Hadoop(ハドゥープ)とは?概要や使い方、将来性をわかりやすく解説

hadoopとは

ITシステムで使用されるデータ量は年々膨大になっており、大容量のデータを格納して同時に処理をするシステムの有無が重要となっています。そこで活用されているのが分散型のデータ処理を行うフレームワークHadoop(ハドゥープ)です。Hadoopの概要や特徴、活用法についてご覧ください。

Hadoopとは?

Hadoop(ハドゥープ)は、Apache Software Foundationが開発・維持しているオープンソースのフレームワークです。分散型のデータストレージとデータ処理を提供しており、ビッグデータの格納や処理に適しています。具体的には、以下の4つのコンポーネントで構成されています。

コンポーネント 特徴
HDFS(Hadoop Distributed File System) マスターサーバと複数の仮想的なスレーブサーバで構成される大容量ファイルシステムです。マスターサーバで全体の処理の流れを管理して、スレーブサーバでデータを処理します。
YARN(Yet Another Resource negotiator) クラスタのリソース管理とジョブスケーリングを行うシステムです。マスター、スレーブ、アプリケーションマスターの3つから構成されます。
MapReduce 格納したデータを分散処理するためのフレームワークです。ペタバイトのデータでも並列処理によって素早い解析が可能です。
Hadoop Common 全てのHadoopモジュールで共通して使用されるライブラリ群です。

さらにAmazon EMRを使用することで、以下のようなツールが簡単に使用できます。

  • HBase
  • Hive
  • Hue
  • Pig

Hadoopが登場した背景

近年では、機械学習やAIを使用したシステムが多く登場しており、膨大なデータを処理する必要がでてきました。また、画像や動画など、容量の大きなデータを取り扱うことも増えたため、こうした非構造化データと膨大なデータ容量を扱うにはこれまでのデータベースだけでは難しいものでした。

従来のデータベースは構造化データを取り扱うことが主流で、スキーマの柔軟性もありません。データのスケーラビリティも垂直スケーリングのものが多く、大規模なデータ処理には制約やコスト的な問題が発生します。

一方Hadoopは、半構造化データや非構造化データの取り扱いができ、スキーマが必要ないので柔軟性が高いです。データも分散型アーキテクチャにより水平スケーリングが容易なうえ、オープンソースのフレームワークなのでコストも低く済みます。

このような大規模なデータを分散して処理できるフレームワークが登場したことで、機械学習やデータ解析といった分野は著しく発展しています。

Hadoopの特長

Hadoopの大きな特長を3つの点から解説します。

新たなスケーラビリティを得られる

Hadoopは、分散型アーキテクチャで水平スケーリングが容易なので、新しいノードをクラスタに簡単に追加できます。これによりサービスを停止することなく、ストレージ容量をほぼ無制限に拡張可能です。アプリケーションや基盤設計に影響を与えないので、スケーリングに敏感になる必要はありません。

また、クラウドでの使用だけでなくオンプレミスでも運用が可能で、ハイブリッド環境でも動作します。企業の環境に沿って導入できるので、柔軟性も高いです。 耐障害性も高く、HDFSでは格納したデータを複数のノードに自動的に複製します。もしひとつのノードに問題が起きた場合でも他のノードが代わりに処理を引き継ぐので、すぐにはシステムがダウンしません。

処理の柔軟性が高い

Hadoopは、「構造化データ」「半構造化データ」「非構造化データ」と多様なデータ形式を柔軟に扱います。これにより構造化データベース、フラットファイル、リアルタイムストリーミングデータなど、異なるソースからのデータを統合して処理できます。格納したデータは、処理をするタイミングで意味付けされるので、一旦格納したのち、使用するタイミングでデータ型を定義可能です。

リソースもYARNによって適切に管理できるため、クラスタ内のリソースを分散して複数のアプリケーションを使用しても競合しません。また、Hive、Pig、Sparkといったさまざまな分析ツールが利用できるのも大きな利点です。これにより複雑なデータ分析やETLプロセスを導入できます。

サーバの構築費用を抑えられる

Hadoopはオープンソースのフレームワークで、汎用的な低コストサーバでも構築できます。そのため、高価なサーバの構築も必要ありません。さらに運用開始時は最小限でスタートして、後々ストレージ容量が大きくなったときだけ新しいノードを追加するという活用方法にも適しています。これは前述したスケーラビリティの利点を応用したものです。このようにHadoopなら初期投資を少なくして、システムの規模を大きくしたいときにだけ必要なコストをかけられます。

また、クラウドサービスで運用することで、オンデマンドでリソースのアップダウンができます。これにより、ピーク時にのみにリソースを確保することで余分なコストカットも可能です。

Hadoopの一般的な用途とは?

現在Hadoopは、さまざまなシステムで利用されています。ここではその中でも主要な使用方法を5つご紹介します。

使用方法 詳細
1.クイックストリームデータの分析 ・アプリケーションやWebサイト上のユーザーの行動を追跡して分析する
・適切な広告配信やユーザーの行動分析に利用できる
2.ログの処理 ・アプリケーションや情報システム運用時に発生するログの処理をする
・セキュリティの問題を自動で検知してアラートを送信できる
3.ペタバイトスケールの分析 ・ペタバイト規模のデータを格納可能
・天文学や科学分野にも利用されている
4.ゲノミクスデータの処理 ・人間のゲノムの塩基配列情報をデータ化して処理する
・最新医療やDNAの解析に活用されている
5. ETLにおける処理 ・「Extract」「Transform」「Load」の略
・データクレンジングや抽出にあたって膨大なプログラミングを必要としない

クリックストリームデータの分析

クリックストリームデータ分析とは、ユーザーがアプリケーションやWebサイトをどのように利用しているかを追跡して分析するためのプロセスです。クイックストリームデータは、Webサーバのログやアプリケーションのログ、ユーザーのアクティビティのデータなど、多様な形式で発生します。これらのデータを分散処理できるのが、Hadoopの大きな利点です。

これらを一旦格納した後に分析ツールでデータの抽出や変換、ロードを行います。データのクレンジングとフィルタリング、正規化を実行することで分析可能なデータセットにします。その後、特定のツールで結果分析やリアルタイムデータ分析などを行い、ユーザーの行動検出や適切な広告配信、予測モデルの構築などを行います。

ログの処理

ログは、アプリケーションや情報システムを運用するときに生成される重要なデータです。これを処理・分析することでシステムの運用監視、セキュリティ監視、トラブルシューティングに活用できます。

Hadoopでは、膨大な数のログデータを収集します。一度格納したデータは長期間にわたって保存ができ、耐障害性もあるので安全です。生成されるログには、テキストやJSON、XMLなどさまざまな形式がありますが、どのようなログでもツールを使用することで標準化されたフォーマットに変換して必要なフィールドに抽出されます。

そのため、Webからモバイルアプリケーションまでさまざまなログの処理を行えるでしょう。また、異常パターンの検知とアラート送信を自動化することで、セキュリティの問題が発生した場合に即座に対応可能です。

ペタバイトスケールの分析

ペタバイト(PB)はデータ量の単位を表すもので、テラバイト(TB)の上の単位です。1,000GB=1TBとなり、1,000TB=1PBといった膨大な容量を指します。

このような大規模なデータ処理で問題となるのが、データの分散処理能力です。膨大な量のデータは常に収集されますが、これらを活用するのは従来のデータベースでは難しいことでした。

Hadoopでは、これらを数千台のサーバに分散配置したクラスタに格納して、MapReduceによって分散処理を行います。また、Hadoopのエコシステムアプリケーションを活用することで、複雑な分析やパターン抽出が可能です。このようなデータは、天文学などの科学研究や医療分野など複雑な計算が必要な分野でも活用されています。

ゲノミクスデータの処理

ゲノミクスデータは、人間の遺伝情報の塩基配列をデータ化したものです。ヒトゲノムの塩基配列はそれほど容量が大きくありませんが、解析には大規模なサンプルが必要です。それらの多くのデータから特定の疾患や問題点などの関連性を調べるためには、大規模なデータセットを効率的に管理して、処理をしなければいけません。

そのため、Hadoopのような柔軟かつ大規模なデータを取り扱えるシステムが活用されます。ゲノム解析では、配列アライメント、変異検出、遺伝の解析など、複雑な計算が必要です。これらはHadoopのMapReduceやApache Sparkなどを用いることで、処理を並列分散して効率的に行います。

ゲノミクスデータの処理にHadoopを用いることで、特定の遺伝子と疾患の関連性を解析したり、生物学や治療法の開発に活用したりします。

ETLにおける処理

ETLは、「Extract」「Transform」「Load」の略で、それぞれ以下のような意味があります。

処理 詳細
Extract(データの抽出) ソースからデータを抽出する工程です。
Transform(データの変換) 集めたデータをクレンジングやフィルタリング、マッピング、マージなどを行い、使用できるデータにします。
Load(書き出し) 変換したデータを保管して、いつでも利用できるようにデータウェアハウスやデータベースに格納します。

従来は、こうした処理をプログラミングすることにより実現していました。しかし、収集するデータの種類やそれに合わせた変換を考えると、プログラミングが複雑になって開発工数が増えます。こうした手間を省いてすぐにETLワークロードを使用できるのがHadoopの大きな利点です。ビッグデータを収集してクレンジングし、下流のシステムで使いやすいようにセットできます。

Hadoopに将来性はある?

近年IoTデバイスやセンサーネットワーク、AIの台頭によりビッグデータの需要が高まっています。さらにデータのセキュリティやコンプライアンスの問題は日々深刻化しており、リアルタイムで膨大なデータを監視して、常に最善の対策をとらなければいけません。Hadoopはこうした、大容量のデータの処理に向いており、今後も需要が増えていくと想定されます。

さらにHadoopの利点は、エコシステムの発展にあります。Hadoopは、さまざまなエコシステムが利用できるフレームワークです。現在も継続的に新しいツールが開発されています。これによりさらにシステムが利用しやすくなり、他のフレームワークとの相互運用が活発化しています。

元々Hadoopは、オンプレミスの導入が前提でしたが、現在はクラウド環境が主流のため、AWSなどを活用して運用することも増えてきました。クラウドでのシステム運用は活発化しており、それにあわせてHadoopも併用されることが見込まれます。

Hadoopの課題とは?

将来性のあるHadoopですが、課題もいくつかあります。ここでは大きな課題を2つ紹介します。

Hadoopだけでは詳細な分析をカバーできない

Hadoopで詳細な分析を行うには、エコシステム内外の他のツールの使用が必須です。例えば、以下のようなエコシステムを活用して、複雑なデータ処理を行います。

ツール 特徴
Apache Spark 高速で汎用性のある分散データ処理
Hive 大規模データのSQLクエリの処理
HBase 大規模データのリアルタイムの読み書き
Kafka 分散メッセージングシステム

他にもさまざまなツールがありますが、こうしたシステムにもデメリットがあるため、企業にとっては自社に適したシステムをどのように組むのかが課題です。

例えば、Apache Sparkは便利な反面、自由度が高くデータ品質の管理が難しいという点が欠点です。こうした欠点を補って、どのようにシステムを組むかは各々の企業の裁量にかかっています。

スキルをもつ人材が必要

コストの面で見ると、Hadoopは導入がしやすいフレームワークです。しかし、Javaが使用されているので運用面において専門知識が必要です。さらに前述した「欠点を補うシステムをどのように組むか」という問題点もあるため、こうしたスキルや知識をもつ人材が欠かせません。

また、「エコシステム」「ネットワークやシステム管理」「データエンジニアリング」「データ分析スキル」「セキュリティスキル」「クラウドプラットフォーム運用」など、さまざまなスキルが必須です。企業にとって、これらさまざまなスキルをもつ人材をどのように確保するかは重要な課題となっています。

まとめ

Hadoopは、分散型のデータストレージとデータ処理が利用できるフレームワークです。このフレームワークを活用することにより、機械学習やAI、大規模システムなど、さまざまなデータの取り扱いに活用できます。

しかし、Hadoopの適切な運用には、Java、エコシステム、ネットワーク、システム管理など、さまざまなスキルや知識が必要です。こうした技術を習得するためには、多くの現場で実務経験を積まなければいけません。

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