【メルカリVPに聞く】「やっぱりこのチームは最高だな」と思う理由――メルカリ・柄沢聡太郎さん
2017年4月、メルカリはCTO交代を伴う新たな開発組織への移行を発表しました。それまでCTOを務めていた執行役員の柄沢聡太郎さんは「VP of Engineering」として組織マネジメントを牽引し、新CTOには新たに執行役員の名村卓さんが就任して技術マネジメントをリード。グローバルに展開する技術部門を2頭体制で率いています。 成長著しいメルカリは、今後どのような技術チームを目指していくのでしょうか。柄沢さんにお話を伺いました。
個々人の裁量に委ねてメルカリの成果に貢献してもらう
Q:国内のみならず海外でも業容を拡大しているメルカリですが、エンジニアリングについてはどのような体制を敷いているのでしょうか?
柄沢聡太郎さん(以下、柄沢):
グローバル体制では、エンジニアが100名を超える規模となりました。東京のオフィスにいるのはそのうち60名くらい。プロダクトチームの中では半数くらいでしょうか。
Q:エンジニアの皆さんはどんな動機で集まってきているのでしょうか?
柄沢:
やはりプロダクトとしてのメルカリの成長に惹かれている人が多いと思います。海外展開を加速させていることに興味を持つ人もいますね。サービスをきっかけにして、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションに共感してくれた人が入社しています。
Q:メルカリには、業界内で名前が挙がるような有名なエンジニアが多いイメージがありますが、そうした人材をどのようにしてマネジメントしているのでしょう?
柄沢:
活躍の仕方は人それぞれなので一概には言えませんが、メルカリに入社してくれるエンジニアはスキルが高いだけでなくミッションやバリューに共感して入社しているので、会社やプロダクトが最大の成果を出すために、それぞれが自発的に考え動いてくれていると思います。私は「組織全体として大事にする考え方や方向性」を示したり、業務上の手間や摩擦、衝突を回避したりすることには注力しますが、あまり細かい指示まですることは少ないですね。
一例を挙げると、メルカリには、SRE(Site Reliability Engineer)というチームがあります。サーバ・ネットワークの構築・運用、システムの自動化、障害対応などのシステム管理者的な業務に加えて、システムのパフォーマンスや信頼性、スケーラビリティを向上させるためのソフトウェア開発・運用までを行っている部署です。このチームには、経験豊富で講演や執筆なども行っているエンジニアも多いのですが、彼らには基本的には自分の判断で仕事をして、チームやメルカリの成果につなげてもらっています。
「そんなことを聞くなよ」と突き返されることはない
Q:個々人が勝手に動いて、会社の利益につながらないというようなことは?
柄沢:
それはないですね。メルカリに強い興味を持って入ってきている人ばかりなので、自発的に「お客さまのため」「サービスのため」「会社のため」という視点で動いてくれているのかな、と。
例えば先ほどのSREの事例ですが、SREは社内でもレベルの高い人が集まっている組織です。単に技術力が高いというだけではなく、細かい指示をしなくても「お客さまにとって何がいちばんの価値になるか」を常に考え、素早く実行してくれています。そういう人たちがいるから、良い影響が周りに伝播していくということもあるのだと思います。
Q:社内コミュニケーションにおいて何か工夫していることはありますか?
柄沢:
工夫というよりは、社風と表現したほうが適切なのかもしれませんが……。「何かを言ってはいけない」という雰囲気がないんですよね。特に相談を受ける側のエンジニアは、キャリアの浅いエンジニアに対して「何でも気軽に相談してね」という発信を積極的に行っています。メルカリのバリューの1つに「All for One」という考え方があり、それに基づきコミュニケーションを取りやすい雰囲気を作ろうとしてきた結果、メルカリのカルチャーとして定着しつつあります。
もちろん、提案内容に対して指摘をしたり補足をしたりすることはありますよ。だけど「そんなことを聞くなよ」と突き返されることはない。エンジニアの採用時にカルチャーマッチを重視していることも影響しているのかもしれません。
Q:優秀でキャリアのあるエンジニアに気軽に相談できる環境というのは貴重ですね。逆に、「カルチャーマッチしない人」もいるわけですよね。
柄沢:
そうですね。これはとても言語化しづらいのですが。
「プロダクトファーストの考え方をしない」とか、分かりやすい部分はもちろんですが、採用時にはちょっとした違和感でも見逃さないようにしています。選考過程で「技術力は評価できるが、カルチャーがちょっとあわないかも」「この人はメルカリっぽくないかも」と感じたときは、他の面接担当とのフィードバックで確認し合うなど、必ず立ち止まってしっかり確認するようにしています。
Q:「技術力が高い人」「スキル面で魅力的な人」を落とすというのは難しい判断だと思いますが……。
柄沢:
そうですね。ただ、過去を振り返ってみると、カルチャーがあわなくてもスキルを重視して採用をした結果、なかなかワークしなかったという例もありました。私を含めたメルカリの経営陣は、過去にも組織のさまざまなフェーズを経験してきているので、何が良くて、何がダメだったのかという経験値を大切にして判断しています。採用面接の基準も、基本的にミッション・バリューに基づく評価をするようにしています。
メンターとともに考えるキャリア
Q:先ほど「プリンシパルエンジニア」についてのお話がありましたが、一方ではマネジメント側でキャリアを積んでいく人も多いかと思います。メルカリで働くエンジニアはどのようにキャリアの方向性を見出していくのでしょうか?
柄沢:
採用の段階からキャリアプランが明確な人もいますし、日々の1on1で意向を聞きながらキャリアプランを明確にしていくこともあります。マネジャー陣が「この人はマネジャーに向いているな」と思えば、本人に働きかけていくこともあります。人は変化するものなので、キャリアプランはやっていく中で見つけていけばいいと思っています。
Q:1on1はどのように行っているのですか?
柄沢:
週1〜月1など、頻度は人それぞれですが、基本的にマネジャーとメンバー間では積極的に1on1の時間をとるようにしています。仕事の進捗を共有してもらう場というよりは、メンバーそれぞれの相談に乗る時間、気づきを与えられる時間になるのが望ましいと思っています。
また、新しく入社した人には、立ち上がりのサポートとして必ずメンターが付き、毎日の短い1on1を実施しています。これは新卒採用であってもキャリア採用であっても同じ。強制的にメンティー(被育成者)がメンターへ相談できる機会を作ることが大事だと考えています。
Q:入社時のメンティーはどのような相談を寄せるのでしょう?
柄沢:
オフィスルールやワークフローなどの基本的な相談をはじめとして、会社に慣れていくためにいろいろなことを相談しています。メルカリは社内のアウトプットが非常に盛んなんですが、情報が多すぎるゆえに「過去の情報が探しづらい」なんていう相談も出ていましたね。
Q:相談する側はもちろんですが、それを受けるメンター役にとっても成長の機会となりそうですね。
柄沢:
そうですね。メンターを初めて任された人は、自分でどうするべきかを考えて行動してくれています。メンター経験者に聞きに行ったり、過去の資料を見たり。
この制度ができて2年ほど経ちますが、大部分のエンジニアがメンターの力を借りた経験を持っています。だから「自分もしっかりやらなきゃ」と思ってくれている部分もあるのだと思います。
どんなに人が増えても「よくある大企業」にはしたくない
Q:柄沢さんは現在「VP of Engineering」として組織基盤の強化を牽引するという役割ですが、もともとマネジメント志向を持っていたのでしょうか?
柄沢:
むしろ真逆で、以前は「世界的なスーパーエンジニアになりたい」と思っていました(笑)。気づけばマネジメント側に立っていたという感じですね。
Q:かつて株式会社クロコスを立ち上げた際にもCTOを務めています。
柄沢:
クロコスには当初エンジニアが5人しかいなかったので、私自身も先頭を切って開発にあたっていました。当時はCTOと言っても、自分としては最前線のエンジニアだと思って活動していたんです。
マネジメント志向については、何かのきっかけがあったというよりは、少しずつ人が増えていく中で「チームを作ってスケールしたほうがやりたいことを早く実現できる」と考えるようになってから生まれてきたものだと思います。
クロコスがヤフーに買収されてからは、ヤフーのエンジニアも入ってきました。さらに組織が大きくなっていく中で、マネジメントの重要性というものをずっと考え続けてきました。
Q:4月の体制変更後、柄沢さんは組織マネジメントに重点を置いて活動されていると伺いました。
柄沢:
まだまだこれからではありますが、人事・評価制度やマネジメントのあり方などはかなり時間をかけて考えられるようになりましたね。採用についてもじっくり時間をかけています。
Q:VPとして参考にしていたり、ベンチマークしていたりする存在はありますか?
柄沢:
GoogleやFacebookといった世界的な企業を意識していますね。Google社の人事トップを努めた人が書いた『WORK RULES!』(東洋経済新報社)も参考になりました。彼らがやっていることをメルカリで回していくにはどうするべきかを考えて、実際に動かすこともあります。それでうまくいったり、いかなかったり。いろいろなことに挑戦して、検証しているところです。
Q:VPという立場で仕事をしていて、どんなことにやりがいを感じますか?
柄沢:
やっていていちばん楽しいのは、「素晴らしいチームを作り上げて成果を出す」という喜びを本当に純粋に感じられることですね。自分ひとりで何かをやりたいなら必ずしも会社にいる理由はないかもしれませんが、組織で大きな成果を出すというのはまったく違う醍醐味があると思っています。
メルカリが目指す「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」を実現するために組織を動かし、いろいろな試行錯誤をしていく中で「やっぱりこのチームは最高だな」と思う瞬間がたくさんあります。社内の若手エンジニアにはそんな自分の姿を見せながら、「これも一つのキャリアイメージだよ」と示していきたいですね。
Q:今後、メルカリのさらなる成長を見据えて、技術部門としてはどのような展望を抱いていますか?
柄沢: 日本、US、UKのそれぞれの現場で、「自分たちで自分たちのことを判断して進めていける」強い権限委譲を実現したいと思っています。自分で意思決定して進めていける人材を増やしていきたいですね。
どんなに会社規模が拡大しても、「よくある大企業」にはならないようにしたい。人が増えて階層も増え、意思決定が遅くなり、トップの意志が分からない。現場の声も届かない。そんな組織にはしたくないと強く思っています。自分たちのミッションを達成することからどんどん遠ざかってしまうので。
一方で、人を増やさないと、できることも広がりません。守るべきものを守りながら、攻めていくための組織を作る。そんな挑戦をこれからも続けていきます。
取材・記事作成:多田 慎介