データドリブン×オープンイノベーション~データドリブンの本質的価値とその先にあるものとは~

※本記事は、2019年1月に公開された内容です。

2018年12月4日に開催されたCTO meetupで、「データドリブン×オープンイノベーション」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。膨大なデータをどう抽出し、どう活用すればいいのか。そして、デードリブンがどのようなオープンイノベーションにつながるのか。

規模を問わず各企業のCTOやリードエンジニアを招き、エンジニア、プロダクト、そして企業においてデータドリブンがどうあるべきか、たっぷりと語っていただきました。

【ご登壇者】

  • 星川 隼一 氏
    THECOO株式会社 執行役員 Product Manager
  • 高橋 道幸 氏
    株式会社Hacobu 執行役員
  • 竹馬 力 氏
    株式会社リブセンス 不動産ユニット IESHILディベロップメントグループリーダー
  • 本間 美香 氏
    弊社FLEXYご登録専門家

【モデレーター】

  • 生内 洋平 氏
    株式会社マクアケ 執行役員 CTO

登壇者のご紹介

異業種、異分野で大量のデータを取り扱う最先端のエンジニアたち

CTOmeetupデータドリブン

生内:
株式会社マクアケでCTOをしております、生内です。もともとはミュージシャンで、バンドのホームページを綺麗に作りたいという思いからデザイナーになり、インタラクティブなどにも興味を持つうちに自動的にエンジニアになっていた、という経歴です。以前はKDDIグループのSupership HDというアドテクの会社に所属していましたが、去年からマクアケに参入しました。マクアケは国内最大のクラウドファウンディングサイトMakuakeを運営していて、現在急成長している会社です。本日はどうぞよろしくお願いします。

星川:
THECOO株式会社で「fanicon(ファニコン)」という、SNS的な会員制ファンコミュニティアプリのプロダクトマネージャーを務めています、星川です。「fanicon」はサービスも徐々に拡大して、現在エンタメランキングのトップ4にランクインするレベルになってきています。

僕自身のキャリアとしては、2011年にGoogleに新卒入社してデータ分析系の仕事をこなしていました。BigQueryを活用して検索やGoogle playのデータ分析を行い、それをセールスマーケティングに活かしたり、エンジニアにパスしてさらに解析してもらうといった業務内容です。その後、THEBOOに参入しました。今日のテーマに合ったお話ができるかはわかりませんが、どうぞよろしくお願いします。

高橋:
株式会社Hacobuの高橋です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。出身は北海道で、高卒エンジニアです。この業界には36年ほど携わっています。大型汎用機をはじめ、UXやハードなど、さまざまな事業に関わってきました。

Androidが出始めてからは教育関係事業の立ち上げに伴って講師を務め、通算200名以上技術者を排出しました。その後通信キャリアのモバイルネットワーク開発に参入し、大量のグラフィックをさばくためのシステムに携わりました。OSの構築・実装も経験しています。注目している技術はブロックチェーン系で、当社の開発しているサービスに取り入れることができないかどうか、研究を始めている状況です。

竹馬:
竹馬と申します。大学時代に上京し、ベンチャー企業に就職しました。7年間のフリーランスを経て、前職のビルコム株式会社ではCTO兼開発マネージャーを務めています。株式会社リブセンスには5年ほど前に入社しました。現職では2015年に「IESHIL(イエシル)」という不動産価格査定サイトの立ち上げを経験しています。「IESHIL」は、機械学習で中古マンションの価格査定をして、結果をWebサイトに掲載して集客するというビジネスモデルのサービスです。立ち上げ期からシステム全体を見ており、開発においてはデータエンジニアとしてビッグデータをどう整形するのか、という部分を中心に進めています。その一方でローンチから3年経過したこともあり、どちらかといえば組織づくりに注力している状態です。副業的にCodeZineというメディアでRuby on Railsの連載をしたり、技術顧問としても活動しています。

不動産業界はFAX、電話文化が根強く残っていて、まったくIT化が進んでいないため「IESHIL」の立ち上げは非常に難航しました。Real Estate Tech(不動産テック)が叫ばれてはいますが、果たしてどんなTechでどのように勝負するのかが重要だと痛感していますね。そんな中で最近は「ビッグデータを上手に扱う仕組み」をきちんと作れるデータエンジニアの需要が非常に高まっていると思っています。

本間:
本間と申します。リクルートホールディングスのリクルートテクノロジーズという会社に所属しています。入社は2012年です。リクルートテクノロジーズはホールディングスのさまざまな事業会社のエンジニアに対して、あらゆる形で技術提供をしてビジネスを加速させるという役割を担っています。私はUXを主担当として参画している形です。

1つの領域に特化するというよりは、複数領域に対してUXという武器によってビジネスを加速させる役割を担っているので、現在担当しているプロダクトはアルバイトのタウンワークや、転職権、派遣系、さらにブライダルなどさまざまです。

仕事を進める中で課題に感じているのは、UXのエンジニアにそもそもデータを見るという習慣が徹底されていないということです。そこでUXブートキャンプというコンテンツを社内に作り、新卒・中途入社の方々のベーススキルとして「データを見ながら企画をつくる」という考え方や行動の仕方を教えるという役割も担っています。

生内:
ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします!

CTOmeetupデータドリブン

あなたの会社のデータドリブンについて

事業をグロースさせるため、データに基づいたKPIを設定するのは重要か?

生内:
ではまず、「あなたの会社のデータドリブン」という視点で、みなさんがどのように事業を進めているかお話しいただけますでしょうか。

星川:
当社は40人規模の組織ですが、他社と一番違うところはできるだけGoogleのサービスを利用している点です。サーバはすべてGCPで、Excelなども使わずGoogle Docsです。これの一番の利点は、BigQueryへの反映が非常に簡単だということですね。データエンジニア的役割は、Googleが担ってくれるという認識です。集まったデータは社内の誰でもアクセス可能で、SQLさえ書ければいろんな人が分析できる社内環境になっています。

生内:
プロダクトをドライブさせる要素として具体的なKIPなどはあるのでしょうか?

星川:
「fanicon」は月額500円のサービスですが、当然一ヶ月加入してもらっただけではペイしませんから、どれだけ続けてもらえるかは当然重要です。また、サブスクリプション業界にはquick ratio(当座比率)というものがあり、これはサブスクリプションモデルの健康度合いを示す数字です。分母に今月退会する人の数、分子に新規入会者を置き、1.1を超えるとサービスは加速度的に伸びていくとされています。例えば今月100人やめても120人入ってくれば、クイックレシオは1.2です。

僕自身、KPI自体は「どうすれば伸びる」という答えがあるというよりは完全にビジネスモデルに依存するものだと思っているので、逆にKPIが重要であるという話があれば聞いてみたいです。

高橋:
KPIへのこだわりはさほど無いですね。ただ、ビジネス向けのサービスを扱っている分、いかに顧客を逃さないようにするか、という部分には非常に注力しています。新しい仕組みを入れては分析する、ということを日々繰り返している状態です。

生内:
リクルートさんはプログラミングでもかなりデータを見る会社というイメージが強いのですが、本間さんはいかがでしょうか。

本間:
おっしゃるとおりリクルートはとにかくデータを見る習慣があり、モニタリングフォーマットも非常に細かいです。とあるサービスの集客の状況をモニタリングするシートの場合はA3表裏全2Pで、チャネルごとにKPIが細かく決まっています。それに対して何%成功したのかをモニタリングして、その理由を週次報告するサイクルです。問題があれば改善計画を立てますし、数字をどう見るのかという点についてはかなり魂を込めて徹底している会社です。

生内:
重箱の隅をつつく勢いで、0.1%の伸びを積み上げていきますよね。

竹馬:
当社もKPIを比較的重視する文化です。事業の数値が予測から乖離しないように、細部までチェックしますが、エンジニア目線で言うと正直「そこまでKPIが重要だろうか」と感じる場合はありますね。実際、当初採用していたKPIを追うのをやめて、OKRを導入した他社事例も増えています。なぜKPIを設定するのか、KPIの先に何があるのか、プロダクトが実現したいビジョンに対してKPIの目線が合っていないと、テクニカルな部分だけに走ってしまい、最終目的地を見失ってしまいがちです。

生内:
当社にはシリコンバレーのCOOだったメキシコ人が在籍しているのですが、その人が言うには、「こうすれば事業が伸びるはずだ」という空気が会社にあふれているうちはデータを見なくていいそうです。もし迷ったらデータを見る。これに関しては、僕もそのとおりだなと思います。

竹馬:
「IESHIL」の立ち上げ時は10名以下のコンパクトな組織で意見も比較的まとまりやすかったですし、エンジニアはできるだけコードを書く仕事に専念した方が効率がいい、というのは実感しました。

リーンスタートアップが流行った際はA/Bテストをやった方がいい、いろんな数値を見よう、という風潮がありましたが、情熱を持って「やろう!」と全員が一致団結できたら、数値はそれほど重視せず突き進んだ方が成長への近道だという実感があります。

高橋:
僕は逆ですね。うちも規模が小さい頃は開発優先で、データは見ない、とにかく動くんだ、という気持ちで進めましたが、正直、データをきちんと見ておけばよかったと思うことがたびたびあります。作ることを優先した結果、システム全体としては2,3回作り直す状況が起きていて、やっと形になってきたところです。何が重要で何が重要ではないのかを見分けることが大事だと思います。

CTOmeetupデータドリブン

不動産、物流――IT化が進んでいない領域におけるデータドリブンの在り方

生内:
「IESHIL」はそもそも「価格診断をデータに基づいて行う」という文脈のプロダクトで、データドリブンそのものだと思いますが、実際のところはいかがですか?

竹馬:
不動産はIT化が十分には進んでいない領域で、なおかつ情報の非対称性の塊のようなものです。ネット上に価格を勝手に乗せるとはなにごとだ、誰に断って価格を決めているのだ、とクレームが出る。内心、「我々はこの情報の非対称性があるから儲かっているのだ」と思っている方も少なくないと思います。インターネットでイノベーションを起こしていこうとしている側と、従来の価値観で働いている側では、価格をネットに乗せるということ自体が、今までの常識からは考えられないことなのです。

その中でデータを入手するのは非常に大変で、webクローリングくらいしか手法がない。不動産会社に詳しい方はご存知だと思いますが、「REINS」という業者間しか見られない流通システムがあり、そもそも情報が一般消費者に開放されていません。そういった既存の仕組みを変えていかなければならないという根本の部分から、苦労しています。「IESHIL」をリリースした頃は、国土交通省や総務省、内閣府などに足を運んだりもしました。

生内:
高橋さんは物流系のサービスを手がけていらっしゃいますが、いかがですか?

高橋:
Hacobuでは陸上運送に関わるサービスを提供しており、トラックの調達や車両の現在地、倉庫の管理業務などを行っています。ただ、これらの業務は物流の動きそのもののデータを取るための入り口に過ぎませんし、サービスも完成形ではありません。我々は管理によって得られるデータをもとに、共同配送をはじめとしたより効率の良い配送ができるようになると確信しているので、現在はそのためのデータの蓄積を行っているんです。最終的には物流業界全体のプラットフォーマーとして機能することを目指しています。集めたデータは専有せず、広く業界の方に使っていただく。集めたデータを加工してどう表現するかは、当社以外にも力やアイデアのある会社さんにお任せするつもりです。

生内:
プロダクトをグロースさせるためにデータドリブンをしていくというケースもあれば、データドリブンそのものをサービスとして提供する例もあるということですね。不動産業界のように、これまでITが入り込めなかった業界に対してアプローチをする際に気をつけていることはありますか?

高橋:
物流系の企業もアナログ作業が非常に多い上、職人気質の方もいらっしゃいます。データ化やシステム導入をしましょうとご提案すると、自分の仕事が奪われるのではという危機感を感じで、導入していただけないことがあるんです。ただ、人の技術と違いデータだからこそ他社の成功事例をそのままコピーできて、自社にとって有益になるんですよ、という話をすると比較的抵抗なく受け入れてもらえるという話があり、その点は僕自身も実感しています。

生内:
ナレッジシェアのような考え方ですね。実際に取得した物流データをどうハンドリングされているのかお伺いしたいのですが、エンジニア組織や環境はどのような体制なのでしょうか?

高橋:
技術者が10名、QAエンジニアが12名。データ専門のエンジニアはいないので、今から採用しようとしています。プラットフォームに利用しているのはAWSです。

生内:
「IESHIL」はいかがでしょうか。

竹馬:
立ち上げは機械学習のモデリング担当が1名、webアプリケーション開発担当が1名、全体管理が1名の計3名でスタートしました。着手から2ヶ月半の突貫で作りましたね。最近は7名体制です。

ビッグデータ活用にTreasure Dataを活用しており、技術的にはDigdagやEmbulkを使っています。不動産業界はデータの不正確性が原因で名寄せが非常に大変です。機械学習は前処理が9割と言われますが、本当に手間暇がかかります。データエンジニアは、Embulkのプラグインを使って複雑な処理を記述することも少なくありません。みなさんが見たらびっくりするようなSQLもあります。かなり泥臭い業務ともいえます。

0→1か、1→100か。プロダクトのステージでデータを用いるかどうか見極めが必要

CTOmeetupデータドリブン

生内:
本間さんにお伺いしたいのですが、実際にデータを集めてきてデザインに活かせる状態にする、それをユーザー体験にまで落とし込むというプロセスについて、気をつけるべきポイントはあるのでしょうか?

本間:
データとUXの関係性は、「風が吹く桶屋が儲かる」のようなものだと思っている部分はあります。データを取って見えるのは、「桶が何個売れたか」という瞬間を切り取ったものですが、なぜその状態になっているのか、どういうカスタマーがどういう心境でサービスを利用しているのかは、想像力を膨らませなければいけません。イメージをもとに課題や仮説を立てていき、その内容の正誤は「このデータを見ればわかるのではないか」と予測し、またデータを取りにいく。この繰り返しによって風と桶の関係性の解像度を上げていく作業を仕事として行っているのだと思います。

そのときに、そもそもデータが取れていない、あるいはカラムはあっても正しく入力されていない、一部分しかない、間違った形で入っている、というケースが多々あります。そこを正しい状態に直していくために労力がかかるんですね。一目瞭然でわかるようなデータ設計をしているサービスは本当にすごいと思います。

星川:
当社はリクルートさんのようにレポートを提出したり、風と桶の関係を説明する文化はなく、プロダクトが大きくなるという結果のみが必要とされます。そこに対するアプローチとしてデータを用いるのか、風を感性で掴むのかは時々によって変わりますね。

本間:
ただ、リクルートがデータばかり見ているかというとそうではないんです。プロダクトを0→1で立ち上げるのか、1→100にグロースさせるのかというタイミングによって、全くアプローチが違います。1から100にしようというフェーズでは細かく数字を見て仕事をするケースが多い。0から1の段階で数字がどうこう言っていたら、ビジョンから全くズレたものが出来上がってしまうので、ビジョン先行で開発すべきだと思っています。

竹馬:
「IESHIL」がようやくマネタイズできるようになってきた状態で、0→1と1→10が混在しているフェーズですね。ですからKPI的なものを設置して数字を上げる方法も有効ですし、逆に0→1で作る機能に関して数字はそれほど重視しないこともある、といったように使い分けています。

生内:
プロダクトがどの段階にあるのかを見定めて、身の丈に合ったデータドリブンを目指すのが大切なのかなと思いました。では、次のテーマにいきたいと思います。

データドリブンをオープンイノベーションで成功させる

泥臭い努力の積み重ねの先に見える、データドリブンによるイノベーションストーリー

生内:
では第2部のテーマは「データドリブン×オープンイノベーション」という大きなくくりでお話しいただきたいと思います。まさしく、自社のプロダクトが次の壁を飛び越えるフェーズにあるという方はいらっしゃいますでしょうか?

高橋:
当社は先程ご説明した通り物流業界のプラットフォーマーになりたいという目標を掲げていますが、そのためのデータドリブンには非常に難しい部分があります。これはデンソーさんの事例ですが、実際に車にコンピューターを積んで、ドアを開ける、ハンドルを回す、ワイパーを動かすといったさまざまな情報を全部集めたそうです。そのデータをもとに車をモデリングして走らせてみたところ、車がひっくり返って走ってしまった。原因は現在車が傾いているかどうか、という部分のデータ不足です。

うちのプロダクトも似たようなフェーズに差し掛かっていて、例えばA地点からB地点にいつどんな車両を運んでいるのかという基礎的なデータはあるものの、当社が提供したいのはその先にあるデータで、数ある配送データの中から効率の良いルートを検索したり、どこで荷物をピックアップしてどこで下ろせばいいのかといったことを出したい。しかし、そのためには例えば荷物の種類と、それを同時に運んでいいのかどうかといった付加情報がまだ取り切れていないんです。「もっとプラスアルファのデータを取らなければいけないんだ」ということに気づき始めた段階で、さらにその取得方法が課題になっています。

生内:
そうなると膨大なデータ量が増えると思いますが、その点で組織的に変化が望まれるのか、あくまでプロダクトとしての戦略を変えるだけで済むのかといった部分はいかがですか?

高橋:
まず、何のデータを取れば有効なのかということを先に決めなければいけません。ただし、取れる情報と取れない情報がもちろんありますから、取れる情報の中から組み合わせて最適化することが今後のビジョンにもつながっていくと思います。データ分析をしっかりできる方がいない状況もあるので、それを構築するための仕組みづくりにも非常に悩んでいるところです。

生内:
チームとしても一段ステップアップする必要があるということですね。竹馬さんは1部で事業が少しずつマネタイズできてきたというお話をされていましたが、イノベーションを形にしていくためにはどういった流れがあるのでしょうか。

竹馬:
我々も不動産業者と実際に家を売買する方々のプラットフォームとして「IESHIL」を使ってもらうことを目指しています。不動産業界には仲介業者が顧客の囲い込みをしたり、売り手と買い手の両方から仲介手数料を得る両手仲介をするといった状況があります。本来なら売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいという形で利益が相反するので別々の仲介業者が立つ方が健全ですが、1社で行うのが慣例になっている側面があります。そんな状況が普通とされている中で不動産取引の透明性を高めることが我々のビジョンでもあり、いかに既存の業者やユーザーにそのビジョンを浸透させていくか、という部分が肝になります。データをオープンにすることもそうですし、例えば建物の地震のリスクなども普通に伝えています。直接お金に関わることですから、「そんなこと書くな!」という方も当然いらっしゃいます。ただ、それを当たり前にするのがいかに価値の高いことなのかを、文化として認識してもらう必要があるんです。

リリースした当初はサービス自体も相当叩かれて、「勝手に掲載するな、削除しろ」というクレームが少なくありませんでした。ところが3年経過した現在は、「より正確なデータに修正して欲しい」という内容にクレームの質が変わってきた。これは、ネット掲載が実はいろんな人のメリットになっているという認識がだんだん浸透してきた証拠だと思いますし、3年間地道にやってきたことが文化として根付き始めているのかな、と感じています。

生内:
Googleのストリートビューと似ているかもしれませんね。泥臭くデータドリブンを続けた先に、今のお話のようなきらきらしたものがあるというのが、オープンイノベーションそのものかと思います。

星川さんにお伺いしたいのですが、ファンコミュニティにおいて、データがこじ開けるオープンイノベーションとはどんなものなのでしょうか?

星川:
イメージが湧きやすいところでいうと、アイドルに対する行動が1つあります。ライブに行って、ツイッターで感想を呟いて、ファンクラブに入って、同じアイドルが好きな人と友達になって、物販を購入して、またライブに行って…。これらの行動がこれまで顕在化していた部分ですが、それがユーザー個人に紐付いていくと、一人のファンにものすごく価値がある、という話になると思うんです。「毎回握手会に来ている」というだけだったのが、「毎月50万くらいグッズを買ってくれている」ということをデータによって伝えられれば、ファンがどれくらいアイドルを大切にしているのか、アイドルがその人にとっては人生の一部であるということがより伝わる。そうなれば、タレントがよりファンを大切にしていけるような世界になると思います。

「データ分析してどうプロダクトを改善するか」という使い方が今までの主流でしたが、それがサービスに食い込んでいったときにユーザーにとってどんなメリットがあるのか、という部分を捉えるのが次のフェーズだと思いますし、ユーザーの幸せにもつながるのではないでしょうか。

生内:
本間さんはいかがでしょうか?

本間:
あくまで個人的な考えですが、普段0.0数%の範囲で成長していこうと思うと、どうしても同じ課題に行き詰まります。そのとき、見るデータの幅を広げる必要がある。前工程か、後工程か、あるいはドメインを広げるのか、という話です。転職のマーケットデータ見ているとすれば、「労働」というカテゴリにまでデータ範囲を広げて、アルバイトや派遣というマーケットのデータをリクルートの経済商圏で取ることができる。また、オンラインだけではなくオフラインのデータにまで視界を広げて企画をする方が新しい発見もできます。

例えば「後工程か前工程か」という話でいくと、ゼクシィは結婚式場見学というアクションがKPIになっていますが、なかなか見学量は増えない。サイトを改善する必要はもちろんあるかもしれませんが、よく考えると結婚件数自体が減ってきているから、増えないのは当然なんです。そもそも結婚数を増やせば、自分たちのサービスにお客さんが戻ってくるだろうという発想で前工程のデータを取りにいき、課題設定をしてプロダクトを作った形です。

ほかにも、転職を決めた人には引っ越しの需要があるといった関係性がデータベースから見えてきたなら、転職が決定したらすぐに住宅の案内をするといった設計ができる。見るデータの範囲を変えてみる、というのはイノベーションを生み出すための手法だと思います。

CTOmeetupデータドリブン

ビジネスがわからないエンジニアVS数字に興味がない経営層

生内:
そのほか、オープンイノベーションをめざすエンジニアに対して伝えたいことはありますか?

本間:
大したことではありませんが、未来のデータからアイディエーションするのは0→1の観点では楽しいかもしれませんね。2030年のマーケットがどうなっているのか、例えば外国人の労働人口が増えることで何が困るのか、空き地の増加によって地方は土地の価値が下がるといったことなど、未来でほぼ確実に起こるであろう問題に関するデータを見るのは、私個人も好きです。

生内:
信憑性はともかく、世の中を広く見たときのビジネスポテンシャルがどこにあるのか、我々がどこを攻めるべきなのかを見出すことはできるかもしれないですよね。竹馬さんいかがですか?

竹馬:
私は総務省や内閣府など行政府に対してオープンデータの活用という文脈で接触する機会がありましたが、データをオープンにしてAPI提供するといった価値を広めるのが、まだまだかなり難しい状況にあるということがよくわかります。例えば待機児童の状況について、各自治体が公開しているわけですが、フォーマットがばらばらで、pdfで出している行政もある。リアルタイム性も乏しい。どうパースすればいいのかもわからない。データ化の仕組みをどう浸透させていくのか、どうオープンな方向に持っていくのかは、社会の課題の1つだと認識しています。

これに関連してもう1つ感じているのは、すでにデータドリブンやオープンイノベーションといった事柄は、エンジニア視点ではもはや当たり前のことだということです。オープンソースを使っているだけでも広い意味ではオープンイノベーションです。そのエンジニアの感性を、いかに硬直したビジネスの現場に取り入れていくのか、ということを考えるのが大事だと思います。

高橋:
サービスの導入先の経営者もデータに無頓着な方が非常に多いです。その一方で、早目に世代交代された運送会社さんは導入に非常に熱心ですし、「もうこのサービスを手放せない」とまで言ってくれます。現在はデジタルに慣れている世代とそうでない世代の交代時期なんですね。ですから今後はデータ分析をして提供する仕組みを受け入れてくれる企業様が増えてくるだろうという気風は感じています。

生内:
どうしたら若い世代だけでなくいろいろな世代に受け入れられるようになるのでしょうか。

本間:
お互いに好奇心の壁があると思います。データを提供する側もビジネスに対して興味を持って、この数字が一体ビジネスにどう重ねられるかという分析を行う必要がある。ビジネスや企画サイドなどの意思決定層は、ビジネスを数字で見るとどういう構造になっているのかということに興味を持つ必要がある。

そう考えると、自分の知見にとらわれずにフラットに意思決定をし、スピーディに実行し、徹底的に合理化や効率化を図るにはどうしたらいいのか、ということを突き詰めた人たちがデータドリブンに行き着くのだとも思います。だからこそ、カルチャーを変えていくことが大事なのではないでしょうか。

星川:
データを見ない経営者と、経営層がわからないアナリストはいい対比ですね。僕自身もこれまでビジネスには触れてきませんでしたし、自分のことをビジネスマンだとも思ったこともありません。クリエイターであるという意識がある中で重要視しているのは、ユーザーがどうしたら幸せになるのだろうか、というところです。そこにお金を絡ませるのは、ほかの人が考えるからいいじゃないか…と感じます。

その一方で、いいものを作るための手段の一つとしてデータがあり、何かしらの権限を持つようなデータを扱って発信していくのは組織としては重要です。そういった視点でいくと、エンジニアそのものがデータを通して評価されるのは、社会的に良いのかなとも思います。

生内:
データは一つの言語だと思いますから、新しい言葉を使い慣れていく人が増えていけば、世界の見方をみんなで変えることができる、ということだと思います。

データドリブンは泥臭い努力の積み重ねがあって、はじめて自由気ままに世界を見渡せるようになるものです。そこにイノベーションが生まれてくる可能性がある。我々の手の届くところにある世の中の多くのデータに目を向けることが、オープンイノベーションに近づくコツなのではと感じました。以上を今日の結論にしたいと思います。本日はみなさんどうもありがとうございました。

データドリブン

質疑応答

エンジニアが本当に参加したいのは、リアルなデータを用いたイベント

質問者:
私はデータサイエンスアカデミーという会社で、データサイエンティストの人材育成や企業研修を行っています。イベントでは、さまざまなデータを見て仮説を立て、提案をするというデータサイエンティストの仕事の一連の流れを体験するという企画も実施してます。データを触る機会無い方が多い中で非常に好評だったのですが、みなさんの視点で「こういうイベントがあったら面白そうだ」と思うものがあれば教えてください。

竹馬:
企業が企画したハッカソンには私も参加したことがありますが、リアルなデータが使用できないことがあり、残念だなと思いました。実際の現場で使うデータはもっと汚いし、問題が山程ある。それらをどう整形して有意義な形にするのか、どう分析するのか、というところが重要だからです。

ですから、もっとOJTに近い形がいいと思います。ビジネスの現場で実際に困っている課題があり、それをどう乗り越えていくのかというテーマはどうでしょう。データ分析や機械学習など、幅広いスキルが必要になりますし、本当の意味でのデータエンジニアリングには、そういった領域をトータルにこなすことができる人材が一番求められている。市場価値も非常に高いと感じています。

星川:
僕が行きたいと思うイベントがあるとしたら、「金額以外のデータを全部公開して共有し合う会」ですね。データ分析をして仮説を立て、実際に成功した事例は各企業が社内にたくさん蓄積しているはずです。個人ではそんなデータを出していいのかどうかもわからないし、ぼかすのも難しい。そういったものをすべて共有できる場があれば、参加してみたいですね。

生内:
「管理画面チラ見せナイト」なんかあれば、相当盛り上がりますよね。

星川:
Google Analyticsを全公開など、いいですね。

本間:
業種、業界別に複数企業のデータ開示可能な範囲でBIの構成まで見せたり。整形のプロセスも関数まで入れたら、まったく違う事業ごとでどういう結果が出るのか、といったことを試すのも面白いですね。

ご登壇者及び、ご来場者の皆様、有難うございました!

CTOmeetupデータドリブン

企画/編集:FLEXY編集部

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