【CTOインタビュー】自由に働ける場所に「顔認証」を導入。「スペイシーパス」をさらに広く活用するために――スペイシー・吉田和矢さん
「個人が持つポテンシャルを最大限発揮できるワークスペースを提供する」をミッションに掲げる株式会社スペイシー。ビジネスミーティングや研修など、ビジネスに幅広く活用できる会議スペースを1時間500円から、席単位のワークスペースを1時間50円から貸し借りできるマーケットプレイス「スペイシー」を提供しています。首都圏を中心として約4,700室以上の会議室や研究施設・イベントホール、また約40箇所1,000席のワークスペースを取り扱っており、会員数はビジネスパーソンを中心として13万人を突破しています。顔認証を利用した独特なサービスや、エンジニアのリモートワークについてお伺いしました。
目次
アイディア考案から数日でリリースを実現した顔認証サービス
「スペイシー」のサービス内容について、改めてご説明いただけますか?
簡単に言うと、空きスペースを持っている方とスペースを借りたい方をマッチングするサービスです。サービス自体は場所の貸し借りというアナログなものですが、場所探しから予約、決済まで全てオンラインで行います。 2018年の2月からは、自社が運営するスペースの一部でタブレットを利用した「スペイシーパス」という顔認証サービスを導入しました。事前に利用者の顔写真を登録しておき、それぞれのスペースに設置してあるタブレットで顔認証を行います。本人確認から借りたスペースのドアの開場から入退室管理、支払いまで全て行うことができるのが特長です。
コーヒーを1杯50円で提供する、「スペイシーコーヒー」というサービスも展開されていますね。
バーやレストランなど、17時以降にオープンするスペースの遊休資産を活用して、スペイシー会員に登録している方にはコーヒー1杯50円、非登録の場合でも100円でご提供しています。スペースを利用してもらうことで利益が出るので、その分コーヒーは安価にしているんです。コーヒーも他の手続きと同じく、顔認証で支払いを行えます。一時期メディアにも頻繁に取り上げていただいて、かなり知名度が上がりました。
顔認証機能導入のきっかけを教えていただけますか?
もともと飲食店などの遊休スペースを利用するサービスはすでに別のプロジェクトとして存在しており、その利用記録や時間管理に顔認証システムを利用してはどうかというアイディアが後から出てきたんです。 顔認証のシステム自体は、マイクロソフトのFace APIを利用しているので、アイディアが考案されてから、実際の開発、実装、リリースまではものの数日レベルで進んでいきました。僕がたまたまAndroidアプリのプログラマーだったこともあって、連携サービスの開発にはほとんど時間をかけていません。どちらかといえば既存の技術を利用したアイディア勝負という側面が大きかったので、競合他社よりもいかに早く実現するか、という部分に注力した形ですね。
15分単位で空きスペースを管理。細やかなデータ管理の裏には課題も
貸しスペースというアナログなものを、オンライン上でどのように管理しているのでしょうか?
会議室の空き状況は「在庫」と呼んでいるのですが、在庫は15分単位で管理しています。他のスペースの混み状況などによって、極端な話15分単位でオーナーが値付けすることも可能です。いつ、どのスペースが空いているのかということはリアルタイムで管理できるというわけです。
管理上難しい部分や課題などはありますか?
スペースを探す際はスマホアプリやPCで検索いただくことになりますが、利用者アンケートを取るとやはり場所、時間、そして金額で調べられる方が大半です。ところが、「任意の時間にスペースを借りたときに最も安いのはどこか?」という金額ソートがなかなかできないんです。 現在約4,000件のスペース登録がありますが、同じ時間で2時間使おうと思った場合でも、オーナーによって値付けが違います。丁度金額が変わる時間帯の境目だったりすると、この1時間は500円、この1時間は1,000円ということがありますし、割引きプランが適用できる場合もあります。金額ソートをするには、それらを含めた最終的な利用金額を出す必要があります。 実際に計算プログラムを作成してテストしたことはあるんですが、1,000件まで絞り込めた想定で1,000件分の料金計算をしたら、処理にあまりに時間がかかり、使い物になりませんでした。この課題を解決するためにも、データに強い方の採用が必要だと思っています。
声紋認証とも連携した、「掛け算」のサービス展開を計画
今後、顔認証を利用した別サービスの展開も予定されているそうですね。
すでに先日、「スペイシーパス」サービス化の第一弾として、株式会社シンクロ・フードさんとの協業で開発したタイムカードアプリをリリースしています。顔認証を利用して、出退勤を記録できる管理システムです。スマートフォンやタブレットとから位置情報も取れるので、顔認証+位置情報で不正を防げます。 現在は出退勤の打刻がメインの機能ですが、今後はさらなるアップデートも予定しています。
その他に、声紋認証などの活用も視野に入れているとお伺いしました。
声紋認証は、顔認証の補助的な役割として活用していきたいと思っています。例えば体調不良で顔色が悪かった日など、本人なのにどうしても顔認証ができなかった時に声紋認証を利用する、といった形です。それぞれの認証の精度が100%ではなかったとしても、2つ掛け合わせれば精度はより高まりますから。追加の認証情報として何か他のモノが必要になると導入ハードルが高いのですが、声紋認証は顔認証と同じカテゴリなので、掛け算がしやすいということです。 顔認証や声紋認証メリットは何よりIDやタイムカードなどのモノが必要ないという部分なので、今打ち出しているビジョンは、クラブイベントやステージなど、身分証明が必要な場面での活用です。スペイシーパスを利用すれば本人確認もできますし、成人済みだということもすぐにわかりますから、上手く利用できるんじゃないでしょうか。
福島からドイツまで、世界を横断するエンジニアチームのリモートワーク
現在エンジニアチームはほとんどがリモートワークで働いているそうですね。
2018年6月現在、「会社に出勤する」という属性を持っているのは、エンジニアでは僕一人です。トータル7名のエンジニアチームで動いていて、そのうち1名は正社員ですが、大阪在住なので僕も4回しか会ったことがありません。他にも近くで言えば福島から、一番遠くはドイツでリモートワークを実践しています。 基本的にエンジニアという職種は、PCと電気とネットさえあれば、どこでも仕事ができるんです。我々自身もそういう働き方ができる空間を提供していきたいという想いがありますし、場所を問わず、自由に仕事働いて良いのではと思っています。
ドイツは時差もありますが、コミュニケーションはどのように取っているのでしょうか?
基本的にslackとChatWork、必要に応じてSkypeやappear.in等のWEB会議サービスを利用しています。ドイツ在住の方はエンジニア部門ではありますが、実質的な領域としてはディレクションを担当してもらっています。時差が8時間あり、丁度日本時間と働いている時間が真逆になってしまうので、納期が迫っている場合などは本音を言うと苦労する部分もありますね。
吉田さんは先日取締役CTOに就任されましたが、株式会社スペイシー内での役割について教えてください。
実は僕は2016年に入社して、社員1号だったんです。約2年半でCTOに就任した形ですね。CTOと言っても、僕自身はアプリ開発のエンジニア出身で、どちらかと言えばマネジメントやディレクションをメインでやっていた経験が長いんです。最先端の技術に詳しいCTOも入れば、僕のようにマネジメント側の人間がCTOに就くことがあるのは、CTOという役割自体が幅広いからかなと思っています。 僕自身はプロダクトオーナーのような形でサービスの品質チェックをしたり、R&D的に新技術の開発なども行なっています。例えば会議室を貸す際にセンサーを利用し、空きスペースの管理を自動化するという試みなどもその一貫です。
CTOとして、今後の解決していくべき課題はどんなことだと思いますか?
現在、スタッフは大雑把に複数の開発チームのくくりで分かれているのですが、その中に少しずつ組織のリーダーを据えて、組織としての形をしっかり作っていくということが今後の大きな課題になっていくかなと思っています。 もちろん実際のモノづくりの部分では業務委託の方にも協力いただきながら、組織としてはコンパクトなものを目指しています。ただ、やはり最終的な責任という部分はなるべく社員が担えるような形を考えていますね。