カカクコムCTO 後藤大介氏が「価格.com」開発で学んだエンジニアに必要な経験や知識とは?

設立から20年を迎えるカカクコム。「価格.com」や「食べログ」をはじめとした著名なプロダクトを次々と生み出し、「比較や口コミによって購入を決める」というユーザーの新たな習慣を定着させてきました。同社内には、サービスを改善していくと同時に、新たなチャレンジにも果敢に挑戦していくための仕組み・風土があるといいます。

 

「価格.com」の技術責任者としてシステム開発をマネジメントする後藤大介さんは、現在でも自身でコードを書き続けているそうです。「価格.com」を中心にカカクコムのエンジニア組織運営について、そしてこれからのエンジニアキャリアで必要なことについて、お話を伺いました。

「新しいチャレンジ」への評価は加点のみ

Q:「価格.com」や「食べログ」をはじめ、多くのサービスが安定的に運営されている印象があります。エンジニアリングについてはどのような体制で運営しているのでしょうか?

後藤大介さん(以下、後藤):

エンジニアは総勢約200人で、会社全体の3分の1といったところでしょうか。部門ごとに動いていて、サービスの成長ステージに合わせて必要な人材を柔軟に採用しています。

 

価格.comを担当しているエンジニアは40人ほどいて、営業など他職種との分業が進んでいます。「新しいものを一から作る」というよりも、「今あるサービスをどう改善していくか」というスタンスで運営しています。

Q:長い歴史を持つサービスならではのスタンスですね。

後藤:

そうですね。20年の歴史を持つ価格.comとできたてほやほやのサービスでは、求める人物像が違います。「食べログ」や「スマイティ」なども然り。

 

逆に新規サービスの場合は1〜3人の単位で動き出すので、「自分はここまでしかできない」という意識で自分の仕事に線引きをしてしまう人は向いていません。

Q:エンジニアの評価制度はどのように運用しているのでしょうか?

後藤:

全社の基準に則って、グレード(等級)で評価しています。グレードごとに「何ができていてほしいか」という要望を明確にし、結果を見ていくというやり方ですね。

 

ただ、エンジニアと一口に言っても役割は人によって少しずつ違いますし、サービスによっても評価軸は変わっていきます。なので、大きな基準のもとに各部門でブレイクダウンして考えるようにしています。部門間で人の異動が発生した場合にも、「この人はこんな能力があるよね」という共通理解の上で体制変更ができるようコミュニケーションを取っています。

Q:採用サイトでは「新しいチャレンジに対する評価」について書かれています。

後藤:

「成果」「行動」という軸に加えて、「新しいチャレンジ」という評価軸を置き、重要視しています。新しいチャレンジをしないのはノー、成長しようというメッセージですね。評価としては加点のみで、新しく挑戦したことで失敗しても減点評価はしません。

 

新しいチャレンジに対するアクションは、それぞれのエンジニアが設定します。業務改善やシステム改善、困っている関連部署への貢献など人によって設定する内容はバラバラ。自分だけに影響するチャレンジもあれば、ドメインや会社単位でイノベーションが起こるようなチャレンジもあります。個人が掲げた内容を否定することはほとんどありません。あまり強制はせず、「自分で考えてもらう」ことを大切にしています。

トレンドにいちいち踊らされちゃダメだ

Q:エンジニアを取り巻く環境変化は激しさを増していますが、これからのエンジニアに必要な経験や知識、スタンスは何だと思いますか?

後藤:

若いエンジニアの話を聞いていると、「自分の武器を明確に持ってほしいな」と感じることがあります。自分なりに戦えるフィールドや専門性がないと、どんな働き方であっても長続きはしないと思うんです。満遍なくすべてができる人なんてそうそういないわけだから、得意なものや好きなものを徹底的にやって、その分野で自信を持てるようになればいいと思うんですよ。

 

そうすれば、周りにポジティブな影響を与えながら成長していける。「今日も楽しく開発できているな」と感じられることは、エンジニアにとって何より大切なのではないでしょうか。もちろん仕事なので毎日いつでも楽しいはずはありませんが、どういう状況なら自分がパフォーマンスを発揮できるのか、何に喜びを感じられるのか、それを問いかけて自分と向き合うことが必要でしょう。

 

AIだとか、pythonとか、フルスタックエンジニアだなどといろいろな話が出てきますが、「いちいち踊らされちゃダメだ」とも思います。若手であればあるほどそう。20代半ばくらいまではたくさんつまみ食いをするべきですが、20代後半くらいまでには、自分の武器を明確にしていく意識も持ったほうがいいと思いますね。

役割が上がっていけば、新たな課題が見えてくる

Q:後藤さんご自身のキャリアについても教えていただけますか?

後藤:

2000年に社会人になって、中小規模のSIerに入社しました。BtoCのウェブサービスを展開する顧客のシステム担当に配属され、そこからずっと、ほぼ一貫してウェブシステムをやり続けてきました。

 

カカクコムに入ったのは28歳のとき。SIerだと、これくらいの年齢になればPMなど管理側に移ることが多かったんです。でも当時は「人と金と時間の管理がしたくてエンジニアになったわけではない」という思いがあって。

Q:開発に携わり続けるためにカカクコムへ移ったということですか?

後藤:

そうですね。とにかく開発の現場にいたかったんです。今の立場になってからも、現場を助けるようなツールや、他の部門が困っていることを助けるようなツールは自分で書いています。

Q:そこからマネジメント側へ転身していく過程では、どのような心境の変化があったのでしょう?

後藤:

私が入社した2006年当時、価格.comのエンジニアは8人、食べログは2人という状況でした。そこからサービスを進化させ、技術的・仕組み的な限界を突破していく中で、自分が先頭に立って変えていきたいという思いを持つようになりました。物事を動かすためにはある程度の裁量が必要ですし、純粋にサービスを強化していくことを考えれば、マネジメントに関わることも必要だと考えるようになったんです。積極的にマネジメントをやりたいというよりは、価格.comというサービスのために、会社のためにという思いが強いですかね。

 

役割が上がっていくと、それまでは見えていなかった課題が見えてきました。「さらに上の立場にいけば何が見えるんだろう?」という純粋な興味もあって、ここまで動いてきた感じです。

Q:カカクコムで「愛社精神」が生まれたということですね。

後藤:

そうですね(笑)。会社への愛着は強いです。プロダクトへの思いももちろんあります。ユーザーが商品の最安値を比較して、最終的にチラシを見て商品を買うという形でもいい。何かしらの形で、このサービスがユーザーの購買活動に絡んでいけるようにしたいと日々思っています。

 

ただ、カカクコムのエンジニアはあまり外に出ることがないので、外部から見た自分たちの評価や価値が分かりづらいという課題もあるんですよね。「エンジニアとして、他社の人と胸を張って語れるようになりたい」という思いも持つようになって。私自身はそんな風にキャリアを積んできました。

 

部下を持つようになって、「皆にもそうあってほしいな」と思うようになりました。エンジニアが会社を辞めて他社へ行くとしても、「さすが元カカクコムだよね」と言われるようにしていきたいと思っています。

カカクコムで得た知見をアウトプットしていきたい

Q:今後、後藤さんはどんなことに挑戦していきたいと考えていますか?

後藤:

一度、「まったくのゼロから組織を作る」ことに挑戦してみたいと思っています。会社組織やプロダクトを限定したものだけでなく、新しいことをやってみたいですね。カカクコムでいろいろな経験をさせてもらい、エンジニアの組織づくりなどで知見を蓄積してきました。これをアウトプットしていきたいな、と。

 

2006年からカカクコムでサービスの成長を追いかけ、世の中での認知度も上がり、人の採用や技術的負債などとも向き合ってきました。良いことも悪いことも、外部に発信できる知見がたくさんあると思っています。

 

価格.comのサービスで言うと、「ものを買う」というタイミングで、まだまだユーザーが困っていることがたくさんあると認識しています。買い物に対するニーズはたくさんある。「どこで買うべきか」「何を買うべきか」という悩みに対して、我々がお手伝いできることはたくさんあると感じています。家電やPC・カメラといったこれまでのイメージだけでなく、それ以外の分野にもどんどん価値を広げていきたいですね。

 

海外では、「Priceprice.com」というドメインで「国外ユーザーにも買い物を楽しんで決断してもらおう」という取り組みを始めています。アジアを中心に、すでに4カ国に展開中です。国内で培ったノウハウを展開し、各地の商習慣や事情に合わせながら、カカクコムのサービスをグローバル規模でも成長させていきたいと考えています。

 

取材・記事作成:多田 慎介

後藤 大介

株式会社カカクコム システム本部 システム開発1部部長。 大学卒業後に中堅SIerへ入社し、BtoCのサービスを展開する企業のシステム担当を務める。2006年にカカクコム入社。同社の看板サービス「価格.com」のシステム開発に一貫して携わっている。

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