術顧問の場合はあくまで技術的なアドバイスがメイン。仮に技術顧問として業務委託を受けて、組織開発や人事評価にも関わることになった場合は、顧問の範囲を超えているから私の側から「外部CTOにして欲しい」と申し出ることもあります。なので深く関わる場合は社外CTOとしてお仕事を引き受けていますね。
一方で社外CTOという立場は、社員に「あの人は外部の人だから」と陰口を言われることもあります。当然、社外の人間ですから、限定的な関わり方になってしまうのは仕方ありません。ただCTOの肩書きのほうが会社を背負えるし、社内外からの見え方も変わるもの。物事を進めやすくなることも多いですし、社員の人達と話すときも説得力が出るので、どこまで関わるかに応じて、技術顧問と社外CTO、どちらのロールをやるのか選択すべきですね。
- エンジニアに対する技術面のアドバイス
- 経営陣に対しての客観的なアドバイス
- バックオフィスの整備
- 人事評価の実施と制度の整備
- 中立的な立場で社員からの相談に乗ること
- 社外への発信をリードすること
山岡さんが社外CTOとしてやっていることを技術顧問の立場と比較してみると
技術的なアドバイス | 社内での説得力 | 社外での見え方 | |
技術顧問 | 〇 | △ | △ |
社外CTO | 〇 | 〇 | 〇 |
経営陣へのアドバイス | バックオフィス/社内制度の整備 | 社員の相談に乗る | |
技術顧問 | 〇 | × | △ |
社外CTO | 〇 | 〇 | 〇 |
—最後に今後実現していきたいことについて教えて下さい。
渡辺:
ミッション、ビジョンを実現するためにも早くチーム作りを進めたいです。最低でも5人のボードメンバーを集めたいので、山岡を口説いたときのように、また自分からアタックしていきたいですね。
山岡:
これまで組織の母親役を担っていた部分がありましたが、今後は技術的なところに戻ってコミットしていきたいです。開発組織はできてきているので、今後はエンジニア個人の成長や会社としての技術的な取り組みに改めてフォーカスしつつ、引き続き会社をサポートしていきたいと考えています。
FLEXYメディア編集部記:
この度は、貴重なお話、有難うございました!FLEXYメディア内の山岡様の記事も是非、ご覧ください!
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