AWSは充実のサポートと、ソリューションアーキテクトの活用がコツ。元スタートアップCTOが教えるAWSの使い倒し方

クラウドサービス全盛期の昨今、日々アマゾン ウェブ サービス(AWS)のお世話になっているエンジニアも多いのではないでしょうか。一方で、提供サービスが多すぎて使いこなせない。自分たちに適したベストソリューションが分からない。悩めるエンジニアは多いはず。

エンジニアが直面する悩みを解決すべく、AWSには気軽に相談に乗ってもらえるソリューションアーキテクト(以下、SA)がいることをご存知でしょうか?

AWSは一件難しそうに見えても実は充実のサポートを使いこなすだけで実装の難易度が変わってきます。

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今回はAWSにインタビュー。スタートアップをメインに技術支援を行っている塚田 朗弘さんに、SAの活用方法についてお話を伺いました。悩めるエンジニア必読、AWSを使い倒すための方法もご紹介します。

スタートアップSAが語る「AWS」

ーAWSの特徴を教えてください。

まずは、豊富な品揃えによる柔軟性と拡張性の高さです。幅広いサービスを提供することで、様々なニーズに対応できるようになっています。AWSの各サービスを組み合わせることをビルディングブロックと言うのですが、これにより各社の異なるシステム要件への対応を可能にしています。

IMG 2038 アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 スタートアップソリューションアーキテクト 塚田 朗弘さん 金融系SI、Webサービス企業、スタートアップ企業などを経て、2015年から現職。スタートアップのお客様を中心にAWSの利用方法など技術支援を行う。

少し脱線するのですが、Amazon創業者のジェフ・ベゾスが書いたビジネスサイクルをご存知でしょうか?

Business model
引用:Amazon.co.jp 会社概要

このサイクルにある「Selection(品揃え)」が「Customer Experience(顧客体験)」につながるという考え方は、Amazon本体だけでなく、AWSにも通じており、AWSは、その幅広いラインナップによって、業種・サービス問わず、沢山のお客さまに利用していただいております。

あとは、もちろん安定性や実績、事例の多さ、そしてAWSスタートアップチームの手厚い支援やAWSサポートチームによる的確な技術サポートも大きな特徴です。

SAだけではない、AWSの支援体制
AWSテクニカルサポート 有償のサポートサービスであるAWSのテクニカルサポートには、以下の4つのプランが存在します。 ・ベーシック……無料 ・開発者……29ドル ・ビジネス……100ドル ・エンタープライズ……15,000ドル 料金は月額固定になっているわけではなく、下記の表のように使用量に準じて上回る場合があります。 Aws price AWS料金表(引用: AWS サポートのプランの料金) エンタープライズプラン(ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社クックパッド株式会社NECソリューションイノベータ株式会社などが利用しています)ともなると、15,000$ほどのサポート費用はいただきますが、その分、サポート体制は充実しています。 ビジネスプランでも十分に使えます。たとえば土日を問わず対応してくれるのは、スタートアップ的に大変嬉しいもの。もちろん、いずれのプランも日本語で対応してくれます。 電話・チャットなど幅広いサポート体制 AWSにはメール、もしくはでカスタマーフォーラムでしか質問できないようなイメージがないでしょうか。AWSのサポートでは、さまざまなサポート体制や問合せの手段が存在します。 それぞれのプランにおいて、Eメールでの対応時間や初回応答時間、緊急度に応じて異なります。 ・メール……メールにて質問を行えます。応答時間は平日9:00〜18:00です(開発者プラン)。24時間365日の対応を行ってくれるプランもあります(ビジネスプラン、エンタープライズプランのみ) ・電話……24時間365日可能です(ビジネスプラン、エンタープライズプランのみ) ・チャット……24時間365日可能です(ビジネスプラン、エンタープライズプランのみ)
AWS Loft Tokyo の Ask An Expert では「中の人」が対応してくれる
AWSサポートとは別に、AWSを利用するスタートアップとデベロッパーであれば、AWS Loft TokyoのAsk An Expert(以下、AAE)を利用することができます。 AAEで対応してくれるのは、実際に日頃様々なお客様の技術支援やトラブルシューティングのお手伝いをしている SA(ソリューションアーキテクト) や CSE(クラウドサポートエンジニア) です。AWSのプロとして対応してくれますので、AWSの構築に悩むエンジニアも安心できます。 IMG 2075

選択肢が絞られていた方が選びやすいという考え方もあるかもしれませんが、その考え方を変えてしまうのがSAなのです。エンジニアとしてやってみたいことや悩んでいることを、SAに気軽にご相談いただければ一緒に実現方法を考えますし、ご提案もします。そして無数にある選択肢はAWSの底力であり、その上で一緒に何をやりましょうかという話ができるんです。

ーSAの役割や意義を教えてください。

大きく二つあります。まず一つは、AWSを導入しているお客さまへの技術支援です。SAはAWSに関する知識をお伝えしたり製品を提案したりする人、と思われがちなのですが、それはあくまで支援の一つに過ぎません。

お客さまであるCTOや現場のエンジニアの方から直接お話を伺い、現在の課題感を深く理解した上で、AWSだけではなく、周辺の最新技術やスタートアップ固有の事情まで踏まえた上で幅広くアドバイスをする、それがAWSのSAです。

例えば、スタートアップのお客さまで、3ヶ月後に資金がショートしそうだと。そういった状況の方に、高いサーバーを売ってもまったくお客様のためにならないわけです。今このお客さまには何が一番必要なのか、コンテクストを踏まえた上で適切な提案をしています。

よくあるケースとして、エンジニアの方から「このサービスのこの機能について教えてください」といった製品についてスポットの質問をいただくことがあるんですが、もっと根本からお話を伺うと、 その質問とは違う範囲のソリューションが出てくることがあります。我々は、お客さまが本当に実現したいビジネス要件に対して一番適切なソリューションを提供する。単なる Q&A で終わらないことがSAの重要なミッションでもあり、この仕事の醍醐味でもあります。

もう一つは、お客さまに対する情報発信です。AWSは情報のアップデートが早いサービスなので、技術情報や資料を公開し、お客さまができるだけ迷わないように情報をちゃんと出すこともSAの重要な役目。正しいベストプラクティスを伝えていくのも我々の使命なのです。

具体的には、AWSの最新情報をお伝えする「AWS Black Belt Online Sminar」という無料のウェビナーを週2回更新しています。こちらは、ほぼ100%、AWS Japanのオリジナルコンテンツ。国内の方に向けてわかりやすい内容になることを意識しながら作っています。過去のアーカイブ映像はYouTubeでも視聴可能ですので興味がある方は是非ご覧ください。

ほかにも、日頃よくお客さまからご相談いただく内容の回答集を「AWS Start-up ゼミ」という形で年2回ほど発表しています。

また、AWS Loft Tokyo ではスタートアップとエンジニアの方々向けに各種イベントを開催していますので、気になるイベントがあれば、是非足を運んで頂きたいです。

そして何よりも、お客さまや、AWSに関わる全ての方々から信頼されるテクニカルパートナーであり続けることを常に目標に掲げています。

ースタートアップの人にオススメのサービスはありますか?

AWSには、AWS Activateというスタートアップ支援プログラムがあります。適用の条件はありますが、AWS Activateのベネフィットの一つに、AWSのサービスやテクニカルサポート(ビジネスプラン)に利用できるクレジットの提供があります。

AWSの強みの一つは間違いなくテクニカルサポートです。例えば、深夜対応をしていてAWSの使い方でハマっている、でも「明日の朝までに直さなければいけない」といった緊急の際には、是非テクニカルサポートを使ってみてください。ビジネスプラン以上であれば24時間365日対応していますので、心強い味方になるはずです。

無料で使えるAWS Loft Tokyo

ーAWSを利用中の方々にSAの視点から何かアドバイスはありますか?

皆さんには、AWSが提供している各種リソースをもっと活用していただきたいですね。スタートアップ支援プログラムやSAへの相談、AWS Loft Tokyo のイベント、もちろん私に聞くのも無料です。これらを使い倒せば様々なベネフィットが生まれるはずです。エンジニアの方には、使えるものは何でも使うくらいのマインドを持っていただけるとうれしいです。

同時に我々もSAだからできることをどんどん提供したいと思っています。例えば、海外展開の戦略などを考えているお客さまがいた場合、我々スタートアップチーム主導でシリコンバレーのスタートアップからCTOを招いて各企業さまにお繋ぎする、といったことをイベントの時に行っています。そういった形で皆さんを支援したいです。

IMG 2076 AWS Loft Tokyoの様子。1〜2名のエキスパートが常駐し、ユーザからの質問に答える

他にはユーザーコミュニティの活用をおすすめしています。現在、日本に「AWS Users Group – Japan(JAWS-UG)」(ジョーズ)と呼ばれるの自走型のコミュニティが70支部以上があります。コミュニティに参加することで、AWSのSAからだけでなく、ユーザーコミュニティの方々から情報を得ることも可能になります。AWSのSAは自分の経験に基づいた内容や、AWS周辺の最新技術情報についてはアドバイスができますが、「実際に使ってみてココにハマった」「最近うちらはこうしてる」というような事例は我々が申し上げられない場合もあります。ユーザーの皆さまで交流することで、よりディープな話ができ、知見も得られるかと思います。

IMG 2073 AWS Loft Tokyo に併設された、DIGITAL INNOVATION LAB。この中でいま行っているのはIoTや機械学習の技術支援だ

IMG 2079 AWS Loft Tokyo のマスコット、ユニコーン。AWS Loft Tokyo を利用するスタートアップは自社のステッカーを貼ることができる。「AWSを巣立ったスタートアップが一社でも多くユニコーン企業になってほしい」(同社担当)

IMG 2081 AWS Loft Tokyo はAWSユーザであれば誰でも無料で利用できる、スタートアップとデベロッパーのための施設

AWSユーザーからAWSの中の人へ

ー金融系SIer、大手WEB企業を経て前職ではスタートアップのCTOを務めていらっしゃいました。塚田さんがスタートアップに転職をしたきっかけは何だったのでしょうか?

理由は大きく二つあります。一つ目は、ただ単純にスタートアップで働きたかったからです。自分の中にある「まだ誰も成し遂げていない新しいことをやりたい!」という欲望と向き合った結果、次はスタートアップに行くのが面白そうに思えました。昔からバンド活動をやっており、一旗揚げて目立ちたい!という青臭い野望がありました。

もう一つは、テクニカルな理由です。前々職の大手WEB企業では、一見、ビジネス的に成功しているように見られることが多かった。しかし社内のエンジニアは技術的負債を抱えており、非常に苦しいエンジニアリングがなされている。

「ビジネス的に成功しているならそれで問題ない」

周囲からはそんな声もありました。しかし、私としては、「技術的にもっと筋が良ければ、よりビジネスも成長しているはず」という仮説を抱くようになりました。日を追うごとに仮説検証をしたい欲求は高まります。 そこで「立ち上げフェーズに携われるスタートアップに行きたい」と素直に思えたんです。スタートアップに転職したのは30歳の頃でした。

ー前職のスタートアップには、CTOとして転職されたんですか?

CTOではなく、一般社員として転職しました。入社当時、エンジニアは私を含めて2人だけ。業務を分担するまでもなく、モバイルアプリの開発からバックエンド、AWS、インフラ、本当に何でもやっていました。CTOに就任したのは入社から数ヶ月後のこと。

しかし、私がCTOだった2年間は、今思い出しても反省点が多いです。というのも、「スタートアップエコシステムとは?」「エクイティファイナンスのために●●というプロダクトの成長曲線を描く」など、スタートアップの経営に関する知見がないまま、CTOになってしまったからです。 CTOとは経営者の一員でもあり、プログラマやアーキテクトとしての役割など技術的課題のほか、ファイナンスやプロダクトマネジメント、時には人事といったさまざまな仕事があることを知りました。

スタートアップの方を支援する立場であるAWSのSAとなった今であれば、当時の自分に言いたいことが色々あります(笑)。SAとして多くのスタートアップと接するうちに、世の中のCEOやCTOの方がどんな目線で何を考えているか、皆さんに共通する課題は何なのかなど、色々なことが見えるようになってきました。当時は日々の業務に追われ、あまり外に目を向けようとしていませんでしたが、もっと先人や仲間を作って学ぶべきでした。世の中にはCTOのコミュニティもあれば、AWSもCTO Night & Day などのイベントを通じてコミュニティを支援してもいます。そういった機会を積極的に作り、活かしていくよう当時の自分に命令したいです。

ー塚田さんがスタートアップのCTOからAWSのSAになった理由は?

先程述べた転職理由ともつながるのですが、立ち上げフェーズから技術的に筋よく作ることで、ビジネスを爆発的に成長させたかった。そんな欲求があったので、実は当初、また別のスタートアップへの転職を考えていました。

そんな中、AWSのSAという職種を知り、一社のスタートアップのみにフルコミットするスタイルではないものの、代わりに何千社というシードのスタートアップに対して自分をインフルエンスできる仕事であることに気が付いたのです。これは多くのスタートアップ企業にお使いいただいているAWSのスタートアップSAだからこそできることだと思います。

ですので、SAとして、できるだけ多くのスタートアップの皆さんに技術的に影響を与えたいと思い、AWSに入社しました。

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SAを経験した今、考える “CTO” とは

ー SAの経験で「CTO」に対する考え方は変わった?

SAを経験して、各社のCTOの方々とたくさんのコミュニケーションを取るようになりました。SAになって学んだことは多いです。私はスタートアップの会社を担当しているので、CTOの皆さんとお話させていただく機会が年間数百回ほどあります。

AWSにはSAがいて、無料でアドバイスを受けることができること自体を知らない方もいます。我々は適切なAWSの設計・構築方法を始め、アプリケーションレイヤーまで考慮したアーキテクチャの考え方やパフォーマンスチューニング、またはFinTechなどで求められるセキュリティとコンプライアンスといった、多様なトピックに渡る全方位的なアドバイスをしています。さらに、ご希望があれば技術的なことだけでなく、社内のCTO経験者を集めて「CTOメンタリング」などをCTOの方に提供することもあります。

そんなSAの仕事を通じて、CTOのキャラクターや、会社から求められているミッションは各社で全く異なることを知りました。

また、AWSが運営しているイベント「CTO Night & Day」を通じて、CTOコミュニティの皆さんから得たことも多いです。CTO Night & Day はCTOの皆さんが互いに相談しあう場。そこで繰り広げられている「CTOの役割とは?」「経営者としてのCTOの責任とは?」といった議論を聞いたり、たまには自分もそこに混ざってディスカッションしたりする中で、自分の中のCTO像が確立されていきました。

ー現在の塚田さんが思い描くスタートアップのCTO像とは?

CTOは会社のフェーズによって求められる職能が異なります。例えばシード期は何でも屋である必要があったり、グロース期以降は採用ブランディングやチームメイキングに注力したり。さらに大きな組織になると、VPoEやVPoPを立てて責務を分担するなど、業務の細分化をするケースもあります。

ただ、一貫して求められる能力は、技術面から会社と経営をリードする力。CTOは、ビジョンを描き、技術面からメンバーをリードする立場です。この姿勢に関しては、どのフェーズでも変わらないのではないかと考えています。

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スタートアップでも有用な、Amazonカルチャー

ーサービスを円滑に提供する際に、プロダクト以外に大切にすべきことはありますか?

組織とカルチャーです。AWSには、AWSだけでなくAmazon全体に恐ろしいほど浸透したAmazonカルチャーがあります。たとえば、採用選考プロセスや人事評価、チームワーキングなど随所にAmazonカルチャーがあるわけですが、実はスタートアップでも役立つ話が多いんです。

CTOメンタリングやスタートアップのCEOからエンジニア採用の相談をされたときにAmazonカルチャーの話をさせていただくと、参考になることが多いとみなさんが言ってくださります。

ビジョンがないまま、なんとなく立ち上がってしまうスタートアップも多いなか、「文化ってどう作って、ビジョンってどうやって浸透させるんだろう」といった相談を受けることもあり、そういう話をさせていただく際にAmazonカルチャーはすごく役立っています。

ー具体的にはどのようなカルチャーがあるのでしょうか?

一例ですが、製品を作る時にメディア向けのFAQ質問集から書く「Working Backwards」というカルチャーがあります。製品を作る前に プレスリリース(どう見せたいか)から作り始めるんです。

仮にAWSの中に新しいサービスを作りたいと思ったら、

なぜそれが必要なのか お客さまは今どういった課題を持いるのか なぜこのサービスで解決しなければならないのか

まずはこれを明らかにし、そこから立ち上げる。 本当にプレスリリース風の文章で、「◯月✕日 AWS, Inc. は◯◯◯をリリースします」みたいに書くんです。これは「すべてはお客さまを起点に逆算して考える」を体現するAmazonならではのカルチャーではないでしょうか。

ほかにもAmazonには、全世界共通の「Leadership Principles」という14箇条があります。社員は「全員がリーダー」という考えのもと、この14箇条を行動指針として活動しているので、ほとんどの社員が「Leadership Principles」を暗記しています。 こういったものは、下手すると形骸化しがちだと思うんですけれども、Amazonでは日常に深く浸透しています。例えば、会議中に 「Dive Deep足りないね」といった風に、日々の業務のちょっとした場面で頻繁に使われています。

IMG 2025 AWS社内会議の様子。Amazonカルチャー、価値基準に沿った質問がなされていた

ー最後に、この記事を読む方々が頭を抱える、エンジニア採用についてSAの視点から何かアドバイスがあれば教えてください。

エンジニア採用に関しては、企業のエンジニアリングに対する採用ブランディングが非常に重要だと思います。 登壇などの機会も採用ブランディングを高める良い手段だと思います。私たちが主催するイベントで、最新技術を踏まえて登壇していただき、多くのエンジニアが集まる場に露出する機会を増やす、という形でお手伝いすることもできます。

AWS SummitやAWS Startup Day、AWS Startupブログなど、AWSのイベントや媒体で発表いただくのは採用にも良い影響があると思うので、この記事を見ている採用担当者の方は、ぜひ何かお声がけいただければと思います。

(了)

(企画・編集・撮影:株式会社ZINE)


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