アグリテックが行う農業セクターのソリューション│IoT、ビッグデータ、AIなど先端技術を用いて課題解決

※本記事は2018年6月に公開された内容です。

農業セクターで、IoT、ビッグデータ、AIなど先端技術を用いて課題解決を行うソリューションe-kakashiを提供するソフトバンクグループのPSソリューションズ株式会社。開発を担当している百津氏にお話を伺いました。

【プロフィール】

百津正樹氏

百津正樹氏/PSソリューションズ株式会社 CPS事業本部 e-kakashi事業推進部 部長
IBMへ新卒入社。大手自動車会社グループの担当ITアーキテクトとして、各種システムの提案・設計・開発・運用を実践。10歳からプログラミングを行うなどプライベートでもアプリ開発を行っており、すでに30年以上のIT経験をもつ。2013年に15年勤めたIBMを退社し海外で農業ベンチャーに挑戦。土地探し、開墾、農地の道路・水路・栽培フィールドの開発から栽培から販売までを責任者として実行。250ヘクタール(東京ディスニーランドの約5倍)の面積でキャッサバをメインとした農業生産&販売を3年間経験する。 現在はPSソリューションズ株式会社のe-kakashiチームで、これまでのIT+農業+製造業の経験を活かして、農業向けのサービス開発責任者を担当。

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現状の課題とアグリテックが注目されている理由

アグリテックとは? 現状の課題とアグリテックが注目されている理由について教えてください。

アグリテックは、アグリとテクノロジーを組み合わせたここ最近でてきた造語です。もともと農業も他の産業と同じく、テクノロジーとともに進化してきました。人類の歴史を振り返ると、大幅な人口増加が発生した時代には、その食を支えるための農業の技術革命が起きています。

今、世界の人口は増え続けており、今後100億人に到達する可能性もあります。また所得の増加によってより豊かな食べ物を求める人の比率も増加しています。これらのニーズに応えるためには農業は次の進化を必要とするタイミングに来ていると思われます。

アグリテックは農業の進化を進める一つのキーワードや旗印のようなものだと思っています。色々なプレーヤーが様々に新たなアグリテック実現を目指して農業の技術革新を進めている状況です。

日本では農業の問題は特に深刻です。2010年に約260万人と言われた農業生産人口は、2017年には180万人と、たった7年で80万人も減少しています。平均年齢も67歳と高く、このままでは10年後には半数以上が引退すると考えられます。

この状況を理解されている30〜50歳代の若い農業生産者の方は、積極的に農業のやり方を変えようとされています。アグリテックはそういう農業生産者の皆さんの助けになる大きな可能性を持っています。我々も未来の農業生産の役に立てるアグリテック、アグリサービスという視点で開発を進めています。日本の農業の成長のためにも、これから生み出されるアグリテックは重要な要素になると思います。

※農林水産省が行った2023年の調査では、2022年時点で122.6万人まで減少しています。(2023年追記)
参考:農業労働力に関する統計

世界的に見たアグリテックの状況

米国「Science」誌の世界初主催イベントにPSソリューションズ株式会社のe-kakashiチームが登壇されたとのことですが、世界的に見てアグリテックはどういう状況ですか?

日本での農業総生産額(耕作+畜産)は2010年の約8兆円にまで減少した後、徐々に増加し、現在約9兆円まで増えてきています。農産物が消費される加工、流通、小売、飲食業などを含めると約72兆円規模になります。日本ほど正確な推計情報ではありませんが、世界では耕作による農業産出額が約256兆円(2010年)から315兆(2016年)と5年で20%以上の増加しているというレポートもあるようです。

食の産業についての推計データは色々ありますが、飲食料市場という切り口では、世界の市場規模は2009年に340兆だったものが2020年には680兆と2倍になるとの予測もあり、「食」に関する産業は世界的に見て大きな成長産業です。世界ではすでにアグリビジネスやアグリテックへの投資もかなり前から盛り上がっていると聞いています。日本では最近ようやく農業分野への注目度が上がって来ておりこれから本格化していくと考えています。

日本でのアグリテックの市場規模

日本でのアグリテックの市場規模はどのくらいとお考えでいらっしゃいますか?

「アグリテック」や「AgriTech」はバズワードの一種で、どこまでが対象範囲なのかわかりませんが、これまで農業分野使われていなかった技術や手法、新たなテクノロージーの農業への応用は大きな可能性があると感じています。特に日本は農業労働人口の減少で農業の継続性への危機感や、一つ一つの農地が小さく分散して効率が悪いなど、農業のやり方自体に大きなイノベーションが必要とされる環境にあります。

AIや機械学習、IoTといったトレンドになってる技術ワードが注目されがちですが、もっとベーシックなIT技術も使い方によって農業の役に立つことが沢山あります。農業や食の産業が新しい技術や手法により更に産業として成長することができれば、生み出される価値は新しいやり方に置き換えられていくと思います。例えばネット販売によって小売りや流通が20年前とは景色を変えたように、農業もアグリテックの進化によって大きく変化する可能性があります。

アグリテックの市場規模がどの程度かはわかりませんが、今後の農業の多くが新たな技術や手法を取り込んでいくのは間違いないと思います。

PSソリューションズ株式会社

ロボティクスに関する概要、農業分野における人工知能やIoT

農業の世界でコンピューターで処理可能なデータがまだ多くはありません。最新のAIなどの技術を用いれば、何か良い結果が出ると思われがちですが、そもそものインプットデータがなければコンピューターは何も教えてくれません。どんなに賢い人でも、その分野での知識が無く、問いが不明確だと、良い答えを出せないのと同じです。

農業の生産現場で役に立つ知識・経験・やり方は、多くが現場で働く人の頭の中にあります。日本にはとても価値ある知識や経験を有する人が数多くいらっしゃいますが、その知識や経験が引き継がれずに引退されると、これらは失われてしまうことになります。この知識や経験を、どうやってデータ化し次の世代に伝えていくのかが大きな挑戦です。これらの知識や経験は日本農業の宝だと思っていますが、何もしなければどんどん失われていってしまう。これは日本の国にとっても大きな損失です。

アグリテックプレーヤーは、これらの知見を如何にデータ化し、次の世代に伝えられる状態にするか、また更に進んで、コンピューターでも判断可能とし、自動で対応できるようにするかにチャレンジしています。ただ最初にお話しした、コンピューターで処理可能なデータがまだ少ない、またデータ化することが中々難しいという、大きなハードルをどのように超えるのかが、農業における人工知能やIoTのチャレンジになっています。

PSソリューションズ株式会社での農業分野の人工知能やIoTの取り組み

PSソリューションズ株式会社で行われている農業分野における人工知能や IoTの取り組みについて教えてください。

e-kakashiは、まずほ場(田畑など作物を栽培する場所)にセンサーを設置し、そのデータを分析し価値ある情報に変えて農業生産者へアドバイスを行うところからスタートしました。

e-kakashiチームは数人の農学系博士も含むメンバーで構成させており、植物科学的な知見に基づいて意味のあるセンサーデータを取得し、それを分析することで生産現場における作物の出来の良し悪しに影響の大きな要因を特定することに成功しています。

これらの成果から、例えば「今のいちごの発育段階においては、ハウスの温度をあと2℃あげた方が良い」などの具体的なアドバイスなどが可能な状況になっています。特に新規就農者にとって、ベテランの農家の知識というのは、説明を聞いても何故そうなのか、すぐにわからないことが多いのです。しかし相互の環境差異をデータで見える化することで、ベテラン農家の方が、何のためにその作業をしているのか質問できるようになります。この作業と環境状態の因果関係を理解することで、ベテランの真似が早く出来るようになり、応用した工夫もできるようになっていきます。

更にe-kakashiはアドバイスするだけでなく、蓄積された知識や判断ロジックをベースにロボットにより作業を自動化するサービスを開発中です。ロボット自身がセンシングされた環境データと作業のタイミングを学習していくことで自動化できる部分を増やしていきます。農業の自動化を進めることは、農業人口減少への対策、および法人などが大規経営を進めるにあたっての鍵になると期待されており、今後特に重要な開発領域と位置付けています。

今後は、農業サイエンス女子が増えていく

農業にSience(科学)思考で取り組める人がもっと増えると、日本の農業進化は加速すると思っています。農業サイエンス女子や男子と言ったところでしょうか?

日本では農業は肉体労働のイメージが強いかもしれませんが、実際は生物学や科学、工学などの知識を必要とした総合科学産業だと考えています。ITの世界ではプログラムのコードを読めば、インプットしたデータに対してアウトプットがどのように出てくるかほぼ正確に予測できます。

農業ではこの予測がとても難しい。作物にとっては遺伝情報がプログラムのようなものですが、環境条件・肥料や農薬などのインプットに対してどのようなアプトプット=作物が出来るかは、経験による予測にたよることになります。最終的には実際に作ってみないとどうなるかはわかりません。

環境が一定の間は、過去の経験も役に立ちますが、土壌条件の異なる場所で栽培をする場合や昨今課題になっている気象変動には、これまでの経験では対応出来なくなる可能性が高いです。

日本でも篤農家や農業指導員の方は、日々の研究や科学的な知識も用いて成功率の高い栽培を行う技術を持っていらっしゃいます。このような方ももっと環境情報や農作業がデータを収集できて栽培された作物との因果関係を分析することができれば、より安定的で応用可能な農業技術を構築できる可能性が広がります。

農業の現場に農業サイエンス女子や男子のような科学的な知識や洞察力を持った人が増えると農業の進化や活性化に繋がるというのが私の持論です。e-kakashiも農業サイエンス女子や男子の方の強い味方になるようなサービス開発を進めていきますので、是非活用していただきたいと思います。

総務省の事業として行われている福岡県宗像市での導入事例

総務省による「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」の一環として、2017年10月よりJAむなかたで「あまおう」を生産する計24のほ場にe-kakashiが導入されました。ベテラン農家の栽培技術を若手に伝承することで、産地全体のイチゴの品質や収穫量を向上させ、更なるブランドの強化と売り上げの向上につなげることを目的としています。

また機器を設置している農家だけでなくJAむなかたの営農指導員もデータを閲覧でき、農業指導の機会増加につなげています。

PSソリューションズ

PS ソリューションズ株式会社の目指すITでの農業変革

IoTエンジニアが活躍できる職場

e-kakashiチームでは、ITエンジニアやIoTエンジニアの育成にも力を入れています。私自身が世界初の技術の採用や検証を行うプロジェクトを過去何度も経験しており、今でも新技術を積極的に取り込む姿勢は変わっていません。経験の豊富なIT開発者/技術者、IoTエンジニアは更に増強していきたいと考えています。

e-kakashiチームの特徴は、農学系博士や農業経験者、野菜ソムリエの資格を持った人など、同じチームに農業の科学や業務、ビジネスの課題やこれから必要な機能の知識を持った人が多くいることです。

ITやIoTの技術者も技術で閉じた世界でやっていると、新しい技術を使うことが目的になって、実際にはあまり使えないものを作ってしまい技術や技術者が評価されないことがよくあります。

e-kakashiチームではチームとコミュニケーションや農業の現場での経験を通じて、農業の課題を理解してもらった上で、技術を使ってどう解決するかを考えてもらうようにしています。

自身の技術力を社会の役に立てたいと考えている技術者の方にとっては、やりがいがある環境を作っています。

UI/UX設計の重要性について

これまでITの活用が進んでいない農業は、UI/UXで革新できる要素が沢山残っている分野だとも考えています。多様なユーザーや農業特有の仕事の仕方などを踏まえたユーザーインターフェースの発明にも取り組んでいます。農業の働き方をUI/UXデザインで変えてみたいという情熱を持ったデザイナーの方をお待ちしております。

チーム体制と新たなサービス

農学系博士と農業現場の視点で、データの可視化や判断ロジックを1週間程度で実現できる開発体制をもっており、スピーディにユーザーニーズに応えることが可能です。農業上の重要な要素となる判断ロジックを識別し、開発した仕組みの効果を我々のチーム内や協業させていただいている皆さんと評価まで出来る状態になっています。このことで開発や改善サイクルが速く回せることは、サービスを開発する上でも大きな強みです。

今後これらの一部を順次サービス化し提供していく計画も進めています。

今後は、様々な企業様と協業して成長を加速させる

e-kakashiチームはメンバーが農業、科学、テクノロジーを理解したメンバーで構成されています。

ただ、e-kakashiチームだけでは農業の業界に大きなインパクトを与えるような取り組みは不可能と考えています。

現在色々な得意領域を持った企業様との協業を進めています。

先日プレスリリースを発表した、養鶏IoT(スマート養鶏)ではCKD様とアライアンスを組み開発を行っています。CKD様は工場の制御機械などの開発/製造を得意とした企業です。我々の農業分野における知識や経験やe-kakashiとの連携によって、農業生産者にとって価値の高いサービスを短期間で開発出来ていると感じています。

今後も領域ごとに得意分野を持った様々な企業とのアライアンスを増やしていく計画です。

ITシステムも積極的にオープンに接続可能なテクノロジーや標準を採用し、接続しやすい環境を整えています。

ソフトバンクグループとして

ソフトバンクグループのPS ソリューションズ株式会社が、今後のアグリテックを担う意味

PSソリューションズはソフトバンクが持つ遺伝子「情報改革で人々を幸せに」を受け継いだ、事業をイチからつくる「Realize」を得意とする会社です。

農業は、人の生きるエネルギーを生み出すだけでなく、おいしいものを食べる喜びや、食卓を囲んだ人々を幸せでつなぐなど、様々な「幸せ」を生み出す産業でもあります。

ソフトバンクグループは様々な得意分野を持ち、グローバルに展開している企業グループですがこれらの強みもいかしながら、e-kakashiが日本/世界の農業の発展に貢献できるような取り組みを進めていきたいと考えています。

PSソリューションズekakashi

農業とITの架け橋として

農業はテクノロジーで革新することが沢山存在する、技術者やイノベーターにとってはワクワクの尽きないフロンティアだと思います。e-kakashiチームは農業、農科学、テクノロジーの知識とそれを繋ぐ仕組みを持つ強みをいかして、様々な企業とも連携しながら農業業界に新しい価値を提供出来るよう、成長していきたいと思います。

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