スクラムマスターの役割とは?責任範囲や向いている人、資格について解説
スクラム開発に欠かせないスクラムマスターを目指す方に向けて、スクラムマスターの仕事内容、具体的な役割、責任範囲をわかりやすく解説します。スクラムマスターに向いている方の特徴を示し、必要なスキルや取得すべき資格についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
スクラムマスターとはスクラム開発でチームをマネジメントする職種?
スクラムマスターとは、チームのマネジメントを行いながら、スクラム開発を進行するリーダー的役割を担い、調整役としても活躍する職種です。スクラムマスターは、チーム全員がスクラム開発の基礎を身に付けて、スムーズに実践できるようにサポートも行います。
アジャイル開発の一種に含まれるスクラム開発
ソフトウェア開発にはさまざまな開発手法がありますが、現在主流なのはプロジェクトを細かく分解し、小さな機能単位で開発工程を繰り返すアジャイル開発という手法です。そのうちの一種であるスクラム開発を、スクラムマスターはマネジメントします。
スクラム開発はウォーターフォール開発とは異なり、各開発作業を上流・下流に分けません。スクラム開発では作業順の縛りがないため、優先度の高い順に開発が行えます。また、複数の開発作業を並行して進めることも可能です。
スクラムチームの構成
スクラムチームはプロダクトオーナー、スクラムマスター、比較的少人数のチームメンバーで構成されます。プロダクトオーナーは、開発を行う成果物について最終決定権を持ち、開発の方向性を決めるプロジェクトの責任者です。また、チームメンバーは実際に開発を行うスタッフであり、開発者とも呼ばれます。
スクラム開発は当初ソフトウェア開発の一手法として認知されていましたが、徐々にさまざまな分野に応用されるようになりました。今日では、開発対象となる成果物はソフトウェアに限定されていません。
例えば、ハードウェアや広報誌などの成果物もスクラム開発の対象となり得ます。したがって、チームメンバーには開発エンジニアだけでなく、成果物の作成に関わる多種多様なスタッフが含まれます。
スクラムマスターとプロジェクトマネージャーとの違い
ウォーターフォール開発などで必要とされるプロジェクトマネージャーは、スクラム開発の現場には不要です。スクラムマスターとプロジェクトマネージャーとでは、要求されることが全く違うので注意しましょう。
プロジェクトマネージャーはプロジェクトの管理責任者であり、プロジェクトのクオリティ、コスト、納期に加え、リスクやチームについての管理も要求されます。
対して、スクラムマスターは成果物の価値向上を使命とし、プロジェクトの管理は使命としません。プロダクトオーナーを支え、チームに対してスクラム関連の指導を行い、開発作業を促進させます。スクラム開発では、全員がプロジェクトの進行に対して管理責任を持ちます。
スクラムマスターの主な役割や責任範囲
スクラムマスターは、プロジェクトにおける成果物の価値を高めるために、以下の役割と責任を果たさなければなりません。
- アジャイルコーチ
- プロダクトオーナーのサポート
- チームに対するスクラム開発のトレーニング
- スプリント計画ミーティングの進行
- スタンドアップミーティングの開催
- プロジェクトの問題解消
- スプリントレビューミーティングの実施
アジャイルコーチとしてチームをまとめる
スクラムマスターの重要な役割のひとつが、チームの人々にアジャイルという新しい手法をわかりやすく教え、個々が実践できるまで導くアジャイルコーチです。
スクラムマスターは、チーム全体にスクラムの理論や慣行といったアジャイルの手法を浸透させ、チーム全員でより優れた成果物を完成できるようにメンバーをまとめ上げていかなければなりません。また、円滑に開発作業が進むように、適切なアドバイスを行うこともスクラムマスターの仕事です。
プロダクトオーナーをサポートする
上下の階層がないスクラムチームにおいて、スクラムマスターは、スクラム開発を成功に導くリーダーとしての責任を果たしながら、チームの一員としても活躍する存在です。
スクラム開発では、成果物を完成させるのに必要な項目や機能に優先順位をつけてリストアップしたプロダクトバックログと呼ばれる作業リストを作成します。
プロダクトバックログは、成果物を進化させる道筋を示す行動計画ともいえます。プロダクトオーナーは、このプロダクトバックログを作成して管理し、チームメンバーにその趣旨を明確に伝える責任者です。
スクラムマスターは、プロダクトバックログをよりよく管理する方法を探し、プロダクトバックログのリファインメントを補佐し、プロダクトオーナーを支えます。
チームに対してスクラム開発のトレーニングを行う
仕事を割り振ってチームに指示を与えるプロジェクトマネージャーが存在しないスクラム開発では、各々のチームメンバーが自発的に考え、責任ある行動をとらなくてはなりません。
スクラムマスターは、スクラム開発に慣れていないチームメンバーに対してトレーニングを実施し、スクラム開発に欠かせない考え方や知識を身に付けさせ、各自が自律的な行動を通じて十分な力を発揮できるように指導します。
スプリント計画ミーティングを進行する
スクラム開発では、大体1週間から1か月という短い反復期間(スプリント)を設定して、計画と実装を繰り返しながら開発を進めていきます。次のスプリントで実施する内容をスクラムチーム全員で話し合う「スプリント計画ミーティング」の進行役も、スクラムマスターの重要な仕事です。
さらに、スクラムマスターは、計画を練るのに欠かせないデータや見積もりなどをまとめ、ミーティング用資料を作成する準備も担当します。
スタンドアップミーティングを開催する
スタンドアップミーティングやデイリースクラムなどと呼ばれる、毎日作業前に行う短時間ミーティングの開催もスクラムマスターの大切な役割です。
スタンドアップミーティングにはチーム全員が参加し、スクラムマスターの進行に従って、各人が前日の作業内容、今日の作業予定、作業を妨げる障害物について報告を行い、情報を共有します。
スクラムマスターがスタンドアップミーティングを開催することで、コミュニケーションを図る機会を用意し、チームの結束力や集中力を向上させることが可能です。
プロジェクトの問題を解消させる
プロジェクトが思い通りに進まない場合に、できる限り早くプロジェクトの進行を妨げている原因を突き止めて問題を解消させるのも、スクラムマスターの役目です。問題が小さいうちに対処し、原因となっているものを素早く取り除かなければ、大幅なプロジェクトの遅延に発展する可能性があります。
また、チーム外関係者のスクラム開発に対する誤解は、プロジェクトの進行を妨げる潜在的要因のひとつになり得ます。スクラムマスターが、スクラム開発特有の考え方や知識をチーム外にも広めて共有することで、チームとチーム外関係者との間に生じがちな行き違いを防ぐことが可能です。
スプリントレビューミーティングを実施する
スクラムマスターは、各スプリントが終了した直後に、スプリントレビューミーティングを実施しなければなりません。
スプリントレビューミーティングには、チーム外の関係者も招いて、今回のスプリントで完成させた機能のデモンストレーションを実施し、フィードバックを集めます。また、スクラムチーム全員で、今回のスプリントを振り返り、失敗したことや上手くいったこと、改善すべき点などを洗い出して、次のスプリントに役立てます。
スクラムマスターの年収
求人サイトdodaの情報によれば、スクラムマスターの年収にはかなりの幅があり、その年収は400万円~1,800万円ほどです。(2024年7月現在)
また、サーバントワークス株式会社と合同会社アゴラックスの調査では、スクラムマスターの平均年収は1,051万2千円という結果が得られています。
なお、同調査では、単なるスクラムマスターとスクラム以外のアジャイル手法も指導できるアジャイルコーチを異なる役職として区別していますが、1,051万2千円はスクラムマスターとアジャイルコーチをあわせた平均年収です。
両者を区別した場合には、アジャイルコーチの方がスクラムマスターよりも平均年収が高くなります。さらに、両者ともに経験年数を重ね、上級レベルの認定資格を持つほど、年収が上がる傾向が見られます。
出典:スクラムマスター アジャイルコーチ 年収調査レポート#1 2023・2024年版|フォンテーヌ グレゴリ(合同会社アゴラックス)、長沢 智治(サーバントワークス株式会社) (p4~7)
スクラムマスターに向いている人の特徴
スクラムマスターは、チーム全員が良好なコミュニケーションをはかれるよう尽力し、チームワークを向上させなければならないため、コミュニケーション能力が高く、複雑な人間関係を苦に感じない方に適した仕事です。
プロジェクトに関して指揮権や命令権を持たないスクラムマスターは、スクラムに関する教育を仲間に施し、自律的に動く仲間の力を引き出すことによって、プロジェクトを成功に導かなければなりません。そのため、指導力があり、人の能力を引き出して伸ばすのが得意な方が向いています。
また、何か問題が起きた場合に原因を究明して、問題を解消しなければならないため、論理的思考力や分析力に優れ、冷静かつ客観的な判断ができることも重要です。スクラムマスターに向いている人の特徴を簡潔にまとめると、次のようになります。
- コミュニケーション能力に優れた人
- 人間関係を苦に感じない人
- 指導力があり、人の能力を伸ばすのが得意な人
- 論理的思考力や分析力に優れ、冷静で客観的な判断ができる人
スクラムマスターに必要な3つのスキル
スクラムマスターに欠かせないスキルは、いずれも優れたコミュニケーション能力や良好な人間関係の構築がカギを握るスキルです。
スケジュールの管理・調整スキル
スクラムマスターは、スクラム開発を計画的に導入し、自らが定めた全体のスケジュールや実施方法の計画と照らし合わせながら、開発をスケジュール通りに進める責務を負っています。スクラムマスターは、常にチーム全員とコミュニケーションを取りながら開発の進捗状況を監視し、作業が滞っていることが判明したら、即刻以後のスケジュールを修正して大幅な遅延を回避しなければならないため、優れたスケジュールの管理・調整スキルが必要です。
ティーチングスキル
スクラムマスターは、スクラムの基本的な考え方から、スクラム開発の技術や具体的なタスクの進め方まで、スクラム開発に関するあらゆることをチーム全員に対して正確に教えなければなりません。
そのため、知識やノウハウを教えて理解させ、相手の頭に定着させるティーチングスキルが要求されます。また、疑問に感じたことをその場で確認できるよう、チーム内に質問しやすい雰囲気を作ることも大切です。
コーチングスキル
スクラムマスターには、問題を解決するために何をやるべきか、本人自らが気づくように促すコーチングのスキルが備わっていなければなりません。ティーチングとは違って、コーチングでは、はっきりとした答えは教えず、問題の解き方を教えることによって、個々の考える力を伸ばし、チームを成長させます。
スクラムマスターを目指す際に取得すべき資格
将来、スクラムマスターとなって活躍したいのであれば、いずれも海外の資格となりますが、以下の資格を取得するのがおすすめです。
Certified Scrum Master®(CSM®)
Certified Scrum Master®は、認定スクラムマスターと訳される米国の認定資格です。米国のNPO法人として知られるScrum Alliance®社が提供する本資格は、定められた研修を受講し終えた者だけが受けられる試験に合格すれば取得できます。
本資格はスクラムマスター関連のメジャーな資格として知られており、研修の難易度が高く、最後に受ける試験の難易度は低いといわれています。研修と試験は日本語で受けられますが、研修で行うグループ演習が非常に難しいため、スクラム初心者はスクラムに関する基礎知識を身に付けてから、研修を受講するようにしましょう。
Professional Scrum Master™
Professional Scrum Master™は、スクラム開発者の一人として知られるKen Schwaberが設立したScrum.orgが提供するプロフェッショナルスクラムマスターの認定資格です。認定試験は難易度によって3種類に分かれ、下位の認定試験に合格していなければ上位の認定試験を受験できません。
Certified Scrum Master®よりも難易度が高いと言われていますが、研修を受けなくても受験できます。Google 翻訳の使用が認められているものの、試験の言語は英語のみで言語の選択はできないので、注意が必要です。
試験対策はスクラムガイドとスクラム関連書籍を読んでプレテストを受けることでも行えますが、事前研修という選択肢もあります。
まとめ
スクラムマスターは、スクラムチームに所属する一人ひとりにスクラム開発というものを正しく教え、自律的に動けるように導くコーチであると同時に、サポート役や調整役も担うリーダー的存在です。
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