オフィスは東京大学敷地内!?データ分析で未来予測する企業が掲げる不動産の将来性とは?――estie・宮野恵太さん

東京大学の敷地内にスタートアップを支援するアントレプレナーラボがあるのをご存知ですか?

今回はその中の企業、2018年12月に設立され、東京大学アントレプレナーラボを拠点として活動している株式会社estieのCTOに取材を実施しました。

estieはデータとテクノロジーを武器に事業用不動産の世界をアップデートすべく、賃貸オフィスマッチングサービスや日本最大級のオフィスビル情報プラットフォームを提供しています。

起業からわずか1年半のチームがどのようにデータ分析に基づいたプロダクト開発を進めているのか、CTOの宮野さんに社内体制やデータドリブン開発のポイントなどをお伺いしました。

<CTOインタビュー> 株式会社estie 取締役CTO 宮野 恵太さん 東京大学工学部卒業後、NTT Docomo入社。機械学習エンジニアとしてビッグデータ解析に従事。Docomoの全国基地局に集まる日次10TBのネットワークログを活用し、各エリアの通信品質を最適化する機械学習モデルを単独且つフルスクラッチで構築。

全ての企業が適したタイミングに適したオフィスで働けるようにしたい

―― まず、サービス概要について教えてください。

宮野:当社は主に2つのプロダクトをご用意しています。一つはオフィス探しを行うマッチングサービスの「estie(エスティ)」です。これまでのオフィス探しは自分で不動産会社を見つけたり、仲の良いスタートアップの居抜きで入るといった手段しかなく、自分たちにとって適切なオフィスを探すのが非常に難しい状況でした。「estie」はそんな現状を解決するために開発したサービスで、優秀な仲介エージェントと顧客をマッチングしてシンプルにオフィスを探すことができます。

もう一つが「estie pro(エスティプロ)」です。オフィス不動産に関するデータを集約・分析し提供しています。通常なら仲介会社やオーナーしか持っていない物件情報を収集し、空室情報から募集賃料、入居テナントなどを可視化しています。

―― 会社が設立されたのは2018年ですが、どのような背景があって起業されたのでしょうか。

宮野:当社はCEOの平井とCTOである私が立ち上げた会社です。平井はもともと三菱地所でビル営業や海外不動産投資を、私はNTTドコモのAIエンジニアとしてネットワークのログ解析などを行っていました。 平井はビル営業をする中で、自分たちも含め日本のあらゆる企業が本当に適切なタイミングで適切なオフィスにいるのかどうか、疑問を抱いていました。

企業において何か新しいものを生み出すためのエネルギーは、オフィスでの対面コミュニケーションでしか生まれません。それは私たち自身も、コロナによる自粛期間を経て久しぶりに出社してみて改めて実感しています。そんな大切な場所であるにもかかわらず、オフィスを探すには複数の不動産仲介会社へ問い合わせをし提案を受けるか、自分たちで頑張って「きっとここが合うだろう」と思う場所を見つけるしかない。データが無いために、データドリブンによる意思決定ができないのです。

そんな状況をテクノロジーの力によって打破できたら、日本はもっと強く、面白くなるのではないか。そう考えたのが創業のきっかけです。

ビジネスサイドもエンジニア的素養を活かして課題解決に臨む

―― 現在のチーム体制ついて教えてください。

宮野:エンジニアチームは現在7名で、内訳はVPoEが1名、データエンジニアが2名、フロントエンドエンジニアが1名、デザイナーが1名、Webのなんでも屋的なエンジニアが1名、プロダクトマネージャー兼エンジニアが1名です。

もちろんビジネスサイドとエンジニアサイドは分かれており、プロダクトに関してはエンジニアチームが責任を持って開発をしています。一方で、ビジネスサイドのメンバーもエンジニア的なスキルを持っているのが当社の特殊なところです。例えばちょっとしたコードならサッと書けますし、分析に関してお客様からの要望があればデータベースにアクセスして調べるのも日常茶飯事です。逆にエンジニアサイドにはビジネスの素養があるため、常に会社としての課題について考え、ビジネスサイドと一緒にディスカッションにも参加します。

このようにある程度メンバーが横並びの関係にあるので、「組織」というよりは「チーム」という意識が強い会社です。

――社内ではどのようにプロダクト開発を進めているのでしょうか?

宮野:プロダクトはすでにリリースされているので、今後は基本的に新機能を提示していかなければいけません。例えば当社では「e-賃料」というオフィス不動産の賃料を推定するアルゴリズムを開発しているのですが、最近は新たに賃料の将来予測をリリースしました。

開発時はまずどのように将来予測をすべきか、メンバー同士で膝を突き合わせながらホワイトボードを使って議論を進めました。アイディアが出ればすぐにコードに落としてみるなど、インタラクティブなコミュニケーションを取りながら開発をしている感じですね。先程も言ったようにビジネスサイドにもエンジニア的な素養があり、エンジニアにもビジネス的素養があるチームなので、スムーズにやり取りが進められます。

―― 宮野さんご自身がCTOとして意識していることはありますか?

宮野:オフィス不動産は伝統的な業界で、ITが行き届いていません。技術的に課題を解決しようとしても一筋縄ではいかないので、毎日が検証の繰り返しです。その中で一番意識しているのは、なるべく早くアウトプットをするということです。「アウトプットファースト」と呼んでいるのですが、お客様に素早くアウトプットを届けることはもちろん、社内でディスカッションするためにすぐに検証して目に見える形にすることも重視しています。

データ分析によってオフィス成約賃料を5年先まで予測

―― 賃料の将来予測はどのようにオフィス探しに役立てることができるのか教えてください。

宮野:例えば以下の図は、渋谷区の募集賃料の推移を表しています。

引用元:estie inside blog「オフィス賃料 将来予測をリリースしました!」

青いグラフが実際の募集賃料なのですが、コロナの影響でちょうど2020年4月から下落傾向です。緑色のグラフは当社が推定している成約賃料です。募集賃料よりも成約賃料のほうが下がるものなので、価格はやや低くなっています。グラフを見ると、成約賃料の推定値も2020年4月を境に下がっているのがわかると思います。

プロダクトの開発当初に比べて現在はデータが潤沢になったことで、このように各物件の適正な賃料を高精度で算出できるようになり、5年先の将来まで予測を出しています。

オフィスを移転する側にとっては、1年後に賃料がどうなるのかはかなり気になるポイントです。安くなるならもう少し待つ、高くなるならすぐに移転するといったように、意思決定に大いに影響します。オフィスを提供する側にしても、その土地に新しくビルを建てるのが正解なのかどうか、推定賃料を知ることで意思決定の助けになるでしょう。

―― コロナの影響で現在はオフィス移転や縮小のニーズが多いかと思いますが、そういった動向はどのように捉えていますか?

宮野:オフィス縮小・移転バブルと言われていますね。実際に毎月の募集情報を分析すると、2013年頃からずっと上昇傾向だった賃料が2020年4月に初めて下がり、6月まで下降し続けています。

賃料に動きが出たことでestieとしては追い風になっていますし、業界としても今後盛り上がりを見せるはずです。コロナによってオフィス利用がゼロになるなら話は別ですが、リモートワークを体験したことによって逆に「やはりオフィスは必要だ」と実感した企業も多いはずです。価値創造や毎日集中して作業をこなすための場として考えると、オフィスには良い面がたくさんありますからね。

データドリブンに必要なのはデータへのアクセス性

―― データドリブンでプロダクトを開発するときの心得はありますか?

宮野:当たり前のようですが、「数値化できることは絶対に数値化する」ということが大事です。例えばサービスのPV数にしても、その情報を取得できていないと意味がありません。その上で、データは誰もが見たいときにすぐ見られる状態にしておくことですね。そうでないと、メンバーが数値を意識できません。

実際、当社はまだ年月の浅いスタートアップ企業ですが、分析基盤はしっかり整えています。営業担当でもデータベースに入ればすぐに値を取れるようにしていますし、社内コミュニケーションツールとして使っているSlackにおいても、新しく物件情報を取得したら件数をすぐに通知するように設定しています。とにかく誰もがデータを確認できるようにしているんです。 社内ブログでも、まさに「データドリブンな意思決定を支援する社内データ分析基盤」という記事をアップしたことがあります。参考になる部分があると思うので、よければ見てみてください。

【写真】 左側:取締役CTO 宮野 恵太さん 右側:FLEXYコンサルタント 永島 優樹

自社のプロダクトのみでオフィス探しを完結するのが目標

―― 今後エンジニアチームをどのように成長させていきたいか、展望を教えてください。

宮野:定性的には「最強のチーム」にしたいと思っています。というのも、今はエンジニアの中で仮説検証したい課題がどんどん出てきていて、優先順位をつけて上からこなしていくにはメンバー全員があらゆる技術に精通している必要があるからです。

1年ほど前まではデータエンジニアはデータ、フロントエンドエンジニアはフロントエンドを主に担当していましたが、今後は全てのエンジニアが想定される課題に対して必要な技術を持ち、スムーズに対応できるような体制にしていきたいです。

――では、会社としての成長戦略についてはいかがでしょうか。

宮野:立地戦略にまで手を伸ばしたいという展望があります。オフィスの立地というものは、社員の交通費であるとか、採用にどの程度有利なのか、さらには社員のモチベーションといった要素まで絡みます。これらはまだ感覚値でしか測れていない部分なので、どんどん数値化していきたいです。

さらに今後2年かけて実現したいのが、estieさえあればオフィス探しから実際の移転までが全て完結する世界です。探す側にとってはもちろん、物件を貸す側から見てもestieを見れば情報が揃っているし提案しやすい、成約もできるという状況を作りたいですね。これが実現して初めて「本当に良いオフィス探し体験」について考え始めることができるのだと思っています。

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