個人と組織が共にイノベーションする時代【vol.2】組織目線での複業・兼業〜企業が持つべき「相互選択関係」の考え方〜
CTOmeetupイベントレポートの後編記事、2021年7月5日のテーマは複業・兼業の働き方です。
前編は個人、後編の本記事は組織視点でのトークをお届けします。
■前編記事はこちら>> https://flxy.jp/article/20381
目次
個人と組織が共にイノベーションする時代 〜組織目線での複業・兼業〜
企業が持つべき「相互選択関係」の考え方
株式会社レクター 取締役 広木 大地 氏(以下、広木):後半はまず、組織として複業・兼業が一般的になっていく社会とどう向き合っていくべきなのか、人事管理のプロとも言えるカオナビさんからいろいろお話を聞ければと思います。
株式会社カオナビ CTO 松下 雅和 氏(以下、松下):カオナビとしては兼業を推奨しています。そもそも社長自体に「時間に縛られる働き方は個人を縛っているだけで、正しい働き方ではない」という意識があったので、本業に迷惑のかからない範囲であれば複業を禁止する理由は無いとするスタンスです。
ですからカオナビは複業を当たり前のものとして受け入れていますし、むしろ兼業をしてもらうことで得た知見を自社にフィードバックしてもらうメリットがあると考えています。個人としても人生において自分の趣味を活かしていけるという意味で、お互いにメリットのある仕組みになっていますね。 複業の実例はソフトウェア開発やボイストレーナーやコンサルタント、ヨガの講師などです。業務委託の方で、週に1日は温泉管理をして、4日間はカオナビで働いている人もいます。
広木:リモートが当たり前になってきたことで、農業をしたりサーフィンをしたり、趣味を軸にしながら働く道もありますね。
松下:それも当たり前にできる感じになっていますね。
広木:外の世界を知るというのはポジティブな側面がある一方で「温泉に専念したい」と言って退職してしまうようなこともあると思うのですが、そのあたりについてはいかがですか?
松下:「相互選択関係」を一つのキーワードにしています。企業と個人がお互いに選択し合ってその場にいる関係性を正とする考え方ですね。企業としてはきちんとメンバーが活躍できる場を提供して成長できるようにするし、個人としては企業の価値を高めるために行動してほしいという思いがあります。ここがマッチしていれば居続けたいと思ってくれるはずだし、ほかの場所のほうが自分の価値をより高められるのであれば、それも正しいことだという認識です。「複業のほうがいいから」と辞める人が出てきても自然な流れとして「良かったね」で終わっています。
エンジニアが抜けるのはもちろん痛手ではあるのですが、本人にプラスになるならそういうものなのだと受け入れています。
広木:ロイヤリティーではなく、エンゲージメントですね。
属人性の排除と組織への帰属意識のバランス感覚が問われる
広木:相互に選び合う関係の組織を作っていくのは難しいと思うのですが、何かご苦労はありますか?
松下:属人性を排除していくことですね。その人がいないと回らない状態になってしまうのに相互選択関係な体制を作ると、開発が成り立たない状況になってしまいます。どれだけ会社の組織として仕組み化をして、人の入れ替わりを許容できるような体制を組んでいけるかですね。カオナビでも完全にできているわけではないので、改めて体制を作らなければいけません。
広木:エンジニアあるあるだと思うのですが、属人化しなくなるとそれはそれで一つの長期プロジェクトが終わったら燃え尽きて転職してしまうこともありますよね。属人化を減らした分、「自分がいなくてもなんとかなるな」と言って辞めてしまう。そういうところはどうしてきたのでしょうか?
松下:帰属意識を持たせたくはないけれど、完全になくなってしまうとやはり燃え尽き的に転職してしまうので、そこはバランスですね。カオナビにいるからこそ成長できる、面白い人と一緒に働けるといった、より「働きたい」と思わせるような環境をどれだけ提供できるかにかかってくると思います。
問題なく複業を行ってもらうために企業が定めるべき制度と基準
広木:ちなみに、今カオナビさんで複業・兼業をされている方の割合は何%くらいですか?
松下:開発本部は16%で、本社全体だと18%です。
広木:5人に1人いくかいかないかくらいで、1チームあったら1~2人は複業をしているような状態ですね。
松下:エンジニアの場合はやはり開発系の複業が多く、ディレクターやマネ―ジャーはどちらかというと自分の趣味の領域で複業をしている方が多い印象です。
広木:複業をするにあたってどの会社で何をやるのか、複業申請という形でチェックをするルールはありますか?
松下:そこはしっかり稟議を入れて判断しています。見ているのはやはり競合かどうかと、労働時間ですね。複業・兼業の時間が本業に影響を与えるほどになってしまうと、確認が入ります。
広木:何時間くらいが目安ですか?
松下:月に20~30時間なら特に問題ありません。40時間になると土日を潰して残業もしないと回らなくなると思うので、ちょっと厳しいです。
広木:逆にカオナビさんが複業を受け入れた場合、ウィークデーの定時後や土日に働くのは残業をしない企業としては合わない気がするのですが、そのあたりはどうですか?
松下:うちはスーパーフレックス制度を導入していて1日4時間働けばそれでOKなので、そもそも特定の時間に誰かがいないのは当たり前の状況です。誰がどんな時間帯で働いていても当然のこととして動いているので、それほど問題にはならないと思います。
広木:例えば19時~23時で働く人がいたら、コアタイムが被っている人が仕事について教えたり、ドキュメントを残したりして、労働時間が分散していても働けるように準備して受け入れる感じでしょうか。
松下:そうですね。例えば一人カナダのトロントで働いているのですが、彼は完全に昼夜逆転生活なので、10時の朝会のタイミングで仕事を終えて終業しています。
「複業NG」の企業は採用市場で不利に働くのが現状
広木:今村さんにもお話を伺いたいのですが、複業許可の文脈で組織としてこれまで取り組んできたことはありますか?
株式会社BuySell Technologies 取締役CTO 今村 雅幸 氏(以下、今村):会社経営の目線から考えると、個人を守る意味でのリスクヘッジの仕組みを会社としてどう作れるかが重要ですね。どんな会社でどれくらい稼働するのかという目安はカオナビさんと大体同じような感じですし、複業で何をするのかもしっかり会社としてチェックする体制を用意していかないといけないなと思っています。 複業自体については、ぶっちゃけた話でいうと会社としては推奨するというよりも「禁止はできない」ニュアンスだと感じています。当然複業先のほうが良くて転職のきっかけになることはゼロではないので、やはり自分の会社にいるのがベストだと常に思ってもらえるような環境、エンゲージメントを作っていくのが健全なのでしょうね。
広木:私が採用担当者から受ける相談で多いのは、候補者から「複業駄目なんですね」と言われてカジュアル面談から音信不通になることが多い、どうにかできないかという内容です。だったら複業OKにすればいいじゃないかと思う部分はありつつも、松下さんがおっしゃったように相互で選び合うような関係を作る覚悟をするのはやっぱり大変なんですよね。特に他の部門から「複業を許可したらエンジニアがバンバン辞めてるけどいいの」と言われたらしんどそうだなと思いますし。
ちなみに複業OKにしようと思ったときに、勤務先や労働時間のほか、契約形態なんかも縛ったりするのでしょうか?
今村:正社員にならなければ良いということにしています。これは前職でもそうでしたね。正社員OKの会社もあるかもしれませんが、うちは管理の都合上そういう縛りにしていました。
広木:「この複業はちょっと」と複業申請を断ったことはありますか?
今村:98%くらいは通っています。残りの2%は辞めた人のいる会社だとか、競合だった場合ですね。完全に同じビジネスをやっている会社はNGにしていました。
広木: ITコングロマリットになっていくような企業は多いじゃないですか。Yahoo!や楽天、リクルート、DMMなんかにはいろいろな業態があるので、いずれかと競合になるケースもあるんじゃないかなと思います。
今村:事業ドメイン被りはNGですね。僕の前職で言えばファッションECサイトです。
広木:ECまではセーフなんですか?
今村:ECまでは正直制限できなかったです。
あらゆる形で外部リソースをフル活用する仕組みづくりが求められる
広木:給料の上限に達して時間的余裕ができたから複業をする人や、定年後に嘱託として働く人なんかは今後どんどん増えていくと思います。いわゆるハイスキルなエンジニア、デザイナーという切り口以外でキャリアを描いていく人が増えていったときに、組織として注意すべきことはあるのでしょうか?
今村:そういう人たちを「いろいろなノウハウを持っているベテラン」と仮定するのであれば、彼らの知識や経験を自分たちの組織に取り入れる仕組みづくりには、ブラッシュアップの余地があると思います。
例えば世の中の技術顧問は人によってやっている内容が違います。CTOと話すだけということもあれば、エンジニアリングマネージャー、あるいは現場レベルまで巻き込むこともあります。その度合によって、同じお金を投資していても組織に対する還元力はかなり変わると思うんですよ。今現在「こういう関わり方がベスト」というやり方は確立されていないと思うので、限られた時間で外部リソースをフル活用していく仕組みづくりについては、もっと議論されて良い型ができていくのかなと思います。
最後にひとこと
複業の機会は積極的に活かして自分を高めていくべき
広木:ではここまでディスカッションして感じたことや、自社のPRがあれば教えてください。今村さんからお願いします。
今村:複業・兼業がエンジニアにとってすごく良い機会だと思っているスタンスは変わりません。バイセル自体はそういう人たちの力を借りて成長していきたいフェーズです。今後エンジニアにとっては複業の機会はどんどん増えていくでしょうし、コロナによってリモートワークという概念がソフトウェア企業を中心に根付いたことで、より複業しやすくなっているはずです。
機会があれば活かしたほうがいいですし、他社を見て気付くこともたくさんあると思います。ある程度自分に自信があって、ほかの世界を見てさらに高めたい人はぜひチャレンジしてみてください。バイセル自体もいろいろな業務委託や複業の方にサポートいただいていますので、興味があればぜひお声掛けください。
松下:カオナビは兼業を推奨していますが、これからは特定の分野に特化している方に兼業として来ていただくのも当たり前になっていく世界です。カオナビはHR Tech企業としてそういう働き方を当たり前にしていきたいですし、自ら体現する会社であるために体制を組んでいきたいと思っているところです。いろいろな人がいろいろな働き方ができる世界を、カオナビから発信していきたいですね。当社もエンジニア採用は頑張っていますので、興味がある方はぜひよろしくお願いします。
広木:やはり経営者として複業OKは致し方がないことなので、変化のタイミングをうまく取り入れて組織の強みにしていきたいですね。弱みにしないためにはかなりバランス感覚が要求されます。カオナビさんのように、複業・兼業をする人を増やして新しいノウハウを得るといった活用ができている事例をキャッチアップしていく必要があるのかなと思います。こういうところで僕にお手伝いできることがあれば、ぜひ連絡してください。 本日のディスカッションは以上です。ありがとうございました!