【CTOインタビュー】激変する時代の「特化型エンジニア」だからこそ持てる可能性がある―レコチョク・稲荷幹夫氏

※本記事は2016年11月のイベントの内容をもとに同年公開された記事です。

2016年11月、株式会社サーキュレーションのエンジニア向けサービス「FLEXY」関連イベントとして、第3回「Ex-CTO meetup」が開催されました。当日は業界を牽引する4社のCTO/最高技術責任者が登壇し、エンジニアの育成・評価について、熱い議論が交わされました。

イベントでは語り尽くせなかったノウハウや取り組みについても伺うべく、本企画では登壇した4社のCTO/最高技術責任者へ個別インタビューを実施。最新の現場事例を語っていただきます。

シリーズ最後となる4回目は、株式会社レコチョク 執行役・CTOの稲荷幹夫さんにお話を伺いました。2001年の創業以来、国内の音楽配信サービスを牽引してきた同社は、業界の激変に向けてどのような戦略を描いているのでしょうか。そこには、エンジニアのキャリアを考える上での大きなヒントがありました。

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「技術を企画につなげる」エンジニアが必要になっていく

Q:レコチョクでは現在エンジニアの数が増え続けているとのことですが、今後に向けてどのような組織作りを行っているのでしょうか?

稲荷幹夫さん(以下、稲荷):全社員のうち、約3分の1が正社員のエンジニアです。現状ではこれが適正値だと思いますが、まだまだ足りないといえば足りない。というのは、レコチョクのエンジニアは将来的に、サービス企画などもやっていかなければいけない立場だからです。

現在のエンジニアは配信機能を作っているだけでいいのですが、5年後、10年後のユーザーの音楽体験向上を考えると、エンジニア自身がケイパビリティ向上を考え、新たな力を発揮していく必要があります。

5年後には、スマホ端末がどうなっているか分かりません。スーパー4Gや5Gの時代になれば、音だけではなく映像も考えなければならない。数年後の音楽シーンのことを考え、技術の進化を企画に反映させていくのは、ある意味ではエンジニアにしかできないことですからね。

Q:そうした意味では、レコチョクにとって必要なエンジニア像も変わってきているのでしょうか?

稲荷:エンジニアはこれまで、「サーバーに詳しい」「クラウドについての知見がある」など、配信システムについて詳しければいいという部分がありました。今後は、ユーザーにより良い音楽体験を提案していくための業界全体にまたがる知見や、よりユーザー目線でサービスを企画・開発できる視点が必要になると思います。

歌詞や曲名、アーティスト名などを検索するためのメタも大きくなっている。そうした意味ではニッチな方向に入っていくわけですが、それは同時に「ここでしか身に付かない」力を得られるということでもあります。

40代もずっとプログラミングをやっているイメージが持てるか?

Q:人材育成の面では、どのように工夫していますか?

稲荷:これまでは半年間の目標設定を作り、レビューするような、ごく一般的な方法でした。でも考えてみれば、エンジニアって3年前の自分と現在の自分を比べたら明らかに成長しているはずですよね。「単年の評価だと納得いかないこともあるのでは?」と思うようになったんです。そうしたズレが起きないよう、個人ごとにチューニングしながらレビューを行っています。

気を付けているのは、レコチョクのエンジニアが一般的なエンジニアのイメージとは違うこと。どんどん「特化型エンジニア」になっていく可能性が高いので、「あなたはどこに自分の成長を求めるか」を考えてもらっています。自分のやりたいことを考え、それが今の仕事のミッションとどうつながるかを考える。通常のMBO(目標管理)制度とは逆の発想かもしれませんね。

Q:「3年後のキャリアパス」をともに考える機会もあるのでしょうか。

稲荷:そうですね。自分で外の世界に向かって動ける人は、何もしなくても動きます。自分で足りないスキルに気付き、勝手に動くんです。そうでない人でも、レコチョクの3年後を自分で考え、技術習得に動いてもらう必要がある。なので、訓練を含めて、それを考える癖を付けてもらいたいと思っています。

3年後の世の中は、どうなっているか。今悩んでいることは、誰かが明日解決しているかもしれない。私たちはそんな現実の中に生きているので、まずは、3年後の世の中と自分のやりたいことを考える癖をつけて、その上で、さらに3年後以降の世界と自分を考えていかなければならないと感じますね。

20代、30代で一生懸命プログラミングをやっている人たちに「40代もプログラミングをやっているイメージがある?」と聞くと、皆「ない」と答えるんですよ。それならばどうする? 「マネジメントをやらなきゃいけない」と答える。

でも10年後の日本では、エンジニアはすべて外国人が担っているかもしれません。小学校でもプログラミング教育が始まり、どんどん若い優秀な人が出てくる。今のスキルに足りないものをどのように補い、40代以降をどう生きていくのかを真剣に考えることは、今の若い世代にとって絶対に大切ですよ。

「エンジニアから経営陣へのダメ出し」も、重要な組織作りの一環に

Q:目標管理の他にも、管理職への180度評価など独自の制度を導入していますね。

稲荷:「上からの評判はいいけど下からの評判が悪い」という人は、管理能力が欠如している可能性があります。管理職に対する上からの評価は自然と定まりますが、下からの評価もしっかりと吸い上げなければ実像は見えてきません。下手をすると「ミッションは達成するが、組織は崩壊する」という状況にもなりかねない。これは避けたいと思っています。

もちろん、経営陣にとっても同じことが言えます。なので、エンジニアから経営陣へダメ出ししてもらうという制度も動かしています。社長だけがその内容を見ているんですが、エンジニアが成長するための環境を作るため、100人を超える規模でも、一つひとつの課題に対応できるよう向き合っていますよ。

Q:他にも、エンジニアの声を集める取り組みはありますか?

稲荷:「新卒社員のメンター制度」もその一つです。1年目は仕事のやり方そのものに対する不安が大きいので、上司・部下の関係以外に個別に相談役を置いています。2年目からはそのメンターが外れ、私と1対5ぐらいで定期的に会話する場を設けています。

いわゆるCTO面談ですが、愚痴や相談を吐き出してもらったり、会社の方針に対する疑問を打ち明けてもらったりという場としても機能しているんですよ。「新しい技術を採用しないのか?」といったエンジニアらしい意見も出ます。組織全体で動かすには難しいこともありますが、エンジニアの新たな欲求に、基本的にはノーと言わず、可能な限り応えるようにしています。

Q:ある意味では、現メンバーの意識変革にもつながっている場なのかもしれませんね。

稲荷:そうした一面もあるかもしれませんが、特に意識変革を強いるつもりもないんです。全員がスタートアップやベンチャーの経営者みたいに振る舞う必要はない。サラリーマンエンジニアだっていいと思います。

「成果を出した分だけ自身の収入を増やしたい」という人も、「安定したベースアップの継続を望む」という人もいます。それで、どちらが優秀かというわけでもないですからね。ただ皆、共通して「CTOになりたい」と言うんですよ。

人をマネジメントする「説得業」ができるようになってほしい

Q:レコチョクの皆さんにとって、あるいは稲荷さんにとって、CTOとはどんな存在なのでしょうか?

稲荷:CTOは、「CEOができないこと」をやらなければいけないのだと思いますね。レコードメーカーとの交渉などは社長しかできませんが、その代わりに技術的なことは私がすべて引き受けています。でもメンバーの皆は、「技術ポリシーを作る立場」「誰にも怒られない立場」ぐらいに思っているのかもしれません(笑)。

CTOであれCEOであれ、人をマネジメントし動かしていく「説得業」であることは変わらないと思います。エンジニアも今後は、「人と人で動かしていくビジネスの現実」を考えていかなければいけませんね。

社会人になって3年目を過ぎれば技術研修はないし、6年目ぐらいでマネージャー研修を受ければ、その後「あなたは何をするの?」と問われることになる。私は現在50歳で、プログラマーしかやってこなかった50歳のおじさんが身の回りにいっぱいいますが、仕事にあぶれてしまっている人も多いですよ。仕事があるときに独立し、一時期は稼げていたが、45歳を超えたあたりから通用しなくなったんです。かつてCOBOLで食べていた人が一気に仕事を失っていったように、今後も同じような激変が起きるかもしれません。

Q:プレイヤーとしてだけではなく、マネージャーとしても通用するエンジニアを育成するために、稲荷さんはどのようなことを伝えていますか?

稲荷:一つは「スコープ・マネジメント」の考え方です。システムを作るときには、「自分の領域はここまで」と明確に決め、周囲に共有すること。これが定義できていないと、突発的な事象に振り回され、お金の問題にばかり頭を悩ませることになってしまいます。

もう一つは「スケジュール・マネジメント」ですね。どんな仕事でも、本当に管理すべきスケジュールラインは限られているものです。何を重視し、追いかけるべきかは決まっている。計画段階でそれを見極め、マネジメントに落とし込むことが大切です。

かくいう私自身も、3つ、4つとプロジェクトマネジメントを経験する中でそうしたことに気付いていきました。座学だけではなく、実際にプロジェクトの中で経験していってもらうしかないのかな、とも思います。だからこそ、そうした場を用意できるように動いていきたいですね。

Q:ありがとうございました。それでは最後に、CTOとしての今後の展望を教えてください。

稲荷:基本的に、音楽配信サービスというビジネスモデル自体はそろそろ枯れてくると思っています。レコチョクはもっともっと、新しいことにトライしなければならない。直近ではVRにかなり力を入れ、業界に話題をもたらすためにも頑張ってきましたが、今後はAIの活用にも力を入れていきたいと思っています。

また、内部リソースだけでなく、外部パートナーとの連携も強化していく必要があります。ビッグデータを活用すれば、音楽視聴ランキングのデータなどをBtoB領域でも新たに活用できるようかもしれない。「音楽×技術」をテーマに、新たなポジションを獲得できるよう活動していきたいと考えています。

取材・記事作成:多田 慎介

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