CTOが語る、ブロックチェーン(Blockchain)の現在-未来 〜

2017年12月18日、ブロックチェーンや仮想通貨をテーマとしたコミュニティイベント「CTO meetup blockchainの現在-未来」が開催されました。 前半はブロックチェーンを活用した事業の可能性について、後半はブロックチェーン全体の将来的な可能性について議論。ブロックチェーンと関わりの深い事業を運営する企業のエンジニアやCTOが登壇し、モデレータはSansan株式会社 プロダクト開発部 部長・藤倉成太氏が務めました。ブロックチェーンを取り巻く技術的状況や現状の課題点についてレポートします。

テーマ1:ICO/取引所について

CTO-meetup、ブロックチェーン(Blockchain)の現在-未来の様子1

モデレータ

藤倉 成太氏|Sansan事業部 プロダクト開発部 部長/プロダクトマネジャー
1999 年 中央大学理工学部精密機械工学科卒業後に株式会社オージス総研入社。ミドルウェア製品の導入コンサルティング業務に従事。2002 年に OGIS International, Inc に出向し、シリコンバレーにて現地ベンチャー企業との共同開発。 帰国後にソフトウェア工学センターで開発ツールやプロセスの技術開発を行う。2006 年オージス総研で勤務する傍ら、金沢工業大学大学院入学。2007 年同校卒業。

テーマ1の登壇者プロフィール

田中 翔 氏|アイリッジ株式会社 新規ソリューション&テクノロジー開発室長
東京大学卒業後、フリーランスエンジニアなどを経て2010年にアイリッジに合流。電子地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」や、電子地域通貨アプリ「さるぼぼコイン」の設計と開発を担当した。
中村 智浩 氏|AnyPay株式会社 CTO
早稲田大学大学院卒業後、ゴールドマン・サックスに入社。その後、エレクトロニック・アーツでの勤務やウィキッズの創業を経て、2016年からAnyPayのCTOに就任する。
佐藤 智陽 氏|Founder of Starbase
早稲田大学に在学中、イスラム教徒への地図アプリを提供するislamapを設立。収益化を模索するなかでビットコインに出会い、ブロックチェーンのテクノロジーに強い関心を抱き、ミートアップやコンサルティングを行った。2016年冬からICOプラットフォーム、Starbaseを設立、開始している。

ICOの将来的な可能性

藤倉:現在、ブロックチェーンを使った資金調達方法としてICOに注目が集まっています。ICOの活用方法も含めて、ブロックチェーンを使った事業展開の可能性についてご意見をお聞かせください。

田中:ICOが大規模資金調達だけでなく、クラウドファンディングのような少額の資金調達にも活用されるようになって欲しいですね。ただ、そのためにはイーサリアムの利用で高額な手数料がかかってしまう現状を改善しないと難しいと思います。また、日本では取引所に対して規制を厳しく設け、しっかり監督するという方向に向かっている印象がある。そうなると、将来的にICOの市場がどんどん海外に移ってしまうのではないかと危惧しています。

中村:私は仮想通貨と法定通貨を両方とも所持する人がますます増えていくと思います。仮想通貨の所持が普及すれば、ICOの事例数も増加します。すると、それに合わせて法整備も含めた仕組み作りも進むでしょう。 また、法規制の取り組みが日本など主要各国で進めば進むほど、ICOを全面的に禁止している国家もトークン発行に関する規制が緩められていくと予想しています。

ICOはコモディティ化するのか

藤倉:現時点では、ICOの利用者は一部のアーリーアダプターに限定されます。しかし今後ICO の一般化が進めば、スマホアプリでICOを利用する、オフライン店舗がICOを導入するなど、ICOがひとつの社会インフラとして機能する時代がくるかもしれません。

佐藤:ただ、商店街の八百屋さんが「八百屋トークン」を発行して販売する未来がありうるか、といわれると、それはないかと思います。なぜなら、その店のトークンを購入したいという人がかなり限られるから。やはり「ビジネスのための資金調達」など明確なビジョンを掲げ、オンライン上でトークンを発行するほうが、多くの人に利用されやすいのではないでしょうか。

中村:現状では、ブロックチェーンに関する技術的知識がない一般人のICO参加は、ビットコインを購入する場合と比べると非常にハードルが高いと感じます。ビットコインはbitFlyerやCoinCheckに口座を開設すれば、あとはボタンを押すだけで簡単に購入できますので、個人でも比較的簡単に取引可能です。 一方、ICOに参加する場合には、まずChromeのエクステンションにMetaMaskを導入し、次にMnemonicを入れ、暗号鍵を管理するといった作業が必要になります。このため、エンジニアでもない限りは参加ハードルが高い。一般の人々にとって、仮想通貨のウォレットを所持することが当然のことになる時代がくれば、ICOもコモディティ化して普及していくでしょう。

テーマ2:ブロックチェーンの将来について

CTO-meetup、ブロックチェーン(Blockchain)の現在-未来の様子2

テーマ2の登壇者プロフィール

市橋 立氏|弁護士ドットコム株式会社 執行役員CTO 兼 LegalTech Lab所長
東京大学大学院卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。戦略グループ通信ハイテク事業本部コンサルタントとして事業・マーケティング戦略の立案や業務改革支援を経験する。2015年から弁護士ドットコムに就任。
竹内 秀行氏|株式会社ユーザベース インキュベーション担当専門役員 / チーフテクノロジスト
大学でソフトウェア工学を学んだ後、IT系ベンチャーを2社起業。大規模分散配信システムのシステムを開発する。UZABASEの創業に参画し、「SPEEDA」や「NewsPicks」の設計や開発を担当。現在はとしてイノベーションを担う。
佐藤 智陽氏|Founder of Starbase
早稲田大学に在学中、イスラム教徒への地図アプリを提供するislamapを設立。収益化を模索するなかでビットコインに出会い、ブロックチェーンのテクノロジーに強い関心を抱く。2016年からは、イーサリアムを中心としたコンサルティングや開発事業を展開中。

ブロックチェーンの優位性を活かすためには

藤倉:将来的な可能性として、今後ブロックチェーンがアプライできそうな領域にはどのようなものが考えられますか。

竹内:たとえば契約書をブロックチェーン上に載せることで、スマートコントラクトを推進することが可能です。ただ、ブロックチェーン上に載せた情報は後から修正できませんから、載せていい情報とそうでない情報はしっかり吟味する必要はあります。 しかし、情報を限定してしまうとブロックチェーンが持つ「透明性」という技術的優位性が失われかねません。難しい問題です。

佐藤:ブロックチェーンの優位性を活かすためには、不特定多数の人々が利用するエコシステムに適用するのが一番良いと思います。トラストレスでパブリックな環境下で利用するほうがメリットは大きい。一方で、ある程度信頼が構築された人同士の間で結ばれるプライベートな契約に使っても効果は薄いでしょう。

竹内:私も同意見です。エンジニアの間でもプライベートチェーンは、透明性と効率性においてあまり良い評価を受けていない印象があります。

市橋:パブリックチェーンでないと意味がない、という意見には私も同意します。ただプライベートチェーンも、サイドチェーンを活用してパブリックチェーンと繋げば、ある程度問題点が解消されるかと。

プライベートブロックチェーンの可能性とは

藤倉:プライベートではなくパブリックチェーンでなければ意味がない、という点で意見は共通しているようですが、ブロックチェーンの技術的優位性を活かしたプライベートチェーンが構築される可能性はありませんか。

竹内:そもそもブロックチェーンで作れるものは、ほかのテクノロジーを使っても再現できます。ブロックチェーンが活きるのは、記録の改ざんなど信頼できないノードが存在するケースだけです。それ以外の状況では、絶対にブロックチェーンを使わなければならないケースはないでしょう。

藤倉:では、技術的なアドバンテージという点以外にも、プライベートチェーンの導入による開発コストの低減効果は期待できませんか。たとえばリップルの事例はどうでしょう。

佐藤:そもそもリップルは誰でもコンセンサスに入れる環境ではありません。ですからリップルに使われている技術をブロックチェーンと呼ぶことには、懐疑的な見方も多いです。しかし、あくまでリップルをプライベートチェーンの事例とみなすのであれば、リップルの「電子化を通じて結果的に開発の手間を削減できる」という点は、プライベートチェーンのメリットにカウントできるかもしれません。

「唯一のパブリックチェーン」は登場するか

市橋:現時点ではビットコインやイーサリアムなど複数のパブリックブロックチェーンが併存していますよね。しかし私は、将来的にビットコインのブロックチェーンしか生き残らないと予想しています。そもそもパブリックチェーンが複数存在する意味はあるのでしょうか。

佐藤:僕は意味があると思います。ブロックチェーン技術は、それぞれ開発の背景にある設計思想が異なります。たとえば、ビットコインは参加者のビットコイン保有量を確実に把握し、ダブルスペンドを防止することを目指して設計されたブロックチェーンです。 一方でイーサリアムは、分散型契約など、ビットコインよりも幅広い領域にアプライ可能なブロックチェーンを目指して開発されました。またイーサリアムの「遅さ」を解決するために、ノード選定を工夫したEOSも誕生しています。 このようにブロックチェーンは様々な機能的特徴を持つ技術が競い合っています。こうした状況が今後も続いていくのではないかと考えています。

竹内:プログラム開発では目的や関心に応じて最適な言語を選択します。ブロックチェーンの状況もこれと同じではないでしょうか。

市橋:しかし、ブロックチェーンはまだ実社会の様々な分野に応用するほどの力が備わっていません。ローレベルなところでいうと、スケーリングやセキュリティ対策が十分でなかったりする。こうした段階で機能面を比較して論じるのは、時期尚早だと感じます。 ある程度ブロックチェーン技術が進歩していけば、どのブロックチェーンを使っても、ほとんど同じことができるようになるはずです。そうなるとむしろレイヤー2上で組むアプリケーションが重要性を増す。アプリケーションは複数あっても、そのインフラ基盤となるブロックチェーンはひとつで良いのではないでしょうか。

佐藤:しかしブロックチェーンはDAOといわれるように、多数のステークホルダーが関与して成り立っています。ですから、たとえ競合するブロックチェーンと性能が似通っていても、すぐに廃止されるということはないと思います。複数のパブリックチェーンからそれぞれアプリケーションが生み出され、一元化されずともブロックチェーン同士の連携を可能にする国際標準化されたプロトコルが登場する可能性はあります。

「ブロックチェーン(Blockchain)の現在-未来」を終えて

CTO-meetup、ブロックチェーン(Blockchain)の現在-未来の様子3

今、話題のブロックチェーンについての屈指の有識者達による白熱したディスカッションは理解仕切れない部分もありつつ、全てをこのレポートでお届けできなかったように感じています。ただ、今年の世界的なトレンドの一つであるブロックチェーン/ICOについてのイベントを行えたことに大変充実感を感じおります。flexyでは、今後も定期的にCTO達によるトレンドのテーマに対するパネルディスカッションイベントを開催していきます。今後のスケジュールは以下をご覧ください

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