【個人事業主×ものづくり補助金】補助内容や採択されるコツ・事例を解説
ものづくり補助金は、企業や個人事業主が革新的な製品やサービスを開発するために必要な設備投資の一部を支援してくれる補助金制度です。申請する事業の形態や目的に応じて補助上限額が異なりますが、最大5,000万円までの補助が受けられるため中小企業や個人事業主にとっては新規事業開発の心強い味方と言えます。
本記事では、ものづくり補助金の概要や申請方法をわかりやすく解説します。さらに申請枠ごとの特徴や個人事業主が申請する際のポイント、実際に補助金制度を活用して成果をあげた事例なども紹介しますので、これからものづくり補助金へ応募しようとお考えての方はぜひご覧ください。
目次
ものづくり補助金とは?
ものづくり補助金は、日本の補助金制度の一つで、正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と言います。
働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入などの各種制度変更による中小企業や個人事業主への負担を軽減することを目的として、対象事業者が取り組むサービス・製品開発や生産プロセス改善にむけた設備投資などを支援する補助上限額750万円~5,000万円・補助率1/2もしくは2/3の補助金です。
2020年(令和2年)より開始されたこの補助金制度は、2022年(令和4年)までに12次公募まで行われており、各募集あたりで個人事業主は300〜400名が採択されています。
補助金を活用することで対象事業者がイノベーションを推進し、新たな市場への参入や事業規模の拡大を実現することも期待されます。
補助金の補助上限額や補助率は、申請される枠・類型や従業員の人数によって異なりますので、詳細な補助内容や応募条件、申請手続きについては経済産業省や地方自治体などが公表している情報を確認することが重要です。 具体的な申請枠や交付スケジュール、申請要件については次章から詳しく説明していきますので、ものづくり補助金を申請しようとお考えの方はしっかり把握しておくことをおすすめします。
ものづくり補助金の申請枠と申請要件
ものづくり補助金では補助金の用途によって決まる5つの申請枠があります。
それぞれで補助上限額や補助率が異なりますので、どの申請枠が適切かしっかり検討しましょう。
申請要件には基本要件と申請枠ごとの要件の2種類があります。基本要件は申請枠に関わらず、全ての申請者が満たさなければならない必須条件です。
ものづくり補助金の基本要件:
- 付加価値額を年3%以上あげる
- 給与支給総額を年1.5%以上あげる
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金から30円以上あげる
- 以上の要件を満たした「3~5年の事業計画」の策定
この基本要件を踏まえた上で、各申請枠の概要、補助金額、枠ごとの要件は以下の通りです。
通常枠
概要
革新的な製品やサービス開発、もしくは生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備投資や試作開発などを支援する申請枠です。
補助上限額及び補助率
補助上限額:
- 従業員数5人以下:750万円
- 従業員数6~20人:1,000万円
- 従業員数21人以上:1,250万円
補助率:
- 中規模以上の事業者:1/2以内
- 小規模事業者、個人事業主・再生事業者:2/3以内
通常枠のみにかかる追加要件
通常枠には追加要件はありません。
回復型賃上げ・雇用拡大枠
概要
前年度の事業年度の課税所得が0以下である事業者が、給与UPや雇用拡大に取り組むために行う革新的な製品・サービス開発、もしくは生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資などを支援する申請枠です。
補助上限額及び補助率
補助上限額:
- 従業員数5人以下:750万円
- 従業員数6~20人:1,000万円
- 従業員数21人以上:1,250万円
補助率:
一律で2/3以内
回復型賃上げ・雇用拡大枠のみにかかる追加要件
回復型賃上げ・雇用拡大枠のみにかかる追加要件は3つあります。
- 前年度の事業年度の課税所得が0以下であること
- 常時業務を行う従業員を雇用していること
- 補助事業が完了した事業年度の翌年度の3月末時点で以下の増加目標を達成していること
- 給与支給総額の増加率が1.5%
- 事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上
デジタル枠
概要
DXを実現するための革新的な製品・サービス開発、もしくは生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資などを支援する申請枠です。
補助上限額及び補助率
補助上限額:
- 従業員数5人以下:750万円
- 従業員数6~20人:1,000万円
- 従業員数21人以上:1,250万円
補助率:
一律で2/3以内
デジタル枠のみにかかる追加要件
デジタル枠のみにかかる追加要件は3つあります。
- DX実現に向けた革新的な製品・サービスの開発やデジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善であること
- 経済産業省が公開しているDX推進指標を活用して、DX推進に向けた課題や現状認識の自己診断を実施し、その結果を応募締切日までに独立行政法人情報処理推進機構に提出していること
- 情報処理推進機構が実施する「SECURITY ACTION」の「★ 一つ星」または「★★ 二つ星」のいずれかの宣言を行っていること
グリーン枠
概要
温室効果ガスの排出削減に向けた革新的な製品・サービス開発、もしくは炭素生産性(※)向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資などを支援する申請枠です。
※炭素生産性:(営業利益+人件費+減価償却費)÷CO2排出量
補助上限額及び補助率
グリーン枠では温室効果ガス削減の取り組み状況によって、申請類型がエントリー/スタンダード/アドバンスの3つに分類されます。その上で従業員規模ごとに補助上限額が異なります。
① | エネルギー使用量およびCO2排出量の把握 |
用途別の電気、燃料の使用量把握 | |
② | 自社および業界全体での温室効果ガス削減に貢献するような製品・サービス開発への取り組み |
再生可能エネルギーに関連した電気メニューの選択 | |
再生可能エネルギーに関連した自社発電の導入 | |
グリーン電力証書の購入実績 | |
J-クレジット制度の活用実績 | |
③ | SBTまたはRE100への参加 |
省エネ法の定期報告の評価において「Sクラス」に該当する、または省エネルギー診断を受診 |
①のいずれかを満たす場合
申請類型:エントリー
補助上限額:
- 従業員数5人以下:750万円
- 従業員数6~20人:1,000万円
- 従業員数21人以上:1,250万円
①をすべて満たし、②のいずれか1つを満たす
申請類型:スタンダード
補助上限額:
- 従業員数5人以下:1,000万円
- 従業員数6~20人:1,500万円
- 従業員数21人以上:2,000万円
①をすべて満たし、②のいずれか2つ以上を満たし、③のいずれか1つを満たす
申請類型:アドバンス
補助上限額:
- 従業員数5人以下:2,000万円
- 従業員数6~20人:3,000万円
- 従業員数21人以上:4,000万円
補助率:
一律で2/3以内
グリーン枠のみにかかる追加要件
グリーン枠のみにかかる追加要件は3つあります。
- 温室効果ガスの排出削減に向けた革新的な製品・サービス開発、もしくは炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善であること
- 3~5年の事業計画期間内で、事業場単位での炭素生産性を年率平均1%以上増加する事業であること
- これまでに自社で実施してきた温室効果ガス排出削減の取り組みがあるかどうか、ある場合はその具体的な取組内容を示すこと
グローバル市場開拓枠
概要
海外事業の拡大を目的とした設備投資等を支援する申請枠です。グローバル市場開拓枠では海外展開の手法により、さらに4つの類型に区分することができます。
- 海外直接投資類型
- 海外市場開拓(JAPANブランド)類型
- インバウンド市場開拓類型
- 海外事業者との共同事業類型
海外市場開拓(JAPANブランド)類型では、海外展開に向けたブランディング・プロモーションなどに係る経費も支援します。
補助上限額及び補助率
補助上限額:
一律3,000万円
補助率:
- 中規模以上の事業者:1/2以内
- 小規模事業者、個人事業主・再生事業者:2/3以内
グローバル市場開拓枠のみにかかる追加要件
グローバル市場開拓枠では、4類型のそれぞれで要件が異なります。
海外直接投資類型
- 国内拠点の生産性を高めるため、国内事業と海外事業の双方を一体的に強化し、グローバルな製品・サービスの開発・提供体制を構築する事業であること
- 補助事業者は国内にある本社をとし、補助対象経費の1/2以上が海外支店の補助対象経費となること、もしくは海外子会社の事業活動に対する外注費や貸与する機械装置・システム構築費に充てられること
- 国内事業所においても単価50万円(税抜)以上で海外事業と一体的な機械装置などの設備投資すること
- 次の資料を追加提出すること
- 応募申請時:海外子会社などの事業概要、財務諸表、株主構成が分かる資料
- 実績報告時:海外子会社などとの委託(貸与)契約書とその事業完了報告書
海外市場開拓(JAPANブランド)類型
- 補助事業実施場所が国内にあり、製品などの最終販売先の1/2以上が海外顧客となり、計画期間中の補助事業の売上累計額が補助額を上回るような事業計画があること
- 次の資料を追加提出すること
- 応募申請時:具体的な想定顧客が分かる海外市場調査報告書
- 実績報告時:想定顧客による試作品等の性能評価報告書
インバウンド市場開拓類型
- 補助事業実施場所が国内にあり、製品などの最終販売先の1/2以上が訪日外国人となり、計画期間中の補助事業の売上累計額が補助額を上回るような事業計画があること
- 次の資料を追加提出すること
- 応募申請時:具体的な想定顧客が分かるインバウンド市場調査報告書
- 実績報告時:プロトタイプの仮説検証の報告書
海外事業者との共同事業類型
- 補助事業実施場所が国内にあり、外国法人と行う共同研究・事業開発に伴う設備投資などがあり、その成果物の権利が一部でも補助事業者に帰属すること
- 次の資料を追加提出すること
- 応募申請時:共同研究契約書又は業務提携契約書(検討中のものも含む)
- 実績報告時:当該契約の進捗が分かる成果報告書
2023年(令和5年度)のものづくり補助金の交付スケジュールは?
2023年(令和5年度)の交付スケジュールについては、2023年7月時点で13~15次公募までが開示されており、15次公募のみが申請受付中です。また今後についても、経済産業省からは令和6年度までは切れ目なく公募を実施予定と発表されているため、15次公募に間に合わなかったとしても16次公募以降で申請できる可能性がありますので、今からでも申請に向けた準備をしておくことが大切です。
15次応募の場合の具体的な申請手続きと交付スケジュールは以下の通りですので、こちらを参考に今後の公募への申請計画も立てておくと良いでしょう。
4/19(水)から公募が開始されており、5/12(金)17時〜7/28(金)17時まで申請を受け付けています。
その後9月下旬ごろを目処に採択通知があり、採択された事業者は交付申請を行います。さらに交付申請から1ヶ月程度でようやく交付決定となります。
基本的には交付が決定したタイミングから最大10ヶ月間が補助事業の実施期間ですが、グローバル展開型/グローバル市場開拓枠については、補助事業の実施期間は交付決定後から最大で12ヶ月間になります。申請枠ごとに実施期間が異なることをしっかり把握しておきましょう。
ものづくり補助金に必要な電子システムIDや書類とは?
前章で示した通り、ものづくり補助金の申請を行うためにはいくつか必要な電子IDや提出書類があります。
まず最初に必要なのが「jGrants」と呼ばれる電子申請システムを使用するための「GビズIDプライムアカウント」が必要になります。
ものづくり補助金の申請はjGrants経由での申請に一元化されていて、GビズIDプライムアカウントがなければ申請自体行うことができませんのでできるだけ早めにアカウント取得されることをおすすめします。
GビズIDプライムアカウントが取得できたらいよいよ申請が可能となりますが、ものづくり補助金の申請時には以下のような書類の添付が必要となります。
申請に必須の添付書類として
- 事業計画書
- 補助経費に関する誓約書
- 賃金引上げ計画の誓約書
- 決算書等
- 従業員数の確認資料
- 労働者名簿
- 「再生事業者」に係る確認書(再生事業者のみ)
- 課税所得の状況を示す確定申告書類
- 炭素生産性向上計画及び温室効果ガス排出削減の取組状況(グリーン枠のみ)
- 大幅な賃上げ計画書(大幅な賃上げを行う事業者のみ)
- 海外事業の準備状況を示す書類(グローバル市場開拓枠のみ)
任意の添付書類として
- 審査における加点を希望する場合に必要な追加書類
が挙げられます。
添付書類が不足すると加点が得られなかったり、補助金不採択の原因となる可能性があります。
必要書類を漏れなく準備するように細心の注意を払いましょう。
個人事業主がものづくり補助金に採択されるポイント
個人事業主がものづくり補助金で採択されるためには申請書類を作成する際に特に気をつけるべきポイントがいくつかあります。
ここでは具体的な注意点と対策について3つ紹介します。
保有する技術力の説明
申請者が保有する技術的能力は、ものづくり補助金の重要審査ポイントの1つです。個人事業主は法人企業に比べ、より入念にチェックをされやすい傾向にあります。
採択を受けるためには、保有する技術力をしっかりとアピールできる資料作成することが大切です。また、技術力とあわせて大事なのが革新性ですので、他社と差別化された事業計画であるかどうかもしっかり調査しておきましょう。
際立った独自性や革新性がない場合でも、事業を行う地域近隣で類似の事業が行われていなければ、それだけでも採択の可能性は高まります。
資金力や事業体制の説明
技術的能力と同じく、事業を適切に遂行できる体制や資金力があるかという点もものづくり補助金の重要審査ポイントです。
個人事業主の場合だと、従業員が数名もしく一人もいないケースが考えられるため、事業計画書に記載された事業開発が今の体制で本当に行えることが十分理解できるような説明が必要です。
また、きちんとした体制があったとしても、補助金が支払われるのは補助事業が行われた後のため、実際に設備投資などおこなうタイミングでまとまった資金がある、もしくは調達できるという財務状況の説明も大切です。
加点項目でのアピール
技術力や資金、体制といった主要な審査ポイントの他に加点項目として成長性や賃上げなどの項目があり、これらの加点項目でアピールできる項目があれば積極的に記載しましょう。
個人事業主のひとり社長であれば、自分自身の役員報酬を上げるよう計画を立てて事業計画期間内に賃上げするなど工夫すると良いです。
ものづくり補助金の活用事例
ここまで、ものづくり補助金の種類や交付のための準備について解説してきました。ここでは、経済産業省が運営する中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」掲載の、ものづくり補助金活用事例を2つ紹介します。
環境制御システム導入によるミニトマトの収量・品質向上
補助金導入のきっかけ
2015年創業の松下農園は、作目の収益性・将来性を考えミニトマトのハウス液肥栽培に挑戦。質の高いミニトマトを作るためには、ハウスの環境制御設備の導入が欠かせないと考えていたため、補助金申請に挑戦。
補助事業の効果
ものづくり補助金を活用して、25haの温室に、自動カーテン、ミスト発生装置、除湿機、加温機、CO2発生装置、循環ファンの設置を実現し、稼働して半年で、収量・品質は向上。バイヤーからの評価も高く、首都圏のスーパーから取引量を倍にしたいというオファーもあるなど目に見える効果が出ている。
セルロースナノファイバー濃縮装置の開発
補助金導入のきっかけ
マイクロ波減圧乾燥技術をコアテクノロジーとするベンチャー企業、西光エンジニアリングは2017年に植物由来の新素材、セルロースナノファイバー(以下CNF)の濃縮に成功。化粧品・食品の添加剤としての利用が期待されている濃縮CNFの量産化に向けた「量産用CNF濃縮装置」の開発のため、ものづくり補助金を利用。
補助事業の効果
2020年11月に量産用CNF濃縮装置の1号機が完成。CNF濃縮技術を高く評価した台湾の化学メーカーと商談が成立し、正式契約となった。今後は、製紙、食品、化粧品、自動車部品など、様々な産業分野に量産用CNF濃縮装置の販路を拡大していく予定。
まとめ
本記事ではものづくり補助金の概要から採択されるために必要な書類や採択のポイントについて解説しました。
採択されるためには煩雑な作業や緻密な事業計画書の作成が必要となりますが、採択されれば大きな事業投資に挑戦できるため、補助金の採択を勝ち得ることは大きな価値があると言えるでしょう。
個人事業主の方が採択される割合は比較的低いものの、徐々に応募数や採択数が増えてきているので、個人事業主の方でも積極的にものづくり補助金を活用していくと良いでしょう。
ものづくり補助金以外にも、主にインボイス制度の負担軽減を目的とした補助金があります。これらの補助金にも興味がありましたらあわせて確認してみてください。