【CTOインタビュー】世界中と自由につながる環境を生かして、技術大国・日本の再建に力を尽くしたい―シスコシステムズ/濱田義之さん
世界最大のネットワーク機器開発会社として知られるシスコシステムズ。その日本法人であるシスコシステムズ合同会社(以下シスコ)では、全社員の約半数がエンジニアとして活躍しています。165カ国に展開する拠点の全社員のディレクトリが共有され、個人の裁量で、開発分野ごとに自由につながっていける体制を整えています。
シスコはどのようなエンジニア組織を目指しているのでしょうか。最高技術責任者(CTO)の濱田義之さんにお話をうかがいました。
エンドユーザーには見えづらいサービスだからこそ、エンジニアの課題解決力を重視
Q.インターネット関連業界は広大ですが、その中でもシスコはグローバルでの大規模展開を進めている筆頭企業の1社ですね。現在のエンジニアリング組織はどのような体制を敷いているのでしょうか。
全世界に7万人強の従業員を抱え、165カ国に380以上のオフィスを展開しています。エンジニアは全従業員の約3分の1を占めていて、日本においては、全社員約1200人の半数がエンジニアになります。日本はグローバル比較でもエンジニア比率が高く、半数近いという状況です。直販部隊を持たないこともあって、お客さまへの技術的プレゼンスを高めるためにこうした体制を敷いています。
Q.エンジニアの採用においては、どんな人を選んでいるのですか?
どちらかというと、マルチに活躍したいという人よりは、「尖っている人」「追求型の人」「何かに没頭できる人」を選ぶ傾向があると思います。
シスコという会社は、ベンチャーがそのまま大きくなったような会社なんです。縦割りの組織論で動くのではなく、ダイナミックに体制を見直していくという特徴があります。そのため、エンジニアも自分で考えて、自分で動いていく人がほしいと思っています。
全世界7万人といっても、売り上げ規模と比べれば人数は少ないほうです。その中でエンジニアには、「感性を持ちながら点と点を結んでいく」という行動が求められます。
Q.「点と点」とは?
シスコはコンシューマ向け製品を販売提供している会社ではありません。アップルのようにコーポレートブランドを直接消費者に訴えかけているわけでもない。むしろエンドユーザーには見えづらいサービスが主です。エンジニアが開発部隊とともに向き合っていかなければならないのは、社会やクライアント企業の中での課題を見つけて解決すること。そうしたことをビジネス部門に訴えていく必要もあります。これが結んでいくべき「点と点」です。
製品別に見ればルーターを作ったりサーバーを作ったりと、さまざまな部署に分かれていますが、お客さまの課題は我々の組織に合わせて存在するわけではありませんからね。
課題解決が最優先。自由に世界中へ相談できる
Q.エンジニアは自発的にアクションを起こすことを求められていると思いますが、与えられる裁量も大きいのでしょうか?
そうですね。自律性と自発性を重視し、「上司の指示を受けてオペレーションを動かす」のではなく、「自分で仕事を取りにいく」ことを求めています。
それを後押しする体制もあります。シスコでは、グローバル規模でディレクトリが全社員に共有されているんです。どこで誰が何をしているのか、常に把握できる状態になっている。もし個人が困っていたときに、普通の日本企業ならまず上司に相談するのかもしれませんが、シスコではアメーバ式に、相談したい相手と自由につながってコミュニケーションを図ることができます。
Q.そのコミュニケーションはどのように行われるのですか?
コラボレーションツールによって、「ブロックチェーン」など興味のある分野ごとに仮想会議室を使ってつながることができるようになっています。
全然知らない人とつながることもよくありますよ。実際に私も、インドのエンジニアからいきなりチャットが来て相談されたことがありました。課題解決を最優先に、個人の裁量でどんどん相談できる風土があるんです。
シスコを通じて、子どもたちが誇りを持って学び、働ける日本を作りたい
Q.濱田さんは現在、どのような役割を担っているのでしょうか?
シスコは、ドイツやイギリス、日本といった一定規模以上のセールスディビジョンについては国内にCTOを置いています。CTOの役割は、お客さまへ「シスコの考え方」を伝えること。製品やアーキテクチャを横串に見て語ることが求められています。
私が注力するIoTはシスコの中でも比較的新しい領域で、ワイヤレスネットワークや工場内のシステム、スマートシティといったテーマで開発を行っています。国内ではファナックのような大手製造業とも協業しながら進めているところです。
Q.これまでにない領域での開発を進めていくために、どのような工夫を行っていますか?
年に数回、「イノベーションチャレンジ」と呼ぶコンテストを開催しています。これは社内から事業アイデアを公募する取り組みで、気の合う仲間同士のチームで応募できるようになっています。2016年は、全世界から約800件の提案が寄せられました。新規事業アイデアも多数含まれています。
国外のメンバーは、頼まれなくてもどんどんアイデアを出してくる人が多いですね。自己承認欲求が非常に強いな、と感じます。実際に事業化を成し遂げてスピンアウトする人も多いんですよ。国内メンバーにも、もっと積極的にチャレンジしてほしいと思っています。
これはシスコに限った話ではありませんが、「自分は技術だけやっていればいい」とか、「目の前の案件にだけ向き合っていればいい」と考えるのは非常にもったいないですよね。会社としては分業制を目指していきたいと考えているわけではないので、与えられるものだけではなく、新しい分野にも積極的に取り組んでいく風土をより醸成していきたいと考えています。
Q.濱田さん個人としては、これからの展望をどのように描いているのでしょうか?
シスコという世界規模の会社に入ったからには、本社機能の仕事をしたいという気持ちがあります。その中でプロダクトを任せられるような人間になりたいと思っています。
個人的には、日本でイノベーションHUBを作るための活動も続けています。外資系を渡り歩いてきた自分が言うのもおかしな話かもしれませんが、やはり日本人であるからには、技術大国・日本の再建に力を尽くしたいという思いがあるんです。私の子どもは中学生ですが、彼が将来、大学を目指すときに、「日本の大学はもうダメだからアメリカに留学したほうがいいよ」とアドバイスしなければならないような事態は何としても避けたい。
ちなみにシスコはこれまで、世界中でさまざまな企業を買収してきました。基本的には買収相手の自主性を重んじて、多様性のある組織を作ってきています。しかし、そんなシスコが、日本のベンチャーは買収していないんですよね。それが悔しいんです。
シスコが注目するような技術力と独創性を持ち、買収されても日本に残り、成長し続ける会社が生まれるように尽力していきたいと考えています。この国の中で再びものづくりを牽引するような拠点を作り、子どもたちの世代が誇りを持って日本で学び、働けるようにする。そんなビジョンを、シスコを通じて実現していきたいですね。