エンジニア0名の状態からエンジニア組織内製化。海外に開発拠点の立ち上げも成功へ導いたCTOの判断とは――ビーボ・中川雅志さん
2010年に創業した株式会社ビーボ。〝なりたい〟に本気という理念に基づき、現在は女性やマタニティ層に向けて、D2C事業、キャリア事業、メディア・アプリ事業、コンサルティング事業、医療サービス事業など幅広く展開しています。日本のみならず海外にも支社を持ち、2017年には台湾支社を、2018年にはフィリピン支社を設立。エンジニアは国内外合わせて20名の組織です。
しかし、実はビーボは1年半前までエンジニアは0名の状態でした。フィリピン支社と同支社におけるエンジニア組織の立ち上げ、そして企業全体のエンジニア組織内製化を手がけたのが、今回インタビューに応じてくれたCTOの中川さんです。
エンジニア文化が皆無の中でエンジニア組織を内製化することになった経緯や苦労したポイント、海外拠点を上手く成長させていくための秘訣などをお伺いしました。
目次
ビーボの掲げる価値観に共感し、「何でも屋」のCTOに就任
ーー中川さんがビーボに参画した経緯を教えてください。
中川:前職ではアドテク企業の副本部長を務めており、国内の開発を統括する立場を担っていました。ビーボのことを知ったのは知り合いの転職エージェントに教えてもらったのがきっかけですが、実は転職は全く考えていなかったんです。一度、話だけは聞いてみようという気持ちで代表の武川と会ってみたら、非常に自分と近い価値観を持つ企業だということがわかり、面白さを感じてジョインしました。
ーービーボの価値観とはどのようなものですか?
中川:根底に持っているのが、お客様の〝なりたい〟を叶えるために、全力で進んでいくという想いです。私自身もものづくりに対して、ただ作るのではなく、作ったものを通してお客様に価値を提供することを一番大事にしてきた自負があります。もちろんお客様だけでなく、仲間に対しても同じです。そこまで含めて価値観が一致したと感じました。
事業についても、ビーボは「お客様の〝なりたい〟を叶える」を軸としています。これまでは美容・健康商材など女性向けD2C事業をメインに展開してきましたが、現在では一つの事業に止まることなく多角的に事業展開を広げています。例えば半年前から「QOOLキャリア」という事業がスタートしました。女性が活躍している企業と優秀な産後女性を繋ぐための転職サービスです。このように私が参画したタイミングから新規事業をどんどん立ち上げていて、私自身も現在、テクノロジーを使った新規事業を担当しています。
ーーCTOとしてはどのような役割を求められているのでしょうか?
中川:テクノロジー部分は一任されています。大きくは2つの役割が求められており、まずはテクノロジーを強力な手段の一つとして、今ある事業やプロダクトをどのようにスケールさせていくのかがポイントになっていますね。これまで1対1でしか処理できなかったものを1対1万、1対10万といった規模に拡大していくということです。逆に、これまでかかっていた時間を限りなくゼロに短縮するということも役割に含んでいます。 もう一つは、エンジニア視点から新規事業の立ち上げを行うこと。 当社はビジネスサイドがそこまで拡充しているわけではないので、これも大きな軸となっています。
業務自体は基本的に何でもこなします。インフラのアーキテクチャ構築から、フロントエンド、バックエンド、アプリ開発まですべて行いますし、時にはコードを書くこともあります。現在は自分で3つのプロジェクトを進行しつつ、組織全体も見ている状態です。知人からは「なんでも屋だね」と言われます。
フィリピン支社で15名のエンジニアが順調に稼働中
ーー2018年1月にフィリピン支社を設立されていますが、概要を教えてください。
中川:メンバーはトータルで25名ほど。このうちエンジニアは15名ほどです。採用形式は中途のみで、基本的に1~5年の経験を持つ中堅までのエンジニアで構成されています。 海外拠点と言ってもプロジェクト管理の方法は日本とさほど変わらず、基本的にはGitHubを利用したチケット駆動開発を行っています。コミュニケーションはGitHubのコメントで行うのに加えて、オンラインミーティングも毎週設けています。将来的にはスクラムの導入も検討中です。
使用言語はPHPのLaravel。最近は日本だとRuby on Railsを使うことが多いと思うのですが、フィリピンにおいてはPHPの方が圧倒的にエンジニア数が多く、開発効率もさほど変わらないため、あえてPHPを選んでいる形です。
ただ、技術選定に関しては日本サイドの選択に対してあまり受け身になってほしくないとも考えていて、明確な論拠があればフィリピンのエンジニアが使いたい技術にチャレンジしてもらうようにしています。実際、一部はPythonを利用していますね。
ーーフィリピン支社の評価制度はどのような形になっていますか?
中川:クォーターごとにエンジニアに技術試験を課していて、その点数を評価に反映しています。ふるい落とすためというよりは、日本基準のクオリティや、我々が企業として求めるレベルを理解してもらう意味も込めた試験制度です。
企業のグローバル化を見据え、あえてトレンドではない選択をした
ーーでは、フィリピン支社立ち上げの経緯はどのようなものだったのでしょうか?
中川:私がビーボにジョインした当初から、新規事業を立ち上げたいという代表の意向がありました。その一環であるプロダクト開発のために、ベトナムのパートナー企業と提携することが決まったんです。ただ、日本にいてはなかなかプロジェクトが進まないということで、入社から一ヶ月も経たないうちにベトナムに赴き、開発に携わりました。
海外支社の立ち上げの話が進んだのは、そんな最中です。当時、代表はプロダクトを内製化したいという想いも抱いていたので、私としてもチームを日本で作ろうか海外で作ろうか検討していました。そんな時、たまたまベトナムに訪れていた知人に興味を持ってもらえて、一緒に支社を立ち上げようという話になったんです。
急ピッチでプランを練り、代表がベトナムに出張に来たタイミングでプレゼンをしたところ、GOが出たのが発足の経緯です。2017年の11月頃のことです。
ーーベトナムのパートナー企業と仕事をする中で、支社の立ち上げ先をフィリピンにしたのはなぜですか?
中川:確かに、現在日本の企業が海外チームを作る際の選択肢として挙がるのは、多くの場合ベトナムです。ベトナムは日本語を喋れるエンジニアが比較的確保しやすく、技術レベルも一定の水準が保たれているからです。 その中でフィリピンを拠点に選んだのは、今後、ビーボをグローバル展開させていきたかったからです。そうなるとエンジニアに英語スキルが必須になります。ところがベトナムは英語ができるエンジニアの割合が比較的少ないため、通訳のコミュニケーションコストがかさんでしまうデメリットがありました。一方、フィリピンで英語は公用語です。また、ベトナムに比べるとフィリピンの方が人件費が安いという要素もありました。
私自身はこれまで海外チームを設立した経験が何度かあったので、どの国でも立ち上げはできる自信がありました。だったら、あえて他の企業がまだ挑戦していないフィリピンを拠点にするのは、選択の価値があると判断したのです。
ーー海外拠点立ち上げに際して、苦労した点はどこですか?
中川:ベトナムと違い、フィリピンには中堅レベル以上のエンジニアが少ないことですね。エンジニアを採用したら育て上げる必要があります。育成にあたっては、フィリピンのエンジニアは圧倒的に経験値が不足している部分が大きいので、まずは任せてみること。そして出来上がったものに対して、コードレビューなどを通して細かくフィードバックすることを繰り返しています。
しかし、ただ育成していればいいというものではなく、海外支社としてビーボ内での成果も出さなければならないのがもう一つの苦労でしたね。当社はそもそも国内においてもエンジニアがゼロの状態から海外支社がスタートしていますから、「フィリピンのエンジニアは何をどのように開発しているんだろう」と思われないよう、わかりやすく目に見える形で成果を提示する必要がありました。
オフショアではなく、チームの一員として海外拠点を据える価値
ーー6月に社内でBbo Global Tech Meetingを開催されたそうですが、どのような目的で行われたものですか?
中川:1年半かけて、ビーボはフィリピンだけでなく日本もエンジニア体制が整い、一部ベトナムにもエンジニアを抱える状態となりました。そこで、一度エンジニア全体に対してビーボとは何か、そしてビーボのエンジニアに求められるものは何かといった話をする場として設けたのがBbo Global Tech Meetingです。開催地はフィリピン支社で、各国のエンジニア全員が集まりました。
ミーティングの一番の主旨は、エンジニアとして目指すべきゴールの目線合わせです。ビーボにおいては、海外支社に対してオフショアという言葉は使用していません。
集まったメンバーには、ビーボの一員として自分自身がオーナシップを持ち、プロフェッショナルとして新しいことにチャレンジしていってほしいという想いを伝えました。
ーーオフショアという言い方をしないのは、重要な意味を持ちそうです。
中川:海外チームを作って成功するか失敗するかは、オフショアという観点で見ているかどうかも関係すると思います。オフショアだと思って見ていると、「依頼した通りのものを作れないじゃないか」と判断して失敗する。海外と日本の文化にはかなりギャップがあることも相まって、どんどん方向性がブレてしまうんです。
そうならないよう、海外支社はオフショアでもなければアウトソースでもない、自分たちのチームだという視点は現地のエンジニアに伝えていきたいキーワードですし、だからこそきちんと育成もしています。
ーーその他にBbo Global Tech Meetingではどのような内容を共有したのでしょうか?
中川:現在ビーボで使われているテクノロジーと、これから使っていきたい技術についても解説しましたね。例えば現在稼働しているQOOLキャリアという事業はHR領域なので、HRテックが関係します。ビッグデータなどを扱い、マシンラーニング(機械学習)で解析をしてユーザーにレコメンドをするといったことを普通に実施しなければなりません。その中でも、マシンラーニングはSQLと同じくらいエンジニアの必須スキルになっていくだろうという見通しがあるので、今からきちんと勉強しておくべきだという話もしました。
アプリ領域であれば現在カメラを使用したアプリ開発をしているので、コンピュータビジョンは今後使用していく技術になります。また、音声解析や自然言語解析によって価値提供することになるだろうとも伝えています。
エンジニア組織内製化が生み出した「お客様のために使う」時間
ーーもともとエンジニア文化が全く無いところから組織を作り上げたことで、社内にはどのような変化が生まれましたか?
中川:社内にテクノロジーを作り上げる技術が無い状態で、例えばD2C事業ならECサイトの制作の一部をベンダーに依頼していました。ただ、やはり外注では自分たちのビジネスにマッチしない部分も出てきてしまいますし、何か新しいものを自分たちで作り上げることもできません。そこに自社のエンジニアが入ることで、これまで不足していた部分の改良を進められるようになりました。
カスタマーサクセスのための取り組みも、これまではテクノロジーに置き換えようとしても他社の既存プロダクトでは実現不可能でした。そこも内製化によって、どのようにテクノロジーと融合できるのか、一つひとつ考案しはじめることができています。
また、今までは単純作業を人力で行っていて、毎日スマホのタイマーをセットしてWebサイトに必要な機能の切り替えを手動で行ったり、数値の集計をCSVに落として報告していたりといった状況があったんです。そこはテクノロジーの得意分野ですから、全てエンジニアが自動化する。すると、今まで単純作業によって奪われていた時間を、お客様のために使うことができるという流れになります。
まだまだ途上ではあるものの、社内にも徐々に「テクノロジーとはどういうものなのか」という観点が浸透してきたのではと思っています。