「自分新聞」を生み出したエンジニアが語る、「バズるサービス」の生み方と失敗を恐れないエンジニアの育て方――ゲームエイト・伊林義博さん

CTOインタビュー

国内最大級のゲーム総合情報サイト「game8.jp(ゲームエイト)」を運営する株式会社ゲームエイト。
2014年のリリース以降右肩上がりに成長を続け、現在は月間2,000万人の利用者を誇ります。

現在、同社のCTOを務めるのはFacebookアプリ「自分新聞」や超精密性格診断「mgram」など数多くの人気コンテンツを生み出してきた伊林さんです。

今回は伊林さんの経歴とともに、開発の際のこだわりや開発部長として目指す「失敗を許容する組織」作りの取り組みになどついてお伺いしました。

「バズるサービス」を生むには?裏側にある試行錯誤

伊林さんのキャリアについて教えていただけますか?

伊林:まずパソコンに出会ったのが10歳の頃でしたね。まだ家庭にPCが普及する前でゲーム機としての認識しかありませんでしたが、中学の時にはMS-DOSでコマンドを打ち込み外部ドライブを操作出来るようにすることが楽しく、エンジニア適性がかなり高かったように思います。
中学卒業後、高専の授業でプログラミングに目覚めエンジニアへの道を目指すようになりました。家に帰って開発するのが楽しく、自作したタイピングソフトでタイピングスピードを上げ、不具合や改善点があれば即修正するなど、今思えば完全にドッグフーディング出来ていたと思います(笑)
良い設計について考えたり、アルゴリズムを考えたり、また自宅サーバを建ててネットワークの基礎を学ぶなど、学生時代の5年間で色々な試行錯誤が出来たのが本当に大きく、その姿勢が今に活きていると感じています。

エンジニアとしてのキャリアはソニーグループにソフトウェアエンジニアとして入社したところから始まります。電子部品をプリント基板に配置する実装機の制御システムやオペレーションソフトからはじまり、当時話題となったヘッドマウントディスプレイ(HMZ-T1)の開発などさまざまな製品の開発に従事していました。

ソニーには7年ほど在籍しましたが、自分の可能性を探るため、またユーザに近いサービスを提供したいと思い、2012年にベンチャー企業への転職を決意。その企業にて130万人に利用されたFacebookアプリ「自分新聞」を開発したのが最初のバズサービスになります。自分の発案がそこまでヒットするのはもちろんはじめての経験で興奮したのは今でも忘れません。

クラウドアーキテクチャの知識がなくサーバの負荷に悩まされ何度もシステムダウンしましたが、その度に利用者から応援の声が届いたのが印象的です。クレームの嵐を覚悟していたのですが、「顧客が本当に必要だったもの」であれば、どのような状態にあっても期待して待ってくれるのだなと。
その後、海外向けに見せ方を変えた「My Times」を展開し、日本の10倍以上の規模で利用されました。これが2つ目のバズサービスとなります。

その後bestnine、エムグラムといったコンテンツを生み出されていますが、背景はどのようなものだったのでしょうか?

伊林:次に創業エンジニアとして参加した株式会社mgram(旧株式会社LIP)で発表したのが「bestnine」と「エムグラム診断」でした。 当時開発しようとしていたのはTinderのようなマッチングサービスです。このとき目指したのは、「外見ではなく内面でマッチングできるサービス」。開発・検証・ピボットを繰り返し5回目のピボットで完成したアプリが「nine(ナイン)」です。
サービス自体は単純で、Instagramでそのユーザーの最もいいね数が多いフォトを9枚集め、1つの画像にするというもの。この9枚を見れば、その人の内面が自ずとわかるという発想ですね。そのティザーサイトとして生まれたのが「bestnine2015」だったんです。

アプリと同じくInstagramの投稿から2015年いいね数上位ベスト9の写真を選びコラージュ画像を作成できるもので、国内外を問わず大流行しました。FIFA公式やオバマ夫人など、オフィシャルなアカウントにも利用されたほどです。

その結果、初期ユーザーは大量に獲得でき、それなりにユーザ数も増えnineを通して発生したマッチングもあったのですが、再びピボットすることになりました。出来上がったのが105問の質問に答えることで性格要素がわかるエムグラムです。

企業向けの性格診断で何十年もの実績がある会社と提携して実現しました。元々マッチングサービスのための診断でしたが、恋愛に限らず「お互いの内面を知ることが難しすぎる」課題を解決することに軸を置き直し、サービスが2017年にリリースされ以来、現在も多くの方に利用いただいています。

エムグラム
※105問の質問に回答し、自分を分析できるエムグラム

いわゆる「バズるサービス」を生み出すために必要な視点とはどのようなものなのでしょうか?

伊林:とにかく今の動向を知るということが重要です。
私が関わってきたサービスは、特に新しいことをしているわけではありません。話題になっていることを把握し、なぜ話題になっているかを深掘りすることでその本質を追求しています。本質に刺さる形のサービスを考え出した結果、バズにつながっているのではないでしょうか。
さらに、確率を高めるためには実際に利用するユーザの行動や心理をトレースしてUIに落とし込むことも重要です。例えばエムグラムは105問の質問に答えなければならず10分程度かかるのですが、大量の設問を投げかけてもウッとなってしまい離脱してしまう。最初は5問から始まって徐々に設問を増やすことで気持ちの面での負荷を軽減していることも重要ですね。
また、圧倒的にスマホユーザが多いので、スマホファーストでUIを設計しています。 伊林さん

エンジニアにしか立ち入れない領域にビジネス視点が求められる理由

ゲームエイトに入社した経緯と、組織の概要についてお教えください。

伊林:エムグラムを退職した後、次の軸をどうしようか悩んでいた時に、当時GunosyのCTOを務められていた松本さん(現・DMM.com CTO)からゲームエイトをご紹介いただきました。当時、マネジメントと技術推進力がゲームエイトの課題としてあり、自分が今一番パフォーマンスを発揮できかつ成長出来る環境だと確信し入社を決めました。元々この業界に転身したときも、メンバーを幸せにするマネジメントをしたいという思いがあったので、ようやくそのスタート地点に立てた感覚でしたね。

ゲームエイトについてですが、メイン事業としてゲームの攻略法を提供しております。情報の正確性に対して非常にシビアなのが特徴で、実際にメンバーがやりこみプレイした内容を情報として掲載しているため、ユーザーからは信頼性の高いサイトとして重宝されています。
他には、YouTuberをはじめとしたクリエイター事務所としての機能も保有しています。ゲーム会社との繋がりも強く、コンテンツ展開には強みがあります。

開発組織はどのような体制ですか?

伊林:インターン含め10名で開発しております。それぞれ強み弱みはあるものの、基本的にはフロントエンドからバックエンド、インフラまで全てに携わってもらっています。人員がそこまで多くないなか複数サービスを展開していることと、全員が1からサービスを立ち上げられる人であって欲しい思いから、サービスごとに担当者を分けて運用してもらっている形です。技術選定も含め基本的にメンバーに任せていますが、データベースの設計だけは私が徹底して監修していますね。

データベースの設計でポイントとなるのはどんな要素でしょうか?

伊林:選定も含め「どこまで先を見据えられるか」ですね。今後の事業展開をビジネスサイドとしっかり議論し、ある程度先回りする形で設計することが必要です。ただし最初から複雑にしすぎると開発スピードにも悪影響を及ぼすので、YAGNI(※機能は実際に必要となるまでは追加しないのがよい原則)の観点も大事で、このバランス感覚が重要で、難しい部分です。

ここで面白いのは、データベースはサービスの最も内側、根底にあたる部分だということです。ビジネスやサービスそのものを主導するのはビジネスサイドで、サービスの内側にいけばいくほど開発目線が強くなり、データベースに至っては完全にエンジニアの領域です。ところが、「サービス的に良いデータ構造」を作ろうと思うとビジネスを強く意識しなければならず、その視点が抜けてしまうと破綻してしまう。つまり、良いサービスを作ろうと思ったら、エンジニアにもビジネス視点が必須なのです。

また、サービスによって最適なデータベースも違ってきますが、ビジネスのフェーズ・サービス特性・データベース特性、及び担当エンジニアのスキルや育成も考慮した上で、適切なデータベースを選択することも重要になってきます。

伊林さん

社内のキャリアパスでエンジニアになれる成長サイクル

伊林さんの具体的な役割について、現在は採用部分を担っているとお伺いしています。

伊林:私は開発者としてはインフラ周りや技術サポートを行っていますが、CTOとしての役割は採用が最もウェイトが大きい状態です。事業の多角化を推進していくためにも、より開発組織を発展させていきたいですね。

先程のデータベースの話にもあったように、エンジニアであってもビジネス観点が必要です。技術レベルの向上は前提ではあるものの、基本的にはサービスにコミットする、サービスをビジネスサイドの視点で捉えて開発できる方とご一緒したく、技術力・ビジネス力の両面から成長を促していきたいと考えています。

ゲームエイトにおけるエンジニアの育成方法はどのようなものですか?

伊林:実は現在常駐しているエンジニア6名のうち、3名は元ライターで、キャリアパスの一つとしてエンジニアに転向しました。もちろん最初は未経験で、業務時間中にRails Tutorialで勉強するなど、会社としても完全に投資している状態になるのですが、半年〜1年を掛けて育成し、現在では開発に責任を持てるレベルにまで成長しています。

当社ではコーチングをベースとしたマネジメントで育成に取り組んでいます。初心者であっても一定のレベルまで達していたら選択肢のみ提示して自分なりのやり方で進めていってもらっています。コーチングという手法自体時間がかかる上に更に時間がかかる育成方法ですが、小手先ではない潜在思考から鍛えていくことで、初心者から上級者に至るまでの道で躓くことなく、むしろ加速度的に成長していけることを期待しています。基本的な考え方としては「とにかくやってみよう」という実践型なのですが、大きくは成長段階を4つのフェーズに分けて運用しています。

成長段階の4つのフェーズ

1.手本を見せる(ここはスキップすることもあります)
2.実際にトライしてもらい、即座にフィードバック
3.「失敗しても良い」という前提でさらに広い範囲を任せる
4.他部署との折衝も含めた最終的な責任を担う部分までを含めて任せる

初心者から上級者に至るまでの道は一直線ではなく、上記のサイクルを繰り返すことで徐々に成長できるイメージです。
コードレビューも行いますが、ある程度のレベルに達した時点で任せる形にしています。とはいえ、全てのコミットがslackに流れてくる設定にしているので全てに目を通しますが、多少であればあえて手を出さないことで、最終的な責任まで担ってもらう意思を強めています。リスクはありますが、多少失敗したとしても、失敗から学べることも多いので、試行錯誤してもらえたらと思っているのが根底にあります。基盤となるデータベースの設計をしっかりと行っているからこそ実施できる取り組みだと考えていますね。

言葉と姿勢で作り出す、失敗を恐れずに発言できる開発環境

「失敗しても良い」という空気はどのように醸成しているのでしょうか?

伊林:その点は、私がこの業界に対して抱いている思いに直結しています。実はソニーで働いていたとき、私が所属していた組織のエンジニアはつまらなさそうに働いていました。私は楽しく仕事をしていたので理由は不可解なままだったのですが、あるタイミングで私がリーダーポジションになり開発環境の改善を実施したところ、実際に楽しくエンジニアリングを行えるようになった人たちがいました。以来、「エンジニアをハッピーにしたい」という思いを持つようになったのです。ですから、私は私のいる組織のエンジニアにはできるだけ楽しく仕事をしてもらいたいと思っていますし、日頃からさまざまな取り組みをしています。

特に初心者エンジニアの場合、「発言してもいいのだろうか」「間違っていたらどうしよう」といった不安によって、言いたいことを言えない状況は望ましくありません。「間違っていても発言して大丈夫」という旨を、1日に何回も伝えるようにしています。誰かが発言を躊躇しているような場面があれば意見を積極的に聞きますし、slackのDMでフォローなども行いますね。あるいは、私に対してほかのエンジニアに意見をどんどん言ってもらう場面を意図的に作ることも珍しくありません。そのときに受け止める姿勢を見せることで、失敗を恐れず発言しても良いという空気づくりをしています。

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