AI・画像認識における開発戦略!〜AI活用の最前線〜
2020年10月27日に開催されたCTOmeetupのテーマは、AI・画像認識における開発戦略。
現在AI活用の最前線で活躍している3名のCTOに、各社のプロダクト開発実例も交えながらクロストークしていただきました。
技術に関する話題はもちろんのこと、AIがコモディティ化した先にどんな世界が待ち受けているのか、有識者によって語られる将来像にもご注目ください。
目次
登壇者
オープニング | 登壇者の挨拶
スカイマティクス | 空から撮影したセンシングデータによって産業課題を解決
倉本氏:
株式会社スカイマティクスのCTO倉本と申します。当社は2016年10月に創業したベンチャー企業で、ドローンや人工衛星等の空中写真やスマホ写真の画像処理・解析を行うクラウドサービスを自社開発しています。
当初は三菱商事と日立製作所の合弁会社として立ち上げ、私は日立製作所から出向していましたが、ちょうど1年前にMBOをして独立した会社になりました。私も社長の渡邉も以前から宇宙業界で働いていて、国の機関向けに人工衛星の画像処理システムなどを開発していました。現在まで十数年間、画像処理の分野に従事しています。
当社のミッションは「空から無限の情報を届け、あらゆる産業の課題を、リモートセンシングで解決する」というものです。世の中をより良いものにしていくため、上空から撮影したセンシングデータを利用した自社プロダクト開発を行っています。現在ものづくりはテックリードやシニアリサーチャーを中心とした開発チームに任せており、私は、CTO(経営者)として事業計画の作成や知財マネジメント、経営数値を技術の面でコミットする部分のロールを担っています。
会社の強みは、AIを含めたデジタル画像処理と、解析結果を地理空間情報に紐付けて処理するGIS(地理情報システム)という分野をインハウスで行っている部分で、プロダクトは農業分野と非農業分野が半々程度です。
例えば空からキャベツの個数を見て重さを算出するサービスや、電波の通り道を邪魔する樹木が無いかドローンの画像から3次元データを作成して解析するシステム、スマホで撮影した写真でお米の等級を判定する画像解析するアプリなどがあります。
アラヤ | アカデミックなメンバーとともに画像認識の分野で受託案件を手掛ける
安本氏:
株式会社アラヤのCTO安本と申します。僕ももともとは日立製作所に所属していて、鉄道システムの研究開発や鉄道データ分析プロジェクトの立ち上げ・マネジメントなどを行っており、データサイエンスの分野でも活動していました。
その後AIやデータサイエンスの分野に興味を持ち、2017年11月にアラヤに入社。2019年4月から自律エージェントチームのマネージャーとして強化学習などの技術を用いた事業の立ち上げを行い、2020年7月からはCTOを務めています。
アラヤ自体は2013年に設立された会社で、特に画像認識に強みを持ち受託案件を複数手掛けてきました。CEOの金井はもともとサセックス大学の准教授です。アカデミア出身の社長ということで、会社自体も元は研究をやっていたメンバーが多くジョインしています。
事業については、例えば建物に傷やヒビが無いか外観検査を行う製品や、製造現場に人が侵入していないか検出する安全確保サービス、自動車会社様向けの自動運転の研究開発など、お客様ごとにカスタマイズしたソリューションを提供させていただいています。
Splink | 「ブレインヘルスケア」の分野で認知症疾患のモデル化を目指す
奥野氏:
株式会社SplinkのCTO奥野と申します。当社は「脳から新しいライフスタイルをデザインする」というミッションを掲げており、脳からAIやマシンラーニングといった技術で有益な情報を取り出し、その情報を使ってプロダクト開発を行っています。
会社自体は2017年に設立し、メンバーは20名ほど。リサーチャーを含めた半数はエンジニアです。僕は2019年4月にジョインしてCTOを務めていますが、それ以前はデータベースシステムに関する研究で博士号取得のために活動していました。当社は「脳から新しく何かを作る」ことを目指してはいますが、現在携わっている領域は主に医療あるいはヘルスケアです。我々は「ブレインヘルスケア」と呼んでおり、特に認知症にフォーカスして事業展開しています。
みなさんもご存知のように認知症は社会課題になっており、2025年には日本だけで700万人が認知症になると言われています。認知症の原因となる疾患は実に50種類以上あり、認知症が進んでしまうと基本的に有効な治療法はありません。重要なのは早期の段階で見つけることです。早期段階で脳の健康状態を提示し、行動変容を促すことで認知症の予防につなげる。そのためにAIやマシンラーニングを用いて、病状の進行をモデル化しようと取り組んでいます。
具体的なサービスとしては、MRI画像から認知症の進行に関係のある部位を解析して定量的なレポートとして提示するものや、CQ Testと呼ばれる脳機能のテストをアプリケーションに最適化したものなどがあります。
我々のチームが大切にしているのは、課題設定をした上で研究成果を作り、それをベースにプロダクトを作るというサイクルを回すことです。サイクルを支える基盤として、チームを機械学習やリサーチといった分野ごとに分けて活動しています。僕はその中でどういう方向性でリサーチやプロダクト開発を行うのか策定するマネジメントを担っており、プロダクト開発においては一部コードも書いています。
テーマ1:開発体制(言語やフレームワークなど)
各社が利用する基本的な技術は主にPyTorch、TensorFlow、Keras
倉本氏:
最初のテーマは言語やフレーム枠などの開発体制ということですが、奥野さんの会社の開発環境はどんな感じですか?
奥野氏:
リサーチ側のエンジニアは基本的にGPU 付きのインスタンスをGoogle Cloudで各自立ち上げていています。言語は主にPythonで、PyTorchやTensorFlow、Kerasあたりを使っています。
また、脳科学や神経科学といった分野はMATLABを利用した画像処理が非常に充実しています。既存の資産が豊富なので、MATLABは使っていかなければならないというのが特殊な点ですね。
倉本氏:
MATLABは確かにアカデミックな感じがしますね。
奥野氏:
MATLABを使わないといけないというのは結構困っている人もいるようですね。MATLABの資産をPythonのインターフェイスで使えるようにするNipyというツールがあるのですが、そのあたりを組み合わせて使っています。
倉本氏:
安本さんはいかがですか?
安本氏:
我々もほとんど同じで、基本的にはPyTorchとTensorFlow、Kerasです。もともとはTensorFlow、Kerasを使っていたことが多かったのですが、最近はPyTorchを使うことが多くなってきています。できること自体は両方殆ど同じですが、PyTorchの方が使い勝手が良いというメリットがあると思います。
一方で、最終的にモデルをスマートフォンやエッジデバイスにデプロイしようとするときはTensorFlowの方が使い勝手がよい部分があると思います。TensorFlowはプロダクション用途に向いていてGoogleもそのように宣伝しており、そのための周辺のツールチェーンも多く揃っていることがメリットです。
採用時に期待するのは理系人材としての地頭と「考える力」
倉本氏:
奥野さんの会社は、医療画像処理のスペシャリストしか採用しませんか?いわゆる普通の画像認識系のエンジニアが入社することはあるのでしょうか。
奥野氏:
はい、募集していますよ。医療方面に見識がある、ディープラーニングやマシンラーニング、あるいは数理モデルに強いといった諸要素の中から、何か一つ我々の領域に関わるスペシャリティを要求している感じです。我々は脳画像だけではなく、数理モデリングやセンサーの波形処理を扱ったりしますし、MRIのような検査画像なんかも物理的な背景がわかっていないと画像が何を意味しているものなのかわかりませんからね。
倉本氏:
私の会社も同じかもしれません。画像処理のノウハウを持っていそうな人は積極的に採用したいです。
安本さんのところはどんな人を採用したいか、スキル面での希望はありますか?
安本氏:
主に3種類あります。一つは前職でディープラーニングや画像処理の経験がある方を優先的に採用しています。
一方アラヤでは、受託案件でも最終的にシステムまで開発してお納めすることも多いので、ソフトウェアエンジニアは勿論、バックエンドやフロントエンドエンジニアの経験がある方も採用しています。最後に、分野は未経験だがポテンシャルはあるという方を採用するケースもあります。
倉本氏:
未経験というのは、ドメインではなく画像認識自体が初めてということですか?
安本氏:
そうです。
倉本氏:
素晴らしいですね。その場合トレーニングはどうするんですか?
安本氏:
未経験といっても、さすがに英文学をやっていたような人は採用していません(笑)。例えば数学や物理の分野で博士を取られたり、ポスドクをされていたといった方が多いのですが、数学に強いと基本的にキャッチアップが早いですし、物理は例えば実験の中でMATLABなどのプログラムを触る場面も多いと思うので、やはり親和性が高いと思っています。
また、みなさんも同様だと思いますが、我々の領域は仮説検証を回していく力が必要になります。これは研究者に求められる要素でもあるので、その観点では即戦力になると思っています。
倉本氏:
エンジニアの採用で期待するのは、理系の地頭や思考力のほうが大きいですよね。みなさんも言語やフレームワークの経験については、「無いよりあるほうがいい」程度の認識ですか?
奥野氏:
ツールにしても言語にしても分野にしても、「自分はこれが好きだ」というこだわりはあってほしいですね。「それでないとダメだ」と言われると困ってしまいますが。
倉本氏:
言語なんかは変わっていくものですからね。そういう意味では新しい技術をキャッチアップする力や、今までやっていたものを捨ててより良いものを取るといったような「考える力」を持った人は欲しいですね。
奥野氏:
重要ですが、見極めは非常に困難です。
倉本氏:
面接は一回何時間くらいで見ますか?
奥野氏:
おおむね1時間ですね。
倉本氏:
私の会社も同じぐらいです。でも、1時間だとなかなか見極められないですよね。
安本氏:
論理的思考や仮説検証能力、柔軟な対応ができるかどうかを短時間で見る必要がありますよね。我々の会社では、面接の手法をかなり試行錯誤した結果、AI分野における最新の論文の中から一つ選んでプレゼンをしてもらっています。
なぜその論文を選んだのかを説明してもらうことで、分野に対するバックグラウンドの有無がわかりますし、サマライズして2枚程度のスライドにまとめるのも結構スキルが必要です。我々は受託開発を行っているので、報告書や提案書をエンジニアが書くケースも多く、例えばきちんと見出しをつけてドキュメントを書けるか、といった基礎的な部分も見ています。
奥野氏:
いいですね。
倉本氏:
大変参考になりました。私の会社でも安本さんの手法をアレンジして取り入れてみようと思います。
テーマ2:PoCフェーズにおける企業調整のコツ
企業の抱える課題の洗い出しがPoCの成功を左右する
倉本氏:
受託というキーワードが出てきましたが、次のテーマはPoCのフェーズで企業と調整するコツについてです。奥野さんはPoCで何か困っていることはありますか?
奥野氏:
弊社は基本的にはB向けメインで自社開発を行っていますが、医療業界はとにかくデータが手に入りません。我々自身は医療機関ではないので医療現場で使われているデータは直接入手できませんから、基本的にどこかの医療機関と共同研究や共同開発をすることになります。
なのでPoCとは少し異なりますが、医療機関と一緒に研究開発をする上で一番重要なのは「医療関係者の多くは基本的にAIのことはわからないし興味が無い」という事実です。医療業界は一部の先進的な病院を除いて、IT化があまり進んでいません。そこにAI領域の人たちが踏み込んで来るので、基本的に信用を得ることがまず難しいです。
その中でなんとかやっていくには、彼らの抱えている課題をいかに吸い出せるかにかかっています。AIに限らず、関係者だけが興味を持って面白いと思うだけで終わってしまうのがPoCでよくあるパターンなので、医療機関の人たちに現状のプロセスを改善できるのだと実感を持って認識してもらうことがPoCで終わらずに次に進めるための重要なポイントです。
要件定義から行い、フェーズを区切って対応することでリスクを軽減
倉本氏:
安本さんの会社はPoCを実施する際に気をつけていることや課題はありますか?
安本氏:
困っていることとしてAIには本当にありきたりな話ですが、「AIだから何でもできるでしょ」とおっしゃるお客様が一定数いますね。現段階でAIには何ができて何ができないのか説明するのは労力がかかります。お客様の中にはG検定を取得しているような方もいれば、少しAIについて聞きかじっただけの方もいるので、人によって温度感はかなり違うんです。
倉本氏:
規模感が大きい案件は無下に断ることもできないケースがあると思いますが、そういう場合のハンドリングはどうされていますか?
安本氏:
ソフトウェア開発においては一般的ですが、要件定義から入ることがありますね。ある程度AIについてわかっている企業であれば提案までは無償で行い、プロダクトを作る段階で費用が発生しますが、そうではない場合はコンサル費用をいただいた上で一緒に要件定義も行います。そこで一旦フェーズを切り、次の段階に進むかどうかは議論してから進めることで、お互いのリスクを軽減しています。
倉本氏:
フェーズを分けるのは大切ですね。目指すべき場所とマイルストーンをしっかり定め、お客様と共有しなければいけません。ただ、窓口となる担当者だけが理解していても結局後で重役によってひっくり返されてしまうことがあるので、上層部にも理解してもらうのが大切かなと思います。
安本氏:
ステークホルダーへの説明は大事ですね。お客様の中には「100%の精度じゃないとダメだ」という方がいらっしゃいますが、AIで100%は保証できません。その理由の説明が必要ですし、100%ではない場合に何をしなければいけないのか、一緒に考えるべきケースも実際にあります。
医療現場でAIが検査を代替しても、最終判断はドクターが行う
安本氏:
AI領域は現場のプロセスをAIで代替しようとするケースが多いのですが、例えば製造現場において手作業で異常を100%検出できているかというと、そうではありません。人間が99.5%の精度だとして、AIの精度が99.8%あるならAIに代替して構わないとも言えます。
こういった説明をすると、AIに代替して良かったとお客様に思ってもらえます。同じような部分について、医療分野はどうなのかちょっと気になります。
倉本氏:
確かに医療や金融の分野は精度が大切になりそうですよね。
奥野氏:
金融はわかりませんが、医療の世界にはそもそも「検査の精度に100%は無い」ということがすでに共有されている感覚です。COVID-19の検査も話題になりましたが、EBM(Evidence-Based Medicine)に基づいて論文をしっかり査読した上で検査を作り、感度や特異度などの数値を根拠に判断する考えになっています。そもそも100%でなくともいいという理解があるんです。
その前提を踏まえた上で、あくまで最終的に判断するのはドクターです。我々はドクターの判断に寄与する情報を提供することになります。
ジェフリー・ヒントンは「今後10年で深層学習は医療画像を読影する放射線科医を上回る」(※)と言っていましたし、最終的にはそういう世界が訪れるかもしれません。
しかし、一足飛びにそういう世界になることはありません。例えば癌や脳の動脈瘤のような、画像から病巣が読み取れるようなもの以外にも、それこそ認知症のように問診や生活習慣などあらゆる特徴を総合的に解釈しなければいけない疾患があるからです。
後者の場合はドクターの判断がより重要になりますし、AIだけで最終的なドクターの判断に寄与できる割合というものは、限られてしまうのではと我々は考えています。ドクターの判断を最大限にサポートできるテクノロジーは、もしかしたらディープラーニングではない可能性も高いです。
つまり、検査が100%でないという考えは受け入れられつつも、その中でAIをどういう形で出すべきなのかは誰もわかっていない。我々はその中で、ドクターをサポートするためにいろいろな技術に手を出して頑張っているのです。
※引用元:https://www.newyorker.com/magazine/2017/04/03/ai-versus-md
倉本氏:
私たちも同じような感じです。農業にしてもインフラ設備の点検にしても、企業のみなさんは「写真や動画で解析してくれればわかるはずです」とおっしゃるのですが、話を聞いていると実際は肌で感じる湿度や温度など、ほかの情報も使いながら判断しているんですよね。そういったことを理解した上でソリューションを作っていかなければいけないと日々感じています。
テーマ3:AIのコモディティ化に対して、身につけるべきスキル
「AIで解くべき問題は何か」を考える時代がやってくる
倉本氏:
次のテーマに移ります。今も十分AIはありふれたものになっていますが、もっともっとありふれた世界になったら、どんな感じになると思いますか?
奥野氏:
AIはすごく期待感を持たれている技術ですが、シンプルなAIの適用で解決できる問題はすでにどんどん解かれてしまっているので、段々本当に価値ある問題を探すこと自体が難しくなっていると感じています。ドメイン側に課題があったとして、それを本当にAIで解くべきなのかどうかという判断も必要です。そういう意味では、AIと相性の良い業界は今後もどんどん花開いていく一方で、その業界自体は段々減っていくのだと思います。
実際、医療AIは世界的に成功している部分もあるのですが、早い段階からAIによって変わると言われていた分野にもかかわらず、実際の医療現場でまともに使われている製品はそれほど多くありません。どういうAIがあれば医療が良くなるのか、誰も答えを出せずにいるんです。どこかでゲームチェンジが起きれば一気に変わるとは思うのですが、なかなか受け入れられていないと感じますね。
こういった点を踏まえると、AI分野において身につけるべきなのは、解くべき問題は何かを捉え、技術によってその問題を解決する方法を考えられるようなスキルなのではと思います。
医療AIの活用を広めるために議論すべき社会的受容の問題
倉本氏:
医療業界では昔から画像診断系のAI分野活用が期待されていたのにいまいちブレイクしないのは、症例が多く汎化が難しいのでしょうか?
奥野氏:
病巣を見つけるといったわかりやすいタスクにおいてはドクターよりも見落としを減らすことが可能になってきていますが、今問題になっているのは、より社会的な部分です。例えばAIの診断で誤診が起きたらどうするのかということですね。ここに対して今盛んに議論が行われています。そもそも医療のプロセスの中にAIのロールが存在するようになったら、どのように構造が変わるのかが問われているわけです。
倉本氏:
100%は無いから誤検出はあるにしても、未検出によって死亡者が出てしまったらどうするのか、ということですね。現状としては最終的に責任を持つのはドクターということになっている。
奥野氏:
そうなるとAIが貢献できる範囲が限られてしまうので、頑張って議論をしています。技術というより、その手前で課題設定をしっかり行うことや、社会的な受容を目指していくことが重要です。
エンジニア個人にそこまで求めるわけではありませんが、解くべき課題を間違えてしまうとどんなモデルを作っても意味がなくなってしまうので、個人的には少し視野を広げる必要があると感じています。
AI技術を提供するベンチャー企業が重視すべき2つのポイント
倉本氏:
AIがコモディティ化した社会がやってくるのが5年後か10年後かはわかりませんが、その中でアラヤさんのような受託を行う企業の場合は、ドメインに対するナレッジを蓄積して何かに特化したAIを提供する方向に行くのでしょうか?それとも、その時代のいろいろな課題に挑戦し続ける感じなのでしょうか。
安本氏:
両方ですね。基本的に成熟した技術はどんどんコモディティ化するので、業界特化型のモデルを作るためには質の高いデータがあるかどうかが一番重要なポイントになります。Splinkさんのように業界のプレイヤーとタッグを組み、素早くデータを集めてモデルを作ることが大事です。
一方でお客様にとってAIは手段の一つでしかないので、AI提供会社としてはプラスαの新規技術の開拓も行っています。AIの研究開発の分野には日進月歩で新技術が登場していて、例えば自然言語処理に関してはここ最近でGPT-3が登場し、ブレイクスルーが起きました。今後は画像認識と同じような広がりを見せるのではと思っています。当社もこうした技術をいち早くキャッチアップしていますね。
AIの普及と進化によって訪れる人間の意識の転換
倉本氏:
アラヤさんの企業サイトに掲載されている「アラヤの考えるAIの未来」はAIがコモディティ化した世界のビジョンに近いと感じているのですが、簡単に説明いただいてもいいですか?
画像引用元:https://www.araya.org/features/
安本氏:
まず、今はGPUに載せたりクラウドで実行しているAIが、IoTと言われる形でいろいろなデバイスに広がったときに「AIがコモディティ化した」と言えるのではと考えており、これを「エッジAI」と呼んでいます。
その次の世界として想定しているのが「自律AI」の世界です。これはAIの技術の一つである強化学習などの技術を活用することで、ロボットなどの動くものにもAIを実装していくというステージです。建設機械の自動化といったユースケースがあると考えています。
倉本氏:
建設作業なんかを始めると、先程奥野さんがおっしゃっていたような精度の問題が非常に重要になりますね。
車の自動運転一つにしても、自分が何もしなくても目的地に行けるようになったらいいなと思う反面、自然環境にはいろいろなシチュエーションがありますから、絶対にAIの見落としがあるだろうと思ってしまいます。私は怖くてハンドルが離せないと思うのですが、そういった感覚は今後変わると思いますか?
安本氏:
難しい話ですね。医療と同じで、誰が責任を負うのかという議論になってしまうと思います。
倉本氏:
プログラムには大なり小なり必ずバグがあるので、そういうものに命を任せる気になれるかということですよね。
病院にはいい加減なドクターもいるかもしれませんから、適当な人間に出会う確率とプログラムのバグに出会う確率のどちらが高いかということにもなりますが……。
奥野氏:
どこかで意識が変わることはあると思いますよ。20年後か30年後かはわかりませんが、我々がオールドタイプになる日は来るんじゃないでしょうか。「人が運転するなんて危ない、それで昔は年間2万人近く死んでいたんだろう」という世界です。
課題解決のために思考を切り替え、適切にアプローチするスキルが必要
倉本氏:
人間のやっていることを全て賄うAIを作ろうと思うから難易度が高いのであって、人口が減って社会構造が変わるなら、AIやロボットが動きやすい環境を整備するというアプローチもあるのかなと思います。国土強靭化計画その2のような感じで、自動運転用に道路に磁気センサーを埋め込んだりする考えです。
奥野氏:
自動運転でいうと、どれだけがんばっても外乱は避けられませんよね。外界からよくわからない情報が入ってきてバグを起こします。
倉本氏:
霧の中に入ってしまったら人間だって運転できませんけどね。
安本氏:
自動運転が一番得意なのは高速道路なんですよね。人が入ってこないし、白線をトラッキングするだけでいい。新幹線なんかも人が入ってこない環境だからものすごい速度で走らせることができます。
しかし、一般的な平面の道を走っている鉄道同士は外乱が入りやすいから自動化ができません。おっしゃるとおり、AIが動きやすい環境を作ることは、自動化を進める上ではベストなやり方なのだろうと思います。
倉本氏:
AIのコモディティ化に対してはAIが動きやすい環境を周辺現場で作るスキルが必要ということですね。エンジニアに求めるスキルではないかもしれませんが。
奥野氏:
誰かがやらないといけないですね。
安本氏:
アラヤのプロダクトで製造品の外観検査を自動化する際に、照明条件で結果が変わってしまう場合があります。そういう時は、環境を揃えるという部分も含めて提案する必要があります。なかなか難しい部分ですが、スキルとしてはやはり問題解決能力だと思いますね。
倉本氏:
お客様の課題を解決するのが僕たちの仕事ですが、クライアントからやってほしいと言われたことが必ずしも正解とは限りません。そういうときには頭の切り替えも必要になりますよね。
例えば農家の方から「畑に蝶がいて困っているから、ドローン画像で芋虫を見つけてください」と言われたことがあります。ところが、よくよく調べると芋虫は日中は葉っぱの裏や土の中に隠れているので、写真に写らないんですよ。そこで芋虫ではなく新しく生えた葉っぱを検出するプログラムを作り、さらにそこに虫の食べた穴が空いているかAND演算することで、穴が空いていたらきっとそこに芋虫がいるだろうと推測するアプローチをして解決しました。
そのあたりの考えを切り替えられないと「葉っぱに芋虫はいません」で終わってしまうので、課題解決のために思考を切り替えるというアプローチは非常に重要かなと思います。
クロージング | 登壇者から一言
倉本氏:
では、最後にみなさんから一言ずついただきたいと思います。段々と盛り上がってきたところで終わってしまいましたが、今日はみなさんと議論ができて楽しかったです。機会があればまたぜひいろいろなお話をさせてください。
奥野氏:
今回はAIがテーマということでリサーチ視点のお話をさせていただきましたが、AIの会社が勝ち続け、AIをスピーディーに世の中に届けるためにはエンジニアリングが非常に重要だと考えています。
当社はまだまだエンジニアリングリソースが足りていない状態ですが、優秀なリサーチャーが揃っており、AIをエンパワーできるエンジニアリングをドッグフーディング的に試せる環境です。「AI会社を勝たせるためのエンジニアリング」に興味のある方がいらっしゃれば、ぜひお声がけください。
安本氏:
今日のディスカッションは非常に面白かったです。お二方とも「AIは手段でしかないと認識しており、問題解決能力がある人材が望ましい」という旨をお話しされていましたが、本当にその通りです。当社はどちらかというとAIを目的として提供する立場になりがちなので、肝に銘じたいと思いました。
当社はAIのスタートアップ企業なので、AIが好きな人が集まっています。新技術や論文の情報を積極的にキャッチアップし、それらを実際に受託開発でお客様に価値として届けるといったことを楽しんでいるメンバーです。こういった活動に興味がある方は、お声がけいただければと思っています。本日はありがとうございました。
倉本氏:
それではこれでディスカッションをを終了したいと思います。ありがとうございました。
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