数字の先を描くPdM思考とは?タイミーVPoPが語る、急成長環境でPdMに求められるスキルと視座 [FLEXY meetup イベントレポート]

2025年9月18日に開催されたFLEXY meetupのテーマは「数字の先を描くPdM思考」。スキマバイトサービス『タイミー』を提供する株式会社タイミーでプロダクト担当 執行役員 VPoPを務める大歳さんをお招きし、急成長を遂げる同社のプロダクト開発体制から、非連続な成長を生み出すための戦略、そして事業を牽引するプロダクトマネージャー(PdM)に求められる思考法やスキルセットについて、幅広くお話しいただきました。

本レポートでは、タイミー社が実践するプロダクトマネジメントの裏側や、短期的なKPI達成に留まらず、中長期的な事業インパクトを創出するためのヒントが満載だった当日のセッションの模様をお届けします。
※登壇内容は登壇日時点のものです

登壇者紹介

大歳 華王志 氏|株式会社タイミー プロダクト担当 執行役員 VPoP

大学卒業後、鉄道グループ企業に入社。システムの設計、導入、保守に従事したのち、2014年にリクルートグループに参画。数々の大型プロジェクトに参画後、ブライダル業界向けのtoBプロダクトの戦略・ロードマップ策定、企画検討、実行推進を担うチームを牽引。その後、2021年にSalesTechのSaaSを提供しているベルフェイスに入社。2023年1月より執行役員VPoPとしてプロダクトの戦略立案やロードマップ策定、企画開発の推進を経て、2023年10月からタイミーにDoPとしてジョインし、プロダクトマネジメント組織の運営を担う。現在はプロダクト担当 執行役員 VPoPとしてプロダクトのビジョン実現に向けてプロダクトの戦略・組織を統括している。

タイミー社のプロダクト開発と成長戦略

タイミーの事業概要とプロダクトビジョン「はたらくを通じて、人生の可能性を広げる」

大歳氏: 弊社は「一人ひとりの時間を豊かに」というビジョンと、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というミッションを掲げ、働きたい時間と働いてほしい時間をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー」を提供しています。

プラットフォームは順調に拡大しており、ワーカーの登録者数は約1,200万人、登録クライアント事業所数は約41万7千拠点に達しています(2025年10月時点)。我々が向き合う市場は、全産業で約3.9兆円という非常に大きな機会があり、タイミー社の昨年の売上268億円と比較しても、まだまだ大きな白地が残っている業界です。

信頼を軸にしたプロダクトビジョン「Build the Trust Hub」

大歳氏: 我々は事業に向き合うため、今年の5月に「Build the Trust Hub ―信頼を軸に『はたらく』の自由を切り拓く―」というプロダクトビジョンを策定しました。ここで重要なのが「信頼」という言葉です。

「信用」と「信頼」は似ていますが、私たちは「信用」と「信頼」を明確に区別しています。「信用」は過去を対象とした客観的なものであり、それが積み重なった先に、未来に対する主観的なものである「信頼」が生まれると考えています。

タイミーではたらくほどに経験や評価、スキルが可視化され、「信用」が積み重なります。この「信用」がデータとして表現されれば、企業はより大きな仕事を任せられるようになります。このようにして生まれた「信頼」が、一人ひとりの可能性を広げると信じています。このビジョンは5年という、想像しやすく、かつ頑張らないと実現しない絶妙な時間軸で設定しています。

タイミーのプロダクト開発体制:顧客価値を最速で届ける「ストリームアラインドチーム」

大歳氏: 弊社のプロダクト開発の最大の特徴は、書籍『チームトポロジー』(日本能率協会マネジメントセンター)で紹介されている「ストリームアラインドチーム」という体制を組んでいる点です。

大歳氏: 顧客に価値を最速で届けるため、プロダクト本部やエンジニアリング本部といった実組織とは別に、仮想的なチームを組んでいます。このチームでは、職能を越境しながら自律的に開発を進めることができます。プロジェクトのように期限があるものではなく、特定のドメインに半永久的に向き合うことで認知負荷を下げ、フロー効率を上げることを目指しています。

この仮想組織のトップには、CPO・CTO・VPoE、そして私(VPoP)からなる「プロダクトボード」が存在し、大きな意思決定を行っています。その下に、戦術ラインを推進する3名の「グループPdM」がおり、各ドメイン領域を管轄しています。さらにその下に、複数の「Squad」と呼ばれるチームが活動している構成です。

3つのTribe(分担領域)とその役割

大歳氏: 現在、Group PdMが管轄するドメインは、大きく3つの「Tribe」に分かれています。これは状況によって変わる、現時点でのスナップショットです。

  1. マッチングTribe: BtoBとBtoCのツーサイドプラットフォームとして、需要と供給のバランスを維持・最適化し、マッチングの数を最大化することに責務を持ちます。
  2. スムースワークTribe: クライアントのファネル改善や、マッチング後の仕事体験の改善を担います。例えば、ワーカーのオンボーディングをいかに滑らかにするか、といった課題に取り組んでいます。
  3. 基盤Tribe: マッチング後の体験、例えば労務システムの提供や振込処理といったアプリケーション基盤の構築、そしてサービスの安心・安全を担保することに責務を持ちます。

非連続な成長を描くS字カーブ戦略

大歳氏: リチャード・フォスターが提唱したS字カーブという概念があります。これは、あらゆるサービスが初期の緩やかな成長期、急成長期、そして成熟期という曲線を描くというモデルです。

大歳氏: 弊社のトップラインのYoY(前年比成長率)をこの曲線に当てはめると、これまでT2D3(※)と言われるような急成長を遂げてきましたが、今後は成長が緩やかになることが見込まれます。これまで選択と集中で既存事業を伸ばしてきましたが、次の非連続な成長を生み出すためには、今がまさに次のS字カーブを作るための手を打つべき分かれ目だと経営陣と共に認識しています。そのため、新規領域へ積極的に投資していくことを決定したフェーズです。
※T2D3:ARR(年間経常収益)を最初の2年間は3倍(Triple)、その後の3年間は2倍(Double)に成長させるという、SaaS企業の急成長モデルのこと

事業成長を牽引するPdMの思考法

タイミーで活躍するPdMに共通する3つのマインドセット

大歳氏: 弊社で活躍するPdMに共通しているのは、スキル以前にマインドセットの部分が非常に重要だという点です。特に以下の3つが挙げられます。

  1. アダプタビリティ(適応性): 環境やフェーズの変化に柔軟に対応できること
  2. アンラーニング: 過去の成功体験に固執せず、一度捨てて新しい学びを得られること
  3. 越境マインド: 自身の役割に固執せず、組織の力点を見つけて越境できること

タイミーは意図的にトップダウンではなく、現場の集合知を活かすボトムアップの組織運営をしています。PdMには大きな裁量が与えられており、自分で旗を立て、周りを巻き込んで動かす力が求められます。これは非常に難易度の高い環境ですが、だからこそ、こうしたマインドセットが不可欠になります。

ユーザーの声の裏にある「本質的な課題」を見抜くには?

顧客の声は氷山の一角に過ぎません。ヘンリー・フォードが『顧客に欲しいものを聞いたら、もっと速い馬が欲しいと言われただろう』と語ったように、顧客は本質的な課題ではなく、ソリューションを求めてくることが多いのです。

大歳氏:言われた通りに作っても使われない、いわゆる「ビルドトラップ」に陥らないためには、顧客の言葉を健全に疑い、その裏にある行動や感情に着目して観察することが重要です。
例えば「もっと簡単に応募できるようにしてほしい」という声があったとします。言葉通りUIを改善するのではなく、ユーザーが応募画面で不安そうな表情を浮かべているといった行動を観察することで、「新しい場所ではたらくことへの不安」が本質的な課題(インサイト)かもしれない、という仮説が生まれます。そうなれば、打つべき手はUI改善ではなく、職場の雰囲気を伝えたり、得られる経験を提示したりすることに変わるかもしれません。

点のKPIを線・面の事業インパクトへ繋げる思考法

大歳氏: 目の前の機能の利用率といった「点」のKPIだけを追うのではなく、それが事業全体にどう繋がるのかを「線」や「面」で捉える視点が重要です。
利用率が上がった(点)、その結果、顧客の生産性が上がりコストが削減された(線)、それによって顧客満足度が向上し、解約率が低下したり、バイラルが起きたりして事業KGIに貢献した(面)。このように、因果関係をストーリーとして立体的に捉える必要があります。
そのためには、プロダクト中心の視点から「顧客中心」の視点へ転換し、「顧客が解決したい課題に繋がっているか?」を常に問うことが大切です。

成果の捉え方:顧客価値と事業収益、2つのオールを漕ぎ分ける戦略的思考

大歳氏: 優れたPdMは、「顧客価値」と「事業収益」という2つのオールを巧みに漕ぎ分けます。この2つは時に相反するトレードオフの関係にありますが、市場の状況や時間軸に応じて、どちらのオールを強く漕ぐべきか判断する戦略的思考が求められます。

大歳氏: 短期的には片方のオール(例えば事業収益)に比重をかける決断をしたとしても、それが中長期的にはもう片方のオール(顧客価値)のリターンに繋がる、という見立てがあれば、その選択は正しいと言えます。重要なのは、その意思決定が最終的に我々が目指すビジョンへの到達に繋がるかどうかです。このバランス感覚と戦略的思考が、PdMにとって非常に重要なスキルとなります。

PdMのその先へ:専門性を掛け合わせる「T字型人材」への進化

大歳氏: PdMに求められるコンピテンシーは非常に多岐にわたります。これら全てを一人で完璧にこなすスーパーマンは存在しません。重要なのは、組織としてプロダクトマネジメントを捉え、総合力で価値を最大化する視点です。 個々の専門性を足し算するだけでは、成長は線形的にしかなりません。しかし、エンジニアやデザイナーも含め、各々が専門領域を越境して能力を掛け合わせることで、創発的なイノベーションが生まれ、組織は指数関数的に成長できると考えています。 PdMのキャリアを考える上でも、自身の専門性という「縦軸」を深めつつ、組織の総合力を高めるためにどの領域に越境していくか(横軸)を考える「T字型人材」を目指すことが、唯一無二の価値を生み出す鍵になるのではないでしょうか。

Q&Aセッション

Q. スピーディーな意思決定と、上場企業としてのガバナンスのバランスはどのように取っていますか?
大歳氏: 守るべきガバナンスのラインを見極めつつ、過剰にならないよう意識しています。重要なのは、リスクを適切に受容できるかどうかです。看過できないリスクはもちろん避けますが、コントロール可能な範囲のリスクであれば、受容した上でアクションプランまで見立てて挑戦します。そのバランスを常に意識しています。

Q. 全社でビジョン・ミッションの解像度を高く保つために行っている工夫はありますか?
大歳氏: まさに発展途上ですが、先ほど紹介したプロダクトビジョンの策定もその一つです。ビジョンを語る際は、個々の行動を規定するのではなく、自由に行動できる範囲を示す「ガードレール」を明確にすることを意識しています。そして、そのビジョンが会社のビジョン・ミッションにどう繋がるのかを接続し、誰もが当たり前に語れる共通認識になるよう、醸成しているフェーズです。

Q. マッチングTribeとスムースワークTribeを分けた具体的な背景は何ですか?
大歳氏: 以前は「マッチングTribe」と、労務や安心安全を担う「スポットワークシステムTribe」の2つで運用していました。後者のカバー領域が広すぎたため、クライアントのファネル改善といった攻めの施策よりも、安心安全といった守りの施策が優先されがちになるという課題がありました。そこで、戦略的にトップラインを伸ばす「攻め」の領域を明確にするため、グロース領域を独立させ、再編した結果、現在の「スムースワークTribe」が生まれました。

Q. BtoBとBtoC、どちらの意見を優先することが多いですか?
大歳氏: 前提として、ツーサイドプラットフォームなので両者のバランスを見ます。事業開発の目的がトップラインを伸ばすことであれば、現在の需給バランスを見て、どちらを重視すべきか判断します。しかし、プロダクトとして、あるいは会社として、本当に50対50で迷った場合は、ワーカーにとって最も良い選択は何か、という視点に立ち返ります。これは「ワーカーファースト」という考え方が根底にあるからです。

Q. BtoBとBtoCの価値が相反する場合の意思決定で大事にしている考えはありますか?
大歳氏: その瞬間の判断が、中長期的に我々のビジョン達成に繋がるかどうかを考え抜きます。例えば、現在タイミーでは働き手が募集を上回っている状況です。このままではワーカーの機会が失われてしまうため、クライアント側の募集を増やす、つまりクライアントの課題解決に比重を置くことが優先されます。一見クライアントを優先しているように見えますが、それはその先にある「ワーカーの未来を切り拓く」という目的のためであり、その繋がりを常に意識して意思決定しています。

まとめ

今回のFLEXY meetupでは、タイミー社のVPoPである大歳氏から、同社の成長を支えるプロダクトマネジメントの神髄が語られました。 プロダクトを通じて事業を成長させるというミッションを担う全ての方々にとって、自らの役割と向き合い、次の一歩を考える上で、非常に有益な学びが得られたセッションだったのではないでしょうか。

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