フリーランス新法はいつから施行?概要やフリーランスの対応ポイントも詳しく解説

フリーランス新法はいつから施行?概要やフリーランスの対応ポイントも詳しく解説

フリーランスが企業から業務委託を受ける際、資金力や情報力の格差や福利厚生のサポート力の違いなどから、さまざまなトラブルに巻きこまれるケースが増えています。そこで我が国では通称フリーランス新法という法律を制定し立場上弱くなりやすいフリーランスを保護する仕組みづくりが進められています。

本記事では、フリーランス新法の制定背景やいつから施行されるのか、発注事業者に課される義務と違反行為があった場合にフリーランスができる対応をわかりやすく紹介します。また、下請法との違いやインボイス制度との関係性についても解説しますので、フリーランスとして働いている方やこれからフリーランスになることを目指されている方は是非ご覧ください。

フリーランス新法とは?

フリーランス新法もしくはフリーランス保護新法と呼ばれる法律は、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)と言います。この法律はフリーランスがより働きやすい環境となるように取引の適正化就業環境の整備を目的としています。

法制度の検討を行った厚生労働省はフリーランス新法の趣旨を以下のようにまとめています。

我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずる。

引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要

フリーランス新法が施行されることで、フリーランスですでに生計を立てている方はより働きやすくなり、今後フリーランスとして独立を考えている方のハードルも下がり、フリーランスとしての働き方がさらに普及していくことが期待されています。

フリーランス新法はいつから施行される?

2023年2月24日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)について閣議決定され、2023年4月28日の参院本会議で可決成立しました。正式な施行日はまだ決まっておりませんが(※)、公布日から1年6か月以内に施行することとされているので、2024年10月頃までには適用されると考えられます。

※2023年7月12日時点

フリーランス新法が制定された背景

デジタル社会の急速な進展や、テレワークの普及に伴い働き方も多様化し、特定の企業に属さず独立して様々な企業の案件をこなすフリーランスという働き方が広まってきています。
一方で、まだまだこうした新しい働き方を支える法整備が整っておらず、フリーランスが取引先との契約でさまざまな問題やトラブルに直面するケースが顕著になってきました。

代表的なケースを以下にまとめましたが、こうした問題を解消しフリーランスが不利益や不当な扱いをされないように保護することがフリーランス新法の役割です。

資本力や交渉力の格差によるトラブル

個人で業務委託を受けるフリーランスのような受注事業者と、企業のような組織力ある発注事業者との間では交渉力や情報収集力に大きな格差が生じやすいです。
例えば、一つの案件が年収の大部分を締めるような場合であれば、その案件を請け負うフリーランスは取引上弱い立場となり、発注事業者からの不当な扱いがあったとしても簡単には契約解除ができず、悪質な業務環境でも耐えなくてはなりません。
また、組織力がある方が集められる情報や作業に割ける人員も多いため、発注事業者がなにかと主導的立場を取りやすく、契約も発注者に有利な条件で決定されやすくなります。

こうしたことが要因となり、ケガや病気、過重労働などのトラブルに発展する可能性があります。

契約関連のトラブル

フリーランスであれば、電話や直接会話するなどして案件契約の合意をすることもあるでしょう。そうした場合、そのあとにきちんと書面にまとめて正式に契約を結べば問題ありませんが、中にはその口約束だけで話が進み、納品やサービス提供完了時になって契約内容の認識にズレがあり、適切な報酬がもらえないといったトラブルも生じる可能性があります。

書面にまとまっていない以上契約違反を証明することも難しくただ受け入れるしかなくなってしまい、人間関係のもつれや心理的なショックを受けてしまう場合があります。

出産や育児、介護などのライフイベントに関するトラブル

会社に雇用されて働く場合であれば、その企業の福利厚生や保険制度を活用して、産休や育休、時短勤務などが可能な場合が多いです。しかし、フリーランスはそうした福利厚生もないため、出産、育児、介護などと仕事を両立しようとしても、発注事業者が受注事業者のライフイベントへの配慮がないと、仕事との両立は大変困難だと言えます。

また、もし病気やケガ、妊娠などで急に業務を行えなくなった場合でも、納品が完了できないなら無報酬となるケースも少なくありません。作業した分の労働対価は支払うべきか、あくまでも納品できなければ無報酬にするのかを事前に取り決めすべきという意見も出ているのが現状です。

万が一のためにフリーランスが加入しておくとよいおすすめの保険については以下の記事で詳しく紹介していますのであわせて確認しておくと良いでしょう。

フリーランス新法の対象

フリーランス新法は業務委託事業者(発注者)と特定受託事業者(受注者)間の業務委託取引に適用されます。

業務委託事業者とは、企業のように従業員を雇用する事業者が業務を委託する場合を指し、特定受託事業者はフリーランスのような案件を受託する個人事業者を指し、人気の高い職種としては以下のようなものが挙げられます。

  • システムエンジニア
  • インフラエンジニア
  • プログラマー
  • デザイナー
  • WEBライター
  • ITコンサルタント

こうした職業で案件を受けている方は特定受託事業者として扱われる可能性がありますが、特定受託事業者として適用されるかどうかについては従業員の雇用があるかどうかで細かく場合分けされます。

厚生労働省では以下のように対象条件をまとめていますので、しっかり理解しておきましょう。

フリーランス新法 対象者

出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料

従業員の判定については、ある程度の継続的な雇用関係があるかどうかが重要な基準になります。
「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」は「従業員」として扱われ、このような条件で雇用を行っている事業者は個人事業者とみなされず法律の対象外となりますので、一時的にでも雇用関係が生じる場合には注意しましょう。

フリーランス新法と下請法の違い

フリーランス新法に類似した法律として下請法が存在します。
法律で定められた義務や禁止行為、罰則などの内容は基本的に同じですが、保護と規制の対象が大きく異なります。

フリーランス新法下請法
保護対象個人フリーランス下請事業者
規制対象従業員がいる事業者資本金1,000万以上の事業者
義務内容取引条件の明示、60日以内の報酬支払い等
禁止行為不当な受領拒否や減額等
罰則50万円以下の罰金

まず保護の対象ですが、前述の通りフリーランス新法では個人で稼働するフリーランスに絞られますが、下請法では従業員の有無に関わらず、下請け事業を請け負っていれば対象となります。
一方で規制の対象では、下請法が最低でも1,000万以上の資本金がある事業者に限られましたが、フリーランス新法では資本金に関わらず、従業員を雇用している事業者が対象となります。そのため、下請法では対象外になっていた小規模事業者とのトラブルについてもフリーランス新法では適用できる可能性があります。

2020年に実施された内閣官房の『フリーランス実態調査結果』によると、資本金1,000万円以下の発注事業者との取引・契約経験があると回答したフリーランスが全体の4割を占め、さらにそれらの事業者との取引から得られる売上が直近1年間の売上の過半を占めているケースが4割もあることが明らかになりました。
このように、下請法の対象外の取引は多くあり、その領域をフリーランス新法が補完できると期待されています。

フリーランス新法とインボイス制度の関係性は?

フリーランス新法はインボイス制度とも深い関係性があります。
インボイス制度が導入されることにより、仕入税額控除のルールが変更され、受注側となる個人事業主やフリーランスが、発注側の事業者から強引な発注額の減額や発注停止などの要求をされる可能性があり、そうしたトラブルから保護することもフリーランス新法の重要な役割の一つです。

一方で、インボイス制度の施行が2023年10月であるのに対し、フリーランス新法は前述の通り、2024年の秋ごろまで施行されない可能性が高く、その間の約1年間に起こるトラブルについては効力を発揮しません。
そのため、特定受託事業者に該当する場合でも法の施行を待つのではなく、インボイス制度が個人事業主やフリーランスに与える影響や対策についてしっかりと理解して、ご自身でもトラブルに備えておくことが大事です。

業務委託事業者(発注者)に課せられる6つの義務

フリーランス新法では、発注者に6つの義務が課されることになります。受注者となるフリーランスは保護対象となるため、追加で義務が発生したり、違反時の罰則はありません。
しかし、発注者に課される義務を理解しておくことで、不当な扱いを受けた際に法律に基づいて権利を主張することができます。以下に業務委託事業者に課せられる6つの義務について詳しくまとめていますので、フリーランスの方もしっかり把握しておくことをおすすめします。

業務内容や報酬などの取引条件の明示

フリーランス新法では、発注者が受注者に対し発注を行った場合、直ちに受注者に対する給付内容や報酬額、支払期日、その他の事項について書面又はメール・SNSなどの方法により明示することが義務付けられます。

ただし、発注契約の合意は口頭合意でも成立します。これまでは、口頭合意した場合でもその後の明示義務がなかったために、口約束での曖昧な契約が原因で契約トラブルにつながるケースが発生していましたが、フリーランス新法が施行されれば、こうしたトラブルは起こりづらくなったり正しく罰せられることになると考えられます。

60日以内での報酬支払い

フリーランス新法では、検品するかどうかに関わらず発注者が受注者から成果物を受領したり、受注者のサービス提供が完了した日から60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を決めて支払うことが義務付けられます。

例えば、月末締め翌月末支払いが一般的な請求の締め日と支払い日ですが、これであれば仮に納品が当月1日にあったとしても報酬は翌月末の30日となり、60日の期間内で支払いされることとなります。
しかし、仮に月末締め翌々月15日支払いで当月1日に納品があった場合であれば、納品から支払いまでおよそ75日かかることとなるため違反行為にあたります。

また、発注者による不当な受領拒否や報酬の減額が行われないように「特定業務委託事業者の遵守事項」という形で禁止行為を定めています。

① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要

中途解除などの事前告知

政令で定める期間以上の期間行う継続的業務委託に関しては、発注者が中途解除を行おうとする場合や、契約不更新とする場合には、受注者に対し少なくとも30日前までに、その旨を予告しなければいけません。
また、予告日から契約満了までの間に受注者が契約の中途解除や不更新の理由開示を求めた場合には、その理由も開示する義務があります。これにより、一定期間継続する取引が急に解約になるような場合でも、受注者にある程度の時間的猶予があり、次の取引に円滑に移行できやすくなります。

ただし、災害により業務委託の実施が困難になったため予告ができない場合や、受注者に契約不履行や不適切な行為があり業務委託を継続できない場合などは予告なしでの中途解除が可能なので、複数案件で稼働したり、投資などを行うなどいくつかの収入源を用意しておけると安心です。

広告などの募集情報についての的確表示

発注者が広告やSNSなどで業務委託の案件情報を掲載する場合、虚偽の表示又は誤解を生じさせるような記載をしてはならず、正確かつ最新の内容を保持することが義務付けられます。
この規制では、発注者と受注者の間で取引条件に関するトラブルが生じたり、受注者の希望によりマッチした別の案件での稼働機会を失ってしまうのを防ぐことが目的です。

ただし、発注者が掲載した案件情報が不特定多数の受注者に対して開示されている場合のみにこの規制は適用され、特定の個人との交渉において提示される募集情報については適用外となるので注意が必要です。

育児や介護などと業務の両立に対する配慮

フリーランス新法では、就業環境の整備も大きな目的の一つです。
そのための規制の一つとして、受注者の申し出に応じて出産、育児、介護などと継続的業務委託に関する業務が両立できるように発注者は必要な配慮を義務づけています。
例えば、育児や介護のために就業時間短縮や稼働日の調整をする、オンラインでの業務を許可するなどの対応が考えられます。

ハラスメント対策に向けた体制整備

前項と同様に、ハラスメント対策に向けた体制整備も就業環境の整備に向けた対策の一つです。
この規制では、発注者から受注者に向けて行われる尊厳や人格を傷つけるようなハラスメント行為によって引き起こされる就業環境の悪化・心身の不調・事業活動の中断や撤退を防止することを目的として、発注者はハラスメント行為により受注者の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備やその他の必要な措置を講じることを義務づけています。

その他の必要な措置について具体的には以下のような対応が挙げられます。

  • ハラスメント撲滅に向けた方針の明確化
  • 上記方針の従業員への周知・啓蒙
  • ハラスメントが発生した場合の迅速かつ適切な事後対応

また、受注者がハラスメントに関する相談を行ったことを理由に発注者が受注者に対し契約の解除や報酬の減額などの不利益になるような扱いや行為をすることも禁じています。

違反行為があった場合、フリーランスはどう対応すべき?

前章でお伝えしたように発注事業者には受注事業者とのやりとりに関する義務が課されていますが、違反行為があった場合は受注事業者であるフリーランスは公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の窓口に申告することができます。
それにより、行政機関は内容に応じて、違反事業者に対し 報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告といった措置をとることとなります。もし勧告に従わない場合は命令・公表措置もとり、命令違反には50万円以下の罰金が課されることとなります。

受注事業者は直接窓口へ申告することもできますが、直接の申告が難しい場合は、フリーランス・トラブル110番に相談するのがおすすめです。フリーランス・トラブル110番は、2020年2月から設置された窓口で、フリーランスと発注事業者等との取引上のトラブルについて、弁護士にワンストップで相談ができ、和解のあっせんも受けることができます。

トラブル発生から違反行為の申告までの具体的なフローについては以下の図をご確認ください。

フリーランス・トラブル110番

出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料

まとめ

本記事では、2023年4月28日に成立した「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)、通称フリーランス新法について解説いたしました。基本的には従業員雇用のある発注事業者と従業員雇用のないフリーランスのような個人の受注事業者間の契約において、取引の適正化と就業環境の整備を目的に発注事業者にいくつかの義務と禁止行為が課されるというものになります。

受注事業者であるフリーランスはこの法律により、実際に案件契約して稼働した際に不当な扱いや報酬未払い、突然の契約解除などがあった場合に正当な権利として行政機関への申告が可能となります。また、下請法では対象外となる資本金1,000万円以下の発注事業者についても法規制の対象となるため、さまざまな働き方が広がっている現代社会の実情を反映した法律と言えます。

正式な施行日はまだ決まっておりませんが、2024年秋ごろまでには施行されると考えられますので、今のうちからしっかりと理解して備えておくことが重要です。

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