デザイン思考の捉え方と戦略への結びつけ<vol.2>デザイン戦略は組織戦略とほぼイコールで運用されるもの

【ご登壇者】 写真 上:フリーランス/デザイン顧問 井上 大器 氏 真ん中:株式会社mate CEO 関口 太一 氏 下:株式会社DeNA Games Tokyo 取締役 楠 薫太郎 氏

2021年3月19日に開催された【CREATORs meetup】 デザイン思考の捉え方と戦略への結びつけのイベントレポート後編です。

登壇者はデザイナーとしての経歴を持ちながら、デザイン顧問やCEO、デザイン組織の立ち上げなど多様な形で活躍されているお三方です。

「そもそもデザイン思考とは何なのか」という問いからはじまる前編はこちらからご覧ください。

デザイン思考の捉え方と戦略への結びつけ

フリーランス/デザイン顧問 井上 大器 氏(以下、井上):では次のテーマに進みたいと思います。

まず楠さんにお伺いしたいのですが、「デザイン戦略」は組んでいますか?

井上 大器
フリーランス/デザイン顧問 井上 大器 氏
デザイナー歴約20年。DTPデザイン、webデザイン、 広告クリエイティブ、映像、IA/UX設計、UIデザインまで一通りのデザイン制作の他、ITメガベンチャー企業でのマネージメント経験、スタートアップ企業でのプロダクト開発統括/マーケティング統括を経験。 デザインやプロダクト開発を軸とした「共創型のプロダクト開発と体験デザイン」を得意とする。 現在は、「デザインを経営資産にする」を目標に、ベンチャーやスタートアップ企業への開発組織の組成/採用、デザイン組織設計のコンサルテーションや体験設計の組織浸透、プロダクトマネージャーとして開発推進など、一部上場企業やスタートアップなど6社のアドバイザリーを行っている。

 

株式会社DeNA Games Tokyo 取締役 楠 薫太郎 氏(以下、楠):僕は今直接プロダクトに関わっていないという前提はありますが、「デザイン組織としての戦略」はしっかり作っています。

楠 薫太郎
株式会社DeNA Games Tokyo 取締役 楠 薫太郎 氏
紙媒体のデザイナーからキャリアをスタート。ディレクター/デザイナーとして、Webやアパレル、音楽、映像コンテンツなどさまざまなプロジェクトに参画し、フリーランスを経て、2012年、DeNA入社。複数のゲームの立ち上げ / 運営や子会社の設立、デザイン組織の組閣、マネジメントなどを経験し今に至る。また、株式会社ディー・エヌ・エーではゲーム事業本部ディベロップメント統括部 副統括部長 兼 デザイン部 副部長も務める。

楠:ただ、プロダクトやサービスに対して「デザインとして独立した戦略」は作ったことがありません。

言葉遊びのようになってしまいますが、プロダクトやサービスが立てている「戦略」に合わせて、デザインとしての「戦術」を考えるという整理の仕方をしています。

井上:そういう意味では、デザイン戦略は組織戦略そのものなんですよね。おっしゃる通りだと思います。関口さんはデザイン戦略で何か気を付けていることはありますか?

株式会社mate CEO 関口 太一 氏(以下、関口):僕の中にあまり複雑な戦略はありません。当社のチームは4~5名ですが、その中で重視しているのがコミュニケーションです。クライアントからはアウトプットを求められることが多く、そのために時間やコストがかかるという不安をできるだけ払拭するようなコミュニケーションを取ることをモットーにしています。

関口 太一
株式会社mate CEO 関口 太一 氏
武蔵野美術大学在学中に制作会BUDDHA.LLC 設立に参加、BUDDHA.inc退社後ICHI DESIGN PRODUCTSとして、グラフィック・インテリア・プロダクトデザインなど多岐に渡り活動。ソフトバンクグループや電通グループなど新規事業開発プロジェクトに参加し、コンセプトメイクからUI/UXデザインまで一気通貫して担当。2017年から2020年までfreecle Inc.のCCOとして参画し、現在は株式会社mateのCEOを務める。

関口:例えば、提供するUI/UXに対する説明を開発側にも経営層にも同じスタンスで行っています。これによって「チームが回っている」という実感を得られるので、単純なアウトプットの評価だけで終わらずに済むんです。まずは目の前のクライアントを満足させることが、その先にいるユーザーを満足させることにもつながるのだと思います。

デザイナーの能力そのものを評価する軸も重要

井上:「戦略」という言葉もUXなんかと同じく一人歩きしやすい概念で、特に定義が曖昧になることが多いのが採用領域です。社会的なペインでもあるのですが、「パワフルに動ける一人目のデザイナーが欲しい」といったときに、どうしても上手くいくケースと上手くいかないケースに分かれてしまうんです。ここでポイントになるのが、そもそも企業がデザイナーを評価できるのかどうかです。

「デザイナーをどう評価するのか」は今日のキーワードでもありますが、恐らくデザイン戦略の先にはデザイナーの評価があります。その評価部分では何が行われているのか、デザイナーはどう評価されるべきなのか。楠さんはどのようにお考えでしょうか。

楠:デザイナーの仕事やアウトプットが独立して絶対的に評価されることは無い、というのが皆さんの共通認識ですよね。実際、社内のデザイナーに対して「グラフィックがかっこいいから良い評価を与える」というのはなかなか難しく、あくまでプロダクトやサービスの中でデザインという機能がどれだけの価値を出せたのか、その貢献度を測るのが評価の基本です。

とはいえ、アウトプット自体を全く評価しないのかというと、そうとも言い切れません。デザイナーの能力である言語化や分解、再構築というプロセスを通して、アウトプットそのものを評価するのも忘れないようにしています。

つまり、「事業そのものへの貢献度」と、「デザイナーとしての高い能力を発揮しているか」という2軸で評価するのが大事です。アウトプットをきちんとロジカルに説明できるのは能力が高いデザイナーである、という価値観を作っていくということですね。

井上:すごくいいですね。そこまでデザインの評価を言語化できる取締役はなかなかいないと思うので、感動しています。おっしゃる通りで、言語化と分解、再構築をどこまで高い解像度でできるかは、デザイナーの能力そのものなんですよね。

日本の美術教育では表現力を重視しますが、本当はそこではない。デザイナーを「絵を作る人」にしてしまっているのは社会構造の問題ですし、デザイナーのビジネスへの参画を阻害し、情報の不均衡という壁を生み出していると思います。今楠さんがおっしゃったような評価軸があれば、そこを乗り越えられる可能性を感じますね。 本来はプロセスが評価されるべきであって、アウトプットの評価軸は世の中で思われているほど重要ではないんです。プロセスの評価こそが、「絵を作るデザイナー」を減らして、「言語化できるデザイナー」を増やすことに繋がるのかなと思いました。関口さんはいかがですか?

関口:僕はデザインをごりごり作るキャリアを歩んできたのですが、その中で言われて嬉しかった事柄に「ディテールへのこだわりへの評価」があります。それを今もデザイナーに対して最後のエッセンスとして提供していますね。「このロゴのここにこういうこだわりがあるの、いいよね」と一言伝えてあげるとデザイナーのテンションが上がりますし、それをクライアントに価値として提供もしています。

井上:自信をつけさせるコミュニケーションですね。

質疑応答

抽象的な能力は体験や言語化によって身に付いていく

質問者:抽象的な能力はどう鍛えたらいいのでしょうか?

井上:個人的には、抽象的な能力をいかに分解、再構築、言語化して抽象的なものでなくすか、という部分にパワーをかけるべきだと思いました。例えば「想像力」を分解してみると、「他者を思いやること」といった言葉が並ぶかもしれません。そこから積極的に相手のことを考えようと心がけてみるうちに、想像力が身に付くのではないでしょうか。

関口:僕としては、「とにかく体験すること」に尽きますね。興味があることに対しては愚直に突き進み、興味が無いことでも「興味がある」という方向に自分のマインドを変えて実際に体験することで、抽象的な能力が高まっていくと思います。

僕はコンセプトメイクをするとき、現在のジャンルとは別のジャンルからエッセンスが得られないかと考えることがあるのですが、そのためには両方のジャンルに触れる、体験することが重要です。今はどんなこともパソコンやスマホで知ることができますが、実物を見ることには価値がありますね。

最後にひとこと

いかに高解像度で言語化や分解、再構築ができるか問われる時代

井上:最後に「UXリサーチやデザインチームはKPIをどう持つべきなのか」という質問に答えながら、みなさんに締めの言葉をいただきたいと思います。関口さんからお願いします。

関口:UXは最初の抽象的なコンセプトや事業計画、そしてUIなどのアウトプットにつなげるためのものだと思っています。そこで難しいのが、アウトプットに至るまでの距離が決まっていないということなんですよね。例えば数回ワークショップを実施して製品を作ったら終わりなのかというと、そうではない。かと言って、ワークショップを10回やればいいものができるのかというと、そうとも限らない。

最終的に良いプロダクトができたかどうかという結果論になってしまいがちなので、ある程度チームやクライアント、上長が「良いプロダクトになった」という納得感がある状態になったタイミングで数字をコントロールしています。抽象的なKPIにしておいて、数字はそのときどきのタイミングで変える、という達成の仕方にするということです。 さて、今回話に出たような言語化ができるデザイナーは多くありません。しかし、目の前にある課題に対して言語化や分解、再構築にチャレンジすると、「デザイン思考」や「戦略」という難しいイメージの事柄を紐解いていけるのではと思います。これを締めの言葉とさせていただきます。

井上:ありがとうございます。では楠さんお願いします。

楠:すごく楽しかったのと、抽象的な話が多くて疲れました(笑)。抽象的な能力をどう鍛えるのかという質問について先ほどから考えていたのですが、関口さんがおっしゃっていた体験に加えて、振り返ることも大事だなと思いました。体験と振り返りをセットにして抽象的な能力に消化していくというのが、僕の中で出た結論です。

体験という意味では、本日皆さんとこうしてお話しさせていただけたのも良い体験でした。今日お話ししたような「ゲームのパッケージと中身のデザインの評価軸」の話は、実は僕の部下が言っていたことです。コミュニケーションがきちんと自分の栄養になっているとわかるような体験を僕自身もどんどん増やしていきたいなと思います。お二方とも、本日はありがとうございました。

井上:本日はお時間をいただきましてありがとうございました。質問のレベルが高く、正直回答するのも頑張って言語化をして答えたような感じだったので、完全にテーマに則った形になりました。

今回出た言語化と分解、再構築は非常に良い言葉だなと思っています。いかにこれらを高解像度でできるかが現在のデザイナーに求められている能力なのだと再確認できた時間になりました。

視聴者のみなさんも明日からを言語化と分解、再構築を胸に刻んでデザインに取り組んでみると、違う見え方ができるかもしれません。それが、ぜひ糧になることを願っています。


関連記事:

FLEXYとはABOUT FLEXY

『FLEXY』はエンジニア・デザイナー・CTO・技術顧問を中心に
週1~5日のさまざまな案件を紹介するサービスです