【CTOインタビュー】「実名公開」で全員が全員を評価。徹底的な360°評価に込めた組織作りの思いとは―カヤック・貝畑政徳氏

2016年11月、株式会社サーキュレーションのエンジニア向けサービス「flexy」関連イベントとして、第3回「Ex-CTO meetup」が開催されました。当日は業界を牽引する4社のCTO/最高技術責任者が登壇し、エンジニアの育成・評価について、熱い議論が交わされました。


イベントでは語り尽くせなかったノウハウや取り組みについても伺うべく、本企画では登壇した4社のCTO/最高技術責任者へ個別インタビューを実施。最新の現場事例を語っていただきます。


2回目となる今回は、面白法人カヤックの代表取締役CTO・貝畑政徳さんにお話を伺います。他社ではなかなか真似できないような独自の取り組みを行うカヤック。その背景には、どのような思想があるのでしょうか。

目次

経営陣を含め、全員で全員を評価する360°評価

Q:「Ex-CTO meetup」では、カヤックならではのユニークな取り組みについてご紹介いただきました。本日はそれぞれの背景についてもぜひ伺えればと思います。最初に、現在の社内体制について教えてください。

貝畑政徳さん(以下、貝畑):

250名の従業員のうち、エンジニアはフロントとサーバーサイドを合わせて全体の5割ぐらい。今のところは適正な比率だと思っています。ここ数年はUIやグラフィック、3Dの制作などに力を入れているため、デザイナーの比率も高まっています。

Q:さまざまなポジションの方が活躍する中で、社員の投票で給与が決まる「月給ランキング」という制度を運用されています。どのような背景で導入したのでしょうか?

貝畑:

人数が少ないうちは、私を含む代表役員3人で社員全員の活躍ぶりが見えていたんです。しかし人数が増えていくうちに、「どこまで正しく評価しきれるか」という課題にぶつかりました。それで導入したのが、「360°評価」である月給ランキングです。


ただし、個人の感情で評価が振り回されないよう、リーダーやマネジメント層の評価に重みをつけて運用しています。「他の人の仕事を普段からよく見ていなきゃいけない」とか、「そもそも人の給与を決めるのは大変」など、重い作業でもあるのですが、大切な取り組みだと思っています。

Q:ここで評価された結果は、どのようにフィードバックされるのですか?

貝畑:

まず、半年に一度、「2つの評価」が行われていることを説明しなければなりません。まずは「月給ランキング」。これは、社員の相互投票で月給を決めるためのものです。一般的に言われる360度評価ですね。


それとは別に、社員自身が半期の振り返りを行い、一緒に働いていた社員からのフィードバックコメントをもらう「360度フィードバック」という取り組みがあります。これは上司だけではなく、同僚や後輩、もしくは社員が指名した別部署の社員からもコメントをもらうことができます。これは月給とは関係なく、社員自身の成長のために行っています。


※「360度フィードバック」の詳細はカヤックのコーポレートサイト参照
https://www.kayac.com/company/institution


「360度フィードバック」という社内サービスの中で、全員のフィードバックコメントが公開されています。自分がどんな風にフィードバックされているか、また自分が誰にどのようにコメントしたかなど、すべてが実名公開。これを半年に一度更新しています。


このプラットフォームでは、それぞれの自己評価や振り返りも残しています。半年間の自分の目標を最初に入れて達成度合いを振り返る人もいれば、「どのように成長できたか」「どのように人と関わったか」などの半年間の歩みを綴る人など、方法はさまざまです。

Q:「目標を掲げること」はマストではないということですか?

貝畑:

半年間というタームについては、マストにはしていません。そもそも、ウェブの世界で仕事をするのに、半年後に達成するための目標を立てることにはあまり意味がないような気がするんです。よほど高い目標や、継続的に取り組むテーマであれば良いのかもしれませんが。それよりは「目標は日々アップデートするもの」だと考えるメンバーが多いですね。

「自分以上に他人の成長にこだわる」ことも大切

Q:「全員のフィードバックを全員に公開」というのは、個人に対する信頼感が高くなければできないことのようにも思います。

貝畑:

そうですね。「360度フィードバック」を運用するために、「自分と仲間を成長させる」という意識を徹底してもらっています。他人から実名で評価されますが、それはあくまでも自分のためであり仲間のため。全員がガラス張りだからこそ、変なことはできないですよ。


私のところにも、社員から厳しいレビューが飛んで来ます。「役員のくせにこんな行動はダメだ」とか、「トップがへこんでいる場合じゃない」とか……。「何も分かっていないくせに」と思ってムッとすることはもちろんありますが(笑)、それは経営メッセージが浸透していないことの証なんですよね。


口頭では伝わりきらないことも、この方法ならダイレクトに伝わります。うまくいっていないメンバーがいたとしても、組織内で「あいつはダメだな」と放置するのではなく、必ず誰かが指摘して改善の機会が生まれる。全員でのレビューは半年に1回ですが、日々の動きがアラートとなり、必要に応じて人事面談を行う場合もあります。

Q:「自分と仲間を成長させる」意識というのは、どのようにして生まれるのでしょうか?

貝畑:

代表役員それぞれで考えていることは違うと思うので、これはあくまでも私見ですが……。


「何をするより、誰とするか」がカヤックの創設初期からのキーワードだと思っています。結果にコミットするよりも、まずはプロセスを大切にしたい。そのためには仲間に成長してもらい、自分を引き上げてもらうことも大事です。「自分以上に他人の成長にこだわる」ことが、場合によっては大切なのではないかな、と。結果的にそれがチームワークになっていきます。

3つの事業部すべてを経験し、転職したような気分で新しいミッションに挑戦

Q:そもそも、カヤックのエンジニアに求められる資質とはどんなことでしょう?

貝畑:

創業時は「アイデアフル」で、「思いついたらすぐに作ってしまう」ような人を求めていました。企画自体は、正直誰でも出せると思うんです。それを形にするのはエンジニアやデザイナー。だから、自分でモノを作れるというのはすごく大きな強みになるんですよね。「アイデアを思いついたらすぐに作ろう」という話も常にしていました。


しかし人が増えていくに連れて、「皆がオリジナルのウェブサービスを生み出したいわけでもないんだな」と知りました。技術偏重型で、ただ単にそれを突き詰めていきたいという人も増えているし、そんな人も必要です。


ただ、基本的に共通している、ずっと変わらないこととしては、「新しいもの好きな人」がカヤックは好きですね。

Q:現在のカヤックの事業分野は多岐にわたりますが、それも多様な人材を必要としていることにつながっているのでしょうか?

貝畑:

そうですね。そもそも、事業部ごとに必要な人材はまったく違います。手が早い人、インフラに特化している人など、自然といろいろな人材が集まっていきました。


クライアントワークでは企業のプロモーションをお手伝いしているので、「バズらせたい」という欲求の先に、誰も見たことがないことをやりたくなります。そうすると、必然的にVRやARなど新しいことにも首を突っ込むことになる。こうして生み出されたものが社会にアウトプットされています。ゲーム事業などはむしろ逆で、新進性よりは安定性を求める傾向があります。

Q:事業部ごとの知見やスキルを共有するために、どんな取り組みをしていますか?

貝畑:

各事業部以外に、エンジニアを集めた「技術部」という横串しの組織を置いて情報共有しています。また、すべての事業部を経験することが推奨されていて、兼任で事業を横断する人も多いですね。


「カヤックに入れば良い経験ができるし、エンジニアとしての成長度合いも高い」。そう思ってもらえるよう、転職したような気分で新しいことに挑戦できるようにしています。

2週間に1回の面談で、退職時期も把握

Q:日頃のキャリア面談はどのように行っているのですか?

貝畑:

例えばゲーム事業部では、部内に人事担当を置き、80人のメンバーと1カ月に1回というペースで面談しています。毎日5、6人と、1人あたり30分程度時間を設けている感じですね。組織が小さい頃は、合宿のときや賞与フィードバックのときに一人ひとりと役員3人が話していました。これも、組織が拡大したことで始めた取り組みです。


この面談で語られるのは悩み事が多いですね。「自分はどこへ向かいたいのか」「どんな技術を身につけたいのか」など、なかなか人には話せないような悩みを打ち明けてもらっています。このコミュニケーションがあるので、社員の退職時期や可能性も把握できています。

Q:自社サイト内で「退職者インタビュー」を公開するなど、辞めていく社員とも積極的につながろうとする会社の姿勢を感じます。

貝畑:

退職する社員とは「ファイナルブレスト」を行い、「どうしたら辞めずに済んだか」を語り合うんですよ。それが、最後に成し遂げることを決める場にもなっています。


在籍した会社に良い結果を残していけば、当然良い関係が続きます。辞めていく本人のためにも、最後に大きな足跡を残してもらえるよう取り組むことは大切だと思いますね。結果的に、カヤックを巣立った後もさまざまな形で連携できている人が多いです。


Q:あえて言うなら、カヤックを辞めてしまうエンジニアは何を求めて去っていくのでしょう?

貝畑:

職種的に、カヤックで身につけられることがなくなるケースが多いですね。例えば「コンシューマーゲームを作りたい」と言われても、カヤックではできません。


もう一つは独立したいと考える人です。かつての私のように、仲間とともに起業したいと考える人。自分自身も同じでしたが、ポジティブ過ぎる場合はもう止めようがないですね(笑)。

理念の語り方は社員それぞれ。そのアウトプットが評価につながる

Q:もう一つ、カヤックの理念とエンジニアの関係についても教えてください。「つくる人を増やす」という経営理念を掲げていますが、これはエンジニアにとってどのような意味合いを持つのでしょうか?

貝畑:

「つくる人を増やす」という理念と、「面白法人」としての会社のあり方、そして「自分の活動」との関係性を常に見直してもらうようにしています。これは社員相互の評価項目にも入っています。ずっと頭に置いて活動してもらうことで、徐々に視点が上がっていくんです。


理念そのものについては、社員個人個人で印象やとらえ方が違っていて構わないと思っています。単純にクリエイターを増やすという意味で考える人もいれば、世の中全体で「つくる人を増やしたい」と考える人もいる。それを自分の言葉で書き、語ってもらうことが大切です。結果的にカヤックの社員は、一人ひとり理念の語り方が違います。


このアウトプットに対して、社内システムを通じて皆からフィードバックが寄せられます。役員もアウトプットを見て評価していく。半年ごとにやっていくので、自分の成長度合いを測ることもできます。

Q:ありがとうございます。最後に、CTOとしての今後の展望についても教えてください。

貝畑:

カヤックは、単一事業でやっていないからこそ面白いのだと思っています。今後も、技術を下地にして新しい事業を発信していきたいですね。これまではモバイルやゲーム領域に力を入れてきましたが、そろそろガラッと新しいことも始めたいな、と。


私自身は今でもゲームのディレクターとして、仕様書を書いたり指示出しをしたりと、思いきり手を動かしています。成長期のベンチャーではCTOも戦闘シーンで戦っていますが、上場して「統治」が大切になった今のカヤックには、こんなCTOはいらないのかもしれない。本来は戦略設計や人事に集中して向き合っていくべきなのでしょうが、私は前線にいるのが大好きなんですよね。


なので、ゆくゆくはマネジメントに力を発揮するエンジニアが出てきて、次のCTOになってほしいと思っています。強いて言うなら、「私を作る現場に集中させてくれるCTOを育てること」が、CTOとしての展望ですね。


取材・記事作成:多田 慎介


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