元ITエンジニアの弁護士が語る、副業エンジニアが身につけるべき「法務」の知識とは

過去にITエンジニアとして働いていた弁護士の河瀬季(かわせとき)です。普段はベンチャー企業の法律問題などを扱っており、IT分野で活躍するお客さまのお悩みに日々向き合っています。

ところで最近、私の周りでも副業をはじめるエンジニアの方が増えてきました。もちろん社外に活動の幅を広げるのは良いことですが、法務知識がないまま副業をすると、思わぬトラブルに見舞われる可能性も…。

今回は、これから副業をはじめる方やはじめたばかりの方に向けて、契約や著作権など最初に知っておくべき法務知識をご紹介します。正しく・楽しく副業をするためにも知っておいて損はない内容なので、良ければ最後までご覧ください。

副業をしたらクビ? 最初にチェックしておきたい「副業禁止規定」

早速ですが、あなたにある企業から副業の依頼が舞い込んできたとします。今後のキャリアや現在の収入を考えると、一足飛びに引き受けてしまいたい案件。ですが契約前にいくつか注意しておきたいポイントがあります。

まずは、本業の会社に「副業禁止規定」があるかを確認しましょう。入社時にあなたがこの規定に同意していると、副業を引き受けた場合、本業の会社から懲戒処分(重大な場合には解雇ということも。)を受けてしまいます。副業禁止規定への同意があるかどうか、規定がない場合でも会社への申請が必要かどうか。まずはしっかりとチェックしておきましょう。

コラム:社会で副業が容認される風潮になりつつありますが、過去の法律や規範、一般的な会社のルールなどと照らし合わせると、不整合が起きるケースも増えてきました。まだ判例は少ないながらも、副業を禁止している会社と、副業を引き受けた従業員との間で解雇処分が有効か・無効かを巡って裁判で争われたケースもあります。例えば以下のようなケースが有名です。

1.日通名古屋製鉄作業事件(名古屋地判平成3年7月22労判608号59頁)
2.ジャムコ立川工場事件(東京地裁八王子支部判平成17年3月16日労判893号65頁)
3.平仙レース事件(浦和地判昭和40年12月16日労民16巻6号)

「1」では、会社に対する誠実な労務提供に影響をきたすおそれが高いとして、解雇を有効
「2」では、休業中に本格的に起業していたという実態を有していたことから、解雇を有効
「3」では、総合的に判断された結果、会社への背信性が低いものとして、解雇を無効

以下のPDFに詳しい内容が載っています。興味のある方は是非ご覧になってください。
「懲戒処分と企業の留意点(3)」(東京経協 実務シリーズ No 2011-1-003)
また、厚生労働省は「モデル就業規則」(平成31年3月)の第14章第68条で副業に関する規定を示しています。併せて確認してみてください。

契約時に必要な知識を備えておかないと、あなたの今後のキャリアに暗い影を落としかねません。「副業禁止規定」は必ずチェックしましょう。

副業では生身で社会と接触する。だからこそ知っておきたい最低限の副業先と結ぶ契約書のチェックポイント

では仮に「副業禁止規定」がなく、副業についてOKが出ていたとします。しかしすぐに仕事をするのも注意が必要です。なぜなら副業ではあなた個人が直接、依頼主である企業と契約をします。個人が契約するということは、会社に守られていないということ。一方、会社には法務や経理などのバックオフィス機能があり、日常業務では関わりがないものの、縁の下の力持ちとして日々社員を守ってくれています。まさに空気のように。だからこそ会社員の方々は、自分の与えらた仕事に集中できるのです。

しかしながら個人で副業をする場合、そのような会社からの庇護がありません。いわば、生身で社会に接触しなければいけないというわけです。ですから副業をするのであれば、法務や経理周りのバックオフィスについては自分自身で知識を身につけ対策をする必要があります。

とはいえ直ぐに全てを理解することは不可能です。ステップバイステップで成長していく以外はありません。企業がそうであるように、成功や失敗を繰り返し、覚えていくしかないのです。

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副業をする前に理解すべき、業務委託契約と雇用契約の違い

業務委託契約はプロフェッショナル契約。高額報酬を期待できる半面…

まず最初に皆さんにお伝えしたいことは、業務委託契約は労働者を守る側面が弱いということ。業務委託社員はあくまでプロフェッショナル。契約自由の原則に則っているため、原則として契約書の中身が全てです。本業の会社との間に結んでいる雇用契約とは違い、労働者を守るものではないということは頭に入れておくべきでしょう。

具体的には業務委託で契約期間の定めがあると、期間が終了すれば契約を打ち切られても文句は言えません。繰り返しになりますが、業務委託として契約を結ぶ場合、それはプロフェッショナルとして契約を結んでいるからです。だからと言って業務委託が雇用契約を結んでいる正社員に比べマイナスなことばかりかというと、そうではありません。あくまでメリット・デメリットの問題、同じ仕事内容であれば業務委託の方が高い報酬を期待できますし、正社員であれば雇用が守られています。

一方で、正社員には「出社時間は朝10時」「全社イベントには必ず参加」といった会社側のルールを守る必要もあります。ですから一概にどちらが良い悪いという話ではなく、自分にとって1番良いバランスを取ることが大事なのです。

副業先で過労になったら? 知っておきたい業務委託契約における労働者性

では業務委託の場合、労働者側の人権が全く守られないかと言うとそうではありません。仮に副業先で過労になり倒れてしまっても自己責任ではないのです。要はそこに労働者性があるかないか。業務委託契約でも労働者性が認められれば、契約書の内容に関わらず過労と認定されます。つまり雇用扱いになるのです。

ですから業務委託だからといって契約書が全てではなく、争いになった場合は雇用の実態があったかを遡って確認するのが一般的。実際にそのような裁判で過労が認められたケースは100件以上はあるので、珍しいことではありません。

納品後のバグは誰の責任に? おさえておきたい「瑕疵担保責任」と責任義務の考え方

知らないでは済まない「瑕疵担保責任」

副業をする際に知っておくべきことは他にもあります。皆さんは「瑕疵担保責任」という言葉をご存知でしょうか?瑕疵担保責任はざっくり言うと、納品物に不備があった場合に◯日以内であれば修正を行いましょう、納品したら終わりではなく自分が納品した成果物に責任を持ちましょう、という話です。

コラム:「瑕疵担保責任」は2020年4月から施行される改正民法では「契約不適合責任」という概念に転換されますので、注意してください。詳しい内容についてはこちらで解説していますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。システム開発の瑕疵担保責任と民法改正

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責任義務はどこまでつきまとう? ライブラリ選定とOSSのライセンス違反

一方で、仕事を請けた側はどこまで責任を持つ必要があるのか?といった話にもなります。例えば納品したソースコードにバグがあった場合、使用したライブラリに問題があった時は誰に責任があるのか?そういうケースでは、ライブラリの使用を指示した人に責任があります。ですから指示を受けて使用したのであれば問題ありませんし、自己判断で使用したのであれば請けた側に責任があります。

あとは期待値の話ですね。成果をどこまで期待されていたか。もし契約書内に検証までやる必要があると明記されていれば、どちらにしろ責任義務を果たさなかったとして仕事を請けた側に責任があります。要はケースバイケース。より具体的な話に関してはこちらの記事で解説しています。業務システム構築でのライブラリ使用に伴うリスクと対策

他にもOSSと依存関係にあるものがライセンス違反していた場合、これも委託側と委任側のどちらに責任があるかは両者の関係性によります。仕事内容が部分的なコーディングであれば委託側の責任ですし、開発をまるっと請け負った場合は委任側の責任。

これは一つのアドバイスですが、電話でクライアント先と仕様等についてすり合わせを行った際は、Slackなりメールなりで話した内容をログに残しましょう。あくまで文章として証拠を残しておくことが大事ですね。

コラム:Slackやメールは悪いことをすればいくらでも書き換えることができてしまいます。ですから裁判で偽造されたスクリーンショットを出されても、本物かニセモノかを見破るのは難しい。そういう面からも契約書は非常に優秀。契約書には、サインや印鑑があれば、わざわざサインしたことを証明しなくても良いというルールがあるんです。だから契約書は強い。そうは言っても、作り込まれていない契約書よりも日々のSlackでのやり取りの方がはるかに重要なので、日常的にログを残すように気をつけましょう。

報酬と損切り。流動的な成果条件に対応するために

次に成果条件についてお話ししたいと思います。成果条件は、どこまでやればお金を貰えるのかという話で、実際のところ「どこまで」の「どこ」が明確に定まっていないケースが多いんです。例えば仕様変更が発生した際には「思っていた工数と違った…」となることもしばしば。ですから最初の段階で、ゴールのすり合わせを行っておくのは重要です。

契約に関しては、人間関係などを考慮せずに言うと、

・想定の1.5倍の報酬を貰う
・3回に1回は損切りをする

この2つを頭に入れた上で副業すべきでしょう。というのも何か揉めた際、一個人が企業に交渉で勝つのはやはり難しいものです。後から交渉するのが難しいなら、せめてどこまでやるかは明確に決めておき、ある程度の工数が増えても問題がないよう報酬面でもバッファを設けておくべきです。

結局、掛けた工数と報酬には相関関係にありません。ですから1回だけの副業だと難しいのですが、副業を10回して、トータルで見たらバランスが取れている状況が望ましいですね。損切りもそのような観点から考えましょう。

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経費の範囲を契約書に明記。担当者と相談しよう

後はサーバ費やGitHubのリポジトリなど、経費周りも気を付けておきましょう。AWSなどクラウド系の費用は、少しでも使い方を間違えると高額請求の恐れがあります。そういった想定外の事柄が発生した際、自分に支払い義務があるのかどうか。その辺りは契約書に明記しておくべきです。なので「要相談」といった書き方だと少々危険。本質的には詳細に書くべき内容なので、せめて「◯万円までは支払う」などは記載してもらうよう、担当者に相談してみた方が良いですね。

契約形態を確認。その契約は請負?それとも準委任?

最近ではGitで開発することも多いので「サブブランチで◯◯が動いてました」など情報共有の部分で責任の所在がどちらにあるのかという話もあります。要件定義が曖昧な場合に誰が不利益を被るのかという問題ですね。大前提としてここまでお話してきた、誰に責任があるのかという問題は、契約内容が請負か準委任かで話が変わってきます。

準委任契約:「報酬を貰い、その報酬に見合った努力をしてベストを尽くす」という契約 請負契約 :「約束されたものを納品すれば報酬を貰うことが出来る」という契約

典型的な請負契約とは、例えば、オーダーメイドのスーツです。スーツの場合には、寸法などが決定されれば、当事者間で完成物のイメージが容易であり、完成されたものがオーダーに合致しているか否かの判断も容易です。それに対し、システム開発では、システムの全体像が容易にわかるような資料は通常存在せず、発注者にとっては全体像の把握が難しいものと言えます。また、開発されるシステムには、性質の異なる工程を経て徐々に具体化されていく、という特殊性があります。 そのため、システム開発のある工程、特に初期段階における契約の性質が、仕事の完成を約束する「請負契約」なのか、ベストを尽くす「準委任契約」なのか、区別が問題になることが多いものと言えます。

引用元:システム開発での請負契約と準委任契約の区別と違い

ただ請負か準委任かというのは、契約書に明記されていないことが多い。自分がどちらなのかは契約の時点である程度決まっているはずなのですが、いかんせん書面には記載されていない。もし自分で見極めるポイントがあるとすれば「検収」が発生しているかですね。検収作業があれば請負の可能性が高い感じがします。他にも定型業務であったり、明確な要件定義がされていたりすると、これらもまた請負寄りの可能性が高い。

裁判所も同じような部分を見て請負か準委任かを判断しています。

使い回しはNG? ソースコードの著作権は誰にあるのか

おさえておきたい「アイデア・表現二分論」

お金周りに比べ話題に上りにくいものの、著作権も考慮すべき重要なポイントです。よくある話が、仮にA社から委託されて開発したシステムがあったとして、別の企業B社からも以前作ったそのシステムと似たものを作るよう依頼された場合、以前のソースコードをどれくらい使い回して良いか。これはそのソースコードの著作権が委託側と自分のどちらにあるかで状況が変わります。委託側に著作権があれば使い回しはできませんし、自分にあれば問題ありません。

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著作権に関しては「アイデア・表現二分論」という考え方をおさえておくとよいでしょう。簡単に言うと、著作物を「アイデア」と「表現」に二分し、著作権で保護されるのは「表現」の部分だけということです。例えば、あるアプリのUI、UX部分は「表現」ではなく「アイデア」。ですから、実は真似しても大丈夫。どこかで見たことがあるようなUIを別のアプリで見かけることって結構ありますよね(笑)

「アイデア・表現二分論」を踏まえた上で、ソースコードに関して言うと、コピペ状態での使いまわしでない限りまず著作権で問題になるということはないでしょう。

帰着点はお金。工数に見合った金額を受け取るように心がけよう

もし著作権で問題が起きたとしても、結局はお金の問題になります。他の仕事でも同じソースコードを使う可能性があるなら、使い回すことを見越して著作権が入っていないディスカウントされた金額で受けるべきですし、もし著作権を渡すのであれば、それ相応の金額を頂くべきなんです。

あくまで工数に見合った金額を受け取りましょうという話なので、ソースコードを使い回しているにも関わらず、まるでゼロから開発しますと見せかけるのは企業側から見ると詐欺行為に近いものがあります。ですから「著作権は留保して本契約の過程で新たに作ったものは譲渡する」といった記述などはよく使いますね。御社専用に開発した部分の著作権は渡しますよという話です。

副業をするなら確定申告は必ず!確定申告は圧倒的にコスパがいい制度

副業をするのであれば確定申告はマストです。もちろん副業収入が年間20万円以下であれば不要ですが、エンジニアの方であれば20万円を超えてしまう方も多いのではないでしょうか。もし超えるのであればぜひ確定申告を。こればかりは、「忘れちゃった!」では済まされません。副業で数十万と稼いでいるからには、知らなかった、分からなかったという言い訳は厳しいでしょう。税務署から逃げるのは得策ではありません。

副業で稼いでいる方でも、毎年2月に週1回ほど税務署に行くコストを掛けることは決して難しいことではないはず。追徴課税のリスクを考えれば確定申告をした方が圧倒的にコスパが良いですね。

さいごに ーー想定外の出来事は起きるもの。少しずつでいいので法務知識を身につけよう

最後にお伝えしたいことは、副業には良くも悪くもまだリスクがあるということ。勘違いしていただきたくないのですが、私は決して副業を否定したい訳ではありません。会社員として一社だけにコミットするだけでは物足りないという感覚は分かりますし、より幅広いフィールドで勝負したい気持ちは、むしろ成長意欲に溢れていることの表れ。そのマインド自体は歓迎です。

ただし、個人としてクライアント企業と向き合うことは、会社員として組織内で仕事をするのとは全くの別物。「ある程度揉めても、そんな悪いようにはされないだろう」という期待を打ち砕かれることもないとは限りません。想定外の出来事が起きてしまったときに自分を守れるようにも、少しずつで構いません、ぜひ法務知識を身につけてみてはいかがでしょうか。

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河瀬季(かわせとき)@tokikawase
ITエンジニアの経験を持つ弁護士。大学入学直後よりITエンジニア、ITライターとして働く。ITベンチャーの企業法務等を担当したのち、モノリス法律事務所を設立。システム開発など、IT企業の日常的業務の中で生じる法律問題、著作権や特許などの知的財産権分野のほか、投資や小規模M&Aなどベンチャー企業において特徴的に発生する法律問題を得意とする。原案を担当した「デジタルタトゥー」が2019年度文化庁芸術祭で優秀賞を受賞。

この記事を書いた人
仁田坂 淳史
株式会社ZINEの編集者。技術評論社で『WEB+DB PRESS』の編集、mixiで「Find job! Startup」の創刊/編集を経験し株式会社ZINEを創業。テクノロジーの取材が専門分野

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