【DMM対談】CTO×VPoEが語るこれからのエンジニア組織

※本記事は2021年3月に公開された内容です。

企業名:合同会社DMM.com
写真左側:CTO 渡辺繁幸 氏
写真右側:VPoE 大久保寛 氏

2020年3月、DMM.comはプレスリリースでCTOである松本勇気さんの退任と、新CTOに渡辺繁幸さんがVPoEに大久保寛さんが就任することを発表しました。

数多くの事業を手掛けるDMMがエンジニア組織の二頭体制を選択した背景には、どのような思いがあったのか。

CTOとVPoEという役職に何が期待されているのかも含め、渡辺さん・大久保さんに取材しました。

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コロナ禍に新体制への移行タイミングが早まった

DMM

写真左側:VPoE 大久保寛 氏
新卒でSIerに6年勤務。その後、2005年にカカクコムへ入社し、約12年の在籍期間でエンジニアとして同社が運営するサービスをほぼ経験、事業責任者や子会社CTOを歴任。その後、メディア系ベンチャーにてCTOとCFOを兼務。2019年より合同会社DMM.comに参画。

右側:CTO 渡辺繁幸 氏
2020年8月まで株式会社アイスタイルでは約10年をVP及びCTOとして牽引。美容系情報サービス@cosmeを軸にECや実店舗、また海外事業など開発に関わるすべてで統括し、自らも企画や設計など幅広く従事。それまでの事業会社においても、その全てでCTOとして事業を推進。

―まずはCTOとVPoEの就任、おめでとうございます。今回DMM.comのエンジニア組織は二頭体制になりましたが、ここに至った背景についてお聞かせいただけますか?

合同会社DMM.com VPoE 大久保寛 氏(以下、大久保):まずは前CTOの松本についてお話しします。もともと彼がDMMのCTOに就任したのは、「社会に広く貢献する」という大きな夢を実現するためのステップの一つという意味合いが強くありました。僕も松本が最終的に次のステージへ向かうことはわかっていたのですが、コロナ禍によって社会が変わったことで、想定よりも早くそのタイミングが訪れることになったんです。

VPoE 大久保寛 氏

大久保:外部から松本個人への相談が多くなったことなどを受け、僕は松本から「DMMのCTOを退任して、より幅広く活動をしたい」という相談を受けました。友人としては背中を押してあげたい。しかし、まだまだうちはエンジニア組織を強くしていかなければいけないタイミングだから、DMMの大久保としては賛成できないという複雑な状況でした。そのときたまたま紹介を受け、面談をすることになったのが渡辺です。一度松本にも会ってもらい、2020年9月にジョインしてもらいました。

合同会社DMM.com CTO 渡辺繁幸 氏(以下、渡辺):当時は、僕は松本が退任することを知りませんでしたね(笑)。

大久保:松本の退任が現実的になり、僕は新体制について考えていたわけですが、渡辺と一緒に仕事を進めるうちに「新CTOには彼しかいないのでは」と感じるようになりました。渡辺に打診をしてから、この先のDMMについて何度も協議を重ねた結果、了承してくれました。

もともと松本がやりたかったのは、CTOとVPoE、そしてCIOによるスリートップの体制です。しかし、CIOというのもなかなか担うのが難しいポジションです。一旦CTOの渡辺と、もともとVPoE候補として入社した僕による二頭体制で進めていくことになりました。

―渡辺さんはもともと株式会社アイスタイルで10年近く@cosmeなどの開発に関わっていたそうですが、なぜDMMへの入社を決めたのでしょうか?

渡辺:僕は前職でもCTOだったので、2年ほど前にCTOとVPoEの二頭体制を体験していました。その上でサービスが十分成長したという実感を得ていたので、次のキャリアに目を向け始めたのが2020年の4月頃です。「自分はそろそろ会社や人の成長を手伝う世代になっている」という思いがあり、それが実現できるのであれば、会社自体にこだわりはありませんでした。

CTO 渡辺繁幸 氏

渡辺:大久保と面談をしたのは5月頃の話だったので、まだ転職の意志が固まっていたわけではありません。でも、面談して30分ほどですぐに入社を決めたんですよ(笑)。会社を選んだというよりは、大久保が話してくれた「やりたいこと」に参加しようと思いました。それがたまたまDMMという会社だったというだけなので、企業の情報は後から調べたほどです。

技術戦略の推進力を倍増させる、二頭体制の大きなメリット

―CTO・VPoEがそれぞれ担う領域についてはどのように決めたのでしょうか?

渡辺:会社としてVPoEに求めていたミッションは、「表舞台に立って会社を牽引する」という役割を担うことです。この前提があったので、今後のCTOとVPoEがどのような職種になるのか、僕も大久保もお互いにすんなりと話し合って決められました。両者が非常に近い立場であり、境界線が曖昧になることも一定受け入れて仕事をしていくという考えも一致しました。

大久保:具体的には採用や育成、組織構造の在り方などについて二人で相談することがあります。ただし、その中でもビジネス的な判断をするのはCTOである渡辺の役割だという認識です。事業展開を見据えたときにエンジニアは今後どう成長していくべきなのか、そのために必要な技術は何なのかといったことですね。

―二頭体制によるメリットはどのような部分にあるとお考えですか?

大久保:CTOの仕事は、基本的に技術選定やエンジニアリソースの調達など技術戦略に関する部分です。しかし戦略という意味では、「エンジニアが事業と同じ速度で成長するにはどうしたら良いのか」というレベルの内容まで求められます。ここまでのことを、多くの会社ではCTOが一人で担っているわけです。ここにVPoEが加われば2倍3倍の力で技術戦略を推進できますから、メリットしかありません。

―渡辺さんと大久保さんはお互いの強みや特性をどのように認識していますか?

渡辺:大久保さんは非常に包容力があって、カバレッジが高いです。キャパシティが大きいのでしょうね。どんなことを聞いても一定以上の答えが返ってきます。

大久保:渡辺と会話していて感じるのは、自分とやってきたことが似ているなということです。ただ、僕はどこかのタイミングで軸足を「人」に寄せました。技術を追求するより、メンバーに任せたほうが開発にスピード感が出せると思ったからです。その分、技術は弱くなりました。

僕が置き去りにしてしまった「技術」をきちんとキャッチアップし続けた結果が今の渡辺なのだろうなと感じます。渡辺を見ていると、「もっと技術をやっても良かったな」と思いますよ(笑)。

大久保寛

CTOの右腕!VPoEに求められる真の役割とは

―二頭体制にはメリットが大きいということでしたが、VPoEという役職自体はまだまだ日本には馴染みがありませんよね。

大久保:今回のプレスリリースには、VPoEという役職自体の知名度を高めていきたいという思いもありました。世の中には松本のように知名度の高いCTOがいるものの、全てのCTOが松本のように活動できるわけではありません。多くの企業に対して「CTOとVPoEの二頭体制にしたほうが上手くいくよ」の事例の一つと見せたいと思っています。

渡辺:そもそも「VPoEとは何なのか?」という部分も含めて出していきたいんですよね。CTOは「最高技術責任者」なので、技術に特化した人材が担うケースがほとんどです。そこに経営能力があればなお良い。ただ、実際のところ技術者には経営よりものづくりに強い人のほうが多いのが現実です。技術者をCTOとして置いても、経営に上手くコミットさせるのがなかなか難しくなります。

そこで発案されたのがVPoEなんです。VPoEは技術のことをしっかり理解しつつ、きちんと経営にも寄り添い、牽引する役目を期待されています。国内ではVPoEというとCTOの補佐官のような理解をされがちですが、世界的には「CTOができない経営的な部分を担ってほしい」という発想からスタートしているのです。

どちらが上下というのではなく、2つの役職が重なる領域で力を発揮することで相乗効果を生み出し、事業の速度や戦略の効果を倍増させていく。これがVPoEの目的ですし、僕たち自身が二頭体制に期待していることです。世の中にとっても、VPoEはますます注目される役職なのではと思っています。

渡辺繁幸

縦と横の2軸で動けるのがDMMのエンジニア組織が持つ強み

―組織の現状についても簡単にお伺いしたいと思います。DMM自体の従業員数とエンジニア数はどの程度の割合なのでしょうか?

大久保:合同会社DMM.comとしては従業員が1739名です。このうちエンジニアは502名ですね。DMMはIT企業のようではあるものの、エンジニアの割合はそれほど多くないほうなのかもしれません。例えばDMM GAMESを運営しているグループ会社のEXNOAも、従業員数920名に対してエンジニアが246名程度です。

※従業員数は2021年年2月時点。2023年時点では1890名。

―DMMには事業部に所属するエンジニアとCTO配下の技術部門に所属するエンジニアの2種類があると伺っていますが、CTO配下のエンジニアは何をミッションとしているのでしょうか?

渡辺:状況に応じたリソースの補充や技術的な困難をヘルプすることなどがミッションです。もちろん、各事業部に所属するエンジニアも当然技術をリードはしてくれています。しかし、会社全体を横断的に見たり各事業部が連携したりする必要がある場合は、事業部の外側から技術的な判断をしたほうが、事業に取り組むスピードや安定性が増す可能性が高くなります。リソースタンクのようでありながら、技術的なアプローチに関して助けに入る場面が多いという感じですね。

事業部付きのメンバーがそれぞれきちんと事業に向き合っているのに対して、CTO配下のエンジニアは横串でサービスを掛け合わせる発想を持った人が多いのが特徴です。エンジニア組織としては縦と横それぞれに軸を持っている点が強みなのかなと思います。

―現在エンジニア組織が掲げているのは、2018年に社外向けにも公表された「DMM Tech Vision」ですが、こういったビジョンを打ち出したことでなにか変化はありましたか?

大久保:これは前CTOの松本が着任したときに、DMMのエンジニアのあるべき姿を言葉にして発信したものです。「Agility」「Attractive」「Scientific」「Motivative」という「4つのTECH VALUE」が説明されています。2年半ほどかけて、これらのワードを用いながら会話する機会がかなり増え、皆が同じ方向に向かって仕事に取り組めるようになったと思います。

渡辺:「DMM.ESSENCE」もそうですが、「DMMらしさを言語化し、社員やDMMに関わる人々により強く伝播していきたい」という思いで作ったんですよね。

デザイナーも含めた開発メンバー全体に目を向けていきたい

―最後に、CTOやVPoEとして、自社のエンジニアに対して「こうあってほしい」という思いがあれば教えてください。

渡辺:エンジニアに対してというより、我々自身が人材輩出会社になりたいという思いはありますね。現在のワークスタイル的にエンジニアはあまり一つの会社に留まりませんし、僕たちはそれを受け入れています。同じ場所で働き続けるのが必ずしも良いこととは限らないので、そういう価値観でいいと思っているんです。

そのとき、経歴書に「DMM.com」と書かれていることが、技術者の社会的信頼性につながればいいなと。ネームバリューを世の中に浸透させて、世界全体に対して人材を輩出できる会社になれればうれしいですね。

大久保:ただ、エンジニアだけが良い思いをできればいいとも思っていないんです。社内には当然デザイナーや営業、バックオフィスのメンバーがいます。一緒にクリエイティブな仕事をする仲間なのですが、特にデザイナーは仕事上のあらゆる場面で置いてきぼりになりがちです。この点を踏まえて、今後はデザイナーにフォーカスした発信をしようとしています。

渡辺:実際に先日、内部向けの開発者総会をやったばかりで、そこでも伝えたのですが、エンジニアという言葉でメンバーを区分けするのではなく、デザイナーを含めたあらゆる開発メンバーにとってより良い組織にしていければと考えています。

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