TERASSのCTOが語る、新しい不動産仲介業のカタチ不動産Techスタートアップの挑戦―高坂昌行さん
2019年4月に創業した株式会社TERASS。ハイエンド不動産情報サイト「TERASS」の運営に加え、2020年6月には新たに家探しマッチングプラットフォーム「Agently」(エージェントリー)をリリースしました。
社内に不動産エージェントを抱える同社がAgentlyで目指すのは、不動産仲介業の在り方の変革です。
今回はCTOの高坂さんに新サービスの概要や開発のきっかけ、エンジニア組織の体制、技術選定などについて幅広くお伺いしました。
目次
ソシャゲ開発の経験を経て一転、レガシーな不動産領域に参入
― 前職ではゲーム開発を行っていた高坂さんですが、なぜ不動産Tech領域を手掛ける会社にジョインしたのでしょうか?
株式会社TERASS 取締役CTO 高坂 昌行さん(以下、高坂):私はもともと不動産領域に詳しかったわけでも、強い興味があったわけでもありません。TERASSにジョインしたのは、私を誘ってくれたCEOの江口が面白い人物だったこと、そしてこれまでとは全く違う領域でゼロからアーキテクチャを作れることに魅力を感じたからです。特に、オンプレ環境から脱してコンテナ運用をしてみたいと思っていました。
― レガシーな業界にテクノロジーを活かすという面白さもあるような気がします。
高坂:そうですね。不動産領域にはまだまだ技術的に開拓されていない部分がありますし、実際に不動産会社はFAXで資料を送るなどまだまだ手作業がかなり多い状況です。最新の技術を使うかどうかは別の話としても、実情を知れば知るほどテクノロジーで戦える領域だと感じました。
「エージェント探し」からスタートする家探しを新たに提案
― 2020年6月、新たに「Agently」というサービスをスタートされましたが、概要を教えてください。
高坂:家探しといえば、不動産屋を訪ねたりSUUMOなどのWebサービスから検索して申し込んだりといったように、購入する側が能動的に物件探しをする形態が多いと思います。一方、当社は「いい家探しはいい不動産エージェント探しから」という考えを持っています。
エージェントによって出てくる提案も家の見方も異なるのですが、優れたエージェントに共通するのは「家探しの仕方や探す軸からコンサルしてくれる」ということです。そういうエージェントとお客様が出会うことで、家探しにおいて良いユーザー体験をしてもらいたいというのがAgentlyのコンセプトです。現在サービス内ではエージェントとユーザーを簡単にマッチングし、チャット形式で提案を受けることができます。
エージェントが顧客に直接アプローチできるプッシュ型のオンラインプラットフォームはこれまでの不動産業界に無かったものなので、かなり新規性のあるサービスです。我々自身も不動産業界、仲介業界の営業スタイルをテクノロジーで変えていく前線にいることを肌で感じています。
― サービスが生まれたきっかけは何だったのでしょうか?
高坂:当社でリクルートした不動産エージェントの方が持ってきてくれたアイディアに端を発しています。一緒に飲んでいた際に「自分でリード(見込み客)を獲得できるツールが欲しい」という話が出たんです。エージェントが直接お客様とコンタクトを取って提案ができるようになれば、そもそも会社に所属する必要がなくなります。一気に「それ、いいじゃないか」という話になり、プランを詰めていきました。やがてプロダクトの勝ち筋が見えてきたので、実際に開発に着手したという形です。
3名のエンジニアが自由に動けるような技術選定で開発を推進した
― 開発体制について簡単に教えてください。
高坂:現在エンジニアは3名です。職種ははっきりとは分かれていませんが、私はバックエンド、あとの二人はフロント側を担うことが多いです。3名しかいませんから、私ともう1名が問答無用でコードレビューをし合っています。社内にはデザイナーも在籍していて、上がってきたデザインをもとにエンジニアがつなぎこむ体制です。
― サービス開発の技術選定はどのように行われたのでしょうか?
高坂:サービス内でチャット機能を実装することは決まっていたので、バックエンドはゼロからRDBで開発するよりも、Firebaseなど既存の枠組みに沿ったほうが作りやすいだろうと考えました。自前でサーバーまで構築してしまうと私がそちらの管理にかかりきりになってしまう懸念もありましたから、極力自由に運営できるようにするという基準で技術選定しています。
フロントエンドに関してはSPAを採用する予定だったのですが、今更jQueryを書きたくありませんでしたし、サービス自体を将来的にアプリ展開する可能性があったので、Reactを選定しました。ネイティブアプリを作る際にiOSとAndroidそれぞれのエンジニアを採用するのは、スタートアップにはかなり厳しい道です。極力モノリシックな構造にして、一つのコードベースを使い回せるようにしたいという思いがありました。
今は基本的にフロントエンドもバックエンドもTypeScriptで書かれているので、エンジニアは両方触りやすい環境という状況です。
― 高坂さんご自身はCI/CD周りの技術が得意だそうですが、このあたりの工夫はありますか?
高坂:強いて言えばGitHub Actionsを利用しているという点でしょうか。これは最近リリースされたGitHubの新機能で、CI用のパイプラインのようなものです。一般的なCI系のサービスと異なり、あまり鍵の管理をしなくていい点がメリットだと言えます。
YAML形式でビルドフローを定義するのですが、リポジトリにファイルを一つ入れておけばCI用のジョブができるので非常に便利ですね。サービス開発時にちょうどベータ版が公開されて、タイミングも良かったので使うことにしました。
東京、新潟、鹿児島…全国からリモートワークを実施できる体制
― それでは、エンジニアの働き方についてもお伺いしたいと思います。今は全員フルリモートでしょうか?
高坂:会社としてフルリモートとフルフレックス制度を導入しているので、社員のほとんどは自宅で働いています。オフィス自体はマックスで3名入れるほどのスペースしかありません。
私自身は先週から新潟の実家に帰ってリモートで仕事をしていますが、特に不自由はありません。ほかのエンジニアも1名は東京在住で、もう1名は先日奄美大島に移住しました。
もちろん、リモートで働けるような体制づくりにも注力しています。当社ではNotionというドキュメント管理ツールを使用しているのですが、例えばミーティングで何を話し合ったのかなど、社内の情報はNotionに集約させており、どのメンバーでも読めるようにしています。また、エンジニアだけではなく営業やマーケティング担当者もSlackで呼びかければ3分後には返事が返ってくるような 環境です。
タスク管理にはGitHubのIssueとProjectを使っていて、大まかなタスクは私が割り振り、細かなバグの修正などについては気分転換として合間に取り組んでもらうように話しています。
― では、CTOとしてマネジメント面でこだわっていることはありますか?
高坂:現状はエンジニアも3名しかいませんから、極力マネジメントコストはかけないように心がけています。ドキュメントの書き方など全て情報をオープンにして、誰でも確認できるような状態にするのがポイントですね。クライアントとの間で何か問題が起きても、私を介さずまずは直接担当者同士で解決してもらうようにしています。なるべくエンジニア個人が自走しやすい環境作りを目指しているような形です。
― 現状は3名体制ということですが、特徴的なエンジニア文化はありますか?
高坂:スタートアップなので文化はこれから作っていく感じですが、現在はサービスがリリースされた直後なので、「正しい情報を調べてきちんと開発する」ということを大切にしたいですね。 具体的な活動としては、今度のサービスの成長と改善方針について週に1回ミーティングして開発速度だけを重視するような組織にならないようにしています。調整しています。スピード重視で動くとどうしてもどこかで破綻してしまいますから、強固な基盤を築いた上で速度を出せる方法を模索しようとしています。
新しい不動産エージェントの勝ち方を業界に浸透させたい
― 今後の成長戦略について3年後、5年後のイメージがあれば教えてください。
高坂:直近のミッションはAgentlyのサービスを拡大していくことです。その次のミッションが、社内外の仲介エージェントのスループットを高めていくことですね。その先で、優秀なエージェントの働き方をどんどん周囲に伝播させていき、多くの人が優秀なエージェントに出会い、満足度の高い住宅購入ができるような世界を目指したいと思っています。
社内的には現在あるAgentlyの開発チームに加えて、社内向けの業務改善ツールを開発するチームを作りたいという構想があります。例えばエージェントのイケてる自己紹介ページを自動生成できるツールや、不動産物件をカッコよくPRできるページが生成できるツールなどです。実際のワークフローを考えながら、エージェントの仕事の省力化やマーケティング、ナーチャリング活動の改善に努めていきたいです。