これからのIoTについて 〜IoTがもたらした社会的恩恵とは?IoT開発の苦しい部分をエンジニア目線で考察

2019年11月15日に開催されたFLEXY主催のCTOmeetupは、「これからのIoTについて」をテーマに、数々のIoT案件を手掛けてきた有識者の方々でディスカッションを行いました。

IoTによってもたらされた社会的恩恵や開発者のあるある苦労話、そして今後のIoT開発に必要な考え方について、ざっくばらんに繰り広げられた議論の様子をレポートします。

<パネラー>
●アスラテック株式会社 事業開発部 部長 今井 大介さん
●株式会社Luup 共同創業者 CTO 岡田 直道さん

<ファシリテーター>
●ワンフットシーバス 田中 正吾さん

IoTがもたらした社会的恩恵

唯一無二のインターフェイスでユーザーにリッチな体験を提供できる

田中:ではまず、IoTの実装が社会にもたらした恩恵やメリットについてディスカッションしていきたいと思います。僕自身は物理的なプロダクトを提供することでユーザーに影響を与えられることがIoTの楽しさだと思っています。その中でデータをどんどん収集できる点はメリットですね。たとえば、天気情報を拾おうと思ったら昔は百葉箱を利用しなければいかなかったものが、今は自分の現在地レベルまで細分化された情報を収集することができます。 みなさんはいかがでしょうか?

岡田:田中さんがおっしゃるように、現実世界の事象と相互にフィードバックされるものなので自分自身もリアルな実感を持って楽しく使える点は大きいです。 また、ソフトウェアやアプリといったプロダクトは操作方法を覚えないといけなかったりするのですが、それに比べるとボタンやスイッチを搭載できる分直感的な操作性を追求できるのもメリットですね。現実世界でリッチな体験ができることには価値があると思います。特に弊社の場合は電動のマイクロモビリティを作っているので、自治体や各省の方々にシステムやデータがどうといったことを説明するよりも、「まずは乗ってみてください」と言えばそれで製品の良さがわかります。

田中:スマホアプリだと全部説明しないといけませんからね。

岡田:ユーザーに対するインターフェイスで唯一無二の良さを出せるのは強いです。

田中 正吾さん ファシリテーター 田中 正吾さん
2004年よりフリーランス / ワンフットシーバス。以後、FLASH制作を中心にインタラクティブコンテンツを主に行い現在に至る。最近ではWEBフロントエンドをベースにしながらも、情報とインターフェースが合わさるアプローチという視点でIoTやMixed Realityといった技術も取り入れながら活動しています。ウォンバットが好き。 2018-2019 Microsoft MVP ( Windows Development ) 2018-2019 IBM Champion

集約される膨大なデータが社会に新たなバリューを創出する

今井:アプリの説明が大変なのと同じように、インターネットそのものも一般の方に便利さを理解してもらうまでにはかなり時間がかかりましたよね。2000年代に入っていわゆるガラケーが普及しサービスが拡充したころからようやくインターネットが生活を便利にしてくれるという認識になってきたと思います。でもそんな実感が持てた2000年代に、例えば島根県なんかに行ってみると路線情報を調べる必要がないんですよ。電車の本数が少ないし時刻は頭に入っているし、行く場所も決まっているからです。ガラケーが役に立っていなかったんです。 それが今は多くの方が生活の中で常にインターネットにアクセスしたデバイスを持つようになっています。日本中のスマホからあらゆるデータが集約された結果として生まれたのが今の便利なGoogleのサービスですから、今後もデバイスによって生活が豊かになる可能性は高くなっていくと思います。 また、僕はドローンの仕事をしていますが、ドローンが普及するにつれて新たに地図上で「空中」のレイヤー情報が必要になってきています。風力などが該当しますね。ほかには道路の混雑情報などもしかりですが、今後ITのデバイスが増えれば増えるだけ地図上に新しいレイヤーが増えていき、そこに新たなバリューも生まれるはずです。

田中:集まるデータそのものも扱うのも楽しいですよね。僕はフロントエンドエンジニアですが、以前は天気のデータを使おうとするとAPIの事業者を探すという範囲に留まっていました。しかもきちんと使える天気APIは少なかったですし、アクセス制限が1日の中で少なかったりと不自由さも多かった。 それがセンサーによってリアルな天気のデータを拾えるようになったことで、APIを自作して他の様々なデータにつなげることも可能になりました。

岡田:弊社のプロダクトはデータ収集の頻度と範囲が非常に広いです。例えば週6回の買い物でLUUPを使う人がいれば、その人の移動データを全時系列で取ることができます。そのデータをどう活用するのかは夢が広がる部分です。

田中:車でもブレーキやアクセルの急加速急減速を読み取った運転評価ができますよね。そういったデータをどこかの会社が集めてからAPIで拡散しようとしたら、とんでもなく時間がかかります。自社でデータを持っておけば早いですし、なおかつそれをハンドリングして自分たちの価値向上につなげていくことが大切ですよね。社会から取得するデータにはヒントはたくさん落ちていますし。

岡田:間違いないです。

岡田 直道さん 岡田 直道さん
株式会社Luupを共同創業、CTO。東京大学大学院在学中より、スタートアップ等複数社にてWeb・モバイルを中心とした開発業務に従事。2018年に(現)株式会社Luupを共同創業、CTOとして複数の新規事業を手掛けた後、電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「LUUP」の立ち上げに参画。アプリケーション開発や社内システム構築に加え、ハードウェア・デバイス開発や調達業務を管掌。

IoT開発の苦しい部分

手に取れる「モノ」がプロダクトであるがゆえに、物理的な限界が生まれる

田中:社会的なメリットがある反面、IoTの開発には苦しい部分もありますよね。僕の個人的な話だと、機材を買おうとするとコストが高くついてしまう点に困っています。IoTに使えるRaspberry Piという機材そのものは5000円くらいなのですが、そこに接続するセンサーや電源など周辺のものを合わせると1万円くらいかかるんです。ソフトウェアならクラウド料金も加味しなければなりませんがハードウェアよりは軽く済みますよね。例えばソフトウェアを3つ作って数ヶ月放置してもクラウドサービスのコストが数千円かかる程度で済みますが、IoTはそうはいかないんです。物理に縛られるという点はIoTの大変さですね。

今井:僕のオフィスは秋葉原から徒歩5分の立地なのですが、これはデバイスが物理的に壊れたときにすぐ調達できるからです。それでもやはり即座に調達が必要になると大変なので、当然予備も用意します。みなさんもしてますよね?

田中:Raspberry Piは2つ必要なところを予備とか考えて今4つ持っていますよ(笑)

今井:大体倍の機材や部品を購入することになるじゃないですか。開発者の家に不要なモノが溜まり続けているので、僕が所属しているコミュニティでは年に2回ほどフリマを開催しています。機材を棚卸しして売るんです。物理的な機材の量のせいで家庭内トラブルも起きますよ(笑)。

田中:家族に「こんなの捨てて!」って言われるんですよね(笑)。一番悲しいのは一発で上手くいってしまうことかもしれません。モノが余りますから。それでも予備は買わなければならないジレンマがあります。これを企業の調達としてやろうとすると困りますよね。

岡田:余ってしょんぼり、では済みませんからね(笑)。うちは機材の調達に一定期間かかることもあるため、必要数の1.5~2倍程度は注文します。海外から海上輸送するので遅いんです。空輸を使えばもっと早いのですが、値段が跳ね上がってしまいます。 ちなみに、物理的なスペースの論争はオフィス内でも起きますね。デスクワークのメンバーのスペースが圧迫されてしまって、こんなに必要なのかと言われ続けていますよ。

今井:製品そのものも場所を取るじゃないですか。ITのサービスならユーザーが1万人になったところでアクセス負荷を解消するくらいで済みますが、モノが1万個売れるとなるとそれだけの物量を保管する倉庫が必要になるわけですから。

岡田:じゃあ倉庫は何ヶ月前から確保しておかなければいけないのかという話になるんですよね。うちは走行試験の場所を確保するのに苦労しています。物理的な制限から逆算すべき点が多いので、IoTの開発はプロジェクトとして非常に難易度が高い気がします。

今井:物理的な制約はそのままコストの問題にもなりますしね。倉庫以前にそもそもモノ自体を先に1万台作らなければいけないわけですから。原価1万円の製品なら、ユーザーに売り出す前に1億円飛んでいきます。

田中:クラウドファンディングでもデバイス系は人を募りすぎてしまってその数は作れないということがありますからね。100台生産するキャパシティしかないのに500人集まってしまって頓挫ということは珍しくありません。物理的な限界は細かに見ておかないと危ないです。

岡田 直道さん 今井 大介さん
アスラテック株式会社 事業開発部 部長。 慶應SFC卒業後、通信教育大手にてインターネット講座のプロジェクトに従事。2000年にモバイルコンテンツの会社を起業しCTOに就任。会社を売却した後、地方ISPの立ち上げに参加。2010年より再び東京にてインターネット関連の複数の新規事業の立ち上げおよび技術組織のマネジメントなどに従事し、2015年より現職。また2017年からはドローンスタートアップ特化型ファンド「Drone Fund」のアドバイザリーボードも務める。

IoTを手掛けるCTOはシングルタスクにならざるを得ないシーンが多い


田中:ソフトウェア開発におけるCTOはマルチタスクで仕事ができる感じがすると思うんですが、そこもハードウェアとは違いますよね。slackでチャットしながらタスクも同時進行して……ということがなかなかできません。

今井:フィールドを見ないといけませんしね。牧場にセンサーを設置しようとしたら牧場に行かなければいけませんし、その間は仕事ができません。

岡田:ソフトウェアなら知識があれば並列的に仕事をたくさんこなせるところが、ハードウェアだと知識を持っているからこそいろいろなところに連れて行かれてシングルタスクになりがちなんですよね。どう仕事を設計するのか、どんな人を身近に置いてどんなタスクを渡すのかという部分は難しいと思います。

今井:あとはIoTデバイスで取るべきデータが日常生活のことなら毎日テストできますが、農家の稲作だとしたら1年に1回しかテストできません。収穫の情報が必要なら季節まで限定されます。物理的な場所の拘束に加えて、時間的な拘束も大きいです。

失敗が許されないプロジェクトに挑戦しなければならないプレッシャー


田中:IoTでよくあるのが、初動でしくじれないケースですね。ソフトウェアなら失敗してもなんてことはないのですが、例えば東南アジアのエビの養殖でIoTを使うことになったとしたら、失敗するとエビが死んでしまうんですよ。かなりストレスも溜まりますね。

岡田:ワンパスで失敗が許されないプロジェクトは発生しやすいですね。そういうときはあらかじめバリエーションをたくさん用意しておいて、AがダメでもBのパターンを取れれば大丈夫とか、このタイミングで故障してもこの部品さえ変えればギリギリ2ヶ月は走れるといったトラブル対応を想定しておく必要があります。

田中:ソフトウェアは何か問題があればクラウドで履歴に飛べればそれでいいんですけど、IoTでセンサーが壊れたらと想定すると、大量に予備を持っておかなければという話になります。

岡田:現在はIoTにアジャイルは存在しないんですよね。失敗に対する付き合い方は特殊です。 ただ、細かい改善サイクルを回したりイニシャルコストを抑えたりするためのマネージドサービスは少しずつ登場しています。ソラコムさんなどは典型的ですよね。今後もハードウェアの物理的な調達をサポートするサービスが増えていったらいいなとは思います。

写真右側から
ワンフットシーバス 田中 正吾さん
株式会社Luupを共同創業、CTO 岡田 直道さん
アスラテック株式会社 事業開発部 部長 今井 大介さん

これからのIoTについて

IoTをどう優れたサービスとして打ち出すのかが問われる

田中:SIMを利用している場合はIoTが利用されている地域の情報も取るのですが、これは盗難に対応できるんですよね。府中で通信していたものが急に八王子に移動していたら盗難の恐れがあると察知できる。他社から機能が提供されるのを待つよりも、自分たちで想像力を働かせるべき部分があります。

今井:IoTはハードウェアの開発が楽しくてそちらに注力してしまいがちなので、ソフトウェアやサービス部分が後回しになってしまうんですよね。でも、今田中さんが言ったような「盗難に対応できる」という部分が実は一番ユーザーに響くのかもしれません。 最近の中国の新しいデバイス系を見ていると、サービスとしてかなり完成した形で提供されています。ドローンもハードウェアとしてではなく、きちんと実用として販売されているものばかりです。日本はハードウェアを生み出す時点で苦しみすぎていて、ソフトウェアまで開発しきれていない。これはなかなか厳しい状況なのかもしれません。サービスとしてオールパッケージ化したものをPoCしていかないとダメですよね。

田中:IoTの場合だと機能を全部乗せしたくなってしまうという問題もありますね。テレビのリモコンのようにすべての機能に対して物理的なボタンをつけてしまう。でも実際は一番使う機能は大きく、使わない機能は小さく、使うか怪しいものはいっそ消してしまうという取捨選択もサービスとして提供する上では大切だと思います。


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