【CTOインタビュー】フルスタックで学び、「職人の感性」を大切にするエンジニアがチャンスをつかむ−DMM.comラボ・城倉和孝さん

動画配信やオンラインゲーム、VR関連、家事代行にアフリカでの新規ビジネスまで……。事業創造企業として独自の道を突き進むDMM.comグループでは、全体で約500名のエンジニアが活躍しています。

 

奇想天外とも思えるアイデアが次々と飛び出す同社において、エンジニアは何を考え、どのように働いているのでしょうか。グループ内で多くのサイトとアプリを開発する株式会社DMM.comラボの取締役CTO・城倉和孝さんにお話を伺いました。

目次

「ルワンダでの電子マネー展開」にも関わるエンジニア

Q:城倉さんが管掌している部署の体制や特徴について教えてください。

城倉和孝さん(以下、城倉):

私が所属するDMM.comラボのシステム本部では、ゲーム・FX以外のすべてのサイトとアプリ開発を行っています。正社員のエンジニアが300名くらい、ゲーム事業などのエンジニアは200名くらいなので、グループ全体では約500名という体制です。これは全社員の5分の1にあたります。

 

どんどん新規事業が進んでいるので、今後はもっと手厚くなるかもしれません。最近では亀山(グループ会長の亀山敬司氏)が、新しいテクノロジーを活用した水族館の構想を話していますが、こうした新しい事業にエンジニアとしてどう絡んでいけるのか、いろいろと楽しみにしていることも多いんです。

Q:「DMM.Africa」などの新規事業が次々と話題になっていますが、エンジニアの皆さんはどのように関わっているのでしょうか?

城倉:

DMM.Africaのケースでは「ルワンダで電子マネーを展開したい」という話があって、DMM.comラボでも技術的な相談を受けています。直接的ではない部分でも、エンジニアの技術や発想を生かせる場面は多いですね。

 

部署内にはいろいろな国籍のエンジニアが活躍しています。例えばケニア出身で5か国語が話せるというエンジニアがいますが、彼は海外事業メンバーとして採用され、研修の意味も含めて日本のオフィスで勤務しています。こうした人材と絡めるのも面白いところだと思っています。

Q:海外出身のエンジニアと接して、カルチャーショックを受けるようなことはありますか?

城倉:

来日している人は日本語が堪能で、日本がとても好きという人が多いんです。こちらの環境に馴染んでくれているので、私たちがそこまで大きなカルチャーショックを感じることはありません。

 

一方で、国内のエンジニアがオフショアでベトナムへ行く機会もあるのですが、このときは現地のエンジニアに接して刺激を受けることが多いですね。向こうのエンジニアは「技術を磨いて仕事を確保したい」というエネルギーがすごいんです。安定した日本とはハングリー精神が違うと感じます。英語のレベルも高いですし、グローバルで活躍するための準備をちゃんとしている感じがしますね。

海外拠点を活用してエンジニア育成のエコシステムを作る

Q:グローバル環境でのエンジニア育成も行っているのですか?

城倉:

はい。会社がグローバル展開を推進していく方向性を明確に打ち出しているので、それに向けてエンジニアの育成も強化しています。

 

現在のDMMグループが展開する事業体制のままでも売上を伸ばしていけるでしょうが、亀山は常にもっと先を見てます。グローバル市場が整備されていけば国内だけでは勝負していけなくなるでしょうし、準備は着々と進めていかなければいけないと感じています。

 

海外ビジネスはまだまだスタート段階で、実感が湧いてくるのもこれからだとは思いますが、社内のメンバーには海外へ行くチャンスをどんどんつかんでほしいですね。フィリピンとベトナムに開発拠点がありますが、現地のエンジニアはまだ経験が浅いので、日本人エンジニアが行くことでプラスになることがたくさんあります。一方で日本人メンバーは語学を学べる。そんな教育のエコシステムを作っていきたいと考えています。

Q:海外へは、手を挙げれば誰でも挑戦できるのですか?

城倉:

希望を取って、なるべく手を挙げた人が行けるようにはしています。明確な選抜基準があるわけではないのですが、海外に対する思いや、トレンドの技術をちゃんと追いかけていること、現地のエンジニアとチームビルディングができそうな人であることを基準にしています。

 

現地での生活はそれなりにハードですからね。気候も食べ物も違いますし、シャイだとなかなか友だちもできません(笑)。かと言って日本人コミュニティばかりに顔を出していても成長にはつながらない。大変なことは多いですが、その分得られるものも多いはずです。

「プロダクトファースト」の小さなチーム運営

Q:育成や評価制度では、他にどのようなことを工夫していますか?

城倉:

いろいろと試行錯誤を続けています。2年前まではMBO(目標管理)制度を敷いていましたが、昨年からは新しい評価制度の運用を開始しました。「スキル評価」と「行動評価」の2本柱です。

 

職級を上げるには、スキル評価で一定基準を満たす必要があります。特に新卒からスタートする社員はなるべく幅広く学んで、フルスタックのエンジニアとして成長してほしいと思っています。

 

その先はマネジメントやスペシャリストへと、個人の資質に合わせて枝分かれしていければいいかな、と。早ければ3年目くらいから、そんなキャリアイメージを描いてほしいですね。「管理職にならなければ給料が上がらない」というわけでもなく、スペシャリストの評価を重要視しています。コードを書く人はとても大切ですから。

Q:評価制度の見直しには、どのような背景があったのでしょう?

城倉:

事業が手広くなっていく中で、関わる職種や人数も増え、コミュニケーションや意志決定のスピードに課題を感じるようになったんです。役割が細分化し、組織が大きくなる中で薄れつつあったベンチャーマインドを取り戻したいというのが、大きな狙いです。

 

今後は「プロダクトファースト」を徹底するために戦略単位をより小さくして、エンジニアがセールスやマーケティングの担当者とより密接に同じチームでワークすることが望ましいと考えています。

Q:「エンジニアにもビジネス感覚が必要だ」と考える企業が増えていますね。

城倉:

それは当社も同じです。エンジニアにもビジネス感覚は必要。しかし、全員が全員、ビジネスの本質を深く理解している状態を作るのは難しいかもしれません。エンジニアは専門職なので、あくまでもエンジニアとしてのスキル向上を最優先にしてほしいと思っています。しかし、納期などビジネス上のタスクや背景はしっかり押さえておきたい。そうした意味でも、プロダクトファーストの小さなチーム運営が重要になっていくと考えています。

経営者に事業提案するための「プレゼンテーション研修」も

Q:城倉さんは、若手エンジニアにどんなことを期待していますか?

城倉:

いつも思っているのは、「エンジニアとしての価値を追求してほしい」ということです。

 

大学生や高専生から新卒で入ってくると「社会人になった喜び」が大きくて、技術以外にもビジネス分野に幅広く興味が向いてしまうものです。ゆくゆくはビジネス全般を考えてほしいので、それ自体は悪いことではないのですが、エンジニアである限りはまず純粋に技術を磨くべき。若手時代は、脇目も振らずに技術に向きあってほしいな、と思います。

Q:新規事業を次々と打ち出すDMMという職場が魅力的だからこそ、いろいろな方向に興味が向くのかもしれませんね。

城倉:

そうですね。事業の提案は誰でもできる環境なので。

 

IoTやVRなど新たな技術を使った事業も生まれていますが、そうした環境に挑戦できる可能性が高いのはフルスタックで学んできたエンジニアです。エンジニアが活躍できる場所は今後無限に広がっていくと思いますが、自分自身が裾野を広げて、インフラやサーバーサイドなど幅広く学んでいかなければ対応できないでしょう。

 

一方では、20代の若手エンジニアに向けたプレゼンテーション研修も行いました。エンジニアが生み出すビジネスに着目しているんです。プレゼン能力を鍛えて、将来的には経営者にも提案できるようになってほしいと思っています。DMMで働いていることの特権を理解して、新しいことにどんどんチャレンジできるこの環境を楽しんでほしいですね。

Q:最近では小学校でのプログラミング教育が始まるなど、次世代のエンジニア育成が社会的に進んできています。上の世代は、ハイスペックな後輩にどんどん後を追われる立場となっていきますね。

城倉:

うらやましい時代だと思いますよ。当社もハッカソンに協賛でよく参加していますが、若い世代は学生時代からデバイスやクラウド環境が当たり前にある環境で、いろいろな開発に挑戦しているのを目にします。

 

そうした意味では、ポテンシャルの面で若い世代にはかなわなくなっていくのでしょう。だからこそトレンドをしっかり追いかけて、「職人としての感性」を失わないようにしなければいけないと思います。

 

その上で、若手がキャリアのロールモデルにできる「師匠」のような存在になってほしいです。現在のDMMでは、40代のエンジニアも最前線でコードを書いて活躍していますが、同時に新卒の若手をつけて、教育もしてもらっているんです。経験から培ったエンジニアマインドなど、見習うべきところはたくさんありますからね。ベテランたちも「若手には負けていられない」と刺激になっています。

ものづくりにかける「こだわりの強さ」がキャリアの源泉

Q:城倉さん自身のことについても教えてください。以前のインタビュー記事では「高校時代からバンド活動を続け、大学へ行かずにアルバイトを続ける日々だった」と拝見しましたが……。

城倉:

そうなんです。コンピュータのことなどまったく知らない状態で未経験からエンジニアになり、今ではCTOです(笑)。バンド活動にはかなり力を入れていましたが、それで食べていける見込みはなく、何となく応募した正社員求人がIT企業だったんですよね。

 

そんな入り口の自分が長くやってこられたのは、「こだわりの強さ」だと思います。かつてはサラリーマンになるのが嫌で音楽をやっていたんですが、いざサラリーマンになってみると、エンジニアという仕事は音楽に近い感覚があって。

Q:ロジックや数値だけでは語れない部分があるということですか?

城倉:

うまく言語化できないんですが、ソースコードやアーキテクチャも「かっこいいなぁ」と感じるようなものを大切にしてきた感覚があります。エンジニアって、そういう頑固なこだわりが大切だと思うんですよ。

 

私の憧れの人はスティーブ・ジョブズ。ものづくりにかけるこだわりと情熱がたまらないですね。バックグラウンドを含めて共感しています。だからMacとiPhoneは、ケースやカバーをつけず、ステッカーも一切貼らず、「ピュアなまま使う」派なんです(笑)。彼がものづくりにかけた思いを大切にしたいと思っていて。

Q:自身のことを職人気質だと感じますか?

城倉:

そうですね。何をするにしても、ものづくりという大きな目的があって、目的達成のために必要だから手を出してきたという感じです。プロジェクトマネジメントに挑戦したのもそうだし、今CTOを務めていることもそうです。

 

エンジニアにはマネジメントが天職の人もいるし、コードを書き続けたいという考えの人もいますよね。自分はどちらかに寄っているわけではないんですが、デザインや音など感覚的なことにはとにかくこだわっています。

Q:最後に、城倉さん自身の今後の展望も教えてください。

城倉:

いつまでもCTOとして居座り、老害的な存在になってはいけないと思っています(笑)。技術が本当に好きで、トレンドを追いかけ続けられる。そんなCTOの後釜を育てていきたいですね。ゆくゆくはより幅広い視野で、「自分発のものづくり」にも挑戦していくつもりです。

 

取材・記事作成:多田 慎介

城倉 和孝

株式会社DMM.comラボ取締役兼CTO。 バンド活動に没頭した10代・20代を経て未経験で独立系SIerに入社。企業システム受託開発やパッケージビジネスの立ち上げ、プロジェクトマネジャー、ジョイントベンチャーでの取締役CTOなどを経験し、2011年にDMM.comラボ入社。

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