ヘルスケア領域への新規参入事例|ディープラーニングが成功の鍵?

ヘルステックベンチャーであるFiNC Technologies。

予防ヘルスケア×AIに特化した技術を有し、取得している特許数は2019年10月現在で58件にも上ります。

ヘルスケアプラットフォームアプリ「FiNC®️」は累計700万ダウンロードを記録しており、ヘルスケア領域を牽引する存在です。

今回インタビューしたのは、20代で代表取締役CTOを務める南野充則さん。 日本ディープラーニング協会の最年少理事も務める同氏に、同社の開発環境や協会での活動、今後の展望などについてお伺いしました。

海外進出も見据えて、プレイヤーの少ないヘルスケア領域に挑戦

――FiNC Technologiesの代表取締役CTOに就任されるまでの経緯を教えていただけますか?

南野 充則 氏(以下、南野):大学在学中に会社を2社作り、卒業後も1年ほど運営していました。受託開発の会社だったのでそのうち自分でもサービスを作ってみたいと思い、検討していたのがヘルスケアの領域です。その頃、弊社の代表取締役 CEOである溝口と出会い、CTOとして参画してほしいと誘いを受けて、2014年に入社しました。 入社後はまず、弊社が社内で利用しているツールをモバイルの法人サービス化するところからスタートしました。その後、2017年に「FiNC®️」アプリをリリースし、2018年9月に代表取締役に就任した流れです。

――ヘルスケア領域に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

南野:第一に、日本から海外に進出できるサービスを作りたいと考えていました。日本の強みと言えば食事やサービス、エネルギーなどですが、その中でヘルスケアもアイディアの一つとしてありました。IT領域でレバレッジをかけながら取り組めてなおかつプレイヤーも少ない領域を考えると、ヘルスケアはスイートスポットでした。高齢化が社会問題になっている中で、健康寿命を延ばすことが課題の一つになっているということもあり、誰もまだ真剣に取り組んでいないのなら自分がやるべきだろうとも思いました。

南野 充則 株式会社FiNC Technologies 代表取締役CTO、一般社団法人日本ディープラーニング協会理事、FiNC Wellness AI Lab所長 南野 充則 氏

AIの専門チームも持つ100名超のエンジニア組織

――御社のエンジニア組織について、概要を教えてください。

南野:現在、会社全体の従業員数は350名ほどで、開発組織は企画なども含めると100名前後です。エンジニアはAIとデータ分析、アプリケーション、インフラ、サーバーサイドで構成されています。

組織は2軸になっていて、エンジニアマネージャーがエンジニアのメンタリングやキャリア形成を行う組織体が横軸、機能改善や新規機能実装などのプロジェクトが縦軸です。普段はプロジェクトメンバーと業務をこなしながら、定期的にエンジニアマネージャーとミーティングをしてキャリアや目標を見直しています。 働き方については、10~15時をコアタイムとしたフレックス制と裁量労働制の方がいて、家庭の事情などで週に1回出勤のリモート勤務をしている方もいます。

――AI専門チームがあるそうですが、主にどういった取り組みをしているのでしょうか?

南野:例えばですが、撮影した食事画像の種類を認識する機能や睡眠時間予測のアルゴリズム、アプリのレコメンドアルゴリズムなどの開発を行なっています。 AIチームはCTO直下なので、僕がプロダクトに沿って欲しいモデルやアルゴリズムの企画書を作成し、チームと擦り合わせながら開発を進めていきます。週に1回レビューで進捗を見て、リリース時期を調整していくようなフローです。 今後もアルゴリズムでアプリ改善を図るため、AIは特に強化していこうとしています。ただ、AIのエンジニアは人材確保が難しい点もあるため、社内で育成プログラムを組んだり、サーバーサイドのエンジニアをAIエンジニアに転向させる動きなども活発に行なっています。今後、AIを活用した機能の紹介記事なども積極的に公開していく予定です。

――そのほかに社内で技術力向上のための取り組みはありますか?

南野:社内勉強会などは定期的に行なっています。サーバーサイドエンジニア同士が集まって情報共有をしたりインフラチームでAWSの勉強会をするといったことです。チーム内での研鑽以外に、社内に外部人材を招いた勉強会も実施しています。DroidKaigiやtry!Swiftなど大規模なカンファレンスなどへの参加も支援しているので、積極的に登壇してもらっています。また、社内で使っている技術のコミュニティに対しては基本的にスポンサーとして協賛して、技術そのものを盛り上げていこうともしています。弊社は取り組める活動が幅広いので、好奇心を持って勉強したい人はどんどん成長できる環境だと思います。 基本的にエンジニアは職種で分かれていますが、領域を広げるのも大歓迎です。例えばAndroidエンジニアがサーバーサイドのスキルを得たら、この2つの視点でシステムを最適化できるようになりますよね。ですから、知識を増やしたりスキルを伸ばすためのトレーニングは社内でも数多く用意するつもりです。

FiNC Wellness AI Lab所長 南野 充則

やりたいことを思う存分やるため、AIに関する特許を含め58件取得

――事業や研究開発の面で、御社ならではの特徴はありますか?

南野:当社は経済産業省のJ-Startup企業にも選ばれているので、国の機関と一緒に研究を進めるということもありますね。そのほかにも株主と共同で行うプロジェクトの模索もしています。 また、オープンイノベーションでさまざまな企業とのコラボレーションを行なっているのも特徴です。まだ実証実験中のプロダクトも多いのですが、例えば、NECさんとは靴のインソールに搭載するセンサーを開発しています。装着して歩くことで歩行データを取得し、姿勢の歪みや体重がわかるようになるというものです。帝人フロンティアさんであれば睡眠センサーを搭載したマットレスなどが進んでいます。何かしらのサービスとFiNCを掛け算してユーザーの悩みを解決するという形で、モノを体験とセットで販売していこうとしています。

――AIに関する特許を含め、2019年10月現在で58件取得されていますが、どのような意図で取得しているのでしょうか?

南野:基本的に、特許に関することで自分たちのやりたいことがやれない状況を作りたくないという思いがあるので、自分たちの事業を守っていくためにも、創業時から特許には力を入れています。特許として押さえているもので事業の母体にも影響するのは「自分の健康情報に基づいてAIがアドバイスする」というもので、ほかの特許はその派生が多いです。同じことを他社がやろうとするとうちの特許に抵触する関係もあって、さまざまな企業とアライアンスを組んだり、出資いただくという形で事業が広がっています。

ディープラーニングによって技術の自動化と汎用化が進む未来予想

――南野さんは日本ディープラーニング協会の理事をされていますが、立ち上げに携わっているそうですね。

南野:前提として、僕はヘルスケア領域においてディープラーニングが大事な位置づけになると考えています。ディープラーニングの強みは人間の暗黙知を汎用化できる部分にあるため、栄養士やトレーナーが行うようなことを標準化するという意味でヘルスケアと非常に相性が良いのです。ですから2013年頃からディープラーニングという技術を追い続けていました。そのような経緯もあって、現理事長である東大の教授の松尾さんと立ち上げたのが日本ディープラーニング協会です。 最近のAIブームは実はこれで3回目なのですが、今回はディープラーニングをきっかけとして流行りだしました。協会の活動としては、まずAIがすなわちディープラーニングであるということを伝えること、さらにディープラーニングを扱える人を定義するための資格試験の作成とその普及活動をメインで行なっていますね。ディープラーニングの活用事例も数多く登場していますから、事例を集めて会員に公開したり、書籍の執筆を行うといった形でディープラーニングの社会実装を進めていこうとしています。

――書籍『未来IT図解 これからのディープラーニングビジネス』の執筆も手掛けていますが、南野さんはディープラーニングについてどのような未来予想をお持ちですか?

南野:より自動化が進むと思っています。自動運転技術はもちろん、今は料理ロボットなども登場しています。工場の検品もいずれは機械でできるようになるでしょう。もう一つは、熟練の職人のテクニックなどがもっと汎用化されていくのではないでしょうか。例えばレストランのシェフはその人にしかないテクニックを持っているはずですが、ディープラーニングが普及すればその技術も自動化されて、誰でもシェフの味を楽しめるようになります。美容院でトップスタイリストのサービスをロボットが提供できるようになったりするかもしれません。当社のサービスで言えば、管理栄養士さんによって異なるアドバイスややり方を汎用化して、その人に合わせた最も効率的な方法をサービスとして提供できる。そんな未来がやってくるのではと思っています。

――では、どんなエンジニアならディープラーニングを上手く扱うことができるのでしょうか。

南野:バックグラウンドとしては数学をよく理解している人が向いていると言われますが、それはある意味当たり前のことです。すべてのエンジニアが該当することかもしれませんが、個人的にはユーザーにどういう価値を届けるのかを考えられることがディープラーニングにおいては大切だと考えています。技術を使うだけではただの手段になってしまいますから、目的から逆算したときにディープラーニングをどう使うべきか定義できる人が向いているのではないでしょうか。

生体データの基盤を持つ企業として目指すべき方向性

――最後に、今後の「FiNC®️」のビジョンをお聞かせください。

南野:「FiNC®️」アプリは「Better Together」というコンセプトを掲げているのですが、コンセプトどおり今後もユーザーにしっかり寄り添ったアプリにしていこうとしています。より幅広くユーザーの悩みを解決できるようなプランやシナリオを増やしていこうというのが現在の方針です。そのためには機械学習も利用していかなければなりませんし、専門家ともコミュニケーションを取りながらプロダクトの方向性を決めていかなければならないと考えています。 また、歩数や体重、睡眠、食事のデータをすべて管理できるアプリは現在「FiNC®️」だけなので、「FiNC®️」自体が生体データを蓄積していく基盤になりつつあります。そういった特性を生かして、当社の持つデータを使って他社とコラボし、より良いサービス作りも続けていきたいです。今後はジムやコンビニといったリアルな場との関わりも持っていこうとしています。 こういった事業の実現可否やロードマップは現在僕が考えているのですが、テクノロジーでヘルスケアのイノベーションを起こしていく企業の代表取締役CTOとして、スピード感を持ってプロダクトを生み出していくことは常に意識しながら進めています。

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