フィンテック企業が技術顧問を取締役CTOとして正式採用した理由――FUEL・恵比澤賢さん
「FUELオンラインファンド」を通じて資産が増やせるようにしたい。そんな思いで2016年に創業したFUEL株式会社は、まずは不動産企業向けに、投資型クラウドファンディグプラットフォーム「FUELオンラインファンド」を展開し新しい金融のカタチを創り出そうとしている企業です。
フィンテック企業としての一歩を踏み出すべく、同社がサーキュレーション(FLEXY)を通じて招いたのが恵比澤 賢さんです。
恵比澤さんは、約半年の稼働を経て2019年の8月にFUELの取締役CTOに就任することになりました。 新しいCTOの転職の形として、技術顧問から入る際、どのようにミッションが進められるのか取材をしました。
目次
技術顧問から、取締役CTOへ
技術顧問の期間の頻度 | 週1日、半年間 |
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取締役CTOに正式に変更 | 2019年8月1日正式入社 |
技術顧問としての業務内容
技術顧問の期間(半年間のミッション) |
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■頻度:週1回(8時間以内) その他リモート支援■目的:エンジニア組織組成、事業戦略 ■想定業務内容: ・経営戦略に合わせたエンジニア組織構築 ・エンジニアサイドでの事業戦略アドバイス ・サービス開発における技術責任者 ・エンジニア社員の教育・育成 ・エンジニア採用 ■課題: ・社内のエンジニアメンバーは1名で、外部ベンダーのディレクションをしているが、エンジニア経験が豊富ではないため、開発スケジュールが遅れている。 ・フェーズに合わせたサービス開発の計画ができていない。 ・どのような技術を採用してサービス開発を進めればいいか分からない。 ・先を見据えたエンジニア組織を作っていきたいが、どのフェーズで何人くらいのエンジニアが必要か。業務委託が良いのか、採用が良いのかなど分からない。 ■既存のエンジニアメンバー: 1名のみ(20代|男性) 経験→Webアプリの開発、インフラの構築 現在の業務→外部開発会社へのディレクション |
半年間の支援を経て取締役CTOに就任。ミスマッチゼロの安心感が決め手
技術顧問としてスタートアップ・ベンチャー企業のアーリーステージを支援
――恵比澤さんがFLEXYを利用することになったきっかけについてお聞かせください。
恵比澤 賢さん(以下、恵比澤):私はもともとソフトウェア開発が専門で、直近では数社で CTO や開発責任者といったポジションを歴任していました。 以前に在籍していた会社でもサーキュレーションさんに人材面でご協力をいただいていました。
そのご縁もあり、前職を退職して独立するというタイミングでFLEXYの野谷さんから「ぜひFLEXYで稼働してほしい」というお誘いを受けたのが登録のきっかけです。
――これまでに技術顧問として、どのような支援を行なってきましたか?
恵比澤:ここ最近は主にスタートアップ企業を中心に、サービスの立ち上げや組織づくりの支援に携わっていました。実際に私が手を動かしてシステム設計や開発を行うこともあるのですが、ご依頼としてはビジネス寄りの内容が多いです。 「技術顧問」というと、具体的なシステム開発の話か、AIなどの先端技術に関する需要が多いイメージがありましたが、実際は私が行なっているような組織づくりやサービスの立ち上げ、プロジェクトマネジメントについて悩まれているケースが多い印象です。 広い意味で、経営コンサルタントのような立ち回りを期待されている印象です。
FUEL 取締役CTO 恵比澤 賢さん
支援を通してお互いの相性やスキルを確認できたからこその取締役CTO就任
――恵比澤さんがFUELさんに技術顧問として参画したのは2019年の2月ですが、どのようなご依頼だったのでしょうか?
恵比澤:当時から、FUELの創業メンバーの一人でもあるエンジニアは在籍していたのですが、28歳という若手でエンジニア経験も豊富ではありませんでした。 開発はベンダーに外注してディレクションしている状況だったのですが、もともと困難な取り組みだったこともあり開発スケジュールに遅れが出ていました。オフショア開発も進めていたので、コミュニケーション面での悩みも生じていたようです。
今後どうエンジニアを抱えていくのかといった部分も含めた組織づくりやプロジェクトの進め方などについて支援して欲しいという、CTOポジションでのご依頼でした。
――どんなペースでのご支援でしたか?
恵比澤:週に1回、実働は半日ほどですね。 まずは会社の現状をいろいろとお伺いして、次のステップとしてやるべきことを打ち合わせました。 その上で毎週進捗確認を行い、さらに次の方向性を考えるというフローの繰り返しです。
――今回はflexy select(フレキシー・セレクト)という、まずは数ヶ月業務委託で稼働いただき、双方の合意があれば正社員採用できるという形のサービスを通してのご紹介でした。ジョインを決断した決め手は何だったのでしょうか?
恵比澤:人との相性ですね。特にスタートアップのような少人数の組織の場合はエンジニア以外のメンバーとの相性も重要ですし、CTOのポジションで入るとすればなおさら大きな要素になります。
―― 一定期間一緒に働いた上で正式採用するという方式についてはいかがですか?
恵比澤:例えば起業家も、共同創業者にどういう関係の人を選ぶかという観点があると思うのですが、やはり一度一緒に働いたことのある元同僚と組んで始める方が成功例も多いと聞きます。
そういう意味では技術顧問として支援に入り、一緒に働く経験をある程度作れたからこそのジョインでもありますね。お互いのスキルや価値観を確認できるのは有意義なことですし、入る側も受け入れる側も安心度が高いです。
従来のような面接をして採用というプロセスはどうしても一定のミスマッチが発生してしまいますが、そういう心配が少ないという点で良い採用手法なのではと思います。 今後はflexy selectのような業務委託で相性を見てから、正式にCTOとしてジョインするパターンの採用も増えていくのではないでしょうか。
新しい直接金融のインフラを発信する、社会的意義の大きさもFUELの魅力
――FUELに参画する意義について、事業面・技術面でどのように考えていますか?
恵比澤:サービス自体はローンチ前ではありますが、FUELは投資型のクラウドファンディグという新しい金融商品を発信していこうとしている会社です。 個人の資金が貸付事業として運用され、元本と分配を受け取る仕組みは、金融機関を介さず個人と企業を繋げる直接金融の新しいインフラとも言えます。
今は公的年金だけでは将来が不安だと考える人も多く、将来を見据えた資産運用のあり方を考えたいという個人の方がますます増えていくと考えています。そういった方々に新しい資産運用の選択肢を提供していくという点で、社会的にも意義のある事業だと感じています。
技術面については、これからどんどん開発を進めていくところなので、過去のしがらみに囚われることがありません。新しい技術や仕組みを積極的に採り入れていきたいと考えているところです。
左:今回、恵比澤さんを担当させていただいたサーキュレーションの山本ゆり
Fin Tech企業において、CTOが果たすべき役割とは
専門分野を持つメンバーと連携し、会社のミッション・ビジョン・バリューから考える
――取締役CTOとして、他の経営陣とどう連携しながら事業を進めていくのでしょうか?
恵比澤:役員はそれぞれ不動産業界や金融業界などの専門的な知見を持っているので、どう力を合わせて会社の目標を達成していくのかを話し合うイメージですね。私の場合は実際のシステム開発・運用と、それを実行するための組織づくりがメインの分野になります。 今は特にどんな人材を採用してどう活躍してほしいかという視点で、会社の具体的なミッション・ビジョン・バリューを掲げようとしています。
また、メンバーに力を存分に発揮してもらうための人事、評価制度づくりや福利厚生の充実にも取り組んでいるところです。 システム開発においては、具体的にどういう技術を導入してどういう設計を行い、メンバーとどう役割分担をするのか、いつ頃までにどんな機能をリリースするのかというスケジューリングを進めています。
――採用戦略も恵比澤さんが立てていますか?
恵比澤:そうですね。即戦力をすぐに採用できる事業環境というわけではないので、育成にも力を入れなければならないと考えています。
――今後の理想的な採用イメージがあれば教えてください。
恵比澤:現在、エンジニア組織は外部ベンダーへの発注を行なっていたところから完全に内製化に切り替えています。その点はまだまだ強化していきたいですね。 具体的に何名のメンバーを採用するかは時間軸によっても異なるので一概には言えませんが、会社の半分程度はエンジニアという構成を目指したいと思っています。
流動性の高い時代では、正社員も業務委託も隔てなくコミットしてもらえる
――具体的にはどのような採用活動を行なっていますか?
恵比澤:さまざまなメディアやエージェントを通じて募集しています。正社員採用を進めていきたいところではあるのですが、現状は業務委託の方でチームを組んでいる形です。 ただ、今のエンジニアは流動性が高いので、正社員だからといって必ずしも長期的にコミットしてくれるわけではありません。逆に、業務委託であっても条件がマッチすれば年単位で長く働いてくれる方もいます。
そういう意味ではあまり正社員や業務委託、契約社員に違いは無いと感じていますし、正社員と同じ感覚でジョインしてもらえるのではないでしょうか。
今回、取締役CTOして正式にジョインした恵比澤さん
どんな企業にもシステム開発の内製化が必要になる社会的な流れ
システムの改善スピードは、業務効率と企業の競争力に直結する
――支援に入った時点でFUELさんは外注に関する悩みが多く、現在は内製化の方向に進んでいるということですが、内製化のメリットはどのような点にあると言えるのでしょうか?
恵比澤:デジタルトランスフォーメーションという言葉が注目を集めていますが、そもそも現在は世界的にもシステム開発を内製化する流れがあると思います。 特にネット企業であれば、そもそも制作するシステムそのものがビジネスに直結していますよね。それを外部委託で作るとなるとどうしてもコミュニケーション齟齬が発生し、発注者の思い通りにはなりません。 仮に理想通りのプロダクトが作れたとしても、果たしてサービス展開のスピードで競合の優位に立てるのかという別の問題が出てくるでしょう。
仮にネット企業でなかったとしても現在は多くの業務の遂行にITが不可欠となっています。事実上システムそのものが業務内容やワークフローに密接に関わっており、システムの良し悪しがそのまま業務効率や会社の競争力に繋がっています。そこのコントロールを十分握れていないとすると、自らの命運を自分達で決められないということになりかねません。
このような課題を鑑みると、あらゆる企業においてシステムを作り出す力、さらに言えば会社がどのようなシステムを持つべきか考える力を自社が有していないと、立ち行かなくなるのではないでしょうか。
実際に、いわゆるIT系以外の大手の企業でも内製の開発チームを新設してエンジニアを集めているケースが出てきていると聞いています。
――技術やデータを経営に活かすということですね。
恵比澤:日本の製造業の強さの理由の一つとして、例えば改善活動といった取り組みが挙げられていました。工場の現場の人たちを中心に、無理や無駄な作業をどうやったらなくすことができるか考え実行し続けるというもので、1つ1つの施策は小さなものであっても継続による積み重ねが大きな差を生み、かつては世界を席巻するに至りました。
現在のようにほとんどの会社でコア業務にITが密接に関わる状況においては、ITへの理解と実行力を内部に持っていなくては、簡単な改善さえ行うのが困難になり、スピード感を持って事業を推進し、競争力を得ていくことができなくなるでしょう。
社内のシステム改善を依頼したら「来年の予算が下りるまで待ってください」とか、「ベンダーに依頼するので数ヶ月待ってください」と言われるようでは話にならないのは明らかです。
弊社もある意味では従来からある仕組みをネットやITの力で変革していこうとしている会社ですが、他のメンバーと力を合わせ、そこに技術の力が加わることでどういうビジョンを描くことができるのか示していくのがCTOの役割でもあると考えています。