外部人材活用における戦略【vol.1】~現代のエンジニア組織のグロース手法~
2021年3月11日に開催されたCTO meetup。今回のテーマは外部人材活用における戦略です。 登壇していただいたのは、それぞれ組織規模が異なる3社のCTO及びVPoEの方々。
社員と業務委託の比率から、具体的なタスクの切り分け方、外部人材活用のメリット・デメリットに至るまで、現在外部人材の登用を考えている方にとって気になる情報が満載のイベントレポートです。
目次
イベント冒頭:登壇者のご紹介
各社のプロダクト概要と組織づくりの考え方
エムスリー株式会社/執行役員VPoE PdM CDO 山崎 聡 氏(以下、山崎):エムスリー株式会社の執行役員VPoE兼PdM兼CDO兼品質管理責任者を務める山崎と申します。
山崎:僕はもともとソフトウェアエンジニアで、プログラミングを始めたのは8歳の頃からでした。以来34年間プログラミングを続けており、プロダクト開発が大好きです。
エムスリーは2000年9月に設立された東証一部上場のメガベンチャー企業です。事業の目的は「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」。日本最大級の医療専門サイトm3.comや、患者が医師にネットで相談できるAskDoctors、クラウド電子カルテのエムスリーデジカルなど手広くサービスを手掛けています。
本日はファシリテーターとして参加しておりますので、どうぞよろしくお願いします。
ミイダス株式会社/VPoE 大谷 祐司 氏(以下、大谷):ミイダス株式会社のVPoEを務める大谷と申します。僕もソフトウェアエンジニアとしての経歴が長く、現在もGoやMySQLを使ってWeb開発を行っています。事業の立ち上げをいくつか経験しており、ミイダスも企画からジョインして立ち上げました。
大谷:実はミイダスからは立ち上げ期以降に一度離れ、2020年8月に再入社しました。そこで就任したのがVPoEという役職です。現在はエンジニアの組織づくりや、部門ごとの課題解決、技術関連の広報エバンジェリストとしての役割を担っています。
社名と同じミイダスというプロダクトは転職アプリで、自社にフィットする人材を分析してアプローチできる「アセスメントリクルーティングプラットフォームサービス」である点が特徴です。リリースから5年でユーザー登録数は現在50万人以上、利用企業は17万社以上。比較的順調に成長しているサービスです。
当社のメンバーは約300名で、このうちエンジニアやデザイナーが所属するテック組織のメンバーが約70名です。
外部人材はたくさん活用しており、プロダクトチームには業務委託のメンバーが約50名います。職種もエンジニアからデザイナー、広報、UXライター、データサイエンティストなど幅広いですね。
多くの業務委託のメンバーが長く活躍できるように、例えばオンボーディングチームを作り、3ヶ月かけて業務に関する知識を得るようなプログラムを実施したり、業務委託の方にも評価制度を導入し、成果に応じた報酬改訂を定期的に行っています。
大谷:また、2020年から続いているリモートワークをこれからずっと続ける意思決定をしたので、社員も業務委託の方も成果を定量的に確認できる仕組みを導入しました。さらに週5日や週2日など、さまざまな働き方に合わせて任せる業務を変更できるようにもしています。本日はよろしくお願いします。
株式会社タイミー/執行役員CTO 亀田 彗 氏(以下、亀田):株式会社タイミーの亀田と申します。僕は2017年8月に新卒でピクシブ株式会社に入社し、複数サービス立ち上げに関わりました。タイミーにも立ち上げ期から参入しており、2019年にCPOとして入社しました。
亀田:CPOは1年ほど務めましたが、今後きちんとものづくりをしていくためには組織をしっかり見ていきたいことで、現職のCTOとバトンタッチをしたのが2020年8月頃です。
当社のビジョンは「一人一人の時間を豊かに」で、現在は単発アルバイトのサービスを提供しています。時間のシェアリングサービスとして、ユーザーの暇な時間を楽しくてエキサイティングかつ、お金がもらえる経験に変えられればと考えています。
僕がCPOを務めていた頃の開発体制は、バイトをするワーカーさんや店舗、社内のメンバーなどステークホルダーが多数存在しており、僕がその中心で優先順位の交通整理をしながらものづくりをしていました。しかしこの体制は僕自身がボトルネックになってしまうという問題があったため、現在はステークホルダーやバリューチェーンごとにチームを分割して可用性を高め、各チームがシャープにプロダクトを作ろうとしています。
現在は18名が3チームに分かれて運用しています。今後タイミーの事業が成長したときに向けて、より持続可能な状態を作るのが組織の課題で積極的に採用を進めています。本日はよろしくお願いします!
各社のエンジニア組織醸成状況について
エンジニア組織の規模と外部人材活用の割合
山崎:まず、各社のエンジニア組織の規模やどんなエンジニアが所属しているのかを聞いていきたいと思います。それでは大谷さんからお願いします。
大谷:企画やエンジニア、デザイナーを含めたプロダクトチームが70名ほどなのですが、このうち社員は20名、業務委託は50名ほどです。ここからさらに細かくチームが分かれており、例えば企画、テスト、PMO、デザイン、SRE、インフラ、アプリ、技術広報、人事などのほか、特定機能の改善などミッションベースで動くチームで構成されています。
山崎:エンジニアの各職種は何名くらいのイメージですか?
大谷:フロントエンジニアとサーバーサイドエンジニアが20名ずつくらいです。
山崎:なるほど。では亀田さんもよろしくお願いします。
亀田:エンジニアは20名弱ですが、ここにデザイナーやマーケ、グロースハッカーなどプロダクト開発のステークホルダーを含めると、全体で30名ほどです。
エンジニアに関してはサーバーサイドエンジニアが8名前後、アプリエンジニアがiOSとAndroidで2名ずつ、あとはPdMが3名います。お二方に比較するとコンパクトな組織ですね。
山崎:ありがとうございます。エムスリーはエンジニアが在籍するエンジニアリンググループというものがあり、現在のメンバーは100名弱です。内訳はプロダクトマネージャーが約5名、QAが約10名で、残りの85名がソフトウェアエンジニアという感じです。
グループの100名は基本的に正社員で、さらに約60名の外部人材を活用しています。
社員も業務委託も分け隔てなく業務を遂行する傾向
山崎:みなさんはどのような形で外部人材を活用していますか?
大谷:業務委託の方には出社日が週2~3日という方もいますが、与えられる役割や発言できる内容などに至るまで、社員と業務委託が分け隔てなく仕事をしています。
山崎:エムスリーもそんな感じです。評価制度や報酬体系などの違いはあるのですが、仕事は業務委託の方が設計から携わるケースなんかも多いですね。亀田さんはいかがでしょうか?
亀田:エンジニア18名のうち現在2名の方が業務委託なので、正社員から見た比率としては10%程度ですね。あとは外部の顧問のような方が何名かいます。
実はタイミーの初期は、ほとんどが業務委託のメンバーでした。そのうち事業が面白そうだということで社員になってくださる方が増えたため、社員の割合が増えてきた形です。
開発はスクラムで運用しています。プラクティスとしてメンバーの役割は分けない方が良いと言われているので、社員も業務委託も同じスクラムのチームで仕事を進めています。
やはり業務委託の方はコードを書くことを突き詰めているプロフェッショナルな方が多い印象なので、会社が成長したらもっと業務委託の方を増やしたいなというのが個人的な思いです。
山崎:以前は業務委託の比率のほうが多かったんですね。
亀田:一番多かった時期には業務委託6名、社員3名で回していたこともあります。
企業フェーズの最初期は業務委託のメンバーに頼る比率が大きくなる
山崎:外部人材の活用というテーマには、役割や比率の問題もある気がします。社員1名に対して業務委託20名といったようないわゆるSI監督のような比率の組織もあると思いますし、みなさんはどういう理念から現在の役割・比率にしているのでしょうか。
大谷:ミイダスの初期は開発スピードを優先しており、社員と業務委託を同じタイミングで募集した結果、業務委託の方が早くアサインされたという背景がありました。プロフェッショナルな方が多いので、サーバーサイドの最終レビューを業務委託の方に担ってもらっていたこともあります。
ただ、今後事業をさらに拡大する中では「長く働いてもらうことで人を育てる」という方向に持っていきたいんです。その点を踏まえ、ジュニアレベルの方の採用もしながら社員比率を増やしていこうと考えています。
山崎:亀田さんはいかがですか?
亀田:特にポリシーはありません。当社が特徴的なのは、もともと学生ベンチャーだったということです。当初は社員として入ってくれるベテランエンジニアがいない状態だったので、準委任契約なら手伝ってもいいという業務委託の方と一緒に開発を始めたんです。
その後、会社やプロダクトが成長して社員になってくださる方が出てきたり、よりハイレイヤーの業務委託の方が協力してくれるようになるなど、正のフィードバックサイクルが回っていきましたね。業務委託の方にマネージャーをお任せしていた期間もあります。
山崎:エムスリーの場合は、社員1名に対して業務委託が3~4名になると社員の時間がマネジメントに偏りがちということで、社員と業務委託の比率が1:1を超えないようにしています。
外部人材を活用する方針やルールが変わるのは企業の潮目が変わるとき
山崎:例えば今後、業務委託の方に「この仕事をやってほしい」と期待を明確にする、あるいはとにかく外部人材を集めて何かプロジェクトを任せるといったような、会社の成長フェーズによって今の外部人材活用ルールの変化は起きそうでしょうか?
大谷:そういうタイミングはなさそうです。うちは本当に、Slackを見ていても誰が社員で誰が業務委託なのかわからないくらい、優秀な方なら雇用形態にかかわらず活躍してもらえる状態だからです。
ただ、組織が拡大していくにつれて今よりもマネジメントの役割は増えていくと思うので、そこを誰にやってもらうのかを考えなければいけないフェーズは来るでしょうね。
山崎:なるほど。亀田さんはいかがですか?
亀田:サービスのピボットや資金調達、新規事業立ち上げなど会社の潮目に対して適切にリソースをアロケーションするのはCTOの責任になると思いますし、そのときにガラッと方針が変わることはあると思います。
大企業だと会社ごと買い上げて協働するケースもあるそうですが、僕たちのような企業サイズだと、副業のマーケットでいかに外部リソースを確保するかが大切かなと思っています。
前編質疑応答
※視聴者から寄せられた質問に、オンラインで回答
初めて外部人材を採用する際の効果が高い活用パターン
質問者:外部人材を活用するのが初めての場合、どういう風に活用すると良いのでしょうか?
亀田:採用を手伝ってもらうのが良い活用だなと思っています。例えばセキュリティなど会社に知見がない領域で外部の優秀な人材が必要だということになった場合、マッチングの見極めはかなり難しいです。そこを「面接に出て業務委託の採用を手伝ってほしい」という形でエキスパートの外部人材にジョインしてもらうのがいいんじゃないかと思います。
僕自身も、学生ベンチャーだったタイミーを最初は面接官としてお手伝いし、面接に立ち会い、業務委託の方がその時のタイミーにフィットしているかの判断をお手伝いしました。知見がない中での立ち上げの人選に外部のエキスパートの力を借りることはかなりレバレッジが効く外部人材の活用法だと思っています。
山崎:ある意味技術顧問的な関わり方ということですね。大谷さんはいかがでしょうか?
大谷:2パターンあるかなと思います。ひとつは、人員が足りずプロダクトが前に進まない場合。人がいないと困るところに入ってもらい、一緒に目的達成をするパターンです。
もうひとつは、組織の方向性や技術に関する意思決定をするための壁打ちを求める場合です。「本当にこれで正しいよね」と自信を持って進めるためにアドバイスをもらうパターンですね。このどちらかが良いのではないかと思います。
山崎:エムスリーも2パターンある気がします。ひとつは、社内ですでに理解度が高い技術を扱える人を採用するパターン。単純にメンバーを増やしたいというイメージですね。
もうひとつは逆で、新しい技術を導入したいときにそれをよく知っている人を採用するパターン。例えばGo言語を導入したいということになったら社員が勉強するわけですが、そのときに毎回Goで開発をしている人に来てもらえたら心強いし、技術的なノウハウを教えてもらえます。
いろいろなパターンがありますが、どこにどういう人材が欲しいのかを考えて、ぴったりの人を活用するというのが一手ですよね。優秀な業務委託の方は、ビジネスサイドから「とにかく人を増やしてくれ」と言われて簡単に採用できるものではありませんから。
亀田:頭数をそろえたいという理由で人材をたくさん用意した結果、苦労している事例はいくつか見たことがありますね。
大谷:うちも外部人材を活用する際は、期間限定で特定の課題を解決してほしいのか、それともプロダクトの成長に伴走してほしいのか、しっかり考えてからジョインしてもらっています。