エンジニアが大切にしているカルチャーとは?成果を最大化するカルチャーをディスカッション
※本記事は、2021年8月に公開された内容です。
2021年7月15日に開催されたCTOmeetupのテーマは、エンジニアカルチャー。VUCA、ニューノーマル、グレート・リセットなど、時代の変化があらゆる言葉で表現される中、組織が大切にしなければいけないのは「ビジョン」と「カルチャー」です。
今回は自社の組織で明確なカルチャーを掲げ、その浸透・打ち出しに尽力している3名の登壇者にお越しいただき、変化する時代においても変わらず大切にされるべきカルチャーの在り方についてディスカッションしていただきました。
2009年株式会社ナビタイムジャパン入社。経路探索の研究開発部門責任者としてGPGPUを活用した超高速エンジンやMaaS時代にフィットしたマルチモーダル経路探索の開発を推進。移動体験のアップデートに携わりながら、VPoEとしてアジャイル開発の導入推進、支援を行う。 著書「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」
2008年株式会社ネクスト(現 株式会社LIFULL)入社。 フロント、サーバーサイド、ネイティブアプリなどアプリケーション開発に従事した後、バックエンド・インフラ系を担当し、API基盤の刷新、事業系システムのAWSへの移行チームを責任者として牽引。 2017年4月からCTO就任。 情報システム部門の責任者、ベトナムの開発系子会社の委任代表なども務める。
東京工業大学大学院を卒業後、大手セキュリティ会社で画像センサーの開発、外資系ベンチャー、スマホ系ベンチャー、mixi、ストリートアカデミーCTO、JapanTaxi CTOを経てパイオニアCTOに就任。ITのあの字もなかった業界を変革。現在はパイオニアで執行役員CTOを務めながら、複数企業で技術顧問としてDX推進やエンジニア組織構築を支援。
登壇者のご紹介
ナビタイムジャパン:全社一丸となって顧客目線を持ち、成長し続ける
株式会社ナビタイムジャパン VP of Engineering 兼 ACTS(研究開発)ルートグループ責任者 小田中 育生 氏(以下、小田中):ナビタイムジャパンのVPoE小田中と申します。簡単にナビタイムジャパンの紹介をすると、代表取締役社長が工学博士で、2000年創業の会社です。社員数は520名。このうち約80%はエンジニアです。経営理念は「経路探索エンジンで世界の産業に奉仕する」こと。経路探索エンジンの技術で、toB・toCを問わず移動の課題を解決するサービスを提供させていただいております。
ナビタイムジャパンのカルチャーとしては「大学の研究室のような職場」を掲げています。これは、創業者が副社長と同じ大学の研究室にいたとき、「お互いの研究を掛け合わせたら面白いことができるんじゃないか」と感じて創業したことに由来しています。
さらにそれをブレイクダウンして全社員に公開しているのが、「目指す企業文化」です。中でも大切にしているのが「成長し続ける」「顧客目線」そして「全社一丸」というキーワードです。また、カルチャーモデルには「カリスマリーダ―」「複数リーダー」「チームリーダー」「複数リーダー」などがありますが、我々が目指しているのは「全員リーダー型」。いわゆる分散型、変化志向を目指しています。
全社一丸になるには、トップダウンで言われたことをそのままやるのではなく、個人が自主的にやりたいことが自然と会社と同じ方向を向いているようにする必要があります。すると、全社一丸となって顧客目線を持ち、成長し続けるいきいきとした組織になる。そういう組織から良いプロダクトを作る。こういった思いでカルチャーを掲げています。
パイオニア:HRTやオーナーシップ、顧客志向などを重視してチームを形成
パイオニア株式会社 執行役員CTO 岩田 和宏 氏(以下、岩田):パイオニアのCTO岩田と申します。パイオニアの企業理念は創業1938年のパイオニアの企業理念は「より多くの人と、感動を」。社員は11000名、売上は2800億円、利益は90億円弱です。グループ企業としては海外も合わせて約60社を持ち、主にカーエレクトロニクス事業を展開しています。現在、2025年に向けた企業ビジョン「未来の移動体験を創ります」を掲げ、モビリティプロダクトとモビリティサービスの2つに注力しているところです。
パイオニアは2025年以降に「ソリューションサービス企業」になることを目指しており、現在役員も含めてSaaS系のメンバーが数多くジョインしています。今までのサービスで培ったプロダクト技術を、さらにIoTサービスに活かそうとしている形です。チャットといえばSlack、名刺管理といえばSansanといったように、オートモーティブSaaSといえばパイオニアと言われるまでに成長しようと頑張っています。
皆さんは自社のカルチャーについて語れると思うのですが、僕は3月にジョインしたばかりですので、これまでいろいろな会社を経験して「カルチャーってこういうことが大事だな」と自分の頭の中で整理していることをご紹介できればと思っています。
基本的には、入り口としてカルチャーフィットした人材を採用するのが非常に大事です。そこで最高のチームを作れるかどうかが決まります。Googleの有名な書籍『Team Geek』には、「HRT」という謙虚、尊敬、信頼について書かれているのですが、僕もこれはチームを作る上で昔から大事にしています。その中でさらに、自分から考えて行動するようなオーナーシップや顧客志向、そして組織・事業へのコミットメントを重視するエンジニアを採用して、カルチャーの醸成を行ってきました。
LIFULL:目指すは「エンジニアとして経営をリードする」こと
株式会社LIFULL CTO 兼 テクノロジー本部長 長沢 翼 氏(以下、長沢):LIFULL(ライフル)のCTO長沢と申します。当社が最も大事にしているカルチャーは、社是である「利他主義」です。さらにコーポレートメッセージは「あらゆるLIFEを、FULLに」。事業を通して社会課題の解決をしていこうとしている会社です。
社員は国内外のグループ会社も含めると1400名ほど。このうち日本の本社では50%がものづくりに関わるスタッフで、エンジニアは大体170名です。エンジニアの中で大切にしているカルチャーとしては、エンジニア像を示す「エンジニアとして経営をリードする」という言葉です。「経営をリード」というのは、新規事業の責任者やPMをやったり、事業計画を立てたりすることではありません。新しい技術をどんどん提案して、「もっとこんなことができる」「ここをこうすれば経営理念に近付くスピードが速くなる」「もっと価値を届けられる」と伝えるようなイメージです。
その中で、さらにエンジニアとして大切にしている4つの要素があります。一つ目が、問題・課題に対して本質を考え続けること。二つ目が、建設的にエンジニアとして伝え・表現し続けること。三つ目が、世の中は変化していくものだと理解し、自分自身も変化し続け、周囲の人・環境も変えていくこと。四つ目が、それらを成し得る技術力を身に付けること。こういった言葉を浸透させていくような活動をしています。
カルチャーモデルの浸透方法
フラットでオープンな組織と制度がカルチャー浸透を促す
小田中:三者三様どんなカルチャーを持っているのかがわかったところで、ここからは各社がどのようにカルチャーモデルの浸透を図っているのかを話していきたいと思います。ナビタイムジャパンとしては、まずカルチャーを浸透させる仕組みとして「フラットでオープンな組織」というものがあります。
実際の制度の一つが、役職のないフラットな組織です。僕はVPoEであり研究開発部門の責任者ですが、これは役職ではなくあくまで役割です。エンジニアやデザイナーとの間に上下関係はありません。日本では一度部長になったらなかなか降格しないと思いますが、うちの場合はVPoEよりも適した役割があれば変わる可能性がありますし、実際に社内でもマネージャーからエンジニアに戻った方がいます。しかし、それは降格や昇格ではなく、組織はフラットなのです。
もう一つ、誰でもアイディアを提案できる「ナビタイムチャレンジ」という制度があります。これは「こんなサービスがあればいいんじゃないか」というアイディアをまとめて、事業責任者や経営者に向けて提案するものです。審査に通過すると、実際にサービス化に向けて動き出します。
制度があればフラットな組織になるかというとそうではないので、場づくりもしています。現在はコロナ禍でフル活用できていませんが、打ち合わせや1on1、開発などに好きなように使えるオープンなラウンジがあり、他部署の人とばったり会って、アイディアが生まれるような場にもなっていました。それが現在はSlackを軸にしたコミュニケーション設計になっていますね。プライベートチャットではなくパブリックにコミュニケーションを取るようにしており、事業部をまたいだ相乗効果が生まれています。
成長し続けることもカルチャーとして大事にしているので、成長をサポートする4つの軸も設けています。まずは3ヶ月で基本スキルを習得する新入社員研修です。特色はデザイナー・エンジニアを問わずコードを書いてもらい、ナビタイムジャパンでサービス開発をするために必要な経験を行ってもらうことです。塾のように「1対多」で技術を講義する、「ナビタイムカレッジ」というセミナーも行っています。もう一つは1対1で受講者に合わせた技術を指導する「技術トレーナー」制度です。例えば新たな言語にチャレンジしたいと思ったときに、社内のエキスパートがトレーナーとなって育てることで、師弟関係が生まれるようなものです。最後が「学習サイト補助」。これはシンプルで、Progateを使ったらその料金を会社が支払う制度です。
カルチャーを浸透させるために、評価指標にカルチャーフィットを組み込んでもいます。評価の軸は実績、能力、そして組織コミットメントとしており、会社のビジョンとマッチしている考え方や行動に対して、加点方式で評価をしています。
メンバー全員で決めたバリューをリーダーが言動で体現する
岩田:僕はパイオニアというよりも、これまでの経験上カルチャー浸透において大事だと思ったことを挙げさせていただきます。
やはりどの会社でも、ミッション・ビジョン・バリューがカルチャーの根源となります。なぜその会社に集まるのか、会社は何を成し遂げたいのか、どんな思いを持っているのかは非常に大事です。
ミッション・ビジョンは経営サイドが決めることが多いのですが、バリューや行動指針に関する言語化は、よくメンバー全員で行っていました。ミッション・ビジョンを受けてそれぞれの職種の人がどう行動して体現するのかを、みんなで考えるんです。
さらにそれを、きちんと評価制度にも盛り込んでいました。例えば「自ら行動する」というバリューがあったら、何%到達できたのかを自分で振り返って評価する機会を設けたり、MVP的にバリューを体現した人を半年に1回表彰したりもしていました。あとはやはりリーダー自らがバリューを体現した言動をするのも大切だと思っています。
あとは意外と、社内グッズを作るとみんなうれしかったりするんですよね。Tシャツだったりバリューが書かれたステッカーを作って貼ったりしていました。あとはエンジニアなら合宿をするなど、会社として深くコミュニケーションが取れるような設計をするのが大事だと思います。
明文化したカルチャーを具体的事例とともに伝える
長沢:エンジニア像を浸透させていくために、当社としてはまず明文化すること、そしてそれを定期的に伝えること、しかも抽象的にではなく具体的事例を伝えること、それらと並行して制度・仕組みなどを整備することが大事だと考えています。
実は今日がそうだったのですが、四半期に一度はエンジニアが全員集まるオールハンズミーティングのようなことをやっていて、今回も170名ほどのエンジニアが参加しました。ここでは過去の業務と照らし合わせながら、「LIFULLが目指すエンジニア像」のどういう点を意識してどう生かしたのかを何人かに発表してもらいます。メンバーがどんな思考や行動プロセスで動いていたのかをシェアすることで、ほかのメンバーも追随できるようにするのが大きなポイントです。このイベントはすでに5年ほど続けています。
制度面で言うと、成長環境を作っていくためには内発的動機付けが大事だと考えながら挑戦機会を提供するようにしています。例えば内発的動機付けとして想定される「新しい技術に挑戦したい」だとか「新規事業を立ち上げたい」といった部分を叶えるために、具体的制度として「クリエイターの日」というものを設けています。Googleの「20%ルール」を聞いたことがある方もいると思いますが、同じように3ヶ月に一度、合計7営業日、エンジニアやデザイナー、企画者などが自分の取り組みたいテーマに挑戦できる制度です。自作キーボードを作ったり、IoTで社内の空調や二酸化炭素濃度を可視化したり、トイレの空き状況を調べたりと、いろいろなことをやりながら技術の引き出しを増やし、経営をリードするエンジニアに近付けるようにしています。
カルチャーの打ち出し方
カルチャーは掲げるよりも行動で見せたほうが効果的
小田中:続いてカルチャーの打ち出し方についても話していきたいと思います。ここはいかに外部発信をするかというところですね。 弊社はインタビューをメインにした採用サイトを展開しており、社長メッセージや各プロジェクトのメンバー、個別の社員のインタビューを掲載しています。
カルチャーはやはり、実際に働いている社員がどのように考えて発言しているかを見せたほうが伝わりやすいと思うんですよね。ベン・ホロウィッツ著の『Who You Are』にも「カルチャーは行動である」という趣旨が書かれていましたが、結局カルチャーは掲げるよりも行動することが大切なので、実際のエンジニアたちの声を載せているわけです。
あとは技術中心にプラスαの内容をnoteで発信しています。例えば社内で受講したアジャイル開発研修の話から新サービスの話、Amazon Braketを利用して量子コンピューターを動かすというゴリゴリにテッキーな話まで、ごった煮感がナビタイムジャパンのカルチャーを発信することにつながっています。
外部イベントにもさまざま登壇させていただいていますね。AWSやFlutterに関するイベントで話した資料を、スライドシェアにまとめて発信もしています。
社内ブログで情報発信すると採用時のフィルタリングになる
岩田:僕が経験上一番有効だと思ったのは、どんな媒体でもいいので社内エンジニアもそれ以外の職種も、ブログなどでしっかり発信していくことですね。採用の面談時に「ブログを見て社内の雰囲気がわかりました」と言われるようになるまで研究をしていました。
実際ブログを読み込んでいる人は会社に対する興味の度合いも高いでしょうし、採用時のフィルタリングにもなるので、そこにこだわるのは非常に大事です。ただ、前職ではあまり僕自身が文章チェックはしませんでした。変に飾らないほうがいいのかなと思います。
あとは小田中さんがおっしゃったように、イベントやカンファレンスなどに登壇することで、エンジニアリングにも注力しているところを見せたりするのも重要です。
ブログ、Qiita、OSSの公開などの形でカルチャーをアウトプット
長沢:LIFULLがやっていることとしては、外部への発信です。イベントに登壇もしていますし、僕は個人的にCTO noteという形で、エンジニアがどんな課題を抱えていて、どんなものを作ったのかを書いていたりします。
エンジニアの課題とその解決方法を外部の方に知っていただく意味では、外部に対して「Ltech」というLIFULL主催の勉強会も開催しています。2017年から2ヶ月に1回ほどの頻度でこれまでに計18回行い、コンパスの登録者数は昨日時点で1648名です。テーマは例えばLIFULL HOME’Sのフロントエンド技術や、不動産領域におけるAI活用などです。
あとはLIFULL Creators Blogでエンジニアの情報発信をしていますし、Qiitaでは細かいTipsを公開しています。外部にOSSも公開していますね。
カルチャーの発信は社内外に対して好影響を与えられる
小田中:皆さん共通しているのは、やはり登壇をしたりブログを書いたり、長沢さんの場合はOSSを公開したりと、アウトプットをしている点ですね。「こういうカルチャーですよ」と説明するというよりも、カルチャーから生み出されたものを公開することで、カルチャーを感じ取ってもらうアプローチなのかなと思いました。
長沢:社員の顔が見えるというのは大事なのかなと思いますね。LIFULLは転職してきて数ヶ月の方に、入社した感想を社員noteに書いてもらっているんですよ。これは外部だけでなく、社内からも評判が良いです。外部の人からは「転職したらこう感じるんだ」とわかりますし、社員は「うちはこうやって見えているんだ」とわかります。
小田中:うちも去年、2年目の社員の方何名かに記事を書いてもらったのですが、社内の中途メンバーがそれを見て「ナビタイムジャパンはこういうカルチャーなんだな」とか「新入社員を大切に育てているんだな」「良い会社だな」と思ってくれたことでカルチャーフィットにつながったので、内部向けにも効果がありますよね。
岩田:内部向けに顔や趣味の見える化をするのはすごく大事ですよね。特に社員が100名を超えると話さない人も出てくるので、昔はランチルーレットなんかをやっていました。組み合わせをランダムで決めて、会社が1000円くらい補助をしてランチに行ってもらうんです。新入社員が入ってきたときは、2週間以内に一緒にランチに行ったらタダになるようにもしていました。
中途採用も含めて、入社を迷っている人に何が効くかといえば、一緒に働くであろうメンバーとご飯に行くことなんです。今はコロナなのでなかなかできませんが、実際に会ってカジュアルな会話をしてもらうのがいいと思います。
質疑応答
採用ではスキルフィットよりもカルチャーフィットが優先
質問者:企業文化、特にエンジニアチーム文化について、始めから目指すべき文化を作るために採用を進めていくのか、それとも集めたメンバーに応じて文化が形成されていくのか、どのようなアプローチが取られるのでしょうか。
小田中:特に立ち上げ期のスタートアップだと気になるところですよね。長沢さんいかがでしょうか。
長沢:我々は採用基準が明確に決まっています。まずはビジョンフィットすること、次にカルチャーフィットすること、ポテンシャルがあるかどうか、最後がスキルフィットです。どんなに欲しいスキルを持っている人でも、ビジョンとカルチャーがフィットしていなければ採用しません。同じゴールを同じ価値観で目指せるか、ということを大切にしています。
小田中:ありがとうございます。岩田さんはいかがですか?
岩田:長沢さんとほぼ同じです。スキルよりも、ビジョンや思いなどを含めてカルチャーフィットする人を採用しようとしています。その入口を間違えると、結構大変なことになるんですよね。例えば採用過程でエンジニア5名が面談をしたとして、一人でも「合わない」と判断した人がいたら、その場で不採用にしていました。
小田中:うちも同じです。カルチャーフィットがスキルフィットよりも優先順位としては高いです。
オンラインでのオンボーディングはコミュニケーション量が命
質問者:非対面の働き方が常態化する中で、新入社員へのカルチャーの浸透をどのように行っているのかをお聞きしたいです。
小田中:岩田さんいかがですか?
岩田:新入社員はオンボーディングも含めて会社に来てもらっていますね。そうでないと現実感が全くないので、その間は僕やマネージャーも出社しています。そこで大丈夫だと思えばオンラインにします。
小田中:対面の力は強いですからね。長沢さんはいかがですか?
長沢:当社は今の状況だと原則在宅勤務になっているので、特に苦労しています。具体的にやっているのは厚めにコミュニケーションを取ることで、新入社員に対しては上司が1ヶ月間は朝と夕方の1日2回、1on1をするルールにしています。
今は新卒社員のエンジニア研修も全てオンラインでやっていてリアルでは一度も集まっていない感じなので、やはりメンターが毎日1on1をしてコンディションを聞くことで、少しでもオンボーディングをスムーズにしようとしています。
小田中:各社苦労されていますね。弊社も1on1に力を入れたり、新入社員の方々に自己紹介シートを書いてもらったり、チームによっては「偏愛マップ」を作ってもらったりなどして、オンボーディングやカルチャー浸透をしています。
HR系の管理はエクセルベースからSaaSに移行傾向
質問者:HR系のツールは何か使っているのでしょうか?
長沢:HR系のツールというと採用以外にもタレントマネジメントシステムやラーニングマネジメントシステムなどいろいろなジャンルがありますが、それぞれ使っています。
タレントマネジメントシステムを用いて、360度フィードバックなどをしています。十数年前はそれこそエクセルベースでやっていたことが、今はほとんどシステム中心に移行していますね。
小田中:岩田さんはいかがですか?
岩田:採用に関してはSaaSサービスを使っています。タレントマネジメントシステムはまだ導入には至っていません。前職では使っていたのですが、OKRなどをしっかり管理するとなるとUXも含めていろいろな問題があって、なかなか使いこなせないんです。
小田中:うちもタレントマネジメントシステムは使っていますが、岩田さんと同じく使いこなすのが難しいなと思っています。スキルをメンバーに書いてもらう必要があってもなかなか更新されなかったり、知りたい切り口がなかったりですね。使いながらチューニングしていく必要があるのかなと思っています。
「孤高のエンジニア」よりも「成果を最大化するチーム」が求められる時代
質問者:この10年ほどでエンジニアカルチャーはどのように変わってきたと感じますか?特にコロナ以降で顕著な点があればお聞きしてみたいです。
岩田:10年前はまだスタートアップやベンチャー企業が創業したくらいの時期だったんですよね。そういう意味でこの10年でエンジニアの活躍の場が増えてきました。昔はプログラマーやSEは大企業やベンダーに所属するのがメインでしたから。職種も変わりましたね。
クラウドやデータサイエンス、AI、ビッグデータが登場して幅広い職種が増えました。その分、スペシャリストが集まってチームを形成し、プロダクトやサービスを作るというフォーメーションになってきたと思います。フロントエンドなんかも細分化してきて採用は大変だったりしますが、一つひとつの技術がより洗練されてきていると感じます。
小田中:長澤さんはいかがでしょうか。
長沢:エンジニアのカルチャーの観点では、組織やエンジニアリングマネジメントの言語化が進んできた感覚があります。エンジニアリングをきちんと経営の中に入れていこうとする動きが全体感としてあり、そのためにエンジニアリングマネジメントも整備されていったと思います。
スキルは細分化が進んでいる領域と、境界線が曖昧になっている領域の2つが生まれているなと。細分化が進んでいるというのは、まさに岩田さんがおっしゃっていたような部分です。
その一方で、フルサイクルデベロッパーのような言葉も出てきています。それこそクラウドが進化したから、表から裏まで何でもやる人は全部やるといったように、組織や職種の垣根が曖昧になってきている部分があるというのが、ここ10年における特徴なのではないでしょうか。
小田中:僕はこの10年でいうと、やはりいろいろな技術が登場してきたという部分以外に、フィッツパトリック,ブライアン・W/コリンス・サスマン,ベン著の『Team GEEK』にあるような「HRTを大事にする」傾向がすごく増えてきたなと思います。
15年、20年前にまで遡ると、「俺の書くコードが最高だ」と我が道を行く孤高のエンジニアが多かったのですが、職種が細分化してきているがゆえに、「チームとして成果を最大化にしていくと」いう動きが増えてきたのではないでしょうか。
その背景にはHRTの文化という概念が出てきたことや、長沢さんがおっしゃったように、エンジニアリングやマネジメントが言語化されてきたことも関係しています。エンジニアであっても、プロダクトが誰にとって役立つのかを考えるプロダクトマネジメントやUXといったサービスデザインが浸透してきて、より顧客志向・チーム志向に変わってきたと感じます。
最後にひとこと
カルチャーは一日にして成らず。継続的な行動によって初めて体現できる
小田中:では最後に登壇者からひとことということで、まずは僕からお話しさせていただきます。
まずは今日このような素敵な場を作っていただいて、FLEXYの皆さんありがとうございました。カルチャーについて話す機会はこれまでなかったのですごく貴重でしたし、長沢さんや岩田さんのお話を聞いて自社にもフィードバックしたい新たな気付きがえられて良かったです。
やはりカルチャーは一日にして成らずで、掲げたからといってそこに立ち現れるものではありません。実際にそこにいる人たちがカルチャーに沿って繰り返し行動していくことで始めて体現できるものなので、根気強く作っていってほしいと思います。
長沢:短い時間で非常に勉強になるところが多かったです。例えばオンボーディングの話で出た、「新入社員とご飯に行ったらタダになる」みたいな制度は、オンラインであっても明日から取り入れようと思うぐらいには即効性がありそうです。
本当にカルチャーは時間をかけて作っていかなければいけないのですが、コロナで出社できないことで、会社への帰属意識が薄まっていると思うんですよね。その中できちんとみんなで同じ言葉やものを見るためには、今まで以上にエンジニアのカルチャーを浸透させるのが大事になると思います。そういう素敵なカルチャーがたくさんできていくといいですね。本日はありがとうございました。
岩田:例えばナビタイムさんなんかはそうなのですが、社員の人に会うとその会社のカルチャーがわかるんですよ。大手自動車メーカーさんなんかも、皆さんすごくマインドが高いことがわかります。社員に会って「この会社は良い会社だな」と感じてもらえるまでカルチャーを追求することが大事なのだと、経営陣も含めて改めて認識して、粘り強く浸透させていく会社が伸びるのだと思います。自分もここにチャレンジし続けていきたいですね。
小田中:本日のディスカッションは以上です。本日はありがとうございました!