マネーフォワードのクラウド経費とは?事業本部長に聞いてみた
コンシューマー向けのお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」や自動貯金アプリ「しらたま」、くらしの経済メディア「MONEY PLUS」などをはじめ、お金にまつわるサービスを展開しているマネーフォワード。
ビジネス向けとしてはクラウド会計ソフトやクラウド型請求書管理ソフトなどバックオフィス業務の効率化を図るためのSaaS型サービスを提供しています。
今回お話を伺ったのは、クラウド経費本部の本部長である今井義人さん。
マネーフォワード クラウド経費の新サービスに関する情報や、B向けSaaSプロダクト開発の考え方などについてお伺いしました。
海外出張をしてもレシート0枚で帰国する。手入力無しの経費精算を目指して
マネーフォワード クラウド経費のサービス概要からお聞かせいただけますでしょうか。
今井義人さん(以下、今井):一番わかりやすいサービスコンセプトとして掲げているのは、「手入力をゼロにする」ということです。 当社はもともとクレジットカードや銀行口座と連携した家計簿アプリを手掛けているので、インターネット上のあるあらゆるデータを収集してくるのが得意です。 マネーフォワード クラウド経費(以下「クラウド経費」)も家計簿アプリと全く同じ基盤を利用していて、上記の他にも新幹線やタクシー、ホテル、ECサイト、電子マネー、ポイントカードなど、2400程の金融関連サービスと連携しています。
これによって、クラウド経費は経費精算の手入力が不要になります。従来は経費精算の際に日付や支払先、金額などを入力しなければなりませんでしたが、例えば電車ならICカードやモバイルSuicaと連携して、交通費として精算したいデータを登録するだけで経費精算が完了するのです。
レストランなど対面で紙のレシートをもらうような場合はまだ対応していませんが、利用するサービスによっては海外出張をしたとしても紙のレシートを1枚も持ち帰らずに帰ってくることが可能です。
頻繁に新機能をリリースするのがクラウド経費の特徴ですが、最新機能について教えてください。
今井:まず年内にリリース予定の「コーポレートカード・コントロール」です。コーポレートカードは従業員の立替や精算の手間を軽減できるのがメリットですが、あまり普及率は高くありません。 その要因の一つが、会社の口座預金に直結するクレジットカードを従業員に持たせることは企業にとってはハードルが高いのです。広くカードを配布することで、私費に使われてしまいはしないか、という不安が生まれます。これに対してコーポレートカード・コントロールは、コーポレートカードの利用者や利用額、利用可否を管理者がリアルタイムでコントロールできるという仕組みです。管理者側がカードの利用を制限したり、通知を受け取ったりできるのが特長で、コーポレートカードの導入に対する不安の解消を狙っています。
もう一つ、「ICカードリーダー by マネーフォワード」というiPhone向けアプリをリリースしました。もともとAndorid向けは以前から提供していましたが、iOS13からFeliCaカード内のデータを取得するAPIが利用できるようになったため、リリースが実現しました。また、SwiftUIも採用して、iOS 13が出る当日(9/20)にリリースすることができました。開発メンバーの技術力の高さを表す、良い例だと思います。
「iCカードリーダー by マネーフォワード」 「ICカードリーダーのiOSアプリをSwiftUIで開発しました」
エンジニアを求め、地方に開発拠点を構えて採用を実施
クラウド経費本部の組織について簡単に教えてください。
今井:クラウド経費本部は40名ほどの組織で、ビジネスサイドのメンバーが7割ほどを占めています。開発、セールス、マーケティング、カスタマーサクセス、カスタマーサポートといった顧客と接する一通りの機能があり、部署内で完結しています。
クラウド経費のエンジニアが所属する開発部は、実は拠点が福岡にあります。ですからエンジニアとは毎日リモートでミーティングを行います。 エンジニアは増えてきていますがまだまだ人材の取り合いになる状況なので、地方にも開発拠点を構えて採用活動を行なっています。福岡のほかにも京都とベトナムに開発拠点があります。
追加機能の優先順位はどのように決めていくのでしょうか?
今井:法人向けのサービスはお客様のフェーズが、以下のように分かれます。
プリセールス
購入を検討する段階で、業務要件に対応した機能があるか、他社比較などが焦点になる
オンボーディング
使うと決めた段階で、利用開始までに社内の業務整理、システムの設定、従業員への説明会開催などを行う
ポストセールス
利用開始している段階で、実際に使ってみて機能の使いにくい部分などのフィードバックがくる
フェーズ | プリセールス | オンボーディング | ポストセールス |
---|---|---|---|
優先順位 高 | 新機能A | 利用開始時の 負荷軽減A | 既存機能Aの改善 |
優先順位 中 | 新機能B | 利用開始時の 負荷軽減B | 既存機能Bの改善 |
優先順位 低 | 新機能C | 利用開始時の 負荷軽減C | 既存機能Cの改善 |
実際のところ、綺麗にマッピングするのは難しい場合もありますが、この3つのフェーズのうち、「今どれがサービスとして課題か」または「ある開発がどの成果に繋がるのか」、を意識することが大事です。
B向けプロダクトの収益構造がシンプル
B向けのSaaSというジャンルにおいてプロダクトマネージャーをすることは、難しいのでしょうか?
今井:現在社内で活躍しているプロダクトマネージャーは、例えば「以前は会計士だった」など、何らかのドメイン知識を持っているケースが多いと思います。プロダクトで解決しようとしている課題に詳しい人が、プロダクトマネージャーになるべきです。 個人向けのサービスであればチームメンバー全員がユーザーになれるのですが、法人向けサービスはそうはいきません。会計ソフトを作るチームの大半は自分で会計ソフトを利用することはありません。だから、法人向けサービスは、開発メンバーがそもそもどこに課題があるのか認識できない、ということも多い。だからこそ、意思決定はドメイン知識を持った人が行う傾向があります。
その中で、クラウド経費は個人と法人の中間地点に立っているサービスです。経理担当者というプロユースと、一般の従業員は個人ユーザーみたいなものなので、わかりやすさが決め手です。個人と法人、両者の視点が必要なところが難しさであり、面白さでもありますね。スマートフォンのアプリなら一般従業員も利用しますから、とにかく使いやすさを重視します。一方でWebの管理画面はプロユース仕様です。
B向けとC向けのプロダクトの違いについて、深堀りして教えていただけますでしょうか。
今井:誰から収益を上げるのかという点が一番わかりやすいです。
C向けのサービスであれば課金をしてもらうか、広告でクライアントから収益を得るかいずれかの構造です。ただ、課金コンバージョンを上げたり広告を出しすぎるとユーザーは離脱してしまいます。常にトレードオフを抱えた状態で、折り合いをつけながら開発を進めることになるのがC向けサービスです。
一方でB向けの場合は、ユーザーに利用してもらうことでユーザーからお金を得るという非常にシンプルな構造です。
B2C | B2B | |
ユーザーになれるか | 誰でもなれる | なれない場合が多い |
メンバーの意見 | 全員意見を持っている | 課題が認識できない |
ドメイン知識 | 求められない | 必須 |
クラウド経費の場合は、経費精算業務についての深い知識がドメイン知識に当たります。
課題解決の仕方にも違いが見受けられます。
B2C | B2B | |
課題の認識 | データや ユーザーインタビュー | 既知のユーザーペイン |
課題の性質 | 仮説的 | 実在する |
課題解決のインパクト | ホームラン的 | ヒット的 |
例えば課題の解決について、求められる解決の度合いというのも違ってきます。 B2Cだと、良いUXを提供しなければ、使ってもらうことすらできないでしょう。一方でB2Bの場合は、最低ラインが「多少手間がかかってもなんとか実現できる」ということなんです。業務として必須なため、なんらかの手段を提供できれば使ってもらうことができます。もちろん、良いUXの提供を目指していくのですが、まずはその業務やタスクを成り立たせる、というのが最初のゴールです。
また、課題の数やバリエーションも多くコツコツとサービス改善を繰り返していく、という事が求めらますが、逆にいうと改善の手応えも得やすい、と感じています。
B2Bのサービス開発は、爆発的にスケールする事は稀かもしれませんが、実際に困っている人をそのタスクから解放できる、という点が面白く、またやりがいを感じやすいと思っています。 B2Bの開発に興味を持ってくれる人が増えると嬉しいなと思います。