【CTOインタビュー】ウェブサービスは「なくては困る」存在に。チャンスあふれる時代を、エンジニアはどう生きるべきか―VOYAGE GROUP・小賀昌法さん
「人」を軸にした事業開発会社として多種多様なサービスを展開するVOYAGE GROUP。CTOの小賀昌法さんは、90年代末のITバブル以前からエンジニアリングの現場でキャリアを切り開いてきました。
今回のCTOインタビューでは、小賀さんのこれまでの歩みやVOYAGE GROUPというチームにジョインした理由などを詳しく伺いながら、エンジニアのキャリアを考えていきます。
目次
「3K」と揶揄されていた仕事で得た経験
Q:今日は小賀さんのキャリアをお聞きしながら、「これからのエンジニアの働き方」についてもぜひヒントをいただければと思います。よろしくお願いします。
小賀昌法さん(以下、小賀):
はい。よろしくお願いします。
Q:小賀さんがエンジニアリングに関わり始めたのはいつ頃なのでしょうか?
小賀:
もう、かれこれ25年前になりますね。釧路の高専を卒業し、受託開発をメインとするNECネッツエスアイに入社してプログラムを書いていました。当時はプログラマと言えば「人が担当していた事務作業をコンピュータにやらせるための仕事」という風に見られていて、それなりに仕事内容もハードで、「3K」(きつい・帰れない・給料が安い)なんて言われていたこともありました。
冷蔵庫を4つ並べたようなとても大きな装置がある職場で、「手書きの伝票をいかにして自動化するか」といった仕事をしていたんです。PCが1人1台与えられるわけではなく、メールアドレスも自分専用のものなんてありませんでした。
いきなり昔語りになってしまいましたが(笑)、インターネットサービスが普及していったのは2000年以降でしょう。プログラマの価値が高まっていったのもそれ以降ですよね。
Q:当時は今と比べてプログラマの立場や地位が低かった。
小賀:
うん。今ならITに興味がない人でも、「プログラミングで世界を変えよう」という話を聞いたらGoogleやFacebookなどを想像して素直に「すごい」と思う人が多いと思いますが、昔はそんなキラキラした感じではなく……。最近ではエンジニアが人気職種になっていて、子どもたちの「将来の夢」でも上位に入っているんですよね。何だか隔世の感があります。
Q:そうした中で、小賀さんはモチベーションを失ってしまったり、くさってしまったりするようなことはなかったのですか?
小賀:
それはありませんでした。私はプログラムを書いてお金がもらえるということが純粋に楽しかったんです。だから、誰かの企画に従ってコードを書くだけで満足していましたね。最近の学生さんなどは、皆意識が高くてすごいと思いますよ。
Q:「自分自身の考えをものづくりに反映させたい」と考えるようになったきっかけはありますか?
小賀:
最初のうちは作って上司のOKをもらえばよかったんですが、徐々に顧客先へ営業と一緒に伺うようになり、その流れでカスタマーサポートも担当するようになりました。その過程で「自分の中で価値があると思っていることも、顧客にとっては必ずしもそうではないんだ」と知ったんです。とある顧客のために作ったシステムがあったのですが、それを横展開して売っていこうという会社の方針があり、1つのシステムを数年に渡って改善し続けてられたのはとても幸運でした。
1社に全力を出すだけでなく、すべての顧客の満足度を高めていくことを小さなチームで学びました。それを経験させてくれたNECネッツエスアイには感謝しています。
BtoBの経験をヤフーの自由な風土の中で生かす
Q:その後、小賀さんはヤフーに移っています。
小賀:
数年同じシステムを改善してきたので、特定顧客向けの一品モノの受託開発ではなく、パッケージ系のソフトを作りたいと思っていました。当時流行っていた「ナレッジマネジメントシステム」に興味を持ち、ヤフーがやろうとしていた企業内ポータルサイトの事業に惹かれました。
ヤフーはBtoCの企業だったので、それまではtoBのノウハウをほとんど持っていなかったんですね。自分の経験を生かすという意味でも、うってつけの環境でした。
Q:大手SIerからヤフーに移って、企業文化の違いを感じるような場面はありましたか?
小賀:
それはもう。「世の中にはこんなに自由な会社があるのか!」と衝撃を受けました。転職直後のある日の朝、人事部の方に所属部署へ連れて行ってもらったんですが、同じ部署のエンジニアが誰もいないんですよ(笑)。人事の方は「昼になれば皆出社するんじゃないですかね(笑)」なんて言っていて。それまでは一律の始業時間に出社するのが当たり前という環境だったので驚きました。
でも、「お客さまと一緒に価値あるものを作る」という思いは同じでした。新しい環境にも比較的すんなり慣れていくことができたと思います。
Q:ヤフー時代の仕事で特に印象に残っているものがあれば教えてください。
小賀:
BtoBの新規事業立ち上げは、とても刺激的でした。
アメリカで成功しているビジネスを日本向けにローカライズしようと思っても、「ソースコードがうまく適応しない」などさまざまな問題が発生するんです。用語もすんなり理解できない。そんな中でも前向きに、楽しく挑戦していましたね。おかげで名だたる大手企業や自治体を顧客にすることができました。
ヤフーの先進的なシステムをどのように生かしていくか。大規模なトラフィックをどう捌いていくか。そんな貴重な経験をさせてもらいました。
「小さなチームの小さなプロダクト」でも構わない
Q:マネジメントにも関わっていたのですか?
小賀:
はい。私が配属された部署では初の中途採用者だったんですが、その後どんどん人が増えていく中で「メンバーの給与に関わる評価」を初めて経験することになりました。いま考えるとマイクロマネジメントだったので、20人を見るのが限界でしたね。
当初は「すべてのコードを理解して責任を持つ」と考えていましたが、途中からはマネジメントに専念するようになりました。四半期ごとに部署やメンバーの目標管理を行い、企画部から下りてくる要件と調整しながらプロジェクトを進めていく。自分でコードを書く時間は持てませんでした。
Q:当然苦労も増えると思うのですが、エンジニアはマネジメントをしっかり経験すべきだと思いますが?
小賀:
それは人それぞれでしょう。私は当時、必要に迫られていろいろな経営やマネジメントの本を読んでいましたが、20台前半の若手エンジニアに同じように興味を持つ人は多くないと思います。
それに、自分の働く組織が大きくなったり、事業規模が拡大したりすることだけが幸せではないと思うんですよ。「小さなチームにこだわり、小さくても面白いプロダクトを粛々と作っていく」でもいいじゃないですか。それで経済的にも満足できれば、私もマネジメントの道に足を踏み入れていなかったと思います。
Q:小賀さんは起業やフリーランスも経験していますよね。どのような経緯だったのでしょうか?
小賀:
ヤフーで大きな成果を上げていた営業がいたんです。その人に誘われて起業することにしました。当時は35歳で、すでに子どももいたんですが、「今やらなければ挑戦する機会は得られないだろう」と思って。結局そのビジネスは失敗してしまったんですが(笑)。
いくつかの会社に「何かあったら働かせて」と声をかけていたので、起業に失敗した後も何だかんだと仕事をもらい、フリーランスとして1年ほど続けていたんです。
Q:フリーランスとしては成功を収めていたと思うのですが、どうしてまた企業に戻ろうと思ったのでしょう?
小賀:
収入は会社員時代よりも増えたので、そういう意味では成功を収めていたと言えるのかもしれませんが……。もともとフリーランスで生きていくつもりはなかったんです。一人でやっていくよりは、気の合う仲間を見つけて、一緒に働きたいという思いが強かったんですね。
企画部門ありきではなく、エンジニアがモノづくりを主導する
Q:いろいろな経験を経て、「どんな人と働くか」については厳しい目を持つようになったのではないでしょうか?
小賀:
「自分にとって考えが近い人」と「まったくそうではない人」。両方のタイプと働きたいな、と思うようになっていました。
例えば「技術的な選択肢でAとBがあったら、Aだよね」という会話をするとしますよね。積み重ねてきた経験からすんなり自分と同じ答になるのが「考えが近い人」です。それとは逆に「違う、Bだよ」と言ってくれる人も大切。議論する機会が生まれますからね。
「創業社長の周りにはイエスマンだらけ」みたいな会社だと、自分は合わないと思います。幸いVOYAGE GROUPはそんな会社ではありません。宇佐美(代表取締役社長兼CEOの宇佐美進典氏)は創業社長として事業を育ててきた自負を持ちつつ、フラットに仲間の意見を聞いて生かすやり方を知っています。
Q:宇佐美社長をはじめとして、VOYAGE GROUPの人たちのどんなところに惹かれたのですか?
小賀:
ヤフーのときの同僚がVOYAGE GROUPにいたので、私は入社する前から勉強会に参加していたんです。終わった後は社内バーの「AJITO」(アジト)で交流会が開かれるんですが、そこでこの会社の人たちと話していたら「本当にいろいろなタイプのエンジニアがいるんだな」ということに気づいて。
これは今でも実際に他社の方からよく言われるんですが、ウチのクルー(社員)は一人ひとりがとても個性的で、話していても「VOYAGE GROUPっぽいね」というイメージはあまり生まれないと思うんですよ。だけど、それらの点が集まると途端にVOYAGE GROUPという集団になる。人材の多様性を維持しながら組織としての一体感を発揮できるのは大きな強みだと感じています。
その上で、先ほどお話したAJITOをフル活用してクルー同士のコミュニケーションを深めたり、社外のエンジニアと積極的に絡んだりしています。そこでの会話から「こんなことをやりたい」という提案もたくさん生まれています。
Q:エンジニアの皆さんはどんなことを提案してきたのですか?
小賀:
「自分たちの使う道具を自分たちで選んで提案する」とか、「見積もりや納期を重視しすぎるのはリスクである」とか。
ちょっとニュアンスが伝わりづらいかもしれませんが、「企画部門ありきでモノを作るわけではない」という考えや、あくまでも自分たちで目標やクオリティを決めて動くという考えがあるんです。
だから、ビジネスラインともエンジニアが徹底的に議論しています。これはビジネスの意思決定そのものですよね。「どんなアーキテクチャにするのか」「いつリリースするか」などを、エンジニアが腹落ちするまで議論してから進めているんです。
もちろん事業責任者などが意思決定して進めることもありますが、そんなときでもしっかり「なぜ」を聞くというのがクルーの基本的なあり方です。「フラットで自立したチームによるモノづくり」を大切にしています。
Q:エンジニアも意思決定に参加し、議論し、決めるところまで関わるということですね。やりがいや充実感が大きい一方で、キャリアの浅い方にとってはハードな環境であるようにも思えます……。
小賀:
もちろん、このやり方には厳しい側面もありますよ。私はいつもクルーに「自分はいま何をすべきなのか考えよう」「自分の頭で考え、自分の考えを伝えられるようにしよう」と投げかけています。
「当たり前のことを当たり前にやらなきゃいけない」からエンジニアが成長する
Q:小賀さんは、これからを担う若手エンジニアにどんなことを期待していますか?
小賀:
これまではスマホのアプリやウェブサービスと、家電などの組み込み系のシステムがセパレートされていました。しかし今後は、いろいろなものがソフトウェアで制御され、インターネット上にデータがどんどん蓄積され、蓄積されたデータを分析した結果をソフトウェアに反映していく。この循環の中でビジネスが動いていくことになるでしょう。この前提に立って、自分はどこで活躍するのかを考えてほしいと思っています。
とはいえ難しく突き詰めて考えるだけでは見てこない部分もあると思うので、まずは「好き」や「興味」を大切にして、そこから強みにつなげていければいいのではないでしょうか。
Q:ちなみにもし小賀さんが今20歳のエンジニアだったら、どんなことに挑戦しますか?
小賀:
やっぱりソフトウェアの世界で勝負するかなぁ……。
これからのウェブサービスは、「あったら便利」から「なくては困る」の世界に進んでいくべきだと思うんです。医療や金融などの大きな責任を背負う領域にも臆せず挑戦していかないといけない。それが求められていることだし、そこに応えていくのがエンジニアとしてのやりがいにつながっていくのではないかと。そういう意味では、今ほどチャンスが転がっている時代はないんじゃないかと思います。
Q:ありがとうございます。最後に、VOYAGE GROUPでの今後の展望についても教えてください。
小賀:
現在メイン事業であるアドプラットフォームで、取引が拡大する中で蓄積してきた大量のデータを分析し、生かすサイクルを作っていきたいと思っています。機械学習などによって広告配信や不正の検知を最適化していくことも重要です。広告配信についてはまだまだ人間の手でチューニングしないといけない部分も多いので、いかに自動化していけるか、知恵を絞っていきたいですね。
アドプラットフォームの仕事って、本当に面白いんですよ。「当たり前のことを当たり前にやる」エンジニアリングが必要で、手の抜きようがない。だからエンジニアは成長できるんです。
インキュベーション領域では、フィンテックやHR領域にも展開を始めています。よりリアルな世界と関わるセンシティブな領域でも勝負していて、例えば化粧品のECではVOYAGE GROUPが自社開発したブランドを売っているんです。
「ブランドストーリーを生み出し世の中に発信する」という挑戦を続けていくことで、私たちのSOUL、創業時からの想いとして掲げる「360°スゴイ」の言葉通り、ウェブサービスの枠にとどまらない会社へ進化していけると思っています。
取材・記事作成:多田 慎介
プロフィール:小賀昌法さん
1971年、北海道帯広市生まれ。釧路工業高等専門学校卒業後にプログラマとしてNECネッツエスアイへ入社。Yahoo! JAPANやトランスコスモス、自身での起業などを経て、2010年に日本最大級のSSPを運営する株式会社fluct(VOYAGE GROUPの100%子会社)へジョイン。入社6カ月後にVOYAGE GROUPのCTO就任。エンジニア採用・育成・評価戦略などのほか、サービスインフラや社内インフラの構築・運用も手がける。