SNS mixi・モンストを手掛けたCTOが語る組織論とエンジニアに求められるもの―ミクシィ/村瀬龍馬さん

SNS黎明期であった2004年、SNS「mixi」の提供で一躍マザーズ市場に上場するなど急成長を遂げた株式会社ミクシィ。現在は5つの領域で幅広く事業を展開しながら、一貫してコミュニケーションサービスの提供を行っています。

今回お話を伺ったのは、「mixi」やゲームアプリ「モンスターストライク(モンスト)」の開発に携わったCTOの村瀬 龍馬さん。

CTOとしての役割やミクシィのエンジニア文化、さらにマネジメント論についても語っていただきました。また、ミクシィがバズるサービスを生み出すために重視している観点についても注目です。

多種多様な事業のエンジニア組織を全社的にまとめる仕組み

ー 改めまして、ミクシィのサービスについて概要を教えていただけますでしょうか。

村瀬 龍馬氏(以下、村瀬:)当社は事業ドメインを「コミュニケーションサービス」と定義していて、コミュニケーションを主軸としたサービスを打ち出しています。 領域はデジタルエンターテインメント、ライブエクスペリエンス、スポーツ、メディア、ウェルネスの5つです。

全く違う領域のように見えるのですが、人と人とがつながり、集まるためのサービスであるという点で共通しているのが当社の特徴ですね。

現在力を入れているのは、モンストを提供しているデジタルエンターテインメント領域と、スポーツ領域です。スポーツ領域については現在公表できる具体的な取り組みは無いのですがインターネットからリアルへと世界がシフトしていくことになるので、難易度の高いシステムにも挑戦していくことになると考えています。

サービスとして右肩上がりに成長しているのは、メディア領域の子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」です。ユーザー数は500万人を突破しました。招待した家族だけが見られるもので、アルバムのように写真や動画をどんどん保存できます。投稿は月ごとに自動的に整理されて、さらにコメントもつけられ、離れた家族間でも子どもの写真を通してコミュニケーションできるのが特徴です。対象を家族に限定して写真や動画を共有するアルバムとしては他の写真を共有できるサービスよりも便利で、非常に伸びているサービスです。

mixi

ー エンジニア組織の体制や開発の進め方についてお教えください。

村瀬:私が所属している開発本部は、開発組織を横断する全社的な立ち位置です。それ以外には「みてね」や「モンスト」などの事業単位でエンジニアチームが存在しています。エンジニアの全体の人数は300名ほどで、半数ほどは業務委託のメンバーです。 各チームの規模については、例えばモンストなら現在30名ほどです。そのうちサーバーサイドが10名前後の少数精鋭で、私が携わっていた立ち上げ当時からさほど変わっていません。

機能追加やリファクタリングなどの進め方についてモンストを例に挙げると、まず優先度の高いものから順にタスクが一覧になっています。その中からテーマを決めてタスクを選び出し、一つひとつの機能に対して企画、デザイン、開発、必要であればマーケティングのメンバーがジョインして開発を進める形にしています。

モンストのリリース三ヶ月後頃はスケールが激しかったため、優先度最高でサーバーを改善しました。構造をほぼゼロから作り直したレベルです。

ー エンジニア文化にはどのような特徴がありますか?

村瀬:個々の事業が好きで集まっているエンジニアが多いので、一言で言えば多様です。ゲームがやりたい人とスポーツをやりたい人とでは、エンジニアとして求めていることもやりたいこともバラバラなんです。

逆に言えば他の事業には興味のないエンジニアが多いということでもあるので、その点はいろいろと対策をしています。特にマネジメント層のエンジニアに対しては全社的視点を持ってもらうために横軸で情報共有をしたり、人員が不足しているチームがあれば能動的に助け合うようにしています。

また、採用についても同じです。各事業にフォーカスした募集を行ってはいますが、ミクシィ全体としてのコミュニケーションサービスを提供するという根底の部分のマインドを持っているかどうかはしっかり確認しています。

株式会社ミクシィ 取締役 CTO 村瀬 龍馬 株式会社ミクシィ 取締役 CTO 村瀬 龍馬 さん 高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。2009年に1度退職し、ゲーム会社の役員や京都のゲーム会社でエンジニアなどを経験。2013年に株式会社ミクシィに復帰し、別部署を経て『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAG開発本部本部長としてXFLAGのエンジニア全体を統括した後、2018年4月、執行役員CTO就任(現任)。2019年6月、取締役就任(現任)。

チームの最適化を図る横軸のマネジメント経験を経てCTOに就任

ー 村瀬さんがミクシィのCTOに就任することになった経緯はどのようなものですか?

村瀬:イー・マーキュリー(現:ミクシィ)は当時エンジニアが4~5名で、私はSNS「mixi」のエンジニア3人目のメンバーとして参画しました。少人数で「mixi」を支えていくところからスタートして、サービスの急拡大とともに会社は上場。海外版mixiなども開発していましたが、私はその時期に一旦退職しています。

2013年に戻ってきてからは子会社の技術支援の傍ら、モンストの拡大を支えました。 そこからはマネージャーや新規ゲームの開発リードなどを担当しつつ、ミクシィ全体をどう支えていくのかという視点で動くようになっていきました。マネジメントにおいても、エンジニアをどう配置してチームを最適化するかという横軸で動いていましたね。 このような取り組みが、CTOとして認められた要因だと考えています。

ー CTOとしては具体的にどのような役割を担っているのでしょうか?

村瀬:社外CTOなどもそうだと思うのですが、CTOの役割は基本的にCEOが何を求めているかによって決まります。当社代表の木村がCTOに求めているのは、技術的な部分のガバナンスがメインです。経営サイドへの技術的な助言や、技術難度が高いサービスへの解決をするというコミットも加わると考えています。

今年6月からは取締役なので、経営に参画するという意味では数字を見る必要もありますし、技術投資がきちんと効果を発揮できるのかどうかも論じなければいけません。その上で、当社がどのような技術を打ち出しているのか、世の中と社内、特に取締役全体に対して技術者としても示してくのがミッションです。

mixi CTO

社内外での活発な勉強会やイベントで技術向上を図る

ー エンジニアの技術向上のための制度などはあるのでしょうか?

村瀬:勉強会はかなり活発です。社内のナレッジベースに社内外の勉強会リストがまとめられているので、一覧を見て興味を持った人は積極的に参加しています。一部の事業ではLT大会を企画して、参加者を社内公募することもあります。

また、業務は基本的に新しい事業が生まれては消えていく状況なので、「今回はこのクラウドを使ってみよう」といったように、新しいチャレンジをできる土台があると言えます。技術選定も基本的にチームのリードエンジニアを信頼して任せていますし、比較的自由度は高いですね。

ー 9月にはイベントも開催されるそうですね。

村瀬:9月13日、14日の二日間にわたって、渋谷ヒカリエで「BIT VALLEY 2019(ビットバレー2019)」というカンファレンスイベントを開催する予定です。DeNA、サイバーエージェント、GMOインターネット、そしてミクシィの4企業が主催で、「モノづくりは新たな領域へ」をコンセプトにしています。

会場では様々なトークセッションやワークショップを行います。対象はエンジニアだけでなくIT業界でモノづくりを行うすべての方で、学生は参加無料です。

mixi CTO 村瀬

ミクシィのマネージャーに求められる最重要課題とその理由

ー エンジニアの働き方についてはどのような取り組みを実施していますか?

村瀬:「スペシャリスト」と呼ばれる、自発的に活躍して成果を生むことのできるエンジニアに限っては裁量労働制を認めています。 裁量労働制では、リモートワークも一部導入していますが、実施するかは事業によって異なります。例えばエンターテインメント領域で、ゲージを上げたりノブを回して音量調節をするといった機能には、感覚での判断が行われます。手触りなどの感覚の部分は数値化するよりも、実際に見せながら「これくらいかな」とやりとりをした方がわかりやすい。つまり、オフラインで開発する必要性が高いわけです。一方で、コマンドは何を実行するのかといったことや、ドキュメントの仕様の決定など「言った言わない」が関わる場合は、証左がはっきり残るオンラインの方が確実です。 ですから、オンライン上のオペレーションのみで完結するもの、感覚値が入り込まないような事業に関してはリモートをOKにしているという感じです。

ー ミクシィにおけるエンジニアマネジメント論などはあるのでしょうか?

村瀬:当社は、自分の行きたい事業に挑戦できる「ミクシィ・キャリア・チャレンジ」という社内公募制度があります。1ヶ月に1回、新規事業や人員に空きが出ているポジションに関して社内公募を行っていて、正社員であれば自由に応募できるというものなのですが、基本的に上長を通さずに応募できます。つまり、マネージャーが知り得ないところで部下が違う事業に行ってしまう可能性が常にあるということです。それはマネージャーにとって非常に辛いことなのですが、制度上は文句を言えません。

そういった事態を防ぐために登場するのがミクシィのマネジメント論です。一番大切なのはエンジニアに対して現状の仕事の意味を与えること。その事業によって自分が技術的に成長できて、やりがいもあるのだということを伝えていくのが、当社のマネージャーにとっては重要なのです。意味を与えるためにはまずその人自身のことをよく知らなければならないのでしっかり1on1を行い、その人がやりたいこと、目指しているもの、得たいもの、理想の働き方などを引き出します。

その上でマネージャーは、事業の問題点を踏まえて今後起こり得ることを想像し、事業を伸ばすための先んじた行動をしていくことになります。そういった姿を見せると現場のメンバーにも想像力が働いて、他のセクションの人たちと話し合いながら問題を解決してくれるようになります。

ここまできたら次にすべきなのは、一つ上の視座を持って事業を良くするための提案をしたり、事業主が実現したいことを噛み砕いてメンバーに伝えていくということです。 この順番でマネジメントを繰り返すのが、事業を支えるマネージャーに必要なことだと思っています。

mixi CTO

バズるサービスの大前提は「人に話したくなる」性質を持つこと

ー 支持され続ける、バズるサービスを作るためのコツはあるのでしょうか?

村瀬:当社が主軸としているのはバイラルマーケティングです。どんな機能やマーケティングであっても、人に話したくなるものでなければ駄目だと考えています。

たとえば、モンストでは7月にオーブを100個以上、最大500個まで手に入るイベントを行ったのですが、これも「オーブをいくつもらったのか」「もらったオーブを使ってガチャを引いたら何が出たのか」といったコミュニケーションが生まれることを想定しています。

話題になることを前提とした機能やマーケティングを生み出すのが、ミクシィは上手いなと思っています。

ー 人とコミュニケーションを取るためのツールとして活躍しているんですね。

村瀬:モンストはスマホゲームですが、みんなで集まって楽しむためのツールがたまたまゲームだったというだけです。SNS「mixi」も当初は招待制を採用していました。使っている人が友人を招待することで初めて利用できるものだったので、信頼性の高いクチコミで爆発的に広がっていきました。

モンストも同じです。リリース当時、スマホゲームは一人でプレイするタイプが非常に多かった中で、4人で集まってプレイすると楽しいし、たくさん遊べるという仕掛けにしました。その結果、やはりクチコミで面白さが広がっていったのです。

我々の提供するサービスは総じてその点に強みがあると考えていますし、マーケティングも一貫しているというのが共通点ですね。

mixi CTO 村瀬さん

現場が求める、強い好奇心を持って決断するエンジニア

ー 今後どういったエンジニアが求められるのか、村瀬さんの視点ではどのようにお考えでしょうか。

村瀬:私が一番好きなのは、決断力を持ったエンジニアですね。 例えば自分で事業を伸ばすと決めて、そのための機能を作ったとしたら、どんな使われ方をしているのかを自発的に調べ、良かったこと悪かったことについて仮説を立てて判断できるタイプです。好奇心がある人ともいうかもしれません。

技術のスペシャリストとして活躍している方も、そういった能力は非常に強いはずです。自分でライブラリやソフトウェアをOSSで出したとき、どういう人に向けたものかを設計し、耳に届く要望を取捨選択し、新たな機能を追加して改善していくといったことは、ほとんど商品のマーケティングと同じです。 事業視点を持っているということですね。こういった人たちが世の中を回していくはずだと思いますし、一緒に働いてみたいと思います。

ー ミクシィの採用視点で求める人材についてはいかがですか?

村瀬:マネジメントレイヤーは欲しいですね。エンジニアリングマネージャーとして事業とエンジニアを両方引っ張れるような、コミュニケーター兼エンジニアリーダーはやはり需要が高いです。

また、私としてはCTOになりたい人も歓迎しています。日本のCTOの定義はバラバラなので、その人の考えるCTO像から確認しなければなりませんが、当社におけるCTO、ということであれば必要な要素はきちんとお伝えしますし、チャレンジもできるようにします。

現場のエンジニアとしては、とにかく手を動かせる人を求めていますね。当社は本当にさまざまな技術に触れることができます。エンターテインメントであれば3Dやサウンド系がありますし、「みてね」であれば動画生成など、メディアを扱うノウハウが手に入ります。モンストのような大規模トラフィックの安定運用を突き詰めていく領域や、実績としてはアニメや映画の制作技術もあります。

こういった要素に好奇心を持って、「コミュニケーション」に関わるあらゆる事業を楽しめるような人は、絶賛募集中です。

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