EC市場の新規マーケットを形成。さらに10年先までサービスを発展させ続ける経営戦略とは?―STORES.jp・代表取締役/CEO 塚原文奈さん
「【CTOインタビュー】より主体的に、自由に。アイデアが飛び交う「横」の組織とは?」でインタビューに応じていただいたCTOの矢部さんに続き、今回はSTORES.jpの代表取締役兼CEO塚原さんのインタビューで、EC業界において新たな市場を築いたSTORES.jp誕生エピソードをはじめ、コイニー株式会社との経営統合による社内の変化、そして現在flexyを利用した実感などをお伺いしました。
目次
5名のスターティングメンバーが生み出した「この世に無い新しいサービス」
塚原社長がSTORES.jpのCEOに就任されるまでの経緯を教えていただけますか?
塚原文奈さん(以下、塚原):旧株式会社インテリジェンス、株式会社サイバーエージェント、フリーランスという経歴を経て、STORES.jp(旧株式会社ブラケット)に入社したのは2012年のことです。社員はたった3名で、私と同時期に入社したもう1名を含めても5名という小規模企業でした。事業は、受託業務の傍ら自社サービスの開発に取り組んでいる段階でしたね。特に役職はなくディレクターとして参画したのですが、開発サービスのマネジメントの傍ら経営戦略や採用などビジネスサイドにも携わることになり、COOになったのが2013年。その流れのまま、2016年にCEOに就任しました。
STORES.jpのサービス立ち上げのタイミングときっかけは何だったのでしょう?
塚原:サービスの構想がスタートしたのが2012年なので、タイミングとしては私が入社して間もない頃です。きっかけは、IT領域をしていると様々な案件の依頼を頂く中で、当時の代表の光本の親戚のおじさんから、「ハワイアンジュエリーを販売するためのECサイトを作ってほしい」と相談してきたことでした。
IT業界で働いていればよくある「知人からの何気ないお願い」だったのですが、社内で「こんなとき『こういうサービスがあるよ』とURLだけ送れるような、誰でも簡単にECサイトを作れるサービスがあればいいのにね」という話が出て。そういえば、そんなサービスはまだ世の中にない、と気づいたんです。
当時、すでにECサイトでモノを売買することはごく普通の方法になっていましたが、売り手が実際にECサイトを作って活用する段階になると、誰にでもできるものではなかったんです。自分のお店を持ちたいという夢をネット上で気軽に実現できるとしたら、需要があるのではないか。そんな発想からスタートしました。
開発はどのように進めていったのですか?
塚原:デザイナーはおらず、エンジニアは2名。1人が自社サービス開発を、もう1人が受託業務を中心にこなしていました。デザイナーは、信頼できるフリーランスの方にお願いをしました。ですから、STORES.jpを開発したのは実質エンジニア1名で、当時20歳になったばかりの若いメンバーでした。開発期間は2~3ヶ月程度ですね。
サービス設計はみんなで考えていきました。当初は月額980円の有料プランのみにしようとしていたのですが、当時流行りだしていたDropboxや全盛期だったEvernoteはフリーミアムモデルを採用していて、世の中にも徐々に浸透してきていたところでした。そこで、「絶対に無料のプランも導入した方がいい」というメンバーからの強い声があり、どうしたら良いか徹底的に検討。最終的にフリーミアムを採用することになり、現在のサービスの基盤が出来ました。当時、サービスをより良いものにしようと議論し合った経験は今でも印象に残っています。
従来の業界ヒエラルキー構造では見えなかったマーケットを形成
STORES.jpの立ち上げから6年。サービス拡大に伴う市場への影響はどのように感じていますか?
塚原:サービスの成長段階に伴って、どんどん競合他社も参入してきました。おこがましいかもしれませんが、競争環境ができたことによって、自分たちが6年かけて、「プログラミングやデザインの知識がなくても、誰でも簡単に、無料からオンラインストアを作ることができる」というマーケットを作り上げることができたのだなという実感が湧いています。
もちろん、もともとECサイト作成という大きな業界は存在していました。「ECCUBE」のような、ECサイトを作ることができるパッケージソフトや、「MakeShop」や「カラーミーショップ」や「おちゃのこネット」などのECサイトを作ることのできるASPサービスなどがすでに業界を牽引していました。まずヒエラルキーの上層に大手企業の自社ECサイト月商何億、何十億という規模のサービスですね。その下にあるのが月商数千万以上、10億以下の規模の企業。それ以下が数万〜数百万規模の企業さんや個人の方が利用するようなサービス。というようなというのが一般的なイメージでして、各会社や個人の方が予算とサポートしてくれる外部の方との関係を元に、すでにある様々なサービスを駆使してECサイトを運営していました。
私たちが作ったのは、この三層の三角形構造のさらに下の階層です。これまで存在していても見えていなかった部分ですね。というのも、STORES.jpを利用してストア運営をしている方々には、初めてECサイトを作った、という方が非常に多く、既存サービスからのお引越しの方々のみではありません。これまでECサイトを運営してみたかったけれど、従来サービスやシステムだとやはり難しくてどうしても実現できなかった。そんな新しい層の方々が、弊社サービスを使ってくださっています。
経営統合によって異なる文化が融合。今後の発展へのアクセルになった
2018年2月にコイニー株式会社と経営統合されていますが、概要を教えていただけますか?
塚原:構造としては、まずヘイ株式会社というホールディング体制の企業が親会社となります。持株会社なので、事業は持っていません。その下に、コイニーとSTORES.jpが存在しています。
コイニーとSTORES.jpは同じグループではあっても完全な別会社として運営しているのですが、2月の経営統合の後、5月にコイニーと同じオフィスに引っ越しました。
オフィス統合など環境の変化も含め、経営統合によって社内では何が一番変わりましたか?
塚原:新しいメンバーが増えた形になった部分が一番の変化ですね。オフィスを一緒にしたことによって2社間にコミュニケーションが生まれ、文化が融合していく様子を肌で感じています。STORES.jpという会社の文化の中にいた「STORES.jpっぽい人」たちと、同程度の歴史と文化を持つコイニーに属する「コイニーっぽい人」たちが触れ合うことになるわけです。自分たちとは違う文化を持ち、提供しているサービスも運営手法も違う相手に、「これはどうやってる?」と気兼ねなくお互いの良いところを聞き合うことができるのは、非常に良いコミュニケーションだと思います。 また、経営統合においては資金体制が潤沢になったことが大きな利点です。結果として優れた人材を採用できるようになり、今後自分たちのサービスを5年、10年と継続していき、より価値あるものにしていくためのアクセルを踏む状況を作り出せました。
「人材不足で事業が進まない」。そんな状況をflexyは打破してくれる
人材の採用に関して、現在御社ではflexyから4名の開発者が業務委託契約で働いていますが、flexyを利用した感想はいかがですか?
塚原:稼働前のやり取りに関しては、とにかく素早くて、即レス・即決できるのが非常にうれしいです。
flexyさんのサービスは、働き方の多様化はもちろんですが、各企業の人材不足も背景にありますよね。IT業界は新規事業の立ち上げや、既存のプロダクトのブラッシュアップが非常に多い業界です。すると、自分たちがやりたいことをある程度のスピード感でやっていこうと思ったときに、人が足りないことがトリガーとなり成長スピードが追いつかないというケースが往々にしてあります。必然的に即戦力の採用が求められますが、人材不足のために優秀な開発者は企業同士の取り合いになり、最悪の場合、人材がいないから事業が進まないという致命傷になります。
flexyさんから参画していただけるのは、これまで他社で活躍してノウハウを蓄積されてきた、即戦力で携わっていただけるエンジニアの方。人材不足の状況でflexyさんのようなサービスを利用できるのは、とても心強いです。
常に前進し、便利になり続ける世の中に置いていかれないための意識
最後に、今後さらに加速していくITの変化について、IT業界を牽引されてきた塚原社長のご意見をお聞かせください。
塚原:今は、3歳の子供がスマホやタブレット画面を見てタップする時代、それが普通のものとして育つ若い子と自分たちとでは、感覚が全く違います。最新の情報を得ることはもちろん、今の自分と若い子では何が違うのか、という点を常にキャッチアップしようとしています。
また、ITそのもので言えば、スマートデバイスがもっと自然な形になっていくのではと思っています。例えばスマートウォッチはまだまだメカニックで、違和感がありますよね。今は、おしゃれだからではなく、機能性に魅力を感じて、その機能があるから身につける感が強いのですが、今後もっともっと洗練されていき、そのうち、ファッションの一部として遜色なく、おしゃれだからつける、おしゃれだから身に付けたい、というようなスマートデバイスになるかもしれない。そして、それが、生活のいろいろなところに自然に活用されていくとしたら、「いつの間にか時代に置いていかれてしまった」ということにならないように、常に新しく生まれるITがどんなモノか、試してみるべきだと思います。
ITに限らず世の中はどんどん便利になり続けていきます。後退してまた不便になる、という選択肢は無いんです。だとしたら、便利になり続ける世の中の流れに乗っていくことで、自分の時間を上手く使い充実度を高め、チャレンジできることへの幅も広げていくことが大切なのではないでしょうか。