年間数千を超える試合データをスポーツ業界にどう活かすのか。スポーツ×ITの現在―データスタジアム・岡本さん、池田さん

野球、サッカー、ラグビー、バスケットボール…様々なスポーツに「データ」を駆使した事業展開でコミットしているデータスタジアム株式会社。ファンやメディアに向けたスポーツ・エンターテイメントコンテンツや、スポーツ団体やチーム、選手に対してのソリューションを提供しています。スポーツの世界で、データやテクノロジーはどのように活用できるのか。執行役員である岡本さんと、エンジニアでありテクノロジーマネジメントチームのプロデューサーを務める池田さんにお話を伺いました。

データスタジアム株式会社
岡本 正弥 氏
執行役員(全社ICT推進)
岡本 正弥 氏
大学卒業後、一般企業を経てIT企業に就職。以降複数のIT企業で多岐にわたるシステム開発に携わるなかでプロジェクトマネージャの経験を積み、2011年データスタジアム株式会社に入社。スポーツチーム向けのITシステムの開発に従事しつつ、開発部門、データ配信部門の部長を経て、2015年より全社のICT関連を推進する執行役員に就任。 大学時代までは野球に真剣に取り組み、現在は週1回の草サッカーを楽しむ。
データスタジアム株式会社
"池田
ベースボール事業部 兼 テクノロジーマネジメントチーム プロデューサー
池田 哲也 氏
大学卒業後、IT企業に就職。ISP、インターネット広告関連の企業でシステム開発に携わり、2016年データスタジアム株式会社に入社。スポーツチーム、団体向けのシステム開発、運用をメインに従事。 小中はサッカー、高校はバレー、大学は競技スキー、社会人になってからは月に数回のフットサル、サッカーで体を動かすほか、サッカー、野球など様々なスポーツ観戦を楽しむ。

目次

「一球速報」をはじめとしたデータ配信や映像分析システムでスポーツ業界を支援

まずは、現在御社で開発しているサービスの概要や対象ユーザーをお教えていただけますか?

岡本 正弥氏(以下、岡本):大きくメディア事業と、スポーツ団体・選手サポート事業、映像コンテンツ事業の3つがあります。メディア事業はスポーツメディア向けのデータ配信です。一番有名なのはYahoo!JAPANのスポーツナビにおける「一球速報」でしょうか。ピッチャーが一球投げるごとに球種や球速、コースといったデータを配信しています。 スポーツ団体・選手サポート事業は、野球やサッカーをはじめとしたさまざまなスポーツのチームやリーグ、協会へのソリューション提供がメイン。野球なら一球速報、サッカーなら5分に1回のテキスト速報などのシステムで蓄積されたデータや、分析システムなどの提供をしています。 映像コンテンツ事業においては、スポーツDVDパッケージ制作と販売、メディア向けの映像配信支援業務を行っています。

ソリューション提供については、具体的にどのような分析システムを展開しているのでしょうか?

池田 哲也氏(以下、池田):野球やサッカーにおいては、チーム向けの強化システムや管理システムですね。ローカルもWebシステムも両方取り扱っています。 強化システムには、例えば映像分析のツールがあります。プレーオンサーチ、POSと呼ばれる仕組みで、見たいプレーだけを指定して映像再生できるもの。例えば指定球団の1選手の1年間のホームラン映像だけを10秒連続で出すことも可能です。サッカーならボールの動きを描画して図の中に描き、その結果と併せて映像を見ることで戦術や対策などを見出せるものもあります。 管理システムは、施術した内容を記録しておく医療データや、甲子園に出場した選手の評価を管理できるスカウティング用の仕組みなどが主なものです。いずれの場合も球団やチームごとに人の扱い方や評価項目、単位など管理方法が異なるので、お客様とじっくり話し合いながら独自にカスタマイズしてご提供しています。

データスタジアム

1競技につき年間1000試合。そのすべてのメタデータを持つ強み

御社のシステムを導入したいと考える企業やチームからは、どのような要望が多いのでしょうか?

池田:弊社が持っているデータと自分たちのチームで持っているデータを統合的に管理したい、または弊社が持っているデータを利用して映像分析をはじめとしたツールを使いたい、というご要望が多いですね。こちらから「こういうふうに使いませんか」とご提案することももちろんあります。 スポーツによって求められるデータ内容は異なりますが、特に「映像とデータを紐づけたい」という声はさまざまな競技で持ち上がる話題です。

岡本:大体どの競技でも、選手に何かを教えたり、分析担当者が監督やコーチに何かを伝えるときは、映像を用いるのが一番わかりやすいんです。映像の中から失点のシーンだけを切り出して編集してミーティングで見せるなど、大事なポイントを抽出して説明するようなシステムやソリューション提供はどの競技でも多いですね。

映像分析に関して、「この部分だけの映像がほしい」という検索に対するタグ付けはどのように行っているのでしょうか?

岡本:一球速報では試合経過に合わせて細かい情報をデータ入力していく作業を行っているので、そのデータと映像の時間を合致させることでデータを映像として切り出すことができます。いわゆるメタデータを作っているのと同じことですね。サッカーなら試合終了後10~15時間程度かけて、キックオフからパス、シュートなどプレーごとに分けてすべてデータ入力しています。 野球、サッカー、バスケでそれぞれ年間1000試合ずつの規模でデータ入力を行っているのが、弊社の強みでもありますね。

データスタジアム社

誰も見たことのない新しいデータの活用提案が今後の鍵

大きく3つの事業を手がける御社のエンジニア組織は、どのような体制や開発環境になっているのでしょうか?

岡本:社員は100人強で、エンジニアは15、6人。今年の5月までエンジニア部隊は開発部門として独立していたのですが、会社の指針として製販一致を目指すことになり、エンジニアも事業部に所属する形に変更しました。現在エンジニアが活躍しているのはメディア事業部とスポーツ団体・選手サポート事業を手がけるベースボール事業部、フットボール事業部などスポーツごとの事業部です。各事業部に3~6人程度配属されています。 メディア事業部においては、データ配信のための入力システムや配信システムの開発と機能拡張、システム運用保守が主な役割です。とはいえ、開発よりは配信システムをサービスとしてしっかり回していくための運用が主体になるので、野球のナイターがあれば、試合中ずっと現場に張り付いて技術監視なども行います。 ベースボール事業部やフットボール事業部は、新サービスの開発がメインです。ローカルシステムをVB.NetやC#で開発したり、最近はWebの仕組みをPHPで製作する機会も非常に多いですね。Web開発はPCだけではなくスマホやタブレットなどスポーツの現場で利用できるデバイスが普及してきたことで,ここ2,3年で一気に増えてきました。今では選手が自身のスマホで自分の映像を試合直後に確認するということもできるようになっています。またこれらのWebシステムはAWSやAzureなどのクラウドサービスを使って開発・運用しています。

池田:僕はベースボール事業部所属で、PM、PL的な立ち回りをしています。とはいえ、運用的な業務があれば、ちょっとした部分は自分でプログラムする場合もありますね。開発は外部に依頼することも多いので、その管理もミッションの一つです。 エンジニアの具体的な開発環境については、PHPのフレームワークは外部委託も含めてLaravelを使用してもらうようにしています。フロントエンド周りではもちろんjQueryを使っている部分もありますが、ReactやVue、Angularなど三大JavaScriptも用いています。少し散乱気味ではあるので、少しずつ収拾していきたいですね。

球団をはじめとするチームから要望を受けて、開発に着手するまではどのような流れになっていますか?

池田:受託の場合は営業部隊が依頼を受けることもあれば、事業部のエンジニアが直接球団に赴いてお客様からご要望を伺い、その場で「じゃあ、こういう形で実現しましょう」という話まですることも頻繁にありますね。実際にやるかどうかについては実現できる規模や技術かどうか、外部委託が必要かどうかなどの見極めもありますから、社内のメンバーと話し合ってから改めてお見積りをご提出する流れです。

岡本:分析システムなどはある程度パッケージ化されていて、すでに球団やチームに10年ほど使い続けていただいている状況があります。ユーザー側も製品でどんなことができるシステムかはわかっているので、要望も明確です。ところが、最近登場した例えばピッチャーが投げたボールの回転数や軌道までわかるトラッキングデータは、これまで誰も見たことのない細かいデータです。これは、球団やクラブ側はもちろん、誰もどう解釈したらいいのかわらかないデータということになります。 そういったものに関しては、こちらから「こんな風に活用できるだろう」という仮説をある程度立てなければなりません。その上でプロダクトを製作して、お客様の意見を聞きながらさらにブラッシュアップして仕上げていく、というアプローチが必要だと思っています。

10年以上御社の製品を使い続けているユーザーがいる中で、継続して導入してもらうためのバージョンアップのサイクルはどのようになっていますか?

岡本:パッケージ化された製品は、毎年シーズンが始まる前の3ヶ月ほどの期間でバージョンアップしています。前シーズン中に営業担当がユーザーから「こんな機能がほしい」という声をキャッチしてきて、その中から優先度の高いものを来シーズンに向けて実装する形です。 アップデート内容は例えば検索条件の追加や、データ入力からアウトプットの速度向上など、非常に細かい部分が多いですね。

池田:今までは簡単なグラフ表示だったものを、背景に絵をつけて見やすくするなど、見せ方を変えたいという要望もあります。大体11月~12月から対応し始めるので、会社的にも繁忙期です。シーズン中にいきなり今使っているものが変わってしまうとユーザーは困ってしまいますからね。

データスタジアム社

サーバサイドのエンジニアやクラウドが得意なエンジニアと開発を進めたい

現在エンジニアを募集中だと思いますが、御社の魅力や強みとしてアピールできるのはどんな部分ですか?

池田:IT分野においてスポーツに携われるのが一番の特徴ですね。僕自身も一番の入社の理由はその部分でした。スポーツの現場に足を運び、スポーツのデータを扱い、スポーツ業界に役立てるというのは、スポーツ好きにとっては大きな魅力です。扱うデータ自体もトラッキングデータをはじめとして多種多様になってきていますから、素材としても面白いと思います。

岡本:Jリーグさんとはいくつか共同事業という形でパートナーシップを結んでいますし、スポーツメディアともタッグを組んで事業を進めています。そういう会社はなかなか無いんじゃないでしょうか。

スポーツごとの戦術や専門用語など、開発に際して独特な部分もあるかと思いますが、そういった知識を有しているエンジニアの方が有利なのでしょうか?

池田:もちろん知識はあった方がいいです。エンジニア採用の際も、スポーツが好きかどうかはお伺いします。実際に球団を訪問してプロと会話する中で、話についていけないという状況はさすがにまずいですから。とはいえ僕自身は野球にそこまで詳しいというわけではなく、アナリストをはじめとした社内のメンバーと会話する中で知識を得ていった部分が大きいです。最初から知っていれば、業務もよりスムーズだったなとは思いますが。

岡本:野球やサッカー以外のメジャーではない競技のシステム開発をする場合は、細かいルールまで知っておかないと分析システムはそもそも作れませんし、仕様漏れになりかねません。普通の業務システムならお客さんと揉めてしまうレベルの話ですから、そこは押さえておかないといけないですね。

その他に、御社が今欲している人材について教えていただけますか?

岡本:現在はWEBシステムの開発環境のうちサーバサイドはPHPでまとめることができてきました。ですので、ここを触ることができるエンジニア、つまりサーバサイドのエンジニアを優先度高く募集しています。あとは池田のようにお客様と仕様を確認してきて社内に伝えるエンジニア、また、クラウドを扱うことが多いのでインフラ系のエンジニアも増やしていきたいですね。 一方で、メディア事業にかかわるエンジニアはシステム運用がメインの業務となるので、経験が少なくても、年齢が若くても全く構いません。野球やサッカーなどのスポーツが大好きであれば、大歓迎です。

池田:僕の希望を言うと、これからはどんどんPythonも使っていきたいんです。現在はどうしてもWeb系はPHPのシステムが多いのですが、分析やデータを扱うという面では、バッチ処理などもPHPよりPythonの方が効率が良い部分もある。僕自身は過去の職場で10年前くらいからPythonを扱っていて、全社会議でも導入をアピールしています。 もちろん現在のPHPすべてをPythonに置き換えるということはなかなかできないと思いますが、新しく入ってくるエンジニアとそういった取り組みも推進していけたらと思っています。

データスタジアム社

アマチュアやローカルスポーツの世界にもITを届ける企業を目指す

では最後に、今後御社が目指す姿や、事業の展望についてお聞かせいただけますか?

池田:どうしても資金面の問題があるので、弊社のサービスはプロへの提供が多くなってしまいます。でも、例えば映像分析システムを簡易的なタグ付けができるような仕組みと一緒に提供すれば、レベルを問わずあらゆるスポーツに利用できるものになります。アマチュアの育成やローカルスポーツにも活用してもらえるようなものづくりは、会社としての方針でもあるんです。

岡本:現在、センサーなどのIoTによってさまざまなデータの取り方が生まれています。例えば心拍数などバイタルデータも取れるようになってきていますし、プレーデータも今後どんどん詳しく、かつ大量になっていくでしょう。どこの会社も考えることではありますが、それらを組み合わせた新しい価値創造は積極的にしていきたいですね。その一方でデータ入力など人力で行っている作業も非常に多いので、技術の進歩とともに人間の手作業を減らしていくことは、技術者として考えていかなければならない部分だと思います。

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