社外CTO(外部CTO)と技術顧問の違いとは?ニーズが高まる社外CTOの存在意義など紹介
※本記事は2019年4月に公開された内容です。
FLEXYはフレキシブルな働き方を推奨しています。今回は、まさしくフレキシブルに働くことを実現し、現在も5社の社外CTOや技術顧問などを担う長田さんに、社外CTOのあり方とAI技術にフォーカスしてお話をお伺いしました。
【CTOインタビュー】
長田恭治 氏:株式会社 AiR&D/代表取締役&CTO
2002年にM’ds United他7社を設立し、グループの代表取締役会長に就任。グループ会社を売却後、2008年にIL&D株式会社のCTOとなる。フルスタックエンジニアとしてNoSQLやWeb APIプラットフォームの先端開発を行うと同時に、複数社の社外CTOも務め、2016年にAiR&D株式会社の代表取締役CTOに就任。AIコンサルティング、汎用人工知能、分散ニューラルネットワーク、分散ストレージ・分散メモリーなどの先端開発を行う。現在は会社経営の傍ら、Web API OSSの創設者としての活動や、計6社の社外CTO、技術顧問、VPoEも兼任している。
目次
技術のエキスパートである技術顧問と、経営に携わる社外CTO
技術顧問と社外CTOの違いについて
ーーまず、長田さんの考える技術顧問と社外CTOの違いについて教えていただけますか?
技術顧問=社外CTOのように捉えている企業も多いと思いますが、技術顧問はいわゆる技術アドバイザーであり、わりとVPoEに近い存在だと考えています。
技術顧問からVPoEに就任するケースも多いです。取り組む仕事も、技術に特化した内容が比較的多いですね。具体的にはCTOの壁打ち相手や、エンジニアメンバーの課題解決、コードレビュー、設計から構築、あるいはそれらに対するアドバイス。さらにはプロジェクトマネージャーの育成やチームビルディングなども行います。領域としてはCTOが手を出しにくい範囲を担当するというイメージですが、技術顧問は、社外CTOほどの意思決定権が無いパターンが多い気がします。
一方で、社外CTOは「社外」というだけあって社内の精通に限らず、あらゆる知見を提供すべきというのが技術顧問との個人的な線引きで、市場全体の事業と技術、その両方に精通したスペシャリストという位置づけだと考えています。ですから実際に経営に参画し、企画運営にも携わります。
事業サイドと技術サイドのインターフェースとしての役割も担い、双方の距離感を近づけるというのも大切なファクターです。未来のCTOの育成を行う案件も少なくありません。そういった雇用・育成・評価などの、人事戦略にも携わる立ち位置なので、技術サイドとしての最高決定権を持つことが多い気がします。
しかし、これらの定義は企業が「社外CTO」というソリューションを認識しているかどうかにもよると思います。認識していない場合だと、技術顧問でも経営会議に参画する、というパターンはありますね。このあたりは企業ごとの定義の持ち方の違いでもあります。
社外CTOという概念がさらに確立されていけば、より良く効果が発揮されていくのではないでしょうか。
社外CTOの活用をおすすめしたい企業フェーズ
ーー社外CTOの活用をおすすめしたい企業フェーズについて教えてください。
工程の上流になるほど人的コストも高くなりますから、コスト的にCTOを無期雇用しにくい、稼働日数をできるだけ減らしたいスタートアップ企業での活用はおすすめですね。
あとは社内文化的にDX的を促進したい、広い視野で技術戦略を打ち出したいというフェーズにもおすすめです。
また、フェーズというよりはケースになりますが、異動や辞職によってCTOがいなくなってしまい、後任がいない場合の活用も多いです。技術サイドと事業サイドに溝があるなど、何か解決したい課題がある際のオーダーもあります。
知名度の高い社外CTOを招くとすれば、IPO戦略や広報戦略という狙いも立てられるでしょう。
全方位と距離を縮めることで、「社外CTO」の存在を受け入れてもらう
社外CTOとして参画を決める際の見極めポイント
ーー実際に長田さんが社外CTOとして参画を決める際の見極めポイントはどんなところでしょうか?
参画するかどうかの一つの判断基準となりえるのが、自分に意思決定権を持たせてもらえるかでしょうか。これがないと、上下の板挟みになってしまい、なかなか動きづらくなってしまいます。
また、ある程度社外CTOの経験を積むと、自分が推奨したい施策やビジョンが見えてきますので、それらにフィットするような会社や環境を選択することも一つですね。
外部CTOの仕事の進め方
ーーでは、ジョインされてからまずどのように仕事を進めるのかお教えください。
私は最初の半年間に一番力を入れます。ここを雑に進めてしまうと、社外CTOが入ってくるということに対して、組織がアレルギー反応を起こしてしまうからです。そうなると、修復に倍以上の時間がかかります。具体的には、「Win×5」になるように進めることを心がけています。
「Win」はそれぞれクライアント、社員、会社、株主、社会の5つの要素を指しています。この5つの領域の生産性を向上させることが「Win×5」ということです。
そのために、まずはCXOとの距離を縮めること。その次にテックリードやVPoE、エンジニアの方々。さらには、人事、総務、経理とのコネクションをつくっていきます。方法はいろいろありますが、やはり飲みに行くだとか、スイーツを差し入れたりといったコミュニケーションから入ることが多いですね。この順番で、できるだけ全方位に対して距離を縮めていく作業を行います。それから初めてエンジニアとの1on1に入ります。
1on1のヒアリングによって組織の状況把握ができたら、そこからビジョン、ミッション、バリューといった会社の方向性、あるいはOKRなどを見直して、必要があれば改善する。そして最後に施策を具体的に進めていきます。テクニカルな部分で力を発揮するのは最後というわけです。
わざわざこの手順を踏むのは、最初に述べたとおり技術者のアレルギー反応を回避するためです。きちんと段取りを踏んで準備を重ね、技術者に対して敬意を表し、打ち出す施策への説得力を高めてから、テクニカル方面の指針やレビュー体制を整えるというフェーズに移っていくことが重要と考えています。私のこれらの取り組みは、独自に体系化したベクトルマネージメントというソリューションに基づいています。
「AIは何でもできる」というイメージが生む現場とのギャップ
AIを扱う企業の特性や課題
ーー長田さんはAI領域で技術顧問に入ることも多いそうですが、AIを扱う企業の特性や課題はどんな部分にあるのでしょう?
AI領域でもっとも危険なのは、「IT領域と同じ感覚値を持ち出してAI領域の課題解決に取り組もうとする姿勢」です。
なぜなら、IT領域の場合は、すでに様々なソリューションが確立されており、要件を実現するためにどんな手段を選ぶのか、という構造になっています。一方でAI領域の場合は、そもそも解決手段がまだ存在していないことが多く、どんなソリューションになるのかを実証実験をする案件も非常に多くあるからです。
実際に、実証実験をしても求める結果が出ないことがあるのですが、本来のPoCというのは、これらのレポートもれっきとした成果物なのです。この認識がなく、動くものが成果物という視点「だけ」でPoCに取り組むのはとても危険だということです。ところクライアント企業の意思決定者の号令で、「イノベーションを起こそう」とAI領域の部署を作ると、たいがい動くものを出さなければならない流れになる。
このような状況下ですと、簡単に認識齟齬が生まれやすくなりますので、少なくとも週1回は進捗報告をして、認識齟齬を埋めなければならない。つまり、世の中にある「AIはなんでも自動化して便利にしてくれる」という概念のギャップを根底から訂正しなければならないのが、AI業界やAIコンサルタントが苦労している一番大きな部分なのです。
もう一つ、AI領域の特性としては、IT領域以上に研究が必要な分野でもありますので、IT領域以上に技術とビジネスとの間に距離間があることです。私はこれらの課題についても、先述しましたベクトルマネージメントという独自に体系化したソリューションで解決しています。
事業と技術、両者の素養を持つエンジニアの育成が今後の重要課題
IT人材の不足と今後の社外CTOの役割
ーー将来的にITが成長していく反面、IT人材は不足していきます。その中で社外CTOは今後どのような動きを見せることになるとお考えでしょうか。
シリコンバレーが市場の基準となってしまっている現在、スピード感やDXを含めた市場競争は加速する一方です。
日本の企業は既にそれに巻き込まれている、というのが冷静な判断でしょう。そんな状況の中で、人口減少はIT業界のみならず、日本の大きな問題になっていきます。そうなると、やはり各企業が明確に目的意識を持って生産性の向上を目指さなければならないフェーズに入ってくるだろうと考えています。その認識を、まずは日本の企業の人事担当者に広めていきたいという思いは私個人としてもありますね。
現状においてもIT人材の不足はわかりきっていることですから、社外CTOを含めた外部人材はかなり需要が高くなってくると思います。とはいえ、何をきっかけにして外部人材を活用したらいいのかわからないという企業も多いでしょう。その点は、たとえば「経営者の壁打ち相手や、相談できるアドバイザーがいない」という状況そのものが一つのきっかけになりうるので、一般にも認知を高めていきたいですね。
ただしここで歯止めになってしまう点として挙げておきたいのが、日本の風習として存在している「常駐」「フルコミット」という尺度で成り立っている人事管理制度です。
時間的拘束が人事管理の手法になってしまっている以上は、社外人材の採用が制限されてしまうことはもとより、生産性の向上も阻害されかねません。
逆に供給側に言及すると、特に日本においてはIT活用を重視する企業が多いにも関わらず、CTOという役割に対して明確なバリューが打ち出せていません。
さらには、事業と技術、両方の素養を持つエンジニアの絶対数が少ないので、増やしていくことが大きな課題です。私自身も、今後CTOクラスを増やし、育てていく取り組みをもっと行いたいと思っています。
あともう一つ、とても大事なことなのですが、社外CTOや技術顧問を始めて間もない方や目指されている方にお伝えしておきたいのが、我々が技術に強くて精通しているのは当たり前ですよね。技術力の高さや先進技術がベストだとした選択は必ずしも企業にとってベストではないということです。
企業にとって生産性が高いとされる社外CTOや技術顧問は、それぞれの企業の温度感にどれだけマッチした引き出しを出せるか、質はもちろんですが、引き出しの数も多いように思います。また、企業の状態は、1Qでもかなり変化しますので、その状態変化にあわせて施策や体制も変化させていく柔軟性と先見性も大事な素養といえると思います。
現在のIT人材課題とは?
ーーそのほかに、現在のIT人材課題はあるのでしょうか?
エンジニアのカテゴリーを明確に細分化すること、そしてそれをもっと世の中に認知してもらう必要があると感じています。なぜなら、すべての技術者をざっくりと「エンジニア」として一括りにして事業を進めてしまうことは、どの立場の方にとっても不毛な結果となってしまう可能性があるからです。
その一つの例として挙げられるのが、先述したように技術の移り変わりとその進化速度が近年さらに加速している市場競争の中において、高次元ツールエンジニアの需要が急激に増している状況です。例えばインフラ領域一つをとっても、オンプレエンジニアからクラウドエンジニア、さらにはNoOpsなどサーバーレス時代へと変化しています。
このように高次元層のツールを多数使うことへの適正を持つエンジニアの需要が高まっていますが、しかし課題によっては低次元層の技術を必要とする場合もあります。また、高次元層の技術を扱うほど、基礎的技術が身につきづらい環境を生みやすく、その結果、技術的応用や障害や不具合の切り分けがうまくできないなどの課題も生みやすくなってしまう場合があります。私はこれらを技術的ジレンマを呼んでいますが、これらを解決する一つの方法が、カテゴリーを細分化し、そして明確化していくことだと考えます。
採用、育成、評価する側はもちろんですが、当事者や経営層においてもこれらの認識は、今後さらに必要とされていくと考えています。実は、これらの課題についても、ベクトルマネージメントにより解決を進めています。
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企画/編集:FLEXY編集部