「空飛ぶクルマ」の時代がやってくる?AirX・多田大輝氏が描くエアモビリティ事業の将来
ヘリコプターやセスナをはじめとしたプライベート利用が盛んな小型航空機をメイン事業として展開している株式会社AirX。既存の航空会社と利用者のマッチングを図っている同社は、遊覧、チャーター、ライドシェアなど多様な形での利用機会と予約インターフェイスを提供しています。
AirXは、将来的に登場が予想される「空飛ぶクルマ」、すなわち新しいエアモビリティの利用サービスの先駆けとして、経済産業省が主導する「空の移動革命に向けた民間協議会」の構成員も務めています。
ITで移動手段も変わろうとしている昨今、空の移動革命の協議会での活動内容や、今後のエアモビリティ事業の展開について、COOの多田 大輝さんにお伺いしました。
目次
全国約20社の航空会社と連携して、航空機を最短3分で手配
なぜ「空の移動」に着目したのか、AirX設立の背景についてお教えいただけますか?
多田:大きなバックグラウンドは、私も代表の手塚も、各々が移動に関する苦痛を感じるシーンが多かったことですね。私の場合は大学生の頃です。当時、自宅から大学までは電車とバスを乗り継いで片道1時間半の道のりでした。やりたいことがたくさんあった学生時代でしたから、移動で往復3時間というのは、1日のうちに使える時間を考えると大きな制約に感じていたんです。そこで移動手段をバイクに変えたところ、片道たった30分にまで短縮できました。往復2時間もの時間を創出できたことに、大きな魅力を感じました。
就職して東京に出てきてからは満員電車を目の当たりにしていました。誰もが極力プライベートなスペースで、早く楽に移動できるに越したことはないと思っていても、人が集中している都市にそんなサービスはなかなか無い。
何かこれらの条件を満たせる方法が無いものかと考えたときに、空は全く未開拓な領域だと気付きました。もちろん大型旅客機で移動する手段はありますが、空港がなければ利用できません。現在は一部の富裕層の方の移動手段であるヘリコプターを一般の方も気軽に利用できるようになれば、移動の苦痛を緩和できるのではないかと考えたのです。それが空のサービスに着目した理由ですね。
2013年新卒一期生として、株式会社フリークアウトに入社。DSPなど広告配信システムに付随するWebアプリケーションの開発を行う。2015年2月にフリークアウトの同期で、代表取締役の手塚とともにAirXを創業。創業時はサービスの開発を行い、現在はサービスのグロースに関わる部分をメインに担当。twitter:@taiki_tada_
実際に航空機はどのように運用しているのでしょうか?
多田:航空会社というと主にJALやANAが思い浮かぶと思いますが、それ以外にもヘリコプターや小型の飛行機を取り扱っている航空会社が全国に20社ほどあります。基本的には、その各航空会社の機体の空き時間を利用して航空機を手配している形です。たとえば東京なら、東京ヘリポートという東京都が運営しているヘリポートを利用しています。予約には従来であれば1週間ほど必要だったのですが、当社の場合は最短3分で手配できるのが強みです。
サービスは実際にどのくらい利用されているのでしょうか?
多田:一般的に大手を除いた航空会社の航空機は、1機あたり年間150~200時間のフライトがあればかなり活用されている方だと捉えられます。一方当社で運行させていただいている機体は、一ヶ月で多ければ80時間。年間では600~800時間飛びます。一般の航空機の4~5倍の運航時間ですね。
今後は以下のような事業ロードマップを描いています。
現在のエンジニア組織の体制や開発環境を簡単に教えてください。
多田:エンジニアは私を含めて4名。デザイナーが1名で、計5名のチームです。使用言語はサーバーサイドがElixirとRuby on Rails、フロントエンドがReactです。基本的に週次で定例を行い、GitHub上でIssueを上げます。それを各メンバーにアサインして開発を進める流れです。
取り扱うデータは主に航空機の空き状況やご予約いただくお客様の情報管理など。個人情報に関しては、お名前や国籍以外にも体重など、航空機特有の内容があるのが特徴的かもしれません。
エアモビリティの普及に向けた国の取り組みにも参画
経産省が主導する「空の移動改革に向けた官民協議会」の発足と、御社がその構成員となったのはどのような背景があったのでしょうか?
多田:「空の移動改革に向けた官民協議会」は、現在の航空機とは違う「空飛ぶクルマ」、すなわち一般の人が自宅から空を活用して移動できるようなモビリティの実現に向けて、技術開発や制度整備を協議するために発足されたものです。国がエアモビリティの市場が醸成できる環境をつくることに意欲的だということですね。航空機メーカーにおいても、大型旅客機の市場が一定ラインまで到達している状況を鑑みて、新しいモビリティや市場を開発したい需要が増えているという背景があります。
AirXが構成員となったきっかけは、サービス展開の仕方が関係しています。現在、日本の航空会社は国からの受注をメイン事業としている古い業態の会社が多い傾向で、なかなか一般の人の移動や娯楽のための市場が創出できていませんでした。そんな中で我々は一般の方向けのサービスを展開していることから経産省の方に注目いただき、参入した流れです。
協議会における具体的な活動はどのようなものでしょうか。
多田:AirXが行なっているのは、既存の航空機から次世代の空飛ぶクルマに切り替わるタイミングにおいて発生するであろう、利用や運航に関する課題の抽出と、その解決策の提示です。
課題は大きく2つあり、ひとつはヘリポート・空港設置に関する制約です。
ヘリコプターや航空機は乗り降りや離着陸の場所に大きな制限があるため、これを緩和するための法律面や制度の変更を提言しています。
もうひとつは実際に機体を運航する上での管理・メンテナンス体制について。既存の航空機に求められるような管理体制は、次世代の航空機運用を想定すると非常にハードルが高いため、こちらも緩和を考案しています。
都市と地方を空でつなぐことが、エアモビリティ事業の要となる
地方の需要開発を課題に持つ鉄道会社との提携も行なったと伺っています。
多田:今後、日本は人口減少と少子高齢化が進んでいきます。当然乗り物を利用した移動回数も減り、鉄道会社の収益が成り立ちづらくなっていくことは明確です。また、この流れでいくと彼らが持っている都市から地方までの鉄道路線や、地方の公共交通機関、観光施設も衰退していくことになるので、さらなる打撃です。現状とは別の収入源をつくることと、地方創生が大きな課題となっているのです。
インバウンドは増えていますが、彼らの滞在時間の中で地方に出向かせる時間が無いため、別のアクセス手段があれば…とイメージする会社さんも多い。そこで登場するのがヘリコプターです。大体15m×15mの空きスペースがあればヘリコプターは着陸できますし、お客さんを乗せるために必要なのは多少の手続きだけです。たとえば都心エリアにやってきた海外の方を、さっと地方に送迎するという形が有効な交通手段となるのです。将来的に新しいエアモビリティが出てきたら、可能性はさらに広がるでしょう。
これは実証実験も進めている段階で、地方にヘリポートを作り、鉄道会社の運営するホテルに送客したり、ホテルに宿泊している方にヘリコプターを利用してもらう取り組みが進んでいます。
地方創生の取り組みは、エアモビリティの普及を実現化させるための構想の一つなのでしょうか?
多田:道半ばなのでどうなるかわからない部分は多いにあるのですが、やはり人口が多い都心エリアと地方の観光施設をつなげる空の路線は増やしていきたいです。それによって、今後衰退されると予想された地方のエリアや観光資源を活かせていなかったエリアをより魅力的にできる可能性があります。
ヘリポートを中心として、個々の地方エリアが独立した地方都市や産業エリアとして発展するような世界観を目指したいですね。
では、現在注目している地方エリアはありますか?
多田:富士の山中湖や河口湖など山を越えなければならないエリアや、逆に館山など海を跨ぐようなエリアはエアモビリティが生かせる場所だと思います。箱根などの渋滞しやすいエリアも開拓中ですね。
あとは伊豆エリアでしょうか。都内からは3時間半かかるのですが、ヘリなら30~45分程度です。これまでは足が届かなかった場所が、日常的に訪れることができる場所になる可能性は充分あると思います。
そのために当社としても意欲的に取り組んでいるのが料金面なのですが、現在は都内から伊豆の場合は3名乗って片道数十万円。一人あたりは4~5万円という世界です。
ここからどんどん価格を下げようとしています。
プライベート空間で移動できる最上級の快適さを広く伝えたい
今後エアモビリティを普及させるために重要視しているのはどのようなことでしょうか?
多田:実際の利用者が手軽にエアモビリティを活用できるシステムやインターフェイスですね。現在もUberや日本交通の配車アプリなどはありますが、エアモビリティはエアモビリティに特化したUI/UXが求められるのではと思っています。その点は僕たちなりに、実際に利用いただいたお客様の声やニーズを掴んで開発を進めようとしています。
あとは、プライベートな航空機が思った以上に手軽な乗り物であることを知ってもらうことですね。僕たちも事業を通してヘリコプターや航空機に乗ることはあるのですが、大型旅客機で移動するよりも手続きはかなりシンプルなんです。自分の予定に合わせて手配できますし、移動中は完全なプライベート空間。
電車とは全く違う、空からの景色を楽しめます。総合的に考えると、最上級の快適さを体験できるんです。金額面の課題を解消すると共に、そうしたエアモビリティの良さを伝える努力も続けていきたいですね。