【LINE CTO池邉智洋氏に学ぶ】エンジニアが成長する「オートノマス・チーム」とは

言わずと知れたコミュニケーションアプリ「LINE」や、韓国NAVERと共同開発するAIアシスタント「Clova」など、数々のウェブサービスを送り出すLINE株式会社。今回のCTOインタビューでは、サービス開発担当として技術部門を統括する同社上級執行役員・池邉智洋さんにお話をうかがいます。

LINEではエンジニア同士がグローバル規模で関わり、「個人がレビュワーを指名して評価し合う」という独特の評価制度を設けています。組織作りへの思い、そしてLINEを目指すエンジニアへのメッセージを語っていただきました。

【池邉智洋さん プロフィール】

LINE株式会社 上級執行役員 サービス開発担当。
京都大学工学部在学中にFORTRANやC言語を学び、ウェブ制作会社のプログラマとして働き始める。2001年に株式会社オン・ザ・エッヂ(後のライブドア)入社。主力事業の一つだったポータルサイト事業に立ち上げから携わる。2007年に新事業会社「ライブドア」として再出発した際には執行役員CTOに就任。その後は経営統合によりNHN Japanへ移籍。2013年のLINE株式会社(商号変更)を経て、2014年4月より現職。

目次

「できる人」がいるなら、国内はもとより海外の拠点とも頻繁に行き来する

Q.韓国や台湾、中国をはじめ、グローバル規模でのサービス開発を進めているかと思いますが、現在はどのような体制を敷いているのでしょうか?

私のもとには、東京に約110名、福岡に約60名のエンジニアがいます。海外を含めると全体では1000人を超える規模ですね。

サービスの中には日本にしか展開していないもの、海外にしか展開していないものもありますが、ほとんどはLINEプラットフォーム上で開発しているので、質問や疑問などのコミュニケーションは拠点を超えて盛んに行っています。グローバルなプロジェクトであれば、そもそも開発者が複数の拠点に分かれているという場合もあります。

こうした体制に中で、エンジニアには「チーム開発」「チーム戦」という意識を強く持ってもらえるよう、さまざまなメッセージを出しています。

Q.国内拠点でいうと、東京と福岡でのミッションの違いは?

拠点としての差はほとんどありません。それぞれのエンジニアが担当するサービスによってミッションが異なります。福岡にはもともとカスタマーサポートなどのオフィスがあったことから、開発拠点も設けました。大学などの教育機関が充実していて、東京やアジア圏からのアクセスも良い立地です。出張で行き来する際に便利なんですよね。

リモートで会話するだけでなく、実際に会うことも大切だと思っているので、福岡に拠点を置いていることには重要な意味があるんです。

Q.エンジニアのみなさんは、どのようにして拠点を超えた連携を図っているのですか?

四半期のうちに1回ずつくらいは、東京・福岡を行き来して顔を合わせていますね。リリースの作業を一緒にやったり、次の大きな施策に対して議論したりする際は、できるだけテレビ越しではなく直接会って進めるようにしています。リモートで重要なやり取りをすると、どうしても「どちらかが決めている」ように見えてしまうからです。

人によっては、海外の拠点とも頻繁に行き来します。「テックリード」と呼ばれる、ある程度方向性を決めていく立場の人は海外へ行く機会が多いですね。タイミングに応じてどちらかの拠点のテックリードが動きます。

Q.海外拠点のメンバーと意思疎通する際には、どんな工夫をしているのでしょう?

開発者同士はソースコードを同じ言語として見ることができるので、テクニカルな部分ではそこまでコミュニケーション上の苦労を感じていないと思います。近況を共有して、「お互いに大変だね」と共感し合うことも多いですよ(笑)。

Q.物理的にも頻繁に行き来するとなると、それだけマンパワーやコストもかかってしまうと思います。なぜここまでして多拠点の連携にこだわっているのですか?

特に深い理由はないんです(笑)。強いて言うなら「そこにできる人がいるから」でしょうか。

サービス開発のフェーズごとにタスクも注力したいことも明確になっているので、「福岡にできる人がいるよ」「韓国のメンバーなら任せられるよ」となれば、自拠点のみで止まっているよりも話が早いですから。「韓国はちょっと遠いな……」といったことにはなりません。

一方で、拠点で1人だけ別プロジェクトに関わるのは寂しいので、一定数の関係者がいる状態を作るといった配慮もしています。優秀な人が集まる場所なら、そこに新たな拠点を作っていくことも柔軟に考えたいと思っています。

LINE池邉智洋氏

マネジャーが把握しきれない「現場でのコラボレーション」を評価するために

Q.エンジニア個々人は、ミッションに対してどのように向き合っているのですか?

人事考課は半年に一度あります。私の管轄内では、半年に一度「どんな仕事がしたいか」の希望を聞いています。ヒアリングを通じて、リソースなどの状況を踏まえて最適配置を検討し、それぞれに適したミッションを与えられるよう調整しています。

ただ、エンジニア個人から「別のサービスをやりたい」という希望が出てくることは意外と少ないですね。今関わっているサービスが伸びていくところを見届けたいという気持ちがあるでしょうし、KPIなどにこだわり抜きたいという思いもあるのでしょう。

Q.評価制度についても教えてください。

LINEでは「個人同士で互いに評価し合う」”C-Review制度”というレビュー制度を運用しています。人事考課に入る前の準備期間に、半年間一緒に仕事をしてきた中で評価してもらいたい相手を個人が指名できるんです。開発者同士の場合もありますし、企画者が関わる場合も。複数を指名できるので、1人で10人からレビューをもらうというケースもあります。

マネジャー層はその内容を見て評価を決めていきます。見えにくい部分で発揮していたチームワークなど、現場の人だからこそ分かるポイントをもとに評価できることがこの制度の強みだと思っています。

これを半年後にやることが決まっていれば、日頃のコミュニケーションの意識も高まります。まずい部分があれば、傷口が深くならないうちに互いにレビューし合うという動きも。そうした日頃のやり取りを踏まえてレビューし合うので、納得感もあります。

Q.「個人が指名し合ってレビューする」という方法を取ったのには、どのような背景があったのでしょう?

以前は、マネジャーの知らないところで「現場でのコラボレーション」が起きていることがよくありました。マネジャーは把握していないけど、メンバー間では非常に頼りにされている人がいる、といったことも。

こうした状況を踏まえて適正な評価を行うためには、ともに働く個人同士のレビューが最も適した方法だと考えたんです。これは日頃の仕事の進め方にも影響していて、決裁についても、個別のメンバー間でできるようにしています。もちろん問題が起きたときには上長が介入しますが、基本的に個人の裁量は大きいですね。

「大企業病」と言われるような縦ラインへの意識はほとんどない

Q.このやり方は、エンジニアの成長につながっていると感じますか?

はい。新たに入社する人には「オートノマス・チーム」(自主的、自律的なチーム)というキーワードを伝えています。ベストな開発体制を作るためには、個々人が自律的に動かなければいけないという考え方です。

開発に向けて、違うチームの人に話を聞きに行くのが必要だと思うならそうすればいいし、他拠点への出張が必要ならそうすればいい。「今はこの対応が必要だ」という話が上がれば、マネジメントとしては承認するだけです。

もともと階層が極めてフラットな組織なので、1年目であろうがどんどん自律的に判断できるという前提もあります。これは LINEに染み付いている風土なのかもしれませんね。いわゆる大企業病と言われるような、縦ラインへの意識は、良い意味でほとんどありません。

Q.そうした風土の中で、LINEで活躍できるエンジニアとはどんな人でしょうか?

「やりたい」と思うことをアウトプットして、自律的に動いていける人。これに尽きますね。

技術的には、今は基礎的なことを重視しています。特定の言語というよりは、「コンピュータサイエンスを理解している」といった根本的な部分ですね。スマートフォンという新しいプラットフォームが現れたときに、対応に苦労した人がたくさんいました。今後同じようなパラダイムシフトが起きたときにも、すんなりと対応できる力を技術的にもメンタル的にも求めていきたいと考えています。

LINEはまだまだメッセンジャーのイメージが強い会社だと思いますが、今後、サービスの数は間違いなく増えていきます。「こんなこともLINEが手がけているんだ」という驚きを提供していきたいと思っています。

そんなビジョンに向けて、オールポジションでまだまだ人手不足なので、良い出会いは常に求めています。ベースが大きい中で新しいことをどんどん試せる環境なので、エンジニアが長く活躍する場としては面白いと思いますよ。

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