地域密着型ドラッグストアが挑んだ「ゼロからの開発組織づくり」|株式会社薬王堂

東北地方を中心にドラッグストアや調剤薬局を展開する株式会社薬王堂(以下、薬王堂)は、「地域の美と健康と豊かな暮らしへの貢献」を掲げ、地域に根ざしたサービスを提供してきました。近年、流通・小売業界においてもDXの重要性が急速に高まっており、薬王堂でも「自社でプロダクトを開発する組織を持ちたい」という構想がありました。

しかし、東北地方ではエンジニア人材の採用が難しく、元エンジニアである同社 取締役副社長執行役員 西郷 泰広氏も「誰にどう相談して良いかわからない」状況が続いていました。 そのような状況から約1年でアプリ開発からリリース、組織の立ち上げまで実行された背景についてお伺いしました。 今回FLEXYからはプロ人材である岩田 和宏氏、関口 太一氏、他複数名がジョイン。アプリ開発とエンジニア組織立ち上げの取り組みについて、西郷氏に伺いました。

インタビュイー

株式会社薬王堂 取締役副社長執行役員 西郷 泰広氏

岩田 和宏プロ

技術、組織顧問 週1回のMTG(現地視察、ワークショップ対応、1on1等は適宜対応) 2023年7月〜現在

関口 太一プロ

PdM、UIUXデザイナー 月80h 2023年10月〜現在

ほか10名以上に参画いただいています。

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開発組織立ち上げの背景と課題

このプロジェクト立ち上げに際して感じていた課題感や背景について、教えていただけますでしょうか。

西郷氏(以下、西郷):
当社は「地域の皆様の美と健康と豊かな暮らしに貢献する」を使命に、主に東北地方でドラッグストアチェーンならびに調剤薬局の展開を行っています。

以前から「自社でプロダクトを開発したい」「エンジニア組織を社内に創りたい」という思いを強く抱いていました。私自身、前職でエンジニアとして働いていた経験もありましたが、何から始めればいいか分からず、知人に相談を重ねても答えが見つからず途方に暮れていました。だからと言って友人だけでチームを創ることには違和感がありましたし、東北という地域特性の中で、適切な人材やコミュニティを見つけるのが非常に難しかったです。

加えて、既に外部プラットフォームを活用したアプリ提供には着手していたのですが、細かいニーズへの対応ができないという限界も感じていました。自社に開発体制がないため、顧客からいただいた要望をプロダクトに反映することができず、改善サイクルを高速に回せないというもどかしさがありました。

その様な課題をお持ちの中で、サーキュレーションとはどのような出会いだったのでしょうか。

西郷:
実は、プロジェクト開始の1~2年前にサーキュレーションの方々と接点を持っていたことがあり、困っていたタイミングで他のサービスと併せて声をかけさせていただきました。

その中で、サーキュレーションを選ばれた決め手は何だったのでしょうか。

西郷:
やはり、岩田さんの存在が非常に大きかったですね。もちろん、他サービスからも優秀な方をご紹介いただいたのですが、通常の業務委託やフリーランスではない、最終的に社内で内製化できる仕組みを創るとこまで伴走してくれるFLEXYに魅力を感じました。特にプロ人材の岩田さんは「私だけでは解決できない課題に対し、一緒に解決策を考えてくれる」と感じました。豊富な経験もお持ちで、「岩田さんとなら新しいチャレンジができる」と強く感じたことが、最終的な決め手になりました。

プロジェクト推進の全体像と成功の鍵

プロダクト開発と組織開発を同時に

プロジェクトの概要について教えてください。

西郷:
基本的にはプロダクト開発と人材採用・組織創りの3つを並行して行っていました。
まずプロダクト開発については、岩田さんと共に「何を創りたいか」を明確にし、解像度を上げていきました。誰にどのような価値を提供するのか、既存のサービスとの違いは何かなどを深く掘り下げました。

それとほぼ同時に、人材の要件定義と採用活動を始めました 。正社員登用は時間がかかるため、業務委託の方々の力も借りながら、開発に必要な人材像を具体化していきました。

1人目の正社員採用が無事決まったものの、入社タイミングが不明確な中、具体的な開発構想を進める段階で、2人目のプロ人材としてUI/UXデザイナーの関口さんに入っていただきました。この時点では開発そのものよりも、構想をより具体的な形にするフェーズだったため、関口さんがプロダクトマネジメントを含め、ファシリテーションを行い、このフェーズを推進してくれました。その後、必要な人材がより明確になり、多数の業務委託の方々が加わり開発が本格化しました。

そして、開発フェーズの途中ですが、採用が上手くいき正社員が増え始め、次のフェーズへと移行しました 。プロダクト開発だけでなく、「組織を開発していく」というフェーズに入り、この二つを同時に進めながらリリースに至りました。

このタイミングで関口さんが参画されたのですね。関口さんがこのプロジェクトに参画しようと決意された決めてを教えてください。

関口氏(以下、関口):
ドラッグストアや小売業界の経験はなかったんですが、自身にとって良い経験につながると思ったことと、何よりも西郷さんのプロダクトや事業への熱い想いが大きかったです。私の持論ですが、熱量のある企業と組むことが成功の鍵になると考えています。

西郷:
UI/UX、そしてプロダクトマネジメントを含め、関口さんとは私だけじゃなくメンバーとのコミュニケーションが非常に増えると感じました。いただいたポートフォリオも素晴らしかったですが、それ以上にコミュニケーションを通じて一緒に磨き上げていける方だと感じたのは大きかったです。関口さんとなら、様々なブラッシュアップを通じて新しい可能性が見えてくるだろうと期待し、参画いただくことにしました。

岩田さんには経営者目線で相談でき、エンジニアの現場の悩みに寄り添って解決策を探せる方です。その経験の豊富さ・手段の広さ・器の大きさには本当に驚かされました。もっとプロジェクトの序盤から頼ればよかったと感じています。

関口さんにはUI/UXデザインだけでなく、最近は組織をどう創ってていくかという点で、概念的な理想の組織を図やデザインに落とし込んでもらっています。それをもとに私とディスカッションしたり、メンバーと会話したりしてくれます。デザインを軸に経営や組織論まで落とし込んでいただけるのは素晴らしいと感じています。
お二人とも、期待をはるかに超える存在であり、1年経った今でも多くの発見があります。

かなりこだわりを持って採用されたとお伺いしています。正社員を採用する際に、特に重視されていたことは何でしょうか。

西郷:
まずは、東北という地域へのこだわりがありました。特に最初の一人目のエンジニアには非常にこだわりました。

岩田氏(以下、岩田):
ジュニアレベルから採用するのではなく、最初の一人目には妥協せず、かなり時間をかけて選考を行いました。東北在住で、ゼロイチの開発経験があり、CTO候補、マネジメントもでき、技術も理解し、スタートアップ経験もあるような、非常に高い採用要件でした 。2024年の8月頃から採用要件について擦り合わせ、候補者の方と面接をしたのが10月か11月頃。結果1月から業務委託で週に何時間か勤務を開始し、正式入社が4月でした。それくらい時間がかかりましたね。

西郷:
最終的に決め手になったのはゼロから創っていく覚悟と、それを楽しめるワクワクをお互いが非常に感じることができた部分にあります。指示を待つのではなく、自分で考えて動いていただく必要がある中、率先して動いてくれるだろうと感じられました

ぶつかり合いの先に生まれた、信頼と共創の土台

プロジェクトは順調に進んでいたように聞こえますが、実際には大変な山場もあったかと思います。

西郷:
正社員メンバーは東北への強い想いを持って入社してきてくれました。組織ができて間もないこともあり、全員が手探りの状態で、正直メンバーにとって心理的安全性が高いとは言えない状態が続き、なかなか本音を言えない時期もあったと思います。吐き出すことができず、溜まった想いがある時一気に噴き出すタイミングがありました。その時「このままではチームはダメになるのではないか」「リリースなんかできるのか」とみんなで危機感を持ちました。それが最大の山場だったと思います。単純にプロダクト開発をして解散するチームではなく、改善を続け、チームとしてまとまりを持ってやっていくためには、常に価値観をすり合わせる必要があります。

そのような状況をどのように乗り越えられたのでしょうか 。

西郷:
結局のところ、「言い合う」ことが重要だったのだと思います。最初は私のトップダウンで進めていたのですが、徐々にメンバーに任せる形に変わっていきました。ただ、急に任されることに不安を感じるメンバーもいて、プロダクトの方向性が見えにくい時期もありました。

それが徐々に各メンバーの考える力が強くなる中で、チームとして価値観をすり合わせながら上手くやっていく道が見えてきました。現在はまさにそのフェーズに入っています。ここまでのプロセスは非常に苦しいものでしたが、一度始めたことを中途半端に終わらせたくないという想いが強くありました。

また、メンバーが発する意見は本当に良いものであり、彼らの可能性を最大限に引き出したいという気持ちが大きかったです。それは会社のためというよりも、メンバー個々のためにという想いが強かったですね。

岩田:
西郷さんの「やりきる覚悟」がこのチーム全体に表れていると思います。現在は、エンジニア5名、プロダクトチーム2名という少数精鋭ですが、これから人数が増えた時にチームとしてより一層強くなれるかどうかは非常に難しい課題です。

しかし、今のうちにバリューの設定などをしっかり行っておけば、チームとしても強くなれると感じています。組織創りは何度経験しても大変ですが、メンバーからの率直な意見はすべて会社のためを思ってのものなので吸収したいです。

リリースできたことで一つ山は越えましたが、本当の山はこれからです。組織が強くなり、ヒアリングサイクルが回り、東北を代表するDX組織として発信し、多くのエンジニアが就職したいと思えるようなチームを作りたいと考えています。現在は組織課題の解決に取り組んでおり、もうすぐそのレベルに到達するのではないでしょうか。全国展開するプロダクトを通じてそこまで成長できれば良いですね。

関口:
岩田さんのおっしゃる通りだと思います。大変だった点を振り返ると、基本的には常に人やケイパビリティが不足している中で物事を進めなければならなかったことです。デザインやエンジニアリングだけでなく、PR・マーケティング・データアナリスト・CSなど多くの役割が必要ですが、簡単に採用ができる状況ではないため、未経験の領域も含めどのように対応するかに苦労しました。プロダクトデザインや開発の難易度というよりも、限られた時間の中でPMFまでのステップをどう描き、優先順位をつけながら対応していくかという戦略的な難しさがありました。

「文化を共創する組織」を目指して

今後目指していきたい姿についてお伺いさせてください。

西郷:
エンジニアやデザイナーの皆さんにも、単なる「技術者」ではなく、薬王堂の一員として文化を共に創り、ユーザーと向き合っていってほしいと強く思っています。

薬王堂は東北の地域に根ざした企業です。その中で提供するプロダクトも、当然ながら地域に寄り添ったものであるべきだと考えています。自分たちが開発したものが、地域の方々にどう使われているのか、どんな価値を生んでいるのか。それが生活を少しでも豊かにしているのかという問いを、チーム全体で追求し続けていきたいです。

良いプロダクトは、良いチーム・良い組織から生まれます。だからこそ、私一人の意見や判断でチームを引っ張るのではなく、これからは「みんなで考える力」がますます重要になっていきます。私が関わる部分はありつつも、方向性や文化そのものは、関わるメンバー全員で共創していくものだと考えています。

エンジニア・デザイナー・プロダクトオーナーなど、それぞれが戦略的な視点を持ちながら仕事に取り組み、事業を創っていく。そういった自立性と協調性のあるチームこそが、理想の姿です。

上層部がすべてを決めてしまうのも違いますし、現場が暴走して経営との乖離が大きくなるのも避けたい。双方のバランスをきちんと取りながら進んでいける、そんな組織を目指しています。その先に、地域の暮らしに深く根ざした、素晴らしいプロダクトが生まれてくると信じています。

岩田:
今もまだ、課題がゼロになったわけではないと私自身も認識しています。だからこそ、西郷さんが少しでも安心して日々の業務に集中できるよう、引き続き伴走していきたいと思っています。

プロダクト面はもちろん、組織力の強化や、AIエージェントなどの最新技術を活かしたテクニカルな支援も含め、総合的にサポートしながら、継続的にチーム全体の進化に貢献していければと考えています。

関口:
西郷さんがよくおっしゃる「越境して物事を進める」という言葉が印象に残っています。まさに今、現場のメンバーたちがその言葉の意味を自分たちなりに咀嚼し、ボトムアップで実践してくれていると感じます。

それを、今後チームが大きくなっても変わらず続けていけることが理想です。

私たちはBtoCのプロダクトを扱っている以上、顧客の要望やニーズを、機能や体験としてどう落とし込むかが重要になります。そして、その“答え”を持っているのは、意外と現場のユーザーに一番近いメンバーだったりします。

ただ、戦略は切り離せないものなので、現場目線と戦略目線の両方を持ち合わせたメンバーが増えていくことが、組織としての成長につながると思っています。そうした視点の橋渡しに、私自身も貢献していけたらと考えています。

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企画/編集:サーキュレーション 広報

※本記事は2025年8月インタビュー当時の内容です。

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