フリーランス新法とは?概要や制定背景、契約トラブル例などを弁護士が解説

フリーランス新法入門

2023年11月22日にフリーランスの方向けに開催した、弁護士によるフリーランス新法解説セミナーの内容を紹介します。フリーランス新法はフリーランスとして働く方が不当な扱いやハラスメントを受けないために、取引の適正化と就業環境整備を促進することを目的とした法律です。

本記事ではフリーランス新法が制定された背景や施行スケジュール、よくある契約・ハラスメントトラブル、法律制定による就業環境の変更点、法律違反があった際の対処法などを記載しています。また、セミナー中に視聴者の皆様からいただいた質問への回答もまとめていますので、フリーランス新法について理解を深めたい方は記事の最後までご覧ください。

フリーランス新法とは

今回セミナーにご登壇いただいたのは、フォーサイト総合法律事務所 パートナー弁護士の由木 竜太先生です。由木先生は働き方改革関連法や最新の法令・実務をまとめた『新労働事件実務マニュアル 第5版』の共著者であり、労働法務や経済法のエキスパートです。
以下、由木先生にご解説いただいたフリーランス新法セミナーについて紹介します。

フリーランス新法とは

「フリーランス新法」とは略称で、正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。
ここで押さえておくべきポイントは、本法律の制定はフリーランスの「取引の適正化」と「就業環境の整備」が大きな目的になっているということです。

下請法との違い

フリーランス新法と同様に、フリーランスを保護するための法律として下請法があり、以下の画像はその2つの法律の違いについてまとめたものです。

下請法との違い

5つの項目で比較していますが、フリーランス新法と下請法で大きな違いがあるのは「保護対象」と「規制対象」で、「義務内容」「禁止行為」「罰則」の内容についてはほぼ共通しています。
重要なのは、これまで下請法で保護されてこなかった小規模事業者とのトラブルもフリーランス新法で保護される可能性があるということです。

適用対象

次に、保護対象について具体的に説明します。
本法律では、業務委託事業者と特定受託事業者間の「業務委託にかかる取引」が適用対象になると規定されています。

適用対象

特定受託事業者というのは、業務を受託する側(=受注者)であって、かつ従業員を使用しない者となっており、個人で活動されるフリーランスの方を念頭においた定め方をしています。
従業員とは、週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者とされ、この規定に当てはまる方を使用しているフリーランスの方は残念ながら、法律の適用外になります。

どのようなパターンが従業員に該当しないかについては画像を参考にしてみてください。

制定の経緯と施行スケジュール

フリーランス新法制定の経緯と施行スケジュールについて説明します。

制定の経緯と施行スケジュール

まずスタートは2020年7月に「成長戦略実行計画」というものが閣議決定されました。その中での実態調査によると、取引先とのトラブルを経験したことがあるフリーランスのうち、そもそも取引条件等を記載した書面・電子メールが交付されていない者や交付されていても取引条件が十分に明記されていなかった者が6割いるとされています。

こうした状況を改善しフリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者とフリーランスの取引について書面での契約のルール化などの法制面の措置を検討するということで議論が始まり、今年の国会審議で可決・成立、そして5月12日に公布されました。

施行日については現状未定ですが、公布日から1年6ヶ月以内に施行されるとの規則があるため、遅くとも2024年秋ごろまでに施行されると言われています。

フリーランス新法が制定された背景

どうしてフリーランス新法が制定されたのか、その背景について説明します。

フリーランス新法が制定された背景

前述の実行計画で政府が指摘していたフリーランスと事業者間のトラブルについて、「フリーランス新法の概要と施行に向けた準備の状況について」という資料に記載されている、2018〜2021年にかけてのフリーランスの実態に関するアンケート調査の結果をご紹介します。

この調査によると、依頼者から納得できない行為を受けた経験がある方が全体の約4割、また取引条件や業務内容が示されていない/不十分であるとの回答が全体の4割強を占めていたということが分かりました。

具体的なトラブル

具体的にどんなトラブルがあったのかについてまとめたものが上記画像です。

一番多いのは報酬の支払いについてのトラブルで3割強あります。次に多いのは契約が明確でなかった/不十分だったなどの契約内容についてで2割強あり、半数以上の方がこれら2つのトラブルのどちらかを経験されていると分かります。

ハラスメントに関するトラブル

一方で、ハラスメントに関するトラブルもあります。労働者の方からもご相談の多い内容で、ここ数年いつも相談数上位を占めています。労働者ではないフリーランスと事業者間においても、やはり被害としては多い状況にあります。

ハラスメント被害について第三者へ相談できた割合

さらに、ハラスメント被害について第三者へ相談できた方は全体の5割強にとどまり、残りの4.5割の方が相談できていないという状況が生まれています。
このような状況になる要因の一つとして、フリーランスの方は労働者ではないということで法的な保護が及んでいなかったことも大きいのかなと思います。

フリーランスの立場からすれば、業務をしたのに対価が得られない、事業者を信頼することも難しくなってくるということでこうした就業環境も改善していく必要性が高まり、フリーランス新法制定に至ったのではないかと考えられます。

フリーランスを取り巻く3大トラブル事例とその対応例

ここまでの話をまとめると、フリーランスを取り巻く3大トラブルとして「報酬トラブル」「契約内容のトラブル」「ハラスメント関連のトラブル」が挙げられます。
ここからはその3大トラブルについての具体例と後述する「フリーランス・トラブル110番」の相談窓口の対応例をあわせてご紹介します。

報酬トラブル

報酬トラブル

まず1例目は報酬トラブルに関する事例です。
この事例では、ライターのFさんはウェブ用のコンテンツを10記事作成することになりました。ところが全ての記事を納品した後に、発注者に「君の記事はわれわれが望んでいる方向性のものではない。原稿料は値引きさせてもらう」と言われ、一方的に減額されてしまうという内容です。

契約上は報酬の減額が適用されるのは「納期に遅れたとき」と定められており、Fさんは全て期日までに納品していました。そこで、減額された報酬分の支払を求めFさんはフリーランス・トラブル110番に和解あっせんの手続きを行いました。
これによりフリーランス・トラブル110番が双方の仲介役となり、発注者には報酬を契約書どおり支払い、双方が原稿の作成についてもっとコミュニケーションをとりながら発注と納品を行うことを約束する形で和解に至ったということです。

契約トラブル

契約トラブル

次に契約トラブルに関する事例もご説明します。
私の見解ですが、こういったシステム開発事案についてはどういう仕様のものをどういったプロセスで作るのかについての認識あわせが疎かになりがちです。最初から全工程のプランを描くことは難しいと思いますので「どこまでの段階でいくらの契約です」といった形で業務内容とそれに見合う報酬額を細かく設定して契約書を交わしておくと、少なくとも全て終了してから工数と報酬額が全然見合わないといった状況は生まれにくくなるのではと思います。

ハラスメントトラブル

ハラスメントトラブル

ハラスメントトラブルについて解説します。
こちらの事例ではパワハラ発言が一つの焦点となっていますが、こうしたパワハラ発言ひいては受発注・納品に関するやりとりでは記録が残らないケースも多いかと思います。

ただ、こうしたトラブルになるリスクがあることを踏まえると、電話であれば録音が必要でしょうし、そもそもメールやチャット等の記録が残る手段で原則対応しておくことで、第三者がトラブルやハラスメントの実態を速やかに確認できるでしょう。

代表的なトラブルについての事例とフリーランス・トラブル110番の対応策をご紹介しました。

ハラスメントトラブルに対し相談しない理由や対策提案

ハラスメントトラブルに対し相談しない理由や対策提案

この画像では、前章で解説したハラスメントトラブルを相談できない理由とその対策提案に関して、いくつか自由記述の回答例をご紹介します。

まず相談できない理由の一例として「たとえ、一般的なコミュニケーションや仕事の手続きに関しての要望があっても、現実的には直接雇用されてもいないフリーランスは一出入り業者に過ぎず、それについて提案、言及するような社会的身分ではない。」との考えから相談ができなかったとのことです。
しかし、フリーランスの方もプロとして活動している以上、自分が業務をしにくい環境にあることは積極的にすべきです。言及をすることによって、かえってトラブルが生じる可能性もありますがトラブルに巻き込まれて不要な工数を取られてしまうのであれば、そういった業者とは取引をやめるという選択肢もあるのではないかと思います。

対策提言についてもいくつかの例をご紹介します。
まず、一つ目に「精神的苦痛を与えている人は問題を軽視しがちです。社会的にアウトだということを国や団体でもっと言って欲しいです。」というお声があります。
確かにこの側面はありますが、その発言に至る過程や発言後の対応も含めてハラスメント事案かどうかを判断することになりますので、必ずしも特定の発言一つをとって「パワハラだ」と叫ぶことは、フリーランスの方にとっても得策ではないかと思います。ただし、人格を否定する発言は前後の文脈関係なく不要な発言として判断されますので、そうした場合は速やかに窓口に相談していただければと思います。

また、「契約書の読み方や業務のすり合わせのやり方を学ぶこと、間にエージェントを立てることで自衛になるので、そういう方法を周知させる必要がある。」というご意見もいただいています。この提言については、エージェントがどこまで動けているのかという疑問はあるかと思いますが、厳密に言いますとエージェント=職業紹介事業者ではないので、法律の規制が及んでいないのが現状です。
そのため、ご自身とエージェントとの利用契約の中で「エージェントが何をどこまでしてくれるのか」をちゃんと理解しておかないと、本当に自衛になるかは分かりませんのでご注意ください。

フリーランスの方の中には契約に関してあまり意識が高くなく、自分は業務をやっていればいいとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、フリーランスと名乗る以上ご自身が事業者として契約をして合意したのであれば、それを遵守していかなければなりませんので「何をいつまでにすればいいのか、それに対する対価はいくらか」について明らかになっているかは最低限チェックしていただきたいなと思います。

発注者に課せられる3つの遵守規定

ここからは法律の中身に関して、具体的にどのような規定があるかご紹介していきます。

発注者に課せられる3つの遵守規定

フリーランス新法では、発注者側が守らなければいけない規定として「義務規定」「禁止規定」「就業環境整備規定」の大きく3つがあり、それぞれの規定に対しさらに細かい6つの対応事項があります。
次の画像から各対応事項について詳しくまとめていますのでご覧ください。

義務規定

開始・終了に関する義務

開始・終了に関する義務

募集に関する義務

募集に関する義務

募集情報についての的確表示で法違反となる例として以下のようなものが考えられます。

  • 意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示したり、実際に募集を行う企業とは異なる企業名で募集を行う(虚偽表示)
  • あくまで一例の報酬額を、あたかも確約されているかのように表示する(誤解を生じさせる表示)
  • 既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける(古い情報の表示)

報酬の支払に関する義務

報酬の支払に関する義務

禁止規定

禁止規定

禁止行為をもう少し噛み砕いて説明すると以下のように言い換えられます。

  1. 発注者の一方的都合により発注取消しをして受け取らないことも、受領拒否にあたる
  2. 減額についてあらかじめ合意があったとしても、特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく減じた場合は違反となる
  3. 検収の有無を問わず、事実上、特定業務委託事業者の支配下に置けば、受領に該当し、以降は「返品」等の問題となる(5条1項3号、2項2号)
  4. 以下のような要素を総合考慮
    1. 対価の決定方法
      – 受発注業者が協議をした上での決定は正当
      – 一方的な相場より安価な報酬額で決定されるのは不当
    2. 差別的であるかなど対価の決定内容
      – 複数人のフリーランスに同じ業務を発注していて、特定の人のみ正当な理由なく発注単価を安くする行為は不当
    3. 同種又は類似品等の市価との乖離状況
    4. 給付に必要な原材料等の価格動向
  5. 発注する物品等の品質を維持するためなどの正当な理由なく、強制することが違反となる
  6. 以下の場合に問題となる
    1. 特定受託事業者(フリーランス)の直接の利益とならない場合
    2. 特定受託事業者の利益との関係を明確にしないで提供させる場合
  7. 特定受託事業者が作業に当たって負担する費用を負担せずに、一方的に発注を取り消すことも含まれる

就業環境整備規定

ハラスメント対策

ハラスメント対策

この規定では

  1. ハラスメントが発生
  2. フリーランスの方は発注者側が設置するであろう窓口に相談することが可能
  3. 相談を受けた発注者側は事実関係の把握やハラスメント発生後の迅速かつ適切な対応を実施
  4. あわせて発注者側は自社の従業員に対し、ハラスメント対応に関する方針の周知徹底を図る
という一連の対応ができる体制整備やその他必要な措置を義務化しています。
ここでもう一つ重要なポイントとして、フリーランスが発注者側に相談を行ったことによって不利益な取り扱いをすることは禁じています。

こうした体制整備が実際のところどこまで浸透するかという懸念があるかと思いますが、発注者がある程度規模の大きな企業であれば、すでに労働者向けのハラスメント対策の一環として相談窓口が整備されていたり、相談方針を徹底するといった対応が図られているため、フリーランスが窓口に相談しても問題は起きにくいと想定されます。

一方で規模の小さい事業者に関しては、そこまで体制整備がされていないケースもあるかと思います。こうした事業者にも体制整備の必要性が早い段階で浸透するかどうかが、フリーランス新法が機能するかどうかの肝になるかと個人的には考えています。

出産・育児・介護との両立への配慮

出産・育児・介護との両立への配慮

もう一つ就業環境の観点として、出産・育児・介護との両立への配慮があります。
フリーランスの方も出産・育児・介護といった家庭事情と両立するために就業内容を調整する必要があります。そうした場合に発注者側は一定の配慮を行うことが求められます。
画像にはその一例を掲載していますが、ここで注意すべきなのはフリーランス側の申し出を必ず実現させる義務までは発注者側に課せられていないという点です。申し出をしたからといって、全てが承認されるとは限らないことをご認識いただければと思います。

誤解しがちな注意すべき3つのポイント

フリーランスの就業環境を適正化するために発注者側にさまざまな規定を設けたわけですが、フリーランスの方が誤解しがちな注意すべきポイントも大きく3つありますので、以下の画像でご確認ください。

誤解しがちな注意すべき3つのポイント

違反行為があった場合、フリーランスはどう対応すべきか?

最後に、前述したようなトラブルが実際に起きた場合にどう対応するかについてもご案内させていただきます。

違反行為があった場合、フリーランスはどう対応すべきか?①

発注者とフリーランスの間でトラブルが起きた場合、フリーランスはフリーランス・トラブル 110 番に相談しましょう。また、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省がフリーランス新法の所管省庁で、これらの省庁窓口に直接申告することも可能です。

先ほども少しご紹介した通り、フリーランス・トラブル110番はフリーランスと発注事業者等との取引上のトラブルについて、弁護士にワンストップで相談できる窓口として2020年11月に設置され、弁護士(東京第二弁護士会)と個別相談や状況に応じた和解あっせんを行ってくれます。個別相談では、電話・メールでの対応だけでなく、対面・オンラインでも受け付けています。

違反行為があった場合、フリーランスはどう対応すべきか?②

フリーランスから法所管省庁に相談が入ると法所管省庁から発注者に対し、上記画像の左下に記載したような措置を講ずることになります。もし発注者が指示に従わない場合、最終的には事業者氏名が公表されるところまで発展する可能性があります。

またハラスメント対策の体制整備と同様に、発注者はフリーランスが第三者窓口に相談したり通報したりしたことを理由にフリーランスへ不利益な取扱いをすることは禁止されています。

質疑応答

視聴者の皆様からの質問への回答を紹介します。

Q:現状、発注企業がどの程度認知しているか知りたいです。
A:株式会社エルボーズが実施した「フリーランス新法に関する調査」によると企業担当者でおよそ7割、フリーランスの方でおよそ半数がフリーランス新法について知っている状況のようです。ただしどのくらいの理解度かについては未知数ですので、さまざまなセミナーなど活用してみなさん自身も知識を蓄えていただければと思います。

Q:日本国外に住んでいる日本人が、日本の組織から業務委託を受けた場合も適用されますか?
A:フリーランスですので、必ずしも日本にいなければいけないというわけではありません。ただし、海外在住のフリーランスが日本所在の発注事業者から業務委託契約を受ける場合に日本の法律が適用されるかどうかについて次のような判断基準が設けられています。

  • 委託契約が国内で行われたと判断できる
  • 業務委託に基づいて、フリーランスが商品の製造やサービス提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断できる
このいずれかと判断されれば、日本の法律が適用されます。
例えば、プログラムを書くという作業を海外で行った場合は適用されない可能性が高いです。あくまでも業務自体が日本国内で行われたという事実がないと適用されないとお考えいただければと思います。

まとめ

本記事では、2023年11月22日に開催したフリーランス新法入門セミナーの解説内容を抜粋して紹介しました。フリーランス新法の施行スケジュールや内容についてはまだまだ未知数な部分もあり、引き続き最新情報をキャッチアップしていくことが大切です。労働法と異なり、何もしなくても法律が保護してくれるような内容ではなく、フリーランスで働く方が「交渉の武器」として積極的にこの法律を利用することが大事ですので、ぜひフリーランス新法への理解を深めていってください。

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